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第七話「告白」

 気づくと、目の前にはたくさんの人がいた。

 机の周りで立食しながら談笑する人がいれば、奥の方でダンスをしている人達もいる。


 もう二回目なので、ここがどこだかは分かっている。

 先ほどの、ダンスパーティーの会場だ。


 隣を見ると不機嫌そうなジェラルド。

 前方では、男達を誘惑するかのようにして猫なで声で話しているセリカがいる。


 私は、先ほど平手打ちしたはずのジェラルドの方を見て、口を開く。


「ジェラルド様。

 私は、あなたの婚約者ですか?」

「はあ?

 何を言っているんだ。

 当たり前だろう。

 お前は俺の婚約者だろ、しっかりしてくれ。

 今日はレイランド王国の王族・貴族が全員集まったパーティーだぞ」


 怪訝な表情で私にそう言うジェラルド。

 私は、それを聞いて確信した。


 過去に戻ってきたのだ。

 一月前のパーティー。

 それも国王様の最初の挨拶が終わったこのタイミング。

 最初に戻ったときと同じである。


 原理は分からないが、ジェラルドをビンタすると過去に戻るようだ。

 自分でも意味不明なことを考えているのは分かっているが、実際そうなっているのだからそうとしか思えない。


 すると、ジェラルドが言葉を続ける。


「俺は挨拶があるから、もう行くぞ。

 疲れているなら、部屋に帰って休んでおくんだな」

「はい、分かりました。

 いってらっしゃいませ」


 私は、奥の方へと行くジェラルドをそう言って見送った。


 本来であれば、ここでジェラルドについて行けば、セリカとの浮気も止めることが出来たかもしれない。

 そうすれば、婚約破棄も解消することが出来るだろう。


 しかし、もうジェラルドのことがどうでもよくなってしまったのだ。


 決め手になったのは、ユリウスの前で「ドブス」と言われたことである。

 あの優しくて素敵な美青年の前で、私を貶したのが許せなかったのだ。

 あれほどの辱めを受けたことは今までにない。


 幸い、ユリウスは私のために怒ってくれたが、それでも私の感情は収まらなかった。

 あの場で思わず涙を流してしまったのも、ジェラルドの言葉に心が踏みにじられたからである。


 感情が抑えきれなくなり、最後に平手打ちをおみまいするも、時が止まったようにして過去に戻ってきてしまった。

 そのため、あまり心が晴れないでいた。


 私は、心を落ち着かせるように会場の端の方で佇んでいると。


「マリアローズ!」


 後ろから声が聞こえた。

 この優しい声には聞き覚えがある。

 聞いた瞬間、胸がトクンと高鳴るのを感じた。


 そして、振り返ると。

 ギュッと誰かに抱き着かれる。

 そのミントのような爽やかな匂いが、私の鼻孔をくすぐらせる。


「ユリウス!」


 私は、抱き着かれながらも顔を見上げた。

 見上げると、サラサラの金髪にサファイアのような綺麗な碧眼、恐ろしく顔立ちが整った美青年がこちらをニコリと笑って見下ろしていた。

 私は、その顔を見ただけで顔が真っ赤になっていたと思う。


「僕の名前を覚えてくれたんだね。

 嬉しいな」


 そう言ってはにかむユリウスの顔が愛らしい。


 しかし、なぜユリウスは私のことを覚えているのだろうか。

 先ほど、ジェラルドに平手打ちをして私は過去に戻ってきた。

 過去に戻ってきたのであれば、ユリウスと話していないことになるはずだ。

 それなのに、ユリウスが私の名前を知っているどころか、現在ハグをされているのはおかしくないだろうか。


「なんで、ユリウスは私のこと覚えてるの?」


 私の疑問を聞いて、ニコリと笑いながら口を開くユリウス。


「あのあと、俺もジェラルドを殴ってタイムリープしたからね」

「タイムリープ……?」

「ああ、時間移動のことだよ。

 君も、ジェラルドをビンタして過去に戻ってきただろう?

 あれは、ジェラルドの特異体質によるものなんだ。

 ジェラルドは、自分を殴った人間を自分の印象深い思い出がある過去の時間に戻す能力があるんだ。

 本人も自覚していないようだけどね」


 と、さも当然のように話すユリウス。


 ジェラルドの特異体質?

