迷宮王に花束を(3)
武器屋で武装を整えたマイツォは、より一層冒険者らしい風格を出していた。
「マイツォさんって、確か勇者の認定を受けてましたよね」
「はい。イカイスダヒの街で竜退治をした時に勇者になりました」
「というと、こちらでは冒険者ギルドに?」
「いえ、普通の宿に泊まっています」
「ひょっとしたら、寮の空き部屋に泊まれるかもしれませんよ。格安で」
てなことを話していると……
不意に黒マントを着た連中が立ちふさがった。無言の中に殺気を感じる。
マントの合間から抜き身のダガーナイフが見えたので、とっさに水魔法を発動する。絶対零度の出番だ。
マントは体の動きを隠す。だから、関節をピンポイントで凍りつかせるといった攻撃が出来ない。せいぜいが首から下を凍らせるのが関の山だ。
「何者!」
マイツォが剣をぬいたときには、すでに三人の暗殺者が絶対零度の闇へと落ちていた。
残りの二人が、前の仲間を押しのけて進み出ようとする。
がしゃん! ぱりーん!
……あーぁ、こわしちゃったよ。
手足がもげた仲間の死骸にひるみつつ、それでも俺の心臓を狙ってくる。そこを、マイツォの刀が一閃して斬り捨てた。
「トドメをさしますか」
「いや、誰の差し金か聞き出そう」
とりあえず傷口を凍結して出血を止める。
持ち物を確認してから、俺とマイツォで一人ずつ引きずって騎士の詰め所に向かう。
「やあ、どうしたね」
幸いなことに、詰め所にはジェイコブ氏がいた。部下たちとともに出前の麺料理を食べている。
「そこで襲われましてね。犯人のうち二人は生かして連れてきました」
「ちょ、おま、床が汚れるだろう。外に出せ!」
血まみれの犯人を見て慌てるジェイコブ隊長。
そして、俺とマイツォの顔を交互に見る。
「そっちの人は見かけない顔だな」
「イカイスダヒの勇者、マイツォさんです」
「はい。マイツォ・リツィニアコスです」
瀕死の犯人を詰め所の庭に引き戻して据える。
「痛いよー」
「助けてくれー」
哀れな声をあげている。情けない連中だ。
大きなフードがついたコートをはがす。もじゃもじゃ髪とつるっ禿げの、いかにも悪党面の男たちだ。
ジェイコブ氏が取り調べにかかる。
「あー、お前ら、この方を襲ったんだってな。この方はラナミーじゃガビッシュ退治で有名な人なんだ。とんでもない人を襲ってくれたものだぜ、まったく」
一人を蹴飛ばす。
「いたたたた……」
つるっ禿げが顔をしかめる。傷が開いたようだ。
「なぜ襲った。金が狙いか」
「そうだ」
「嘘つけ。強盗ってのはな、いきなり喧嘩をふっかけたりしないものなんだ。まずは威嚇して『金を出せ』だ、そうだろうが」
今度はもじゃもじゃ髪の腹を蹴飛ばす。
「ぐげっ」
腹を押さえてエビのように丸くなる。やはり傷口が開いたらしい。
「こいつらの武器は?」
取り上げたダガーナイフをジェイコブさんに渡す。ダガーというか、むしろ三角錘に近い特殊な形の刃をしている。
「あー、こいつは暗殺用の武器だな。毒が塗ってあるかもしれない」
そう言いつつ、禿げの太腿にざくりと振り下ろす。
……この人、はんぱねー!
