情報無し、連絡員は来ず。
暗号鍵の載ったノートを大急ぎで開く。対応した合言葉を入力すれば暗号通信システムに繋がるはずだ。
???「こちら第57連隊指揮官。部隊規律を確認する。南紀、湖北、青海」
返事を返す。冷静に勤めようともムリだ。でも、せめて、胃袋から何もかも絞り出すように。
絡まったのが喉か頭かも分からない。
「北京、ウルムチ、唐山。こちらアデン飛行場管制、通信感度は良好」
部隊共通の部隊識別はこれだけ。本来なら部隊統制で構築すべきものだが、生憎この通り私は新任だ。それでも義務があるんだ。
こればかりは上兵にも頼れない。これは士官の機密情報だ。
???「よくやった中尉」
我が少佐だ。
もう全てぶっちゃけて素直になりたい。
少佐「状況を報告せよ」
「現状では航空管制は不可能、また守備兵は私を除けば1名のみである。応援はまだか。」
少佐「うちの第2中隊がもうすぐ戻る。第3中隊と第1中隊は示威作戦のためアデン国際港にて活動中。本部からは何を?」
「こちらに対する指示が二つ。まず一つ目、負傷者を収容せよと」
少佐「ここまでで既に意味不明だな。次は?」
「....っ!」
親の顔が脳裏に浮かぶ。まるで走馬灯のように。
少佐「聞き取れない、繰り返せ」
「上官が戻るまで国家安全部の指導を受けよ、と」
沈黙が刺さる。鼻を突くような胃液の匂いは、きっと私のものだ。
少佐「冗談ほざいてる暇あったか?」
「事実です。」
少佐「虚偽申告は反逆罪に問われる。」
「事実です。」
だから何だ、これ以外に言いようもない。
少佐「....知ってるだろうが、退役軍人にとって国営企業への再就職も叶わない。党がそれを許していないんだ。」
ああもどかしい。クソ、後でパワハラだと糾弾してやる。
「事実です。必要ならば我が西部管区15支管区の上級大佐にご確認下さい」
少佐「分かった。それで、その文官殿は何処に?」
言葉に詰まる。誰だそいつ、いやマジで。
少佐「おい中尉、返事は.....やはり反逆罪だ。舐めるな、うちの憲兵が躊躇うと思うか?親兄弟から飼い犬までつけ回してでも捉えてやる!」
何かが切れた。
こう言えたら。「舐めんなパワハラ野郎、やるか?こちとら空軍士官だ、いつでも一族郎党まで絶やしてやる!!!」そう素直に言えば、いや解雇まっしぐらだな。