新たな日常
サガはソウマ以外にはまだ敬語使ってます
キレたらタメ口になる感じですね
それからの3日間、俺は森を抜け図書館へ行き、火魔法を練習することを繰り返した。
毎日同じことの繰り返しだったが進歩が目に見えてわかるとやりがいがある。
1日目には火の粉が出るようになり角兎を狩った。肉が美味え。
2日目は飛ばすとまではいかないが、手のひらに火を纏わせることができた。
3日目にとうとう火を射出できるようになり威力は弱いもののベースは出来上がった。
1週間もすれば誰もが認める火魔法になるだろう。
ここまでやってきて実感したのは着々と力がついてきていること。別に慢心するわけではないが、筋肉もついてきたし良い感じだ。
「で、どうだ進捗は?」
夕飯の準備をしているタフトさんにそう聞かれたので俺は自信を持って答える。
「まだまだ使えるレベルじゃないですけど、一応形はできてきました」
「完成したら一番最初に俺ちゃんに見せてくれよな」
「了解です!」
バモスさんも口を挟んできたのでそれにもしっかり受け答えをした。
ちなみに俺も皿を運び中だ。そうは見えないかもしれないが慎重に運んでいる。
「それで? スキルと魔法の違いはわかったか?」
「そりゃもうバッチリな」
サガは俺を信じていないのか疑わしい目を向けてきた。
何だその目は。そんなに俺の信用がないかね?
まあいいさ。そんな目をしていられるのも今のうち。びっくりさせてやるよ。
「どうしてこうも男どもは新しいものばかり好きになるんでしょうね〜。うふふ」
「おかん目が笑ってないで……」
俺にばかり話しかけるみんなに嫉妬したのかどうかはわからないが、奥さんの内に秘める怖さの片鱗を見た気 がした。まあタフトさんが対応してくれるだろう。
とりあえずスケジュール管理をするか。
あと4日で火魔法完成させる。次の魔法の完成までに同じような時間をかければ再び1週間……となると火以外に新しく覚えられるのは3つか。
そもそも何種類魔法があるのかもわかってはいないが計5種使えれば何とかなるだろう。ちょくちょくアイラとサガにも特訓をしてもらえば完璧だ。多分。
俺は新しく気合を入れ直し運ばれてきた夕飯を口に運ぶのだった。
---・ ・・- -・・-
あれから1週間はあっという間だった。
色々あったが我流ファイヤはなんとか完成に持ち込めた。実践レベルと言えるかはわからないが少なくとも不意打ちには使えるだろう。
今日の特訓はここまでにしよう。特訓の過程でもはや日課となっている狩りを済ませ俺はみんなの待つ家へと帰った。
家に着くとタフトさんしかおらず他には誰もいなかった。
不思議の思った俺が質問するよりも早く興奮気味話しかけてくる。
いつも冷静なタフトさんにしては珍しい。
「おおソウマか。良い知らせがあるぞ!」
「どうしたんですか。というかみんなはどこに行ったんですか?」
「ああ。これから話す内容に関連しているから安心してくれ」
一呼吸置いたタフトさんが事情を話し始める。
「お前さんが提案した食器あっただろ? あれがウチの国王が気に入ったそうである分を全て売ってくれと言われてな。みんなは食器を売りに、俺は次の食器を制作していたというわけだ。サガはぶつくさ文句言ってたから帰ってきたら労ってやってくれ」
サガは旅をしていたことを考えるとこの国生まれじゃないんだろうな。だから余計にめんどくさかったのかも。脳内を文句を言っているサガが横切る。
それはともかく、俺は今まで密かに気になっていたことを問う。
「これで恩は返せましたかね?」
「十分すぎるくらいにな! そもそもそんなことは気にしなくて良いんだが大いに助かったぞ。お前は自慢の息子だ」
すごい。父さんにも言われたことないのにな。
少し涙が出そうだ。……泣いてなんかないやい!
