百合好きお嬢様が従者の自分に恋をしたらしく、毎日愛を伝えてくる
俺が仕えているお嬢様は天才である。学業は全国模試で毎回トップ10入りをしている。
運動も大会には出たことはないが大抵のものは一週間も練習すれば県大会で優勝を狙えるようになれるくらいの才能がある。
実家も超がつくほどの大金持ち、そしてそのことを一切自慢しない謙虚な心。世間からすればこれ以上ないほどの完璧超人と言えるだろう。
だが俺はそんなお嬢様に、毎日苦労させられている……
♦︎
「お嬢様、起きてください。朝ご飯の用意もできております」
「むぁ?あぁ、おはよう。蒼華」
お嬢様は目を擦りながら朝の挨拶をしてくれる。ここまではいい、ここまではいいのだ。問題はこの後である。
「蒼華?寝ぼけてうまく歩けないから、できたら肩を貸してもらえないかしら?」
「わかりました、お嬢様。それでは失礼します」
そうして俺はお嬢様に肩を貸す。するとお嬢様は俺の耳元で
「今日も執事服似合ってるわ。大好きよ」
「!!」
愛を囁かれて俺は思わず赤面してしまう。
「目が覚めたから肩はもういいわ。あと、顔赤くしているところも可愛くて好きよ」
昔はこんなことを言われても「はいはいありがとうございます」と軽く流せたが最近では恥ずかしくて何も言えなくなってしまう。たぶんそれが本気だと知ってしまったからだろう。
そう、俺のお嬢様は俺に恋をしている。最初に愛してると伝えられたときは冗談だと思っていたが、どうやら本気である。
朝食を食べ終えた後は、着替えなどの学校の準備を速やかに済ませてお嬢様が来るまで玄関でお待ちする。
「さて蒼華、早く学校に行きましょう」
「はい、お嬢様。急ぐと転んでしまいますよ」
「大丈夫よ。あと、愛してるわ」
「にゃ!?玄関でそんなこと言わないでください!」
「いや〜照れてる蒼華もかわいい〜」
また照れてしまった。これもきっとお嬢様が何かしたせいだと信じたい。
♦︎
自分はお嬢様と同じ学校、同じクラスである。そのため必然的にお嬢様と昼食を取る。しかも互いに部活や委員会に入っていないためどちらかが風邪などで休まない限りお嬢様とずっと一緒である。
「蒼華〜一緒にお昼食べましょ〜」
「おj、彩音さん。それ俺に拒否権ないやつだよね?」
ちなみに家以外では従者ではなく同い年の友人として振る舞ってほしいとお嬢様に言われているため外では基本彩音さんと呼んでいる。
「いや別に拒否権自体はあるわよ?ここではただの同級生なんだから。まぁ、ここではだけどね。それより蒼華のお弁当箱貸して?」
「いいけど、何すんの?」
そうしてお嬢様は俺の弁当箱を開け、自分の箸で中にある野菜炒めを掴み取り
「はい、あーん!」
「は?いや自分で食べるしいいよ!そんなことしなくても」
「でもさ、やっぱり好きな人にはこういうことをしたいから……いいでしょ?」
そう言われた瞬間、俺はお嬢様から全力で弁当箱を奪って中身を掻き込んだ。ぶっちゃけただの照れ隠しである。
「ふぅ、俺はもうお腹いっぱいだからそれは彩音さんが食べてよ」
「はぁ、まぁわかったわ。あとで覚えておきなさい。」
最後に小声で聞こえた囁きのせいで午後の授業は全くと言っていいほど手がつかなかった。
♦︎
「蒼華〜、一緒に帰りましょ?」
「あ〜いや〜あのちょっと今日は先生に仕事を頼まれて…」
「いや今日一回も先生に話しかけられてないでしょ。それより今はギリギリってわけでも無いけどお昼の仕返しに『アレ』手伝ってもらうから」
「え、マジですか。締め切りに余裕あります、じゃなかったあるんだよね?なら別にやらなくても……」
「あ、それともあなたの黒歴史を学校中にばらされたい?わたしとしてはそれでもいいけど」
「よし!帰ろう!今すぐ帰ろう!」
こうして俺は昼のお返しにお嬢様の趣味のお手伝いをすることになった。
お嬢様と自分が夕食や入浴を済ませ、2人分の学校の課題を全て処理して俺は今お嬢様の部屋の前に立っている。そうして覚悟を決めて、部屋の扉をノックして
