祭り
「お腹すいたな……でも、金がないんだよな」
マリアは財布の中身を見てため息を吐く。
今日は年に一度の祭りの日。
いつもの通りとは違い、煌びやかに飾った華やかな世界。
「クソジジイめ。今日くらいお金をくれてもいいものを」
マリアには両親がいない。
小さい頃から祖父のフェンネルと2人で暮らしている。
別にいつもなら不満はないが、祭りの日のときだけはお小遣いをもらえないことに不満はある。
周囲を見渡すと親からお小遣いをもらった子供たちが屋台で買い物している。
いいな、と羨ましくてつい見てしまう。
お金はないが、せっかくきたので雰囲気だけでも楽しもうと通りを歩く。
いつも以上にみんなの顔が喜びに満ちていて、つられて笑顔になる。
美味しいものは食べられないけど楽しいな、と思いながら歩いていると急に美人のお姉さんに声をかけられた。
「ねぇ、そこのあなた。今、何歳かしら?」
「……もしかして私に話しかけましたか?」
マリアは周囲を見渡してから、自分に話しかけたのかと気づく。
「ええ。そうよ」
お姉さんはニッコリと笑う。
「どうして私の年齢が気になるんですか?」
知らない人に話しかけられ警戒する。
祭りのときに悪さをするものは少なからずいるが、こんな堂々と話しかけてくる悪党がいるのかと感心する。
「あ、ごめんね。急に年齢聞かれたら驚くよね。私はこういうものなの」
懐から何かを取り出しマリアに見せる。
「……銀のバッチ?これがなんなんですか?」
意味がわからず首を傾げる。
銀のバッチには花の模様が描かれてある。
きめ細かい模様にマリアは「これを作った人は器用だな」と尊敬する。
「もしかして、これの意味知らない?」
女は信じられない顔をして尋ねる。
マリアは「知らないくらいでそんな顔しなくてもいいのに。失礼だな」と思いながら、顔には出さずに頷く。
「そうなのね」
女はショックを隠しきれず呟くが、すぐに我に返り笑顔を作ってからこう言った。
「私はリューミリア学校で事務員をしているの。このバッチはそこで働いているって証なの」
'リューミリア学校ってなに?てか、そこの生徒でも関係者でもないのに、バッチの意味なんてわかるわけないじゃん'
自信満々に言うがマリアには何が言いたいのかさっぱりわからなかった。
マリアのきょとん顔に彼女はまたもや信じられない顔をしながら「もしかして、知らない?」と尋ねる。
「うん。知らない」
もう行っていいかな、と思いその場から離れようとすると慌てて引き止められる。
「待って。もう少しだけ話を聞いて」
「まぁ、少しなら」
あまりに必死な顔で引き止められるので少しならいいかと思い話を聞くことにする。
「ありがとう」
女性はホッとしたように笑う。
「とりあえず、これを見てくれる。説明より実際に見た方が早いと思うからさ」
そう言うと女性は水晶をマリアの前に持っていく。
'これは記録専用水晶か'
マリアは水晶が発動される前に一瞬見ただけでその性能を見抜く。
「じゃあ、始めるわよ」
女性は水晶を起動させる。
そうするとゆっくりと水晶が光だし映像が映し出された。
「これは?」
水晶に映し出されたのは戦っている映像で、何故こんなのを見せられるんだとマリアは困惑するが、写っている人たちが皆イキイキとしているてつい、見入ってしまう。
「これは花冠祭よ」
「かかんさい?」
初めて聞く言葉だった。
どういう文字が気になる。
「簡単にいうとね、リューミリア学校を含む8校の生徒が10月に全世界に力を示す祭りね。出れるのは戦士と魔法使い、戦闘系聖職者だけだけどね」
「どうして力を示し必要があるの?」
「理由は個人で違うだろうけど、強ければいいところに就職できたり、世界中の人たちから認められるようになるからかな」
私は違うからよくわからないけどね、と女性は一瞬悲しそうな顔をするもすぐに元に戻る。
「認められたらどうなるの?生まれてきてよかったと祝福されるの?」
「もちろんよ。もの凄く祝福されるわ。現に今だって我が校、自慢の天才魔法使いアジュガ・ルイスは去年の花冠祭で優勝してから、もっと祝福されてるわ」
'祝福される。強ければ私も認められる。そしたら、じいちゃんの選択は正しかったと証明できる'
マリアは彼女の今の言葉を聞いてリューミリア学校にいきたいと強く思い始めた。
「私でも通える?」
「もちろんよ。学科はいろいろあるけどどれがいい?一番人気は魔法学科だけど、ここは毎年定員の10倍の人数が応募するから試験があるの。戦士を試験があるけど女子は誰も来ないから一番学費も安くされて……もしかして、魔法学科に入りたいの?」
一つずつ学科を説明しようとしたが、マリアが魔法学科のページを凝視しているのに気づきやめる。
「……はい」
自分のために学科の説明をしてくれてたのに途中から話しを聞いていなかったことが申し訳なくて女性の顔が見れない。
「そっか……」
女性はマリアの返事を聞いて失敗したなと思う。
マリアに声をかけたのは戦士学科に入って欲しいと言うためだった。
10年前に女性の戦士が魔法軍との戦いで活躍してから、世界中で女性もなりたいものは戦士として教育しようとなったが、いまだにリューミリア学校では女子の戦士は誰も入学していなかった。
このままでは他の7校に時代遅れといわれ続けるのが嫌で声をかけたのに、これでは意味なかったなと項垂れる。
これ以上説明しても無駄だと思い、適当に切り上げ他の子を捕まえることにした。
「それじゃあ、これうちのパンフレットをあげるよ。魔法学科は毎年倍率がエグいけど頑張ってね。一応、親御さんにいきたいって言うんだよ。我が校は他の学校に比べて魔法学科はレベルが高いから授業料もそれなりにするからさ」
女性はパンフレットと入学志願書などを渡し、さっさと帰ってくれとあしらう。
「はい」
マリアはパンフレットを受け取り、両手で大事そうに抱える。
「あの、ありがとうございました。お陰でやるべきことが見つかりました。本当に感謝します」
マリアは深く頭を下げてお礼を言う。
「え、あ、うん。それなら、よかったわ。あなたに会えるのを待ってるわ」
素直にお礼を言われ罪悪感に胸が押しつぶされそうになる。
「はい。必ず合格します」
マリアは笑顔でお礼を言い、急いで家へと帰る。
「先輩。あの子、もの凄く嬉しそうにお礼言ってましたけど、戦士学科に入ってくれるんですか?」
同じように声掛けしていたが失敗して落ち込んでいたところ、マリアの嬉しそうな顔を見て、もしかして初の戦士学科の女生徒を獲得できるのではと期待する。
「いや、魔法学科に入るって」
「え……?」
一瞬で期待を壊され真顔になる。
「ちょ、顔怖っ!そんな顔してこっち見ないでよ。仕方ないじゃん。失敗したのは。あんただって失敗してるくせに、人のこと言えないでしょう」
「それはそうですが、あんな顔でお礼言ってるのを見たら期待するじゃないですか。期待させておいて違うなんて酷すぎますよ」
プンプン、と効果音がつきそう起こり方をするのを見て女性は「キモッ!」と声が出そうになるのをなんとか耐える。
これ以上相手にするのも面倒だと思い、無視することにした。
「さてと、気を取り直して声かけますか」
どうせ無理だろうと思いながら、祭りに参加したい気持ちを押し殺して別の子に声をかけにいく。




