第2章 「宇宙傭兵シグマ星人を救え!」
かくして、さやま遊園を舞台に繰り広げられるアルティメマンショーが、華々しく幕を開けた。
「この狭山池一帯は、我が星人連合が前線基地として占拠した!」
司会のお姉さんを押し退けて現れた、シュモクザメを思わせる異形の頭部が特徴的な宇宙人。
あれは初代アルティメマンの第二話に初登場して以来何度もシリーズに登場している、宇宙テロリストのパルサー星人だった。
名悪役として子供達にも人気が高いため、この手のショーではボス役として重宝されているんだ。
「お前達には、我々の地球侵略作戦の尖兵となって貰う!シグマ星人よ、息のいい子供を吾輩の許まで連行するのだ!」
「はっ、直ちに!」
黒いタイツに銀の仮面とアーマーを着用したシグマ星人が、パルサー星人の命令で客席に乱入する。
宇宙傭兵の肩書を持つシグマ星人は、アルティメゼクスに初登場した時は自分達だけで侵略行為を働いていたが、その後のシリーズでは別の侵略宇宙人の部下として登場する事が多かった。
そのためヒーローショーでは、等身大ヒーロー番組における戦闘員の役割を担っているんだ。
シグマ星人に選ばれ、ステージに連れていかれる子供達の反応は様々だった。
嬉々としてステージに上がる子もいれば、緊張していたり半泣きになっていたりする子もいる。
「おおっ!アルティメフォースのチビっ子隊員がいるじゃないか!君はユリコ隊員だな?」
「この白マフラーを見てよ!私、主人公のマホロバ・ユウ隊員に憧れてるのよ!」
うちの京花の場合は、前者の中でも特にノリの良い方だった。
そもそも防衛チームのコスプレをしている時点で、客イジリの対象に選ばれる事は何処かで期待していたのだろう。
こうして京花を始めとする何人かの子供がステージに上げられ、侵略宇宙人達の勧誘を受ける事になったんだ。
「君達のような未来あるチビっ子を味方に付ければ、我々の地球侵略も捗るという物だ。このシグマ星人と一緒に、思う存分に暴れてみたいチビっ子はいないかね?」
顔を覗き込んだり、立っている周囲を回ったり。
シグマ星人は子供達を物色するように、ステージをウロウロと歩き回っている。
その言動はコミカルで愛嬌があり、客席から見る分には実に微笑ましい。
「うるさい、侵略者め!」
そしてステージに上げられた子供にとっては、付け入る隙として認識されたらしく、一人の男の子がシグマ星人の足を蹴ってしまったんだ。
「ホホウ、息のいい少年だな!我が星人連合の兵士にしてやろう!」
「嫌だ!近寄るな!」
サッと手を払い除け、肘の辺りにチョップ。
ちょっとヤンチャが過ぎる子みたいだ。
こういう子がいると、ステージが盛り上がるんだろうな。
だが、男の子の攻撃を甘んじて受けていたシグマ星人には、意外な形で救いの手が差し伸べられたんだ。
「駄目よ、そこの君。無闇に叩いたら良くないよ!」
その救い主とは、京花だった。
二人の間に割って入り、シグマ星人を庇ったのだ。
「良いじゃん、君もやっちゃいなよ。だってコイツ、侵略者なんだよ。」
男の子も負けてはいない。
拳は下ろしたものの、今度は理屈で立ち向かうようだ。
「そうだよ。この人達は侵略宇宙人だから、メチャクチャに強いんだよ。この人達がビルをブッ壊したり街を燃やしたりしてるの、テレビで見たよね。私達が素直な良い子だから、手加減してくれているだけなんだ。私や君とは違って、大人しい子もいるんだよ。」
相手の言い分をキチンと聞き、それを踏まえた上で反論する。
我が子ながら、実に筋の通った主張だった。
「無闇に危険な事をするのは、本当の勇気とは言えない。アルティメフォースのナカヤマ隊長も、そう言ってたよね?」
「わ…分かったよ!アルティメフォースの隊員に言われちゃ仕方ない!」
男の子も、ついに根負けしたようだ。
そもそも、こうしてヒーローショーを観に来る位なのだから、あの男の子もアルティメマンの熱心なファンに違いない。
大好きなアルティメマンを引き合いに出されては、引き下がらない訳にはいかないだろう。
それにしても、作品の世界観を踏まえた上で腕白少年を上手く諌めるとは。
父親の私が言うのも何だけど、実によく出来た娘だよ。
「吾輩の部下を救ってくれて感謝するぞ、アルティメフォースの優秀なチビっ子隊員よ。他のチビっ子達を気遣う心意気もアッパレだ。それに我々に怯まず抗った少年も、なかなかに見所があるぞ。」
このドラマチックなハプニングには大ボスであるパルサー星人も御満悦らしく、京花を始めとする子供達を巧みなアドリブで称賛し始めたんだ。
「会場の地球人共よ!この勇敢なチビっ子達の未来を、盛大な拍手で祝福せよ!」
そしてついには客席を動員し、割れんばかりの拍手で子供達を見送ったんだ。
思いもよらない盛り上がりに、京花も男の子も照れ笑いで客席に応じていたよ。