隣国の王から年賀状が届きました〜鎖国から2000年後、なぜか平和な誤解が生まれる〜【なろうラジオ大賞7参加作品】
鎖国から2000年後──。
ついに隣国・ワフーの国交が開かれた。
その当日に姫が足を車輪のように回しながら、玉座へ駆け込んできた。
部屋の中は、金ピカの壁に金でできた机。
柔らかいのが玉に瑕。
愛くるしい二頭身の姿で宝石をまき散らしながら、両手を上に紙を掲げている。
「お父様〜! ワフーから“年賀状”なるものをいただきましたわ!」
期待に胸を膨らましている王。
長方形の紙には赤い太陽が描かれている。
難しい顔の姫。
「⋯⋯これは呪符?」
「えぇっ、太陽神か? 日焼けのしすぎで火傷する呪いじゃ」
その太陽は山を照らしている。
「山が大きく描かれていますの! 自然神かしら?」
「むぅ、寝静まった夜中に場違いな蝉が鳴きやまない呪いじゃ」
姫の指は茶色の鳥の上で止まった。
「お父様、飛んでいるのはグリフォンですわ」
「ほぉ、どこじゃ?」
ちゃっかり鷲っ鼻を押し付けてくる王から全力で背を反らして避ける姫。
王から少し距離をとる。
「グリフォンが表すのは財宝。この聖なる山に埋蔵金があるのじゃ」
姫は少し王に近寄った。
含み笑いの二人。
そして姫は山を指した。
「この聖なる山の頂。この雪のかかり具合から標高を逆算します」
姫は呪文を唱えるごとく唇を小刻みに動かす。
「⋯⋯ぇぅ⋯⋯標高3,776。来年の初日の出は六時台。角度とグリフォンの位置を合わせると──」
「ヒメ、ホンキ。スゴイ」
それでも姫は納得いかない顔をしている。
「この右下の紫色の勾玉は何でしょうか?」
「王様と姫様、実は本物がございまして……」と、急いで茄子を献上するワフーの従者。
手に持った王は茄子を二度見した。
「かるっ!? 空気かと思ったのじゃ」
「軽さに騙されてはいけませんわ。おそらくグリフォンの財宝に辿り着く神器ですわ」
姫は目を光らせる。
呆気にとられる王。
「姫の考察深い〜! よし、こちらもワフーに挨拶しておくか」
「これは茄子というもので──」と従者。
「“成す”……すなわち“成就の呪文”ですわね!」と姫。
「唱えるのじゃ! ナス! ナス!」と元気な王。
両国、初対面の日──。
ワフー側から盛大な挨拶。
そこで王と姫は“ナス”に枕詞があることに気づいた。
「「あけましておめでとうございナス!」」と大声の王と姫。
両国のお辞儀合戦は熱が収まらず日没を迎えたのだった。
それからというもの、両国では毎年の初日の出に茄子を掲げ、
「ナス! ナス!」と唱えるようになった。
誰も由来を知らないが──平和は続いている。
お読みいただきありがとうございました!
2000年も鎖国をしていた謎いっぱいのワフー。
年賀状には、『初日の出と一富士二鷹三茄子』が描かれていたようですが、王と姫には少し難しかったようです。
少しでも楽しんでいただければ幸いです!