「これからも案をバンバン出していくんで王家御用達になっちゃいましょうよ!」
「うーん。それも悪くはないんだがあまり王家と懇意になってしまうとしがらみも増えてしまうんだよな。同業者や商人からの妨害も増える可能性もある。それに冒険者である以上そのうちこの国から出て依頼をこなすかもしれん。なかなか難しいことなんだ」
「そうなんですね……」
確かに俺は調子に乗っていたかもしれない。そうだ、みんながみんなクリーンであるはずがない。
タフトさんは言っていなかったが盗難の心配もある。しがらみとやらも言っていたしなかなか難しいことなのかもしれない。
しかしブランドとして名をあげるのはまだ大丈夫なラインではないのだろうか? この国にあるのかはわからないが商業組合と提携することで警備の面も協力してもらえるだろう。
そう考えているとタフトさんが再び口を開いた。
「しかしなんだ。俺だってアイラやかみさん、サガにバモス、そしてソウマには豊かに暮らしてもらいたい。なので名乗りを上げてみようと思う」
「と言うと?」
「俺ら冒険者はこんなカードをギルドに登録するともらえるんだ。これはステータス確認、身分の証明など色々なことに使えるんだ」
タフトさんの説明の中で俺に強く響いたところが1つあった。
ステータスとか初耳なんだが? 異世界物では定番ではあるけどさ。
好奇心を抑えてカードについて質問する。
「それでそのカードはどんなことに使うんですか?」
「ギルドと一口に言っても色々な分野に別れていてな、飲食ギルド・商業ギルド・建築ギルドがあるんだ。今まで入ったことはなかったが今回は商業ギルドの世話になろうと思う」
あれか、会社の中の人事部とか営業部とかみたいなもんか。
「あれ? でもなんで今まで商業ギルドに入ってなかったんですか? リターンも少なからずあるでしょうし」
「それがあの野郎どもは少し意地汚いところがあってな。見込みのある商店にしか投資をしてくれないんだよ。しかし今回王家の人間にウチの商品が売れたとなれば商業ギルド様もお認めになってくれるだろうと思ってな」
タフトさんが皮肉混じりに言う。確かにお金を借りる時も担保が必要だとか聞いたし、無条件で助けるほどお人好しではないよな。お金持ちの人の特徴に無駄な浪費をしないってのがあるように支援してもすぐ潰れられては困るのだろう。
タフト酸の説明が一通りが済んだところで外が少し騒がしくなった。
どうやらみんなが帰ってきたらしい。
「はい! 俺ちゃん1番乗り〜!」
勢いよくドアが開き、元気な声でバモスさんが……誰だこのブサイク! 大きく顔が腫れ上がった人物が家に侵入してきた。
警戒している俺に同行していた3人が説明してくれる。
なんでも
・騎士の1人がバモスの態度が気に食わず決闘を挑んだ
・引き受けなかったのだが強引に攻撃され、準備のできていなかったバモスはボコボコにされた
・サガやアイラが止めに入ろうとしたが、自分のせいで2人も攻撃されることを懸念してバモス本人が制止した
・王様が問題を起こした騎士を解雇し、治療費として料金を多めに払ってくれた
「騎士はともかく、王様は然るべき対応のできる方でよかったわ。あのままだったら商品を目の前で粉砕していたところよ」
「おかん普段はおおらかやのにたまに怖いねんな……」
アイラと奥さんのやり取りの隣でサガも苦々しい表情を見せている。
「オレもブチギレそうだったよ。難癖つけて暴れたかっただけにしか見えなかったからな。王様の対応によってはぶちのめそうかと思ってた」
「サガならやりかねないと思ってたから止めたんだけどね」
「そうだったんですか。ちょっと見直しましたよ」
「いや敬語より『さん』付けしろよ! 一応年上だよ⁉」
聞く話によるとかなりエゲツないことをされたようだが、いつものみんなで安心した。
「みんなはもう休んでてくれ。俺はソウマと商業ギルドを尋ねに行く。勝手に決めちまって悪いがこの先お前さんも世話になる場所だ。知っておいて損はないだろうよ」
「わかりました! 40秒で支度します!」
微妙な顔をされてしまう。そうだった。ネタは通じないんだった。少し悲しい。
