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聖剣が抜けないから台座ごと持っていった勇者

作者: きとく

 冒険者として活動していた私は、ある日『勇者』に選ばれた。


 夢の中で女神を名乗る女性に、力を与えるから世界に平和を〜的なことを言われ、目が覚めたらやたら強くなっていた。

 体力、筋力、魔力……あらゆる面で成長していて、自分の身体じゃないかのようだった。


 すごいことだけど、奇跡のように珍しいことでもない。どこの国にも何人かは『勇者』は居る。

 冒険者だったり騎士だったり貴族だったり様々で、だいたいの人が活躍して名を馳せている。


 私もそのときパーティを組んでいた冒険者仲間に告げたら、初めは半信半疑だったけど、昨日までとは別人の身体能力を見せたらアッサリ信用された。


 それからは強くなった私の力を存分に利用してバリバリ稼いでいたんだけど、また女神様が夢に出てきて、今度は聖剣を抜いて魔王を倒せとか言ってきた。


『聖剣』。勇者の中でもさらに選ばれた人にしか抜けないと言われてる剣。その剣が抜けるか試しに行け、ということなんだろう。


 ぶっちゃけ行きたくなかった。世界を救うとか柄じゃないし、抜けたとしても魔王って相手に勝てるほど自分が強いとも思ってもなかった。

 でも、毎晩のように夢に現れて寝不足にされたら、そりゃ行くしかないでしょう。

 仲間たちに旅に出ることを告げたら、せっかくだからと同行してくれることになった。持つべきものは仲間。


 まぁ、聖剣がある場所は有名だし安全だから、仮に1人でも問題はないんだけれどね。


 夢に出てきた女性を女神様と呼んで、この世界の創造主として崇めている『女神教』。

 その総本山がある聖王国。その首都にある女神教本部、その一角にある神殿に聖剣が封印されている。


 そこを目指して出発したんだけど、ありがたいことに隣国だったので旅というほどのものじゃなかった。




 ◇ ◇




「たのもー」


 女神教の本部に着いた私たちは、特に気後れすることもなく正面から入っていった。

 正面側の入口は礼拝堂になっていて一般の人たちも出入りしているから問題ない。


 あとは誰かを捕まえて、勇者だから聖剣を抜きに来た〜ってことを伝えればいいや、と思って軽く乗り込んだら、私と同年代の若い女性(超美人)が待ち構えていた。


「お待ちしておりました、勇者様」


『聖女』と名乗ったその女性は穏やかな笑顔で私たちを出迎えた。


「待っていたっていうのは?」


「はい。女神様より、本日、貴方がた一行が神殿を訪れるというお告げを頂いておりますので」


「えっ……」


 勇者って監視されてるの……?


 気持ち悪さを感じている私を他所に、聖女さんの案内で聖剣がある神殿へと通された。

 聞くところによると、年に数回は勇者が訪れるらしい。

 手慣れている感じがすると思ったらそういうことか。


 聖剣のある神殿の内部はとてもシンプルだった。

 入って正面の奥、階段というには低い段差を数段上った先に、聖剣が半分ほど刺さった台座が玉座のようにあった。

 それ以外は特に何も無い、聖剣があるだけの場所だった。


「それでは勇者様、どうぞ」


 そう言われて私は1人、聖剣のもとに歩いていった。


 結果から言うと私は聖剣を抜けなかった。


 いくら力を込めても、魔力を込めても、勇者だぞ~って意識しても、抜ける感じは全く無かった。

 聖女さんはその様子も見慣れているようで、表情ひとつ変えなかった。


「どうやら抜けないようですね。とても残念です」


 嘘つけお前。


 場を締めようとしている聖女さんを気にせず、私は聖剣を観察し続ける。


「ですが、今までに聖剣に選ばれた方はおりません。私の知る限りですが。ですので、気落ちする必要は……」


「ねぇ」


「はい、何でしょう?」


「別に抜けなくても、聖剣として機能すれば問題ないわよね?」


 聖女さんがキョトンとする。


「……すいません、仰られている意味がよく……」


「えっとね」


 私は聖剣を指しながら説明する。


「私、というか勇者にしか分からない感覚なんだけど。この聖剣ってね、この状態でもちゃんと能力を発揮出来るのよ。刺さっているだけで、力自体は封印されてないのよ。……伝わる?」


