買い物
レン「中尉、アラビア語講座は受けてらっしゃいますか?」
無茶言うな。「ええ、まあ数時間ですが」
ぴくりと眉が動く。彼の全身から気が抜ける。呆れたんだろうな。
レン「では通訳は私がします。いつでもお呼び下さい」
「助かるよ」
少佐「彼は新任のミンだ。まあ顔合わせは済んだし、とりあえず行こう。上兵!」
商品と人にごった返す市場。
新品のシーツ、果物。望むもの全てがそこにはあった。基地で出るのはビタミン剤と糧食。もう耐えられない。
少佐「良い顔だな。」
「ええ、ええ!」
上兵「中尉、買い方はご存知ですか?」
何言ってんだ。値札があるだろう
上兵「...まさか本当に武漢市と同じだとお思いで!?」
「違うのか?」
少佐「まあ一度やってみなさい」
[なあこれ2つ頼むよ]
胡乱なアラビア語で小銭を差し出す。商人は怪訝な顔だ。何だこいつ。
商人[これじゃ足りない!]
は?
[値札が見えないか?2つだ。]
商人が値札を取り替える。明らかに舐めた態度だ
商人[足りないね。それじゃ何も買えないよ]
「こいつッ!ざけやがってこの野郎が!!」
少佐「落ち着けバカ。レン上兵を見とけ」
はあ。
上兵[おい商人、水は幾らだい?]
雰囲気が変わった。陽気で快活、まるで別人みたいだ
商人[現金なら25リアル]
上兵[ドルで。なぁおい、シーツは幾らだい?]
商人[値札の通りだよ]
いい笑顔だなレンは。いかにも手慣れた会話らしい。
上兵[いつから水5Lがシーツと等価になった?122レアルだ]
商人[バカな事を言うんじゃない!993レアルだ!]
上兵[UAE基地の仕事を紹介したのは誰だ?158レアルなら買ってやる]
凄いな。白熱を感じさせないくらい明るく、しかしさりげなくリードしてる。
商人[その値段じゃうちが破産しちまう!220レアルだ]
上兵「200レアル、どうだ?」
中国語に戻った。
商人[分かった200だな。持ってけよ旦那]
上兵「中国語も分かるんじゃないか。ほらドルだよ」
誇らしげだ。
少佐「な?ここじゃ必須だ。中尉も見習っておけ」
「誰でもこんな面倒な事をするのですか?」
少佐「そうだ。よそ者なら尚更な」
んな面倒な...。
少佐「こんな事してるから貧しいんだよ、彼らは。この時間で反物の一つも織れたろうに」
上兵「そう気を落とさず。買い物は済んだ事ですし食事でもどうですか?」
励ましが沁みる。上兵には何かお返しを考えておこう。
「では私が奢ります。どこの店ですか?」
少佐「場所も知らないのにか?俺が払うよ」
「先程は助かりました。お礼をさせて下さい」
少佐「これも勉強だ。払い方を見ていろ」
勝てないな。