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まどろむままに待ちいたり(2)

 コウモリ人間は、俺たちの周りにたむろし、困っている様子だった。

「おい、しっかりしたまえ」

 鈴代と玲奈をゆさぶる。二人とも変身が解けて普段着姿になっていた。横ではツムギが服を半分着かけたまま剣をつきつけられてふるえていた。虎に変身するパワーがもう残っていないらしい。

 聞き覚えのある言葉だと思ったら、魔族のアイチャ姉妹が使っていた言葉だった。ただ、やたらと古めかしい感じがする。

「なんだ、助けてくれるのか」

 試しに魔族の言葉で話しかける。

「おっ?」

 意外そうなコウモリ人間たち。

「奴隷のくせに我らの言葉をしゃべりおったぞ」

「貴様はこのお方たちの眷属なのか」

 眷属という言葉は同族を意味する。必ずしも配下は意味しない。しかしこの場合のニュアンスは配下だった。

「ああ、そうだ」

 面倒くさいのでそう答えておく。

「そうか。無事だったのはもっけの幸いである」

「よくあの殺戮者から逃げおおせたものだ。称賛に値する」

 褒められてしまった。その殺戮者というのは、たぶん玲奈のことだ。

 俺は、ツムギに剣を向けているコウモリ人間に言った。

「女子に無礼を働くな。そもそもそなたたちは何者なのだ」

「魔界の伯爵たるノスフェラトゥ様の眷属である」

 ……は?

 彼らは明らかにノスフェラトゥと言った。それは元いた世界では吸血鬼として知られる固有名詞だ。しかしその起源は謎とされている。

「というと、あの禿()げ頭の吸血鬼の……」

「なんと! 伯爵の知り合いであったか。ならば、そなたが仕える姫様方はさぞかし高貴な家柄なのであろう。存ぜぬ事とは言え、失礼つかまつった」

「ははは。貴顕は血筋を誇示せず、ただふるまいによって現わるのみでござる」

 適当なことを言ってごまかす。しかしまあ、なんとも仰々しい言葉遣いの人(?)たちだ。ワカやアイナが礼の口調で話したら「無礼者」と叩き切られるかもしれない。

「ところで貴公らにお願いがあるのだが、水と食べ物を分けてもらえまいか。乃公(おれ)も腹が減っては姫様方の養分となれぬ」

「あ、ああ」

 コウモリ人間は、下っ端を呼んで指図する。

 しばらくすると、森のあちこちから焼けたパンと鹿の肉、そして様々な果実を持ってきてくれた。

 パンと見えたのはどうやらパンの樹の実、らしい。ちょうどいい焼け加減だ。

「まさに雪中送炭(せっちゅうそうたん)とはこのことである。ありがたい!」

 鈴代たちにパンをさし出すと、コウモリ人間たちがざわついた。

……あれ? なんかまずいことした?

 鈴代は、さっそくパンの実をパクついている。

 鹿肉は俺がスライスしてそこらの葉っぱにのせて差し出す。

 ツグミが鹿の脚を見て食べたそうにしていた。

「ほらよ!」

 生焼けの脚をざっくりと切り取って差し出す。

「わあっ、これ一遍やってみたかったんだ」

 ツグミさん、鹿の脚にかぶりつく。満面の笑みだ。さすが、虎の性!

 玲奈は、キウイの実っぽい何かの皮をむいてかじっている。ラグビーボールの形をした関西のメロンパンっぽい実もある。食感はパンとは違って堅かったが、中には白あんっぽい何かが詰まっていた。これは美味だ。

 コウモリ人間が椰子の実の殻のようなボウルに入った水を持ってきてくれた。一度煮沸してから冷やしてみんなに回した。

「おおっ、貴公も魔族であったか。それて見抜けなかったのは我らが不明」

「みごとなお手並み。みごとな擬態。願わくば、どの家系の方かお教え願いたい」

「……えっと」

 うかつなことは言えない。彼らがどこと対立しているのかなんてわかったものではないからだ。でも、彼らのしゃべり方をきいていると魔界を出て数百年はたっていそうな気配だし…… えい、ままよ!

