第七話
朝、快適に目が覚めた。
昨日のことを思い出すと鬱屈とするが、今日は指名依頼がある。お金を稼いでリンの借金返済に当てれないだろうかと考えて、ハッとする。昨日出会ったばかりの子にどうしてこんなに入れ込んでいるんだろうかと首をひねって、向こうが信頼してくれたからかなと思いながら装備を整える。
宿でご飯を食べてギルドへ行くと、二階へ行く階段を人が大勢行き来していた。
なるほどこれが通勤ラッシュならぬ依頼ラッシュかと思いながら私もその流れに乗る。
二階につくと、いつものお兄さんが私を見つけて手招きしていた。
私はお兄さんについていくと、ある部屋に通された。
そこは会議室のような広い場所だった。
「飲み物は出せませんがどうぞ座ってください」
「はい……」
それからお兄さんは机の上にあった羊皮紙を広げた。
「この地図は斥候に調べさせた森の詳細な地図です。あなたに依頼したいのは、オーガの革の回収です。もちろん革は昨日と同じ品質でお願いします」
そう言いながらお兄さんは地図の上の一つの三角形にバツ印をつけた。
「ここが昨日あなたが集落を消した場所です。他に三つオーガの集落があります。こことここ、あと、少し遠いですが、ここです。この奥の方の集落の近くには熊やフォレストウルフという、普通の狼よりも強い個体うろついていますので、注意してください。あ、フォレストウルフの毛皮は敷物くらいにしかなりませんが、回収するなら買い取らせてもらいます。それから、昨日みたいにたくさんの獲物はギルド裏の倉庫で買い取りますので、まずは僕のところに来て、倉庫に行きたいとおっしゃってください。そしたら僕は買い取りをするために倉庫に移動します」
「ええと、倉庫にはどうやって行けばいいんでしょうか」
「普通にギルドの裏道を通ってもいいですが、中からですと訓練場を通ったほうが近道になります」
「訓練場なんてあるんですか?」
「ギルドに入って右手に扉があります。その奥が訓練場になっています。倉庫は扉を開けてすぐのところにある細い道を通ってくださると着きます」
「わかりました」
「この依頼内容は秘密でお願いします。なにせ初めての素材ですから、金額も正確につけれないのですよ。値段が切りの良い数字なのはそのせいです。それにオーガの集落は放っておけませんから、ガンガン倒してくださいね。暫定的に一集落あたり六千万ラピスとなります」
「六千万ラピス……高額ですね」
私はオーガの集落に対する呪文があるので昨日とは違い高く感じた。
「それだけ危険性があり、素材の価値が高いということです。受けてくださいますか?」
「わかりました。受けます」
するとお兄さんは一つの紙に判子を押した。
「これが依頼書です。集落全部落としたらさらに四千万ラピス支払います。頑張ってください」
「わかりました」
私は依頼書を懐に入れると会議室を出た。
そしてそのまま流れに逆らわずに階段を降りて、ギルドから出た。
今日の目標は遠い集落を除いた二つの集落を襲おうと思う。
多分それが一番効率がいいだろうから。
そうと決まれば早速森へ行こう。と、その前に。
「屋台によらないとねー。今までずっと食堂だったけど、せっかくアイテムボックスがあるんだから、活用しないと」
商店街に並ぶ食べ物系等や、果物、ジュースを買ってはアイテムボックスに入れていく。
きちんと器の代金も払って、いざゆかん魔物の森へ!
門番にギルドカードを見せたあと、剣を鞘から抜いて、いつもの様に二種類のエンチャントをする。
そして体には音を出さない魔法をかけて、注意しながら、落とした集落の位置から地図の集落の位置を思い浮かべて歩いて行く。途中に出てきた魔物をさっくりと倒してその剣の凄さに驚愕する。
「なにこれ、熱したバターみたいに切り裂けた……リンってすごい」
いや、オリハルコンがすごいのかもしれないが、それを加工できるリンもすごい、かな?