気持ちを切り替えてタフトさんのあとに続く。支度なんてそもそもそんなにないからな。見本用の食器はもうタフトさんが持っているし俺は相棒のバックだけだ。
ボコボコにされてしまったバモスさんのためにも絶対に認めさせてやる。
それにタフトさんがあんな皮肉を吐くくらいだから嫌な人でもいるのだろう。俺はそんな人には屈しないぞ。
決意を固め、外に出る。歩きながらタフトさんにどこに商業ギルドとやらがあるのか聞いてみることにした。
「商業ギルドってどこにあるんですか? 結構遠いんですかね?」
「お前さんが行ってる図書館あるだろ? あの近くだよ。ちょうどいいし森を抜けて行くか?」
俺は犬の水浴び後かのように首をブンブンと振った。
「はっはっは! 流石の俺も魔物じゃない。今回は整備された道を通って行こう。うちの村にも支店を作ってくれれば楽なんだがな」
既に疲れ切っていた俺には非常にありがたい言葉だ。森を抜けていくことになっていたらタフトさんは責任持って俺の骨を拾ってくれるのだろうか。
整備された道とは森の中とは大違いで、穏やかな光を届ける街灯に歩きやすいように敷かれた石畳が整備されていた。
こっちでテレビや機械類などを目にしたことはないが、この世界はこの世界で発展しているらしい。
「あの街灯はどんな仕組みなんですか?」
「あれは灯蛍という種類のホタルが使われているんだ。お前さんのバックの手記にも書いてあるはずだから見てみるといい」
『灯蛍
まんじゅうサイズの蛍。数ある友好モンスターの中でも一番人々に知れ渡っている。通常種のホタルと比べ体が強く、水質に関係なく生存することができる。通常より大きくなったため街灯一つにつき1匹で明かりを確保することができる。成虫になってからは食事をしない故に排泄物もないため扱いやすい』
「長いこと閉じ込められてたらストレスで光量が減っちまうから、灯蛍に力を貸してもらっている人々は交代制で飼育しているそうだ。このくらいならサガもぎりぎり平気だぞ!」
「ああ。最後の1文は俺じゃないぞ。俺はそんなサガを怒らせるようなことは書かないからな。まあ間違ったことは書いてないから止めなかったが」
やはりこのきったない字はバモスさんだったのか。あの人……雑なんだな。
でも角兎の時は助かったし一概に雑とは言えないかも。
『よく見ている』ということにしておこう。本人に言うと調子乗りそうだから言わないけどね。
「あいつも意外とやるやつでな。俺の見たこともない生き物まで書いてあるんだ。本人曰く旅をしていたときにほとんどの生き物に出会ったらしいぞ。疑わしいけどな」
「まあバモスさんですからね。ところで、ここに書いてある生き物は魔物と書いてあって、こっちの生き物は何も種類は書いてないですけど違いってなんですか?」
「そういや説明してなかったな。答えはすごく簡単なんだが魔法を使えるか使えないかだ。魔力を保有しているかしていなか、と言い換えてもいいだろう。」
まぁこっちからしたらどんな生き物でも魔物並みに危険なんですけどね。
そんな他愛のない話をしていると、タフトさんがとある建物を指差して一言だけ言った。
「ほら、あれだぞ」
色々な光に包まれた建物が見える。
俺は率直な感想を言う。
「ギルドと言うよりパブですね」
「お前さんも大きくなったら一杯引っ掛けような」
戸を開け中に入ると屈強な男どもが酒を呑みどんちゃん騒ぎである。
少し不安だったがタフトさんが居たため気後れはなかった。
受付らしきところにいるお姉さんにタフトさんが話しかける。
「姉ちゃん、商業ギルドに入りたいんだが」
「んじゃこれ書いて持ってきてー」
うわなんだこの女、客に対してこの態度とは。でもバモスさんとは気が合いそうだから今度紹介してあげよう。覚えてたらだけど。
タフトさんが書いているところを横から書類を覗き見すると職業、営業責任者、店名、目玉商品、PRなどの欄があった。
タフトさんはスラスラと
『元鍛冶屋/現冒険者・タフト・チェスト村工房・発想を転換した新しい商品・先日王家にも販売したために自信あり』
と書き込んでいた。
「村の名前チェストだったんですね。勝手に使っていいんですか?」
「そういやソウマには言ってなかったか。俺の生まれ育った場所さ。こんくらいは村長も許してくれるだろ」
