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井上達也 短編集3(それでも彼はまだ書いてる)

ブラジャー少年とパンツ青年

作者: 井上達也

 僕は、団地に住んでいた。団地と言ってもエレベーターのない階段だけの棟の集合体ではなく、しっかりとしたエレベーターが備えられているマンションがいくつもある所だ。僕は、よくこのマンションの中で鬼ごっこをして遊んでいた。マンションはエレベーター以外にも階段がついていた。つまり、階段やらエレベーターを駆使して鬼から逃げ回るのである。

 捕まるのかよと思うかもしれないけれど、ところがどっこいこれが捕まるのである。一番良く捕まるパターンとしては、エレベーターでの鉢合わせである。自分が、エレベーターに乗っていて降りようとした階に鬼がいるというケースである。その時の鬼の満面の笑みはB級のホラー映画に通じるものがある。

 しかし、僕も良い年だ。今年で二十歳になる。そんな鬼ごっこをしていたのも約十年前。なんとも、懐かしい思い出だ。当時、一緒に遊んでいた友達もすっかり大人になってしまい、今年から公式にお酒まで飲めるようになってしまったのである。嬉しい気持ち半分、情けない気持ち半分である。ビールの苦みが分かる大人になるまではもう少しかかりそうではあるが。

 僕は、家で大学で提出しなければならないレポートを作成していた。大学のレポートなんてコピーアンドペーストが常識ではないかと思われるだろう。そして、大学の教授たちも学生たちのレポートはどうせコピーアンドペーストだろうという先入観を持っている。しかし、僕はその裏をかくのが大好きだった。たとえ論点がずれていたとしても極力オリジナルを貫いた。故になかなか時間がかかってしまうのだ。

 そんなレポート作成に勤しんでいるときに、外が騒がしかった。人が走り回っている音がする。そして、きゃっきゃする声。静かな部屋で集中してレポート作成に没頭したい僕にとっては騒音でしかなかった。五月蝿くて集中できたモノではなかった。

 それは、しばらく続いた。十五分しても止めなかったら注意をしにいこうと思った。なぜなら、どうせ僕と同じように鬼ごっこを小学生がしているに違いないと思っていたからだ。正直なところ、僕がその鬼ごっこをやめたきっかけはそのマンションに住んでいる一番怖いおじいさんに注意されたからだった。

「うるさいぞ!静かにせんかバカもん!」

 今でも、はっきり覚えている。確かそんな感じだ。日曜日の夜にやっている国民的アニメに出てくる盆栽が趣味のおじいさんみたいな人だった。今時、日中は着物で過ごす変わった人だった。

 今の僕は、そのおじいさんの立ち位置にいることになる。うるさくて仕方がない。ここは、一発彼らの教育のために大人がひとつ喝を入れなければならないのだ。あの時のおじいさんのように。

 僕は、意を消して外に出た。外に出るとやはりというべきか、小学生たちが元気そうに走っていた。元気そうなことは良いことだが、ここは走る所ではないのだ。人が生活する居住空間である。人様に迷惑をかけていいような所ではない。

「こら!ここは走ってはいけないところだよ!走るなら小学校のグラウンドで走りなさい!」

 僕は、一人の少年を叱った。すると、彼はごめんなさいといって誤ってきた。そして、僕はエレベーターの前にいき他の子供たちが来るのを待った。ひとり、またひとりと集まり、合計5人ほど集まった。なんと、中の良いことか。最近は、外の公園に行ったとしても携帯ゲーム機で遊ぶ子供たちが増えたと言う。なのに、元気にはしゃぎ回っているこの子供たちはきっと優秀な大人になると僕は確信した。また、時代は進化しているのか彼らはボールを持っていた。なるほど、今度はボールを当てる仕組みも導入されたのか。なおさら危ないような気もして、僕が注意しなくてはと思った。

「いいかい。ここは走る所じゃないんだ。わかったら、もう走るんじゃないよ」

 僕は、さっきよりもトーンを落として彼らに諭すようにいった。すると、「そうだね」「ごめんなさい」と言った言葉が聞こえてきた。そのうち、少年たちから僕はパンツ青年と言われるようになった。僕の来ていたTシャツの柄がなんとなくパンツのようだからだという。まぁ、彼らなりの皮肉も含んでいるかもしれないが、それはそれで良いのかもしれない。大人と言うものは、子供たちが誤った道にいかないように指導する義務がある。最近、成人になったばかりだが、その義務を僕は早速果たしてしまった。我ながら感心である。



 少年たちは、帰っていた。よくよく外を見てみるともう夕暮れだった。午後5時をお知らせするいつもの放送も始まっていた。

 今日も僕は、大学には行かなかった。レポートに缶詰だ。ああ、早くお酒が飲みたい。大学近くの行きつけのチェーン店の居酒屋が恋しい。これが、終わったら仲間を読んでサラダを食いまくる。酒を飲みまくるのだ。

 その後、レポートの作成は深夜まで続き完成まであと一息というところまで来たのだった。



 翌日。

 僕は、起きて顔を洗い、歯を磨きそしてコーヒーでパンを流し込んでレポートの作成を始めた。レポートの作成は朝に限る。頭を使うことは朝にやるべきだ。すっきりとした頭で難しいことを考える。気持ちがいいこととこの上ない。

 しかし、僕の気分とは裏腹にまたしても共有廊下からガタガタ走り回る音が聞こえてきた。おかしい。昨日あれほど注意したのに。そして、あれほど反省していたから、再犯の可能性は低いと思っていたのに。少年を信じた僕が馬鹿だったのだろうか。

「あんな、やせ細った気持ち悪いメガネの注意なんて聞くもんか」とか「まじ、ないわ」とか結局、僕は馬鹿にされただけだったのか。僕は、急に心が痛くなった。しかし、彼らが構成するまで僕は何度だって言ってやる。ちなみに、僕は教職志望だった。将来は、学校の先生になるのが夢だ。特に小学校の先生になりたかったからなおさら彼らをほっとけないのだ。

 僕は、またしても注意をする決心をした。今度こそは。


 僕は、家を出て真っ先に走る音がするほうへと出向いた。そして、近づいてきた瞬間に言った。

「こら、こないだ注意したばかりじゃないか!」

 しかし、驚いたことに目の前にいたのは小学生ではなく大きい大人だった。いや、正確に言えばその顔は知っていた。

「ご、ごめ……ってなにやってんの」

 小学校の友達のヨシオだった。

「いや、久しぶりに鬼ごっこしようぜと思って。お前にもメール送ったけど返信がなかったから」

 携帯など電源を切ったままだった。なんと。

「他にもいつものメンバーいるけど。お前もやる?」

 なんとも微妙な空気が二人の間に流れていたのは言うまでもない。そして、僕は彼のTシャツの下着姿の女性を見ながら言った。



「いや、俺はいいや。ブラジャー少年」

 

 やりましたよね。こういう遊び。ちなみに、某ゲームメーカーのゲームのタイトルをパクって、エレベーターアクションとかって僕らは呼んでました。楽しいんですけどね。かなり、迷惑なんですね笑。

 いつまでも、童心は忘れたくないですね。



 ただいま、なろうコンに2作品出展しております!よろしかったら読んでください!

・群青STORY

・聖剣ランドスケープ

 です。ではまた。

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