「アイチャ……」

「おおっ、偉大なる魔道皇帝の一族ではないか!」

「これはぜひとも城に来ていただかなくてはなるまい!」

 扱いが奴隷から眷属へ、そして一気に魔道皇帝の一族へと格上げになった。


 コウモリ人間たちはドラコンを呼んでくれた。

 意外にも、最初は鏡を使った光通信をしていた。次に手旗信号を送る。このやりとりに結構長い時間がかかった。ただ、これなら電波もテレパシーもいらない。

 ドラゴン・タクシーが現れた。コウモリ人間を含めて複数人で乗り、ハーネスで身を固定する。飛び立ったドラゴンは、灰と焼けぼっくいの上を飛び越えていく。眼下の残り火が美しい。

 ドラゴンは安定感もあって乗り心地もいい。この交通システムを何とか人間の側に持って来れないだろうか、などと思う。ただ、彼らの食料が心配だった。……維持コスト、重要。

 あっという間にノスフェラトゥ伯爵の城につく。白い顔のつるっ禿げのおっさんが出迎えてくれた。

「ようこそ我が城へ。余がオルロック伯ノスフェラトゥ十三世である。さあさこちらへ」

……え? 顔に似合わずいい人!?

 俺たち偽魔族は城の中の宴会場へと案内される。

 白いクロスが敷かれた長いテーブル。

 鈴代、俺、玲奈、ツグミ――この席次で坐る。

 どうやら、魔力総量と眷属関係で席次が決まるらしい。

……まあ、魔法少女なんだし、魔力は馬鹿高いんだろうな。

 グラスに飲み物が注がれる。

 伯爵は魔界のことを聞きたがった。が、伝えられる情報はない。アイチャ姉妹とのピロートークでも、そういう踏み込んだ話はしていなかったからだ。

()らは、ずっとこちらの世界で暮らしてきました。その点では、閣下と何ら違いはないのです」

「そうか。そんな事になっておったか」

 老吸血鬼は感慨深そうだ。

 伯爵によると、かつて魔界と人類は世界の覇権を争って戦争をしていたという。しかし、そのあまりの苛烈さが双方の滅亡の危機を招き、休戦協定を結ぶことになった。その後、派遣軍の一師団を率いたノスフェラトゥ伯爵はこの土地オルロックを領有することになり、強力な結界に守られて長い眠りについたのだ、とか。

「まあ、眠りについたと言っても浅い眠りであった。このところいささか寝過ごした気はあるが、十年に一度は起きておった。そして昨日今日の攻撃である。余は世界終末戦争が始まったかと部下たちを叩き起こした。が、それもささいな小競り合いのようであった。大した被害はなかった。ただ、美しかった田園風景が灰燼に帰したのは残念であった」

 ……いや、その田園はたぶん、何世紀も前の記憶だから。

 その時、コウモリ人間の一人が広間に駆け込んできた。

「伯爵、捕虜を捕らえました。いかがいたしましょう」

「うむ、首をはねよ! 血の(うたげ)じゃ!」

 おーっ!

 回りのコウモリ人間たちも歓声をあげる。

「ちょっと待った!」

 俺は声を荒げた。

「伯爵、この地では長年、人と魔族は仲良く暮してまいりました。今回の戦いは城から現れた竜を敵襲と誤解して起きたこと。なにとぞお慈悲を!」

「うむ。そなたの主張はわかる。だが、我々にも矜持(きょうじ)がある。城主として、たてついた相手を捨て置くことは出来ないのだ」

 なんか面倒くさいことになってきた。

 効くかどうかわからないが「ファラオの威光」を発動する。

「つまり伯爵は、このあと魔族と人族との全面戦争が再び起きたとしても、その全ての責を負う、とおっしゃるのですね」

「い、いや、そこまでは…… ただ、少しの人間の血をもって、部下たちの功をねぎらおうというだけなのです。いわば、人族が畑の野菜を収穫するのと同じではありませんか」

「一晩寝てから再考なされるがよろしかろう」

「はい」

 吸血鬼ノスフェラトゥは、しゅんとなると奥の部屋へと去ったのだった。

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