エルファーレ・番外編 (5代目/朱羅)
『汝よ求めよ、されば拓かれん』
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「蘇芳!覚悟ぉっっっ!!」
大声で威勢が良く、更には殺気の混じった飛び蹴りが容赦なく向かって来る。それに対してひらりと身を捩って躱してすぐに地面を蹴ってタンッと音と共に高く舞い上がり、バランスを崩した背中に渾身の一撃を入れた。
「くっくそぉ……!!女、のくせにっ」
「なんだ、まだ意識あるじゃん」
【case.syura】
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ニヤリと悪どい笑みを浮かべれば男はサァっと青冷めた。怯えた目をしたのは一瞬だったか、そんなのはどうでも良くて、自分よりガタイの良い男の胸ぐらを掴んでボコボコにした。
(───この衝動が止まらない)
(───もっともっと血が見たい)
そんな欲望に駆られてそれを求めている腕を止めたのは有り得ないぐらいに白く、細い腕だった。
「止めなさい、死んでしまうわ」
そう言われてにハッと我に返って辺りを見れば血塗れの男と自分の腕を止めている黒髪の女。
「あ、あんた………だ、れ?」
その瞬間、眼の────
(焦点が合わない)
(前が見えない)
───そこで意識は途切れた。
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(ん…暗い……?此処はどこだ)
暗い空間で目が覚めて、状態を見るとどうやら寝ていたらしい自分はその柔らかさと暖かさから布団の中にいる事だけは分かった。でも辺りは真っ暗で腕を伸ばしても宙をかくばかり。
その時、割と近くでカタンと音がした。
「あぁ、目が覚めたのね。良かった……」
声だけだけどその声には聞き覚えがあった。さっき、止めてくれたの黒髪の女の声。
「大丈夫?貴女、あれから突然倒れたのよ」
優しい声で親身に女は言う。
「どこか痛い所はない?相手の男性は瀕死だったけれど貴女も手を痛めていたから…」
言われたので気にすると自分の右手に包帯が巻かれている事に気が付いた。
「どこも痛くない」
「そう、良かった。ここは私の家だからゆっくりして行ってね。お腹は?空いてない?」
「おなか…」
お腹に手を当てればぐぅーっと鳴る。
(なんて都合の良いお腹だ)
「空いてるみたいね。今、食べられる物を用意してくるから少し待っててね」
そう言って親切な女は居なくなった。
1人になり、暗い室内ではする事も無かったのでそのまま布団に倒れてみる。良く分からないけど線香みたいな柔らかい良い匂いがした。
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静かな真っ暗な部屋にいると嫌でも五感が研ぎ澄まされる。先程は女が来た事に気付かなかった程に小さい足音だったけれど、今度はちゃんと分かる事が出来た。
「お待たせ。はい、どうぞ召し上がれ」
その言葉と共にカチャと置かれたご飯からふわっと食欲をそそる美味しそうな匂いがした。
「あ、…………ん?………?」
「どうしたの?遠慮はしなくて良いのよ?」
「暗くて……どこにあるか分からない」
匂いのする方に手を伸ばしても何も無くて空を切るばかり。今持って来てくれたと思われるものがどこにあるのかさっぱり分からなかった。
「え?ちょ、ちょっと待って。暗いって何?ずっと?いつから?」
「変な事言う。起きてからずっと暗い。ここ真っ暗な部屋?」
(なんで女は慌てているの)
「う、嘘………ね、ねぇ私は見える?」
そう言って手を握られた。
(柔らかくて温かい手。何でかずっと握っていて欲しい)
「さっきからずっと……見えない」
そう答えると握られた手に、力が入った。
女が息を飲むのが分かる。
「あぁ、暗いんじゃないんだ」
(何故この女は泣いているの。名前も知らない出会ったばかりの女が)