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白梅沢美門(4)

「お、お待たせしました」


 放課後になって十五分後、校門前で待っていると、椿海月さんが小走りで息を切らしながらやってきた。


「大丈夫?」

「だっ、大丈夫です。時間が惜しいです入りましょう」

「入るって言っても、目立たない?」


 椿海月さんは他校の制服姿である。それが浮きまくっていて、遅れて下校する人間達の注目の的にはなっている。


「そこらへんは対策済みです」


 乱れた息を整えて、胸の前で右手の人差し指と親指を立てて目を瞑る椿海月さん。手に力が入ったかと思うと、目を開けた。


「はい。自分に認識阻害の結界をかけたので、先程よりはマシですよ」


 数秒前までは他校の生徒がいる稀有な目で見られていたのに、今はただの風景のように処理されて通り過ぎられている。こう目に見えて変わるものなのか。不思議と言うよりも不気味だ。


「今の一瞬でそんなことができるのは、流石は結界師の末裔だね」

「ひゃい! こここ、乞仏座・・・さん」


 僕達の間に割って入ってきたのは、六限目が終わってから姿を消していた乞仏座だった。

 椿海月さんの怯えようを見ると、姫鏡と対等に渡り合えて、狂気を孕んでいるせいで、同じ怪異仲間からも畏怖されているのだろうとわかる。


「安心したまえ、とって食おうなんて思っていないよ。僕は不死身みたいなものだからね」

「は、は、はい・・・」


 薄っぺらな言葉のせいでちっとも安心されていない。まぁ何かをしようものなら力尽くでも止めるから、そこは椿海月さんには安心してもらいたい。


「乞仏座、冗談言ってないで、どこ行ってたのさ」

「それは歩きながら説明しようじゃないか。あぁ三幡君、僕とオイラー君にも認識阻害結界を張ってもらえるかな?」

「はいぃ! わかりましたぁ!」


 背筋を伸ばして良い返事をする椿海月さんを通り過ぎる人達は訝し気な目ですら見なかった。


「僕がどこに行っていたかを教える前に、現状を整理しようか。オイラー君頼む」

「なんで僕が」

「説明は探偵助手の役目だよ」


 眼鏡の蔓を指で治して言う乞仏座。説明したがりなのは探偵だろ、と言いたかったけど、無駄な言い合いは時間を浪費するだけなので、何も言い返さなかった。


「昨日の姫鏡の足取りを調べたんだけど、僕と姫鏡が分かれた後、クラスメイトと共に第二資料室へ資料を運んでから、職員室へ鍵を返しに行ったんだ。それが五時十分のこと。学校での足取りはここで終わっているんだ」


 今日調べたことを椿海月さんに共有すると、少し考えた後に椿海月さんは言う。


「・・・・・・では五時十分から、十七分の間に姫鏡ちゃんは消えたことになりますね」

「え、どうしてそこまで正確な時間が?」

「昨日遅れる連絡を貰っていたんですが、それが五時十七分です」


 そういえば連絡は貰っているって言っていたっけか。僕が姫鏡に連絡したのは十八時半過ぎだったので、より時間が狭まったな。


「職員室から出て、多く見積もっても七分か。ゆっくり歩いても校門は出れるね」

「学校からは出ていないよ」


 僕の推察を蹴っ飛ばしたのは乞仏座だ。無造作に蹴っ飛ばされたのでつい言葉を返してしまう。


「なんでわかるのさ」

「さっきまで手を使って、まりあの足取りを調べていたからね。下駄箱にまりあの靴は無かったが、まりあが外靴を使って外にでた形跡がない」

「そ、そこまでわかるの?」

「まりあは特別な歩き方をしているから日が浅いなら判別ができるのさ」


 どうやって判別しているかは聞いても仕方ないので深くは訊かないことにする。


「じゃあ学校の中で行方不明になったってこと? しかも犯人は靴を隠した?」

「靴を履くときに襲われた可能性もありますね」

「部活動で残っている生徒もいるから、目立つと思うけど、それもありえる」

「僕はまりあは校内で行方不明になったのを提唱するよ」


 またも乞仏座は否定するかのように割って入ってくる、探偵ってこんなに煩わしい奴だったか。


「どうしてそこまで拘るんだ」

「玄関口で襲うのはオイラー君の言う通り目立つ。一瞬だとしても、認識阻害が使えなければ意味がない。放課後に時間指定しているのだから、もっと人気のないところで襲う方が理にかなっている」

「それは・・・そうか」


 返す言葉を考えてみたけど、思いつけなかった。


「確かに認識阻害結界を張りつつ、姫鏡ちゃんを捕らえる為にまた術を使うなんて難しいですもんね」

「そういうことさ」


 二人が納得しているけど、僕はその理論に納得がいかなかった。


「あのさ、認識阻害結界を張りながら何かをするのはそんなに難しい事なの? 椿海月さんも僕達に張ってくれているんだよね?」

「おいおいオイラー君。逆立ちをしながら鼻から水を飲むと苦しいだろう? それと同じさ」

「そりゃあ苦しいけどさ。そもそも鼻から水は飲むものじゃないし、どう結界と同じなのさ」

「例えだよ。三幡君は脳の処理能力が特別だから認識阻害結界を張りつつ、また違う種類の結界も張れる。だけど生半可な結界使いがそれをやろうとすると、脳が処理できなくなり重大な後遺症、または死に至るのさ。僕はそれができる奴を国内では三人しか知らない」

「三人いるじゃないか」

「三人。人間さ。三人とももう歴史上の人物になっていて現存していない」


 呟く乞仏座はどこか寂しそうに見えた。


「んー、つまり単一的にやれば普通の事なのを、同時にやると難しいって事だよね」

「そうです。特に結界は脳の処理能力が激しいので、あんまり複雑な事をやると溶けます」


 さっきから怖い事を言うし、そうなるリスクを背負いつつも結界を張ってくれている椿海月さんには、これから足を向けて寝られない。


「話を戻そう。ではまりあが校内で捕らわれたとして、どうして靴が消えている?」

「靴を隠したからだろ?」

「下駄箱に名札が張ってあるのかい?」


 僕達の下駄箱には数字が貼ってあるだけで、名前などは記入されていない。


「・・・え、じゃあ犯人は姫鏡の下駄箱を知っていた?」

「その可能性は大だと言えるね」

「つまり身近な人物ってこと?」

「流石は優秀な助手だ。まりあの行動範囲を絞れば容疑者は自ずと見つかるのさ」


 鼻高々に言う乞仏座は背伸びしているようで可愛らしかった。


「でも僕は姫鏡の行動範囲を知らないんだけど・・・」


 巷の噂でストーカー扱いされ出した僕だけども、姫鏡の行動範囲はよく知らない。


「図書室・・・図書室じゃないですか? 姫鏡ちゃんよく行くって言ってましたよ」

「あっ・・・あー! 最近は来ていなかったけど、確かに行動範囲だ!」


 そういえば自習中に何度か見ていたのをさっぱりと忘れていた。僕とあろうものが姫鏡との希少な繋がりを忘れるとは、なんたる不敬だ。


「図書室とやらの近辺を調べれば、真相はすぐそこ、ということだね」


 行く場所が決まった僕達は上履きに履き替えて速足で図書室へと向かった。


なにかしらの↓のリアクションやらを頂けると励みになります。何卒よろしくお願いします。

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