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刑事警備昔話—ナイさんかく語りき—

作者: 佐々笹
掲載日:2023/09/14

ぼくはおおきくなったら、けいじになって悪いやつをつかまえます。

とくにスパイをつかまえます。





「オイ、木部!書類ちゃんとまとめとけよ!」


いつもと変わらない日常。

机に座って書類のチェックと整理。



ボクの名前は木部マコト。

ちっちゃい頃からの夢だった警察で働いている。


大きくなったら悪い奴を捕まえます。

特にスパイを捕まえます。


なんて今思えばガキの妄想だ。


ボクは今、巡査長だ。

"長"がつくからといって偉いと思ってもらっては困る。

下から二番目だ。

夢だった警察で働いているが刑事じゃない。

制服を着たいわゆるお巡りさんだ。


ボクが今やっているのは報告書の作成とその他の資料を整理するデスクワーク。

警察と言うと華々しいことを色々想像するかもしれないが、所詮、公務員。

何をやるにも書類、書類、書類だ。


特に下っ端のボクは書類整理ばかりだ。

他の仕事は

警察署の入口に棒を持って立つ仕事。

通称立ちんぼ。

そして街を巡回して職務質問。

職務質問は警察の仕事をしている感があるのでは?と最初は思っていたが

実際は市民から迷惑そうな顔をされるだけ。市民の生活を邪魔する行為としか思えない仕事だ。

何が警察は市民の味方だ。


今のボクの仕事は、つまらない。

本当につまらない仕事ばかりだ。


たまに、ごくごくたまーに本署から背広組が来る。

背広組とはスーツを着た警察のこと。いわゆる刑事、デカって人のことだ。


その背広組をパトカーで送る運転手をすることがある。


一度だけ

背広組の送迎中、車内で仕事のことなんか聞けたら楽しいかな?

と思って話しかけたことがあったけど、苦虫を噛み潰したような顔をして


「黙って運転しろ」


と一喝されただけだった。


やめようかな・・・・。


最近考えるのはこればっかりだ。





今日もいつもと変わらず書類整理をしていると珍しく北村署長から呼び出された。


署長と言うと偉い人というイメージを持つ人がいるかもしれない。


たしかにボクよりも偉いのだがボクがいる署は地方の警察署。

いわゆる所轄と呼ばれる地方警察署だ。

そこの署長なんだから華々しいとは言えないだろう。


ボクの北村署長に関する印象は、いつもゴルフの素振りやったり、机でお茶啜ったりして、ヘラヘラとしているおいちゃん。

という感じだ。


先輩が昼行燈と呼んでいた。

ググってわかったけど、うん、北村署長、昼行燈だわ。


そんな昼行燈、じゃなかった、北村署長から呼ばれた。







コンコン。

署長室の扉をノックする。


「はい〜」


中から気の抜けた北村署長の声がしたので


「失礼します」


と扉を開け署長室へ入る。


部屋へ入ると北村署長がいつもと変わらず気の抜けた声でボクを迎える。


「いやいやいや、木部クン、忙しいトコ悪いね、悪いね」



「いえ、ご用は・・・?」


署長に呼び出されるほど良いことも悪いこともした記憶がボクには無い。

呼び出されたから来たのだが、ボクは困惑していた。なぜ呼ばれたのか?


その表情を無視して北村署長は


「あ、あのね木部クン、率直に聞くけどさ、キミ警察辞めるの?」


「え!?・・・」


やめたい、やめたいとは、ずっと思っているが誰かにそのことを相談したことは無い。


心の中をズバリと指摘され、ドキッとし、しどろもどろになってしまう。


「あ、いや、あのね、まぁさ、辞める辞めないの決断する前にさ」


北村署長は、そういうと机の引き出しから一枚紙を取り出しボクに差し出す。


「・・・?」


受け取った紙には住所が書いてある。


怪訝そうなボクの表情に気がついているのかいないのか


「それね、私の昔の上司の住所。もう引退されてるんだけどね。

話しよう、話しようってうるさくてね。君、私の代わりにいってきて。

話の聞き役はね、私みたいなおじさんよりも君みたいな若い人のほうが先輩も喜ぶだろうから。

これ命令ね。もうナイさんには話通してるから」



ナイさん?


「内藤さん。通称ナイさんね。よろしくね」


そう言うと北村は、しっしっとするように手をフラフラ振った。








「いやー、よく来たね。ま、座って」


ボクは、北村署長からの命令で警察OBである内藤さんの自宅へやってきたのだが、内心、うんざりしていた。


内藤さん、別に悪い人ではない。

ニコニコした、感じの良いおじいさんだ。


普通の人だ。


そんな普通の人の話相手になれって言われても昔話とか自慢話とか聞かされてつまらない時間を過ごすだけだろう。


そんな気持ちでいるボクを前に


「北村クンから話聞いてる。小学生の頃にスパイを捕まえたいって作文書いた子だって?」


ヤメテ!

