派兵-1
民族闘争は、とどのつまり、階級闘争の問題である。アメリカで黒人を抑圧しているのは、白色人種のなかの反動支配グループだけである。かれらは、白色人種のなかで圧倒的多数を占める労働者、農民、革命的知識人、その他の良識をもった人びとを代表することは絶対にできない。――「アメリカ帝国主義の人種差別に反対するアメリカ黒人の正義の闘争を支持する声明」 毛沢東
もう一つの戦場。そこは砂埃の舞う危険な場所で、きっと語られもしないだろう。だが公務が必要だ。確実に。
アホみたいな色の洪水。泊地キャンプ・アディムの残骸は今頃アデン湾だろう。モハメドは真っ青でどうしようもない。だが目下の課題はそう
---明朝に彼らへ支払うべき報酬が、あの中だ。
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「着陸まで10分!総員、座席に戻りシートベルトを着用!!!」
警笛が鳴り響き、Y-20輸送機の尾部ランプが開く。日差しが機内を照らしてゆく。
「第283移動中隊85名、総員異常無し!」
眠り眼をこすりつつハンモックを降りる。運輸オペレーターの号令を尻目に輸送機のランプを降り、添乗員の点呼に応じる。
長い滑走路、沢山の牽引トラクター。周りには空軍の迷彩服が並ぶ。我らの第20853仮設飛行場だ。
係員「さあ並んで!どうも中尉、施設内専用の身分証明書を発行します。」
状況連絡書をポストに押し込み、ID申請書に記入する。早朝にやるにはキツい作業だ。でも日差しは火傷を起こす程に暑い。
嵩張る通信端末、身分証明書。持ち込んだ教材の山。これ全部運ぶのか.....
士官休憩室はない。下士官宿舎にソファーが用意されただけのコーナが士官休養サービス士官休養サービスだ。
なぜだか分からないが。書類提出を済ませるとすぐ、ふらふらとその机の衝立てに寄りかかり、数秒のうちに気絶して泥になった。
ぶぶうと吹く砂風、打設中のコンクリート、勇ましい兵士の号令。あらゆる雑音が流れていく。
「ほらあいつ」「3...2...1...」
囃し立てるような噂話だとは思った。でも俺の事だと誰が分かるんだ?
「喉乾いたな....」
うとうとと意識を揺らす。少しずつ机に覆い被さっていき、最後によく焼かれた鉄板の机が頬へくっつく。
「熱っ!?!!?!!」
皮膚が焦げる時って、本当にジュッって音するんだな。
日差しで燃えるんじゃないかと思う鉄板の机、掃ききれない砂埃、飲料制限。
....兵士達のふざけた嘲笑。
でも、それより何より空輸は堪える。眠れなかった。頭痛に眩暈がひどい。
それから30分は経ったろうか。チカチカした格好の兵卒が肩を叩く。
兵卒「中尉、待機室へどうぞ」
案内されたのばコンクリート建ての施設。下士官に挨拶を交わし、据付ポッドの豆乳を啜る。
伍長「新任ですか。荷物はあちらへどうぞ」
「ええ、椅子をどうも。」
軍曹「朝食は?ここなら揚げパンに丸鷄のスープくらいですが、員数外でも出せますよ」
そうは言っても下士官用の食事だ。彼らが空腹にならないよう遠慮して、とは空腹が許さない。
手羽肉とネギの入ったスープを啜り、固い揚げパンをむちむちと咀嚼する。ここでは暖かい食事が特別嬉しい。
兵卒たちと話しているうちに騒々しさも収まってきた。そんな時だ。
混雑の中に3度のノック、若い声が響いた。「レン・フォン上兵、失礼します!」
直立不動の中で、その若い顔が視線を向ける。
「アブラハム・ミン中尉、第57連隊2088情報即応中隊よりお迎えに上がりました」
陸軍の下士官肩章がピシッと決まった、いかにも兵士らしい男。
ミン「ありがとうレン上兵」
答礼を返し、制式鞄を担いで上兵の後を追う。
上兵の背中を追って看板通りに進み、トラックの荷台に飛び込む。
近隣の陸軍駐屯地へ向かい補給を受ける。そこから目的地であるUAE空軍の飛行場へ3時間、着いた頃には夕方だった。まだサングラスをしないと目を火傷する。当駐屯地はUAEと中国が合同でイエメン空軍拠点を借り上げたものであり、地図によれば隣はトルコ空軍宿舎とオーストラリア陸軍のキャンプがあるらしい。事前通知だとそこの連絡役にも会うとのこと。
俺の派兵期間は2.5年、超長波レーダの設備運用と航空管制の資格があるから恐らく管制塔勤務だろう。
色々と考えているうちに到着。
上兵「駐屯地司令へご挨拶の前に、まず宿舎へどうぞ」
士官棟の正面をくぐり、ロビーにある見取り図の通りに進む。見取り図によると、ここが私の部屋らしい。
砂埃を払ってドアを開ける。
.....スラムか?
砂埃に溢れたシーツ。外国語が書かれたビニール袋のゴミ、汚いペットボトル。
何よりヤバいのは注射器とグレた兵隊。
いや分かる、倉庫裏なら(いやダメだろ)。だがここは中国軍区画の士官宿舎で、何より私は士官だ。
生気を絞り出す。気取られぬよう慎重に紡ぐ。私はもう大学を出た。舐めるなよ。
「なあ、君たちは何をしてるんだ」
連中もこちらを見る。逃げ出すでもなく
....うちの帽子じゃない!
叫んだ。「くたばれ外人が!」
ベッド枠を掴み、空の水筒を投げる。
数秒の空白。彼らは窓を越えた。初の勝利だ。
応急処置だ。窓枠をガムテープで塞ぎ、カーペットを貼り付ける。放置されていたであろう布だ、砂埃には咳込むしかない。前居住者、お前ら洗濯しとけ。
駐屯地司令に報告しないといけないが、そこがどこかも分からない。
クソ。どうしてこうなった。
始めは素朴な愛国心からだった。平和を守るってイケてるし、みんな尊敬するしモテるし。何より、退役軍人らしい小学校の先生はカッコよかった。
大学で留年ギリギリに海軍へ入隊。25の今が初派兵。
転属命令はまあ雑だった。
ニュース速報を見て数日で乗機指示。副業禁止でこれかよ。
クソ寂しい。
これが恐怖が呼び起こしたものか知らないが、ともかく誰でも良いから呼んでくれ。
新人です!宜しくお願いします!
追記:2024/10/13に記述を追加点