 聖女さんが頭の中で私の説明を嚙み砕く。仲間たちも顔を見合わせてなんか言ってる。


「……仰りたいことは、おそらく理解できたと思います。ですが、抜けないのであれば封印されているのと同じことではないでしょうか」


「うん、だから、抜けないなら床をくり抜いて台座ごと持って行こうかなって」


 聖女さんの眉間に皺が寄りはじめる。仲間たちが何を言ってるんだコイツはって顔で見てくる。


「台座に刺さったままの聖剣で魔王を倒せるなら、抜けるとか抜けないとか関係ないよね? それを確認するために、掘り出して使ってみようって話」


「関係ある……と思いますが……?」


「まぁ、やってみよう。また来るから。床を壊す用意してくる」


「えっ、あの、ちょっ……」


 そうして私たちは神殿を後にした。




 ◇ ◇




 んで、しばらくして荷車を引いて戻って来た。荷車にはつるはし、ハンマー、スコップ……とにかく床を掘るための道具が詰め込まれている。

 途中で神官の人たちに止められたけど、聖女さんと話はついてるからって言って押し切った。


 神殿にはまだ聖女さんが居て、別の神官さんと喋っていた。

 荷車を引いてる私を止めようとしている聖女さんの姿を見た神官さんたちが「話ついてねぇじゃねぇか」って察して睨んできたけど、気にしない。押し切る。


 それでも、私がつるはしを担いで台座に向かうと聖女さんが立ち塞がってきた。


「勇者様、さすがにそれはお許しできません。ここは由緒ある神殿です」


「大丈夫、確認したらちゃんと返すから」


「いえ、壊すこと自体をやめてほしいと言っているのですが……」


「でも聖剣が使えるんだったら魔王を倒せるかもしれないよ? 平和より神殿が大事なの?」


「そ、それは……」


「おりゃ」


「ああっ!」


 聖女さんの隙をついて聖剣の根本あたりにつるはしを振り下ろすが、台座は壊れるどころか傷ひとつ付かなかった。


「マジか」


 勇者になった私の力で壊そうとしてもビクともしない。これは相当硬いか、何か仕掛けがある。どちらにせよ大変な仕事になりそうだ……。


 ……。


 ……そして私は台座部分を完全に掘り返した。


 台座自体は一切壊せなかった。床の部分は問題なく壊せたから、そこを狙って掘削していった。

 掘れる場所を探って掘っていったら台座がキレイに残った、とも言う。

 数日はかかるかな? と思ってやり始めたけど、勇者パワーを全開にして作業したら数時間で終わった。勇者バンザイ。

 仲間たちが「終わらせないと埒が明かない」って手伝ってくれたのも助かった。


 掘り返されてむき出しになった台座は思ってたより小さくて、パッと見で言うと植木鉢みたいだった。

 縦長の四角柱の植木鉢に剣を刺した観葉植物。そんな感じの見た目だった。高さも私の肩ぐらいだったから尚更だ。


「ふむ」


 細かいことは分からないけど、このクッソ硬い物体に聖剣を抜けなくする能力があるらしい。

 人間にこんなものを作れるとは思えないから、おそらく女神様あたりが作ったんだろう。


 持ち上げてみると、重さも観葉植物みたいだった。……武器としては結構重いなぁ。

 仲間たちが持ち上げようとしたら、何故か数人がかりでもビクともしなかった。持ち上げるどころか横にずらすことも出来ない重さらしい。

 謎すぎる。


 仕方ないので聖剣は私が頑張って運ぶ。荷車に乗せたら重さで壊れそうになったし。


「んじゃ、ちょっと借りてくから」


 そう言って運んでいると聖女さんが止めに入ってくる。


「待ってください。持ち出すことを許可した覚えはありません」


「能力を確認するだけだってば。……そうだ、それじゃ一緒に来てよ。それなら手っ取り早いでしょ」