スパイを捕まえたいです。

って、今の日本にスパイなんかいるわけないだろうって

みんなあざ笑うんだよ。


知ってるよそんなこと。

わかってるよそんなこと。


ガキの夢想話ほじくり出さないでくれよ。

初対面でいきなり黒歴史いじらないでくれよ。


「い、いや、まぁ、その、、今の日本で、そんな子供みたいなこと言って・・・スミマセン」


恥ずかしくなって俯いてしまったボクにナイさんは


「あー、いやいや北村クンとも話てたんだけど、中々勘の良い子だねって」




「は?」


ぼくはおおきくなったら、すぱいをつかまえたいです。


とかアホの子のどこが勘が良い子だよ。



ボクの心を知ってか知らずか内藤さん、ナイさんは、話を続ける。


「かくいう私もね、若い頃は警備にいたんだよ。

ま、言えない話ばかりだから包み隠さずとはいかないけど

少しはキミの興味ある話できるかな?と思ってね?」


"警備"


警備と言うのは警備会社という意味ではない


警察は、仕事の種類で大きく二つに大別される。


一つが警察や刑事と呼ばれる部署。

こちらは皆知ってるいわゆる警察だ。


そしてもう一つが警備と呼ばれる部署。

こちらのもう一つの名前は



国家公安。



内藤さんは、昔、警備。

つまり公安に所属していたことがあると言うことだ。


「特に外事にいたころがキミの興味を惹くかなって。

キミは、さっき今の日本でスパイなんて。と言ったが、昔も今もこの日本でスパイはいるよ。

そして彼らと私たちは常に戦っている」


それは決して表に出ない、深く静かな戦いだ。








私が若い頃の話なんだけどね


お隣の国からのスパイのリーダーを逮捕したことがあってね。

当時、地上の楽園とか賢伝されてたかね。


彼らは密航者、亡命者、難民、旅行者など様々な姿で日本に入ってくるんだよ。


そんな彼らを束ねるリーダーがいてね、それを逮捕したんだ。

もちろんいきなり逮捕できたわけじゃないよ?


彼らの暗号を解読したり

グループの中に協力者、内通者を作ってそこから情報を得たり

既に逮捕された連中を取り調べたりね。


その結果、私のチームがリーダーを逮捕したんだ。


リーダーはね、漁師のふりをして日本に入ってきたんだ。


こっちはリーダー格が漁師として入ってくるという情報を事前につかんでいたからね

待ち受けて拘束したんだ。


ところがね、大きな問題があった。

当時はね、スパイを取り締まる法律なんてなかったんだよ。


あきらかにスパイであっても特に罪は無かったんだ。


拘束は出来たがスパイという罪状は無い。

どうしたもんかと・・・。


このままでは拘束期限が過ぎてしまう。

そうじゃなくても

彼らの国の息がかかった政治家が圧力をかけてくるしね。


え?何の圧力って?

スパイのリーダーを解放しろって圧力さ。


え?どこの国の政治家かって?

そりゃこの国の政治家だよ。


え?なぜこの国の政治家がスパイを解放しろって言うかって?

そりゃ彼らの国から色々便宜はかってもらってただろうからね。


え?売国?

ま、深くは踏み込まないけど、誰しもが清廉潔白な人間というわけじゃないさ。


どんな圧力をかけてきたのかって?

簡単だよ、私の上司にちょっと苦情の電話をいれるだけさ。


そう、ちょっと。

はははは、恫喝とも言うかもね。



でね、リーダーの口から直接情報を聞き出そうかと取り調べをやったりもしたんだけどね。

流石にリーダーを務める男だからね何も出ないんだよ。


私、これでも取り調べは得意なほうだったんだよ?あはは。


それでもダメでね。

まぁリーダーだからきっと本国ではそれなりの地位にある軍人か警察系の何かだったんだろうなと思うよ。


そいつ、我々が焦っているのを知っているのか。

彼らの息がかかった政治家が働きかけているのを知っているのか。

今となってはわからないが何をやってもニヤニヤと笑うだけでさ。



目の前にスパイがいるのに逮捕できない。

悩ましかったよ。


その時にね、当時担当検事だった男が私の元同僚でね。


そう、警察から検事になったちょっと変わった経歴の男でね。


そいつと頭をひねったよ。

どうやって逮捕しようかと。


でね、結果的に逮捕できたんだよ。

え?不当逮捕したのかって?


まぁ不当逮捕かもしれないね。


逮捕した方法は、不法侵入や不法滞在、不法占拠なんかの当時から既にあった小さい罪状を積み上げて逮捕したんだ。


それで担当検事と寝ずに起訴状を作ってね。



よし!ってなもんよ。



で、どうなったと思う?聞く以上は想像つくだろうけど。



結果は不起訴。



小さな罪の積み上げではねぇ。

本来の目的とは異なるわ、政治家からの圧力はとまらないわでね。


結局、隣の国の漁師が乗っていた船の調子が悪くて日本に漂着しただけ。

したがって安全に保護し速やかに本国へ返さなければならない。


となったのさ。


奴は、自分の船が我々のせいで壊れたから弁償しろと言い出してね。

上は言うことを聞けってね。


それで、私に船着場にある事務所から請求書をもらってこいって上司がね。

もう船は準備できてるから、あとは支払いだけだって。


船って右に左にそんなに簡単に買えるんだぁ、へぇ〜ってなもんよ。

いつから手が回ってたんだろうねぇ?今となっては霧の中だけどね。


まぁ、それでソイツは我々の金で新しい船を買ってね、悠々と日本脱出よ。




私がね、ちょうど船着場の事務所に請求書をもらって出てきた時だよ。

目の前を真新しい船がスーッと横切ってね。


そう、奴の乗った船さ。

こっちは、指をくわえて出航する船を見送るしかなくてね。


それでじっと船を見つめているとね、船内からリーダーのヤツが出てきてね

私のほうをじっとみるんだよ。

そしてね、こっちにむかってニヤリと笑いながら敬礼の真似事をしたんだ。



そりゃ、悔しいってもんじゃなかった。

心の中は煮えたぎるような思いでね、絶対捕まえてやる!ってさ。



それが、彼らとの長い戦いの幕開けだったねぇ。



若かったねぇー。あはは。


ボクは、いつの間にかナイさんの話に聞き入っていた。


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