新人の老ゴルファー
1.プロローグ
滝川優は2025年時点で、74歳の老ゴルファーである。サラリーマン時代の若い頃は100を切る腕前だったし、ドライバーの飛距離も220~230ヤードであった。長いブランクの時期を経て、2019年68歳の時ゴルフの練習を再開した。ゴルフ練習場に通い始めたが、一年ほど続けても一向に上達しない。そこでレッスンプロに付いて、月一回30分の個人レッスンを受けることにした。先生は山中忠和といい、初老の優しいレッスンプロである。ここから、この物語は始まる。
2.長尺ドライバーから短尺ドライバーへ
山中プロにドライバーの打ち方を見てもらう。
「スウィングの基本がある程度できているのは良いけれど、方向が右や左にバラツキが多過ぎるね」
「どうしたらよいでしょう」
「非力なため、長尺ドライバーのシャフトの長さに負けている。良い方法があるけど、短尺ドライバーに替えるというのはどうです」
「そうですね、考えてみます」
「飛距離より正確さですよ」
山中プロから有益なアドバイスを得た滝川は、早速インターネット通販で、良さそうな43.5インチの短尺ドライバーを見つけ購入した。
練習場で打ってみると、以前よりは大分ましだった。それでも滝川は元々打球がスライス系だったので、少し油断するとヘッド返しが遅れて、スライスしてしまう。それに、スウィングした時、ヘッドが少し重く感じていた。山中プロに、スライス病について相談してみた。
「もっと右手を早く返すことを意識して、左に振り切るつもりで打ってごらん」
この言葉に従って練習し、よくなってきた。滝川はドライバーを打つのが、楽しみになった。
3.ロングアイアンからユーティリティへ
次にアイアンである。ダウンブローによるアイアンショットが全然駄目だった。特にロングアイアンがひどかった。山中プロに見てもらう。
「アイアンはある程度腕力で飛ばすクラブだから、滝川さんの年齢では無理ですよ。ロングアイアンはユーティリティに替え、ミドルアイアンはタラコアイアンに替えると良いでしょう」
滝川はその助言通り、またも通販で所望のクラブを手に入れた。
早速、練習場で試してみると、これが具合よかった。アイアンと比較して、軽く振れる感じがよく、フェアウェイウッドに似た感触だった。それまでのアイアンのことを思うと、雲泥の差であると滝川は感じた。
4.スライス病の矯正
滝川は右手首が弱く、ヘッド返しが遅れてスライスすることが多かった。そこで、グリップを強いフックグリップにしていたが、あまり効果はなかった。個人レッスンの時、山中プロに聞いてみた。すると、
「毒を以て毒を制すという言葉のように、フックボール打ちを徹底してごらん」
と言われた。そして、フックボール打ちのコツを伝授してもらった。極端なフックグリップにして、インパクトでこねるように手首を返し、フォローで右手を上にして振り切る、とのことだった。試してみると、次第に打球はストレート、又はフックボールになった。
5.友人とのラウンド
久し振りに会社員時代の同僚の岩井さんとラウンドする。岩井さんは3歳年上だが、今でも100前後のスコアで回っていた。この日は湘南の9ホールのリンクスコースをハーフだけ回った。滝川はまだ打ち方が身についてなく、ボロボロのスコアだった。ホールマッチプレーのゲームをしたが、全ホール取られてしまった。
6.飛距離が落ちる
71~72歳のころ、飛距離がガクッと落ちた。意気消沈していたが、考えあぐねて73歳の時何か良い方法はないか、山中プロに相談してみた。
「一つお勧めできるのは、タンラップ社のセクシルシリーズの長尺ウッドを使用してみることです。このシリーズは高価ですが、それだけのことはあります」
これも早速、1W,3W,5W,7W,9Wを購入した。打ってみると、意外に打ちやすく飛距離も各クラブで10ヤードは伸びた。更に全クラブの打ち方に関して、スウィングが不安定なため、極端ハイトップと、通常よりローフィニッシュにして、右手を上にしてヘッドを返すように助言を受ける。このクラブと打ち方で練習を積んだおかげで格段に良くなり、滝川のゴルフは73歳にして一応確立したと言えた。
7.エピローグ
再度岩井さんに挑戦し、前回と同じコースをハーフラウンドした。今回は調子よく、滝川は3ホール取ることができ、しかもスコアはハーフ60を切れた。74歳の時の事である。
振り返ると、若いころの経験があまり役に立たず、ほとんどゼロからのゴルフ人生再スタートだった。滝川はその意味では、新人の老ゴルファーと言えた。山中プロという良いレッスンプロに巡り合えたことも大きいが、それにしても、この結果はよくやったと、賞賛に値する事のように彼には思われてならなかった。 完