「えっ」




 ◇ ◇




 こうして私たちは聖女さんを伴い街を出て、魔物が居そうな近場の森へ。


 日が傾いてきたから見えづらくて困ったけど、奥まで行くと手頃な魔物を発見。

 狼型の魔物。人間の子どもくらいの大きさの小鬼、ゴブリン。そのゴブリンと近い見た目で大人より一回り以上大きいオーク。

 数も少ないから試し斬りにうってつけ。

 向こうもこっちに気付いたようで襲い掛かってくる。


 聖女さんを仲間たちに任せて前に出た私は、台座部分を抱きかかえるように持ち上げ、刃の部分が当たるように振り回す。

 狼とゴブリンは上手いこと両断出来た。

 オークは胴体が見るからに刃の長さよりも太く、鍔が当たって両断は無理だろう思ったけど、振ってみたらアッサリと両断出来た。


「なんで??」


 聖剣の謎パワーを不思議に思っていると、仲間が別方向を差して「アンデッドだ」と声を上げる。そっちを見ると人の死体のようなものがフラフラと歩いてくる。


 これまた試し斬りにうってつけ。

 こういった魔力や瘴気で動かされている死体や不浄な魔物は、ただ倒しただけじゃ止まらない。

 魔法とかで完全に消滅させるか、聖なる力で浄化しなければいけない。もちろん聖剣にもその力が備わっている(らしい)から、聖剣が機能していることを証明するにはうってつけだ。

 まだ夜というには早い時間だけど、森の奥は夜のように闇になっているからアンデッドが湧いてきたんだろう(仲間談)。勇者は運も良い。


 アンデッドを聖剣で両断すると、斬ったところからジュワ~っと溶けていって死体は消滅した。


 これはもう、聖剣が機能しているってことが証明されてるよね? 力が封印されてるならぶった切るだけで終わってるだろうし。

 私は振り返って聖女さんに話し掛ける。


「今の見てたよね?」


「は、はい、見てました。聖剣は……問題なく機能していますね……」


「よっしゃ。それじゃこのまま貰っていくね」


「えっ、聖剣の力を確認するだけというお話ではありませんでしたか!?」


「使えるってことが分かったんだから使ったほうがいいじゃん。平和になったら戻すから」


「そういうことでは……。はっ、そうです、また別の勇者様が聖剣を抜くために訪れるでしょう。そのときに持ち出されていては困ります」


「そのときは私のほうに来るでしょ。あの女神様、どうも勇者を監視してるっぽいから。私の居場所を教えてそこに行けってお告げを出すわよ」


「監視……確かに、私にも勇者様が訪れる日を正確に告げてくださってますし……そうなのでしょうか」


 聖女さんはそう言ってから少し考え込むと、意を決したように告げる。


「では、私も同行させていだだきます。聖剣に選ばれた勇者様と世界を救うのが私の使命ですから」


「そう? まぁそっちがいいならいいけど……」


 こうして聖女さんが仲間に加わった。

 教会のほうは、聖剣が掘り返されるっていう事件と聖女がそれを強引に正当化して旅に出るっていう大事2つが重なって許容量を超えたらしく、もう好きにしてくれって感じだった。




 ◇ ◇




 聖女同伴の勇者パーティとして名乗りを上げた私たちは、聖剣の力も相まって前以上にバリバリ稼いだ。

 魔王の手下もバンバン倒して、平和にも貢献して名を馳せていった。


 でも……聖剣を運ぶ有効な手段は見つからなかった……。


「もしかしてずっと、私が運びっぱなしで旅が続く……?」


 世界が平和になるのが先か。私の腰が壊れるのが先か。


 私たちの戦いは、これからだ。

読んでいただきありがとうございます。

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