「失礼します、お嬢様」
「蒼華、遅いわよ。とりあえずはシチュエーション作成とキャラ作成。シチュエーションはとりあえず15でキスありが4つね。キャラは多少自分の裁量で変えていいけどメガネ1、褐色肌1、黒髪ロング5ね」
「了解しました」
一見これがなんの指示出しかはわからないだろう。実はこれ、お嬢様が趣味でサイトにアップしている百合漫画の指示である。お嬢様は女性同士の恋愛がとてもだいすきなため、オリジナルの短編百合漫画を作り、投稿している。
ちなみに放課後の会で出てきた締め切りというのもこれのことだがその締め切りもお嬢様が勝手にこの日までに短編漫画を何作作るか決めているだけであってその締め切りをいくら破ろうが誰にも迷惑はかからない。
そうして作業を進めて数時間後、なんとかノルマである15シチュ7キャラが終わった。
「お嬢様、先程与えられたノルマは全て終わりました」
「そぉ?なら見せてもらっていいかしら?」
そうして全ての提出作品に目を通した後お嬢様は
「多少変更はあるかもしれないけどこれでオッケーよ。ただ、なんか異常に主従モノが多くない?」
「え?それは気のせいでは?」
「いや15個中7個よ?それにキャラもわたしに似たロングとあなたに似たメガネがいるし。というかこのメガネっ娘ほぼ男じゃない。あなた結構中性的な顔なんだから自分をモデルにするならもっと女の子っぽく描かないと。でもそんなあなたもかわいくて好きよ。おやすみなさい」
「〜〜!!失礼します!」
正直言って描いてたときは全く意識してなかったけど思い返すとたしかに結構似ていたからとっても恥ずかしかった。いやでもこれはあくまで参考にしてしまっただけで実際に好きとかそういうのではない!……はず。
とりあえず今日はもう疲れたのでさっさと寝てしまうことにした。
♢
俺たち、いやわたしたちはリーンゴーンと鐘が鳴り響く結婚式場の神父の前に並んで立っていた。
「東風彩音さん。あなたは、病めるときも 健やかなるときも 喜びのときも 悲しみのときも 富めるときも 貧しいときも 死が二人を別つまで 朝凪蒼華さんを愛することを誓いますか?」
「誓います!」
「朝凪蒼華さん。あなたは、病めるときも 健やかなるときも 喜びのときも 悲しみのときも 富めるときも 貧しいときも 死が二人を別つまで 東風彩音さんを愛することを誓いますか?」
「誓います」
「それでは、誓いのキスを」
そうして2人の新婦は向かい合わせになり
「新婦2人の結婚式ってなんか、違和感ありますね」
「まぁこれがわたしたちが選んだ道だからね。あと、このキスが終わったら敬語禁止だからね」
「大丈夫です、ちゃんとわかっていますよ」
そうして2人は顔を、そして唇を近づけてーーー
ーーージリリリリリリリリリ
「マジか……今の全部夢か……」
「どんな夢を見てたの?」
「お嬢様!?なんでここに?」
「いやーたまたま今日は早起きしちゃってね。蒼華の顔を眺めてたのよ。それより、どんな夢見てたの?」
「え?えっと、そうですね。お嬢様の結婚式の夢を見ていました」
「へぇ、ずいぶん面白そうな夢ね。でもこれだけは覚えておきなさい。わたしが結婚式を開くときは、あなたがわたしの隣に来てくれたときだけだから」
「もしそうなのでしたら、お嬢様は一生独身ですね」
「いやあなたがわたしと結婚してくれればいいだけの話よ?」
「そうですねっと。あ、お嬢様?もしよろしければお嬢様も家事の手伝いやってみますか?」
「あら、いいわね。じゃあやってみてもいいかしら」
「え、マジでやるんですか?冗談だったんですけれど……」
あの夢が本物じゃないことに気づいたとき、落胆してしまった自分がいたことに気づくのはまだまだ先の話…ーー
読んでくれてありがとうございます!正直ちゃんとしたガールズラブになっているか怪しいです!すみません!
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