なにせオリハルコンやミスリルといったものは加工が難しいと掲示板に書いてあった気がする。もう遠い昔の記憶だが。
それを加工できるリンはやはりすごいのだ。
さて、目の前にオークがいる。オークは豚だ。つまりその体は豚肉である。
首を切り飛ばして血抜きをする。アイテムボックスに突っ込んだら鮮度はそのままなのだが、気分の問題である。
血抜きをしている間にお昼ごはんとする。
ナンみたいなパンのサンドイッチを食べている。……む、これソーセージが入ってる。あとでもう一回市場を見返さないと。
あらかた血抜きが終わった頃には周囲に魔物の死体が散乱していた。
ま、血の匂いに惹かれたんだろう。狼多いし。
オークを回収してオーガの拠点へと近づく。
こっそりと覗き見ると、食事中らしい。これなら外に出てるオーガはいないかな。
「さてと『火よ、魔界の劫火よ、その強大なる炎によりて我が敵に裁きを』」
ごうっと黒い炎がオーガを包み込む。
オーガたちは叫ぶまもなく革だけの存在となった。
「チートだよね、これ。……『蜘蛛に囚われる』ってなんなんだろ。力が強くなるとか言ってたけど、覇権争いでもあるのかな?」
私はごそごそと懐からギルドカードを取り出した。
「うわー。黄色だったのに、もう緑色になってるよ。オーガの魔素うますぎる」
私はオーガの集落をくまなく探しては革をアイテムボックスに収納していった。
それからこの集落と記憶にある地図とを照らしあわせて、もうひとつの集落に行くことにした。
途中でオーガの群れと出会った。食事は終わったらしい。
黒炎の魔法を使うと、木々には引火せず、地面にも焦げ目一つついていない。
あとにはオーガの革のみが残されていた。
オーガの革を回収しながら思う。
黒炎の魔法は範囲を細かく指定できるのではないか?
でも実験はできない。火は危険だからだ。
それに、この能力はあまり人に見せるものじゃないと思う。
さて、次の集落へ行こうか。
次の集落へ行くと、出てくるオーガたちと目があったので(木々が密集していて気づかなかったのだ)黒炎の魔法を使った。
そしたら予想通り目の前のオーガたちだけが炎に包まれて、集落の中にいるオーガには被害はなかった。
とはいっても怒らせてしまったようなので、集落の中にいるオーガに意識を集中させて黒炎の魔法を唱えた。
革を回収していると、檻の方で声がしたので駆けつけてみた。そこにはオーガの革が数枚と暴れたのかあちこちを怪我している女性冒険者が三人いた。
三人共生きていたので、すぐに危険はないことを話してギルドカードを見せると、ようやく安心したのか泣きだしてしまった。
話を聞くと、この三人はパーティを組んでいて、つい先日黄色に上がったので、はぐれオーガを倒して実力を確かめようとしたところ、十匹以上の分隊と当たってしまい、抵抗したのだが手ひどくやられて牢屋に入れられたようだ。
「女性冒険者が三人でよりにもよってオーガに挑むなんて……」
「反省してます」
「それよりも、みんな歩ける?腕が折れてる人もいるみたいだけど、護衛はするから一緒に帰ろう」
「うう、ありがとうございます」
女性冒険者たちは泣きながら何度も私にお礼を言った。
ちなみに、ギルドカードを取り出した時に確認すると、緑から青に変わっていた。
これなら私が一人で行動して、一人でオーガを倒しても変に勘ぐられないだろう。
というか、あきらかに魔素の収集が早い気がする。うーん。このままじゃ剣をとった意味が無い気がするなぁ。剣の実力は上がらないよね、絶対。
それから、彼女たちを護衛しながら街に戻った私は、ギルドに顔を出して、お兄さんの列に並んだ。
私の番が来ると、お兄さんは裏ですか?と聞いてきたので、はいと言った。
すると、お兄さんは後ろを振り返って買い取りカウンターを離れると他の職員に言ってから、席を立ったので、私も訓練場への扉を開いて裏まで回った。
「これはまた、ずいぶんな量ですねぇ」
私がアイテムボックスから取り出したオーガの革の山をみて、半ば呆れたようにお兄さんは言った。
「二つの集落を潰してきましたので」
「もう二つも潰したのですか!?」
お兄さんは目を見開いて驚いているようだ。
「三つの集落のうち、二つが近くて一つはとても遠いでしょう?だから、二日に分けて行うことにしたのです」
「二日って……ちょっと戦力異常過ぎませんか?」
「私もそう思います」
「って、自分でそう思ってるんですか!? まあたしかに、普通オーガの集落を落とそうと思ったら、結構なレベルの人をたくさん用意しなければならないものですからね」
「ですよね。私が少しばかり魔法が得意なだけなんですよ」
「はぁ、異界の者が強いのは知ってましたけど、あなたはことさらに強いですね」
「ありがとうございます」
「その強さは秘密なんでしょう?」
「当然です。それで、査定をお願いします」
「集落二つですから、一億二千万ラピスです。アイテムボックスに入れますか?」
「お願いします」
お兄さんは片手に持っていた水晶を私のアイテムボックスに近づけた。
「はい。これで完了です。明日もよろしくおねがいしますね」
「わかりました」
そう言って私は宿でご飯を食べていつものように綺麗にしてから眠った。
今日結構歩いたけど、そこまで疲れなかったのはこの体に慣れてきたからなのかなと思いながら。