 過去の時間に戻すって当たり前のように言っているけど、普通ではない。

 そんな神様のような能力を持っているのに疑問しか湧かない。


 そんな私の表情を察した様子のユリウス。


「ははは。

 俺も、最初知った時はそんな顔をしたよ。

 でも、なぜかそうなっているんだ。

 理由は俺にも分からない。

 それに、おそらくこれは、ジェラルドを殴ったことがある俺とマリアローズしか知らない事実だ。

 秘密だぞ?」

「う、うん……」


 なんて、口の前に指を一本立てるジェスチャーをするユリウス。

 そんな、ユリウスを見ていると、なんだかホッコリする。


 すると、急にユリウスは私を見ながら笑顔を消し、暗い表情へと移り変わる。


「マリアローズ……。

 俺の兄がすまなかった。

 腹違いの兄とはいえ、あそこまで下衆なことをする人間だとは思わなくて……」


 私を抱く腕をプルプルと震わせながら言うユリウス。

 その表情は、本気でジェラルドに対して怒っているように見える。


「なんで、ユリウスが謝るの?

 悪いのはジェラルド様なんだから、ユリウスが謝る必要ないじゃない!」


 そう言うと、ユリウスはフッと笑った。


「ジェラルドには様付けで、俺は呼び捨てなんだな」

「あっ!

 ユリウス……じゃないユリウス様も王子なんでしたね!」

「ははは!

 冗談だよ、マリアローズ!

 俺のことは呼び捨てで呼んでくれて構わないよ。

 いや、呼び捨てで呼んでほしいな」


 なんて、嬉しそうに言うユリウス。

 思わず私まで笑ってしまう。


「分かったわ、ユリウス!」

「うん、それでいい」


 と、満足気に頷くユリウス。

 そんなやりとりが面白くて、お互いに見つめ合いながら笑い合ってしまう。


 そして、ひとしきり笑い終わると、ユリウスは真面目な顔になる。


「それで?

 マリアローズはこれからどうするんだい?

 ジェラルドの浮気を止めに行くのかい?」

「いいえ。

 もうジェラルド様には呆れてしまいました。

 婚約破棄されても良いと思っています」


 と、私が苦い顔をしながら言うと、ユリウスの顔はパーッと明るくなった。


「そうか、それは良かった!

 じゃあ、これからはマリアローズは俺の独り占めだ!」


 なんて、ニコリと笑いながら言うユリウス。

 その言葉に私は赤面してしまう。


 私は、胸をドキドキさせながら、聞いてみた。


「ユリウスは私のこと、どう思ってるの?」


 すると、キョトンとした顔をするユリウス。

 そして、すぐに口を開いた。


「好きだよ。

 君のような綺麗でダンスも出来る人と一緒になりたいと思っていたんだ」


 それを聞いた瞬間。

 私は、体が太陽を飲み込んだかのように熱くなる。

 胸は心臓が飛び出るかのようにドキドキと高鳴らせた。


 男性の方に好きだと言われたのは初めて。

 婚約者のジェラルドにだって言われたことがない言葉だった。

 それも、こんな格好いい美男子に言われてしまっては。

 もう頭は混乱状態だった。


「え、えっと……」


 私が混乱していると、それを察したように笑いながらユリウスは言う。


「ははは。

 ごめん、混乱させちゃったね。

 まだ、会ったばかりだもんね。

 でも、俺の気持ちは本当だよ。

 これから、マリアローズとたくさん話して、仲良くなれたらいいなって思ってる」


 そのユリウスの優しい言葉で、私の心は多幸感であふれた。

 それと同時に、ユリウスを直視できないくらいの恥ずかしさがあり、私はユリウスの胸に顔をうずめるのだった。


 そして、小さな声で。


「はい。

 こちらこそ、よろしくお願いします」


 とだけ言うと、ユリウスは満面の笑みで頷いた。


「じゃあ、二人きりになれるところで、ゆっくり話そうか」


 私はユリウスに言われるがままに手を引かれ、二人でパーティー会場を抜け出すのだった。


 


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