「ひーっっっ!」
禿げ頭は半端ないおびえようだ。本当に毒が塗ってあったらしい。
「誰に頼まれた。ん?」
ジェイコブさんは、普段見せない怖い顔をしている。
「し、知らない男だ。酒場で頼まれた」
「嘘つけ。お前らみたいなのが見ず知らずの他人の仕事を受けるものか」
そして、もじゃ髪の脚にもためらいなくダガーを刺す。
「ひー! 人殺し!」
「騎士がそんなことして許されると思っているのか」
「知らないね。お前らは夜道でラナミーの英雄をおそった。そして、下手うって自分で自分を傷つけてしまった。……そうだよなあ」
周りの平騎士たちもうなずく。
……権力は敵に回すと怖い。
「さて、ここに二つの選択肢がある。俺は凄腕のヒーラーを知っている。もし白状してくれたらその人をここに呼んで治療してやる。が、だんまりを決め込むのなら治療はなしでこのまま牢屋に放り込む。……どっちがいい?」
効果はてきめん、二人は小鳥のようにさえずった。ラナミー都市伯セチャエ・イザーザの名を。
「うわーっ、こいつはヤバいことになっちまった」
ジェイコブさんは頭を抱えている。
都市の長、大迷宮探検の元締めが俺を殺そうとしたのだ。理由はおそらく、チーム倫太郎の掛け率の不正を見つけてしまったことだろう。個人の不正かと思っていたら、もっと根が深かったのだ。
「なあ、お前ら、ほんとにイザーザ伯爵に頼まれたのか。誰かそう自称するヤツにだまれたんじゃないか」
「いえ、都市伯直々の依頼でした。暗殺者ギルドに来て、金貨と引き換えに資料を渡されました」ともじゃ男。
「暗殺者ギルド!?」
驚いたのは俺だった。まさかそんな反社会的ギルドがあるわけない、と鈴代に話していた組織が実在した!?
「じゃ、何か。暗殺者ギルドに頼んだら都市伯の首でも取ってくるってか」
「金額によりけり、ですね。それより、白状したんですから早く治療をお願いします!」
ジェイコブさんは黙って腕組みをする。
おそらくこの人が頼めば、俺は治療せざるを得なくなる。ヒポクラテスの誓い、万歳だ。けど、個人的には自分の命を狙った相手を治療するなんてことはしたくない。けど、こいつらは重要な証人だ。けど、どこまで役に立つ証人かはわからない。証人として立たせたとして、こんな連中では役には立たないだろう。むしろ、偽証に加担したとして処罰されるのがオチだ。けど、けど、けど……
思考がぐるぐると回る。
ジェイコブさんは決心したようだった。
「冒険者ギルドに行って、ヒーラーをみつくろってこい。誰でもいい、解毒の得意なヤツだ」
「はいっ!」
下っ端騎士が駆けて行く。
「すまん、俺に出来るのはこれが精一杯だ」
そして、ヒーラーが来るまでの間、暗殺者ギルドとの接触法やアジトについてたずねる。
「そりゃ無茶って物ですよ。言ったら俺たちは消されます」
「暗殺者ギルドは鉄の結束でしてね。裏切るくらいならこのまま死んだ方がましだ」
俺は、ジェイコブさんを隅に引っ張っていくと耳打ちした。
「この街の地図を持ってきてもらえませんか」
「ああ、構わないが、どうするんだ」
「こいつらの目線の動きで場所を特定しようと思います」
「なるほどねぇ。やってみるか」
ジェイコブさんは、取ってきた街の地図を暗殺者たちに見せる。
俺は、刀で暗殺者の頬をペシペシしつつたずねる。
「暗殺者ギルドの本部というのは、この中にあるのか」
同時に「トトの目」で微細な反応を観察する。
「ここか。ここか。地図をよく見ろ、この死にぞこないども」
東西南北を刀でさしてたずねる。
目は口ほどに物を言う。適当にさした場所で動悸と瞳孔の拡張が観察された。常人にはわからない微細な変化だ。
「ここだそうです」
「ちょっと待て。俺たちは何も言ってないぞ」
「そうだ。冤罪を作ってどうする!」
暗殺者の抗議がかえって真実味をました。
その場所を見たジェイコブ氏は、またもや困り顔になった。
「トマスク神官伯の屋敷じゃねえか。もういやだ、この仕事!」