そんな軽いものなのか? と思いはするも俺にどうこうできる範囲ではない。黙っておくが吉だな。
余計なこと言って俺にまで責任が向いたら大変だ。
「はーい。ありがとうございまーす。それじゃギルマス呼んでくるんで奥の部屋で待っててくださーい」
タフトさんが差し出した紙を受け取ると女は別の部屋に消えた。
最後まで雑な女の人だったな。
言われたとおりの部屋に入り椅子に座って待っていると、眼鏡を掛けた男性が入ってきた。
年齢はタフトさんくらいに見える。タフトさんほどではないが、それなりにガタイがいい。
それに加えてとても賢そうな目をしている。こちらの気持ちが見透かされてしまいそうな気分になる目だ。
「わざわざご足労。私はスパナシティの商業ギルド・責任者トグログだ。久しぶりだね。タフト君」
「よろしく頼む」
「あ、お願いします」
トグログと名乗った男性は俺にはちらりと視線を向けるだけだった。
挨拶をしたあと、タフトさんは俺にだけ聞こえるような声で一言だけ言った。
「このタヌキ野郎の言葉は聞かなくていいぞ。メモしてるフリして手記読んでおいた方がためになる」
久しぶり、と言った発言やタフトさんの言葉から察するに、どうやら知り合いのようだ。内容的にあまり仲がいいわけじゃなさそう。
タヌキ野郎ということから考えると俺は口を出さないほうがいいな。揚げ足を取られることになったら大変だ。
「元鍛冶屋で今は冒険者ね。冒険者はやめたんじゃなかったの? それに冒険者やりながらなんて、君は顧客を持つつもりはないのかい?」
「いや、行く先々で出店を開こうと思っていてな。そうしたら評判が上がってチェスト村への客足が増えるはずだ」
「なるほど。人さえ集まれば移動しながらでも販売ができるわけだね。面白い。それじゃあ発想を転換した新しい商品とやらについて聞かせてもらおうかな?」
「あぁ。とりあえずはこれなんだが、普段は装備や防具に使ってしまう角兎の角を食器に使った」
そう言ってタフトさんはコップを渡した。
トグログさんは受け取ったそれを触ったり、中を覗いたりを繰り返し吟味しているようだ。
ひとしきり確かめたのか机にコップを置き話を続けた。
「角兎の角は強度や鋭さにばかり注目されがちだね。確かに相当柔らかい頭かでない限りこんなことは思いつかないだろう。それに『とりあえずは』ってことはまだまだ展開していけると考えても良いのかい?」
「そこは心配ねぇ。そっちにも利があるはずだ」
そこまで話してからトグロクさんは再びコップを持ち上げるとマジマジとそれを見た。
「なるほどねぇ。とても美しい模様だ。王家の人間に商品を提供したっていうのは信じてもいいのかい?」
「おう。これが証拠だ」
タフトさんはなにやらハンコのようなものが押された紙を取り出しトグログさんに差し出した。
トグログさんの目が大きく見開かれる。
やはり王家との繋がりというものは大きいものなのだろう。
「よ、よし良いだろう。チェスト村工房をスパナシティ商業ギルドの加盟店と認めよう。ではこちらにサインしてもらおうか」
トグロクさんが震える手で1枚の紙を差し出しす。
お眼鏡に叶ったようでとりあえずは安心だ。
タフトさんは嬉しそうにトグログさんの提示した紙に署名をしている。
それを横から横から覗き込むとあまりにもおかしい文が目に入った。
「6割!?」
「どうしたソウマ大声を上げて」
「チッ! 目ざといガキが」
「タフトさんこの小さい文見てくださいよ」
そこには『稼いだ売上の6割を商業ギルドに献上すること』とあった。
おいおいおい、こんな横暴が許されるはずがないだろ。
「せめてそっち4のこっち6ですよ」
「トグログよ、最初から騙す気でいたのか?」
「いやぁ王家の人間に商品を売れるんだとしたらそのぶん売上も多いと思ったんだよね」
ため息をつきタフトさんが席を立つ。
「わりぃが今回の話は無かったことにさせてくれ。別にここにこだわる理由もないし他のギルドを尋ねるとするよ」
「ま、待ってくれ! 7:3でどうだ? 他にこんなに割合を高くした店はない。悪くない条件だろう」
「信じて良いんだな?」
タフトさんこっわ……。
「当たり前だ! タっちゃんに免じてそこはしっかり話を通す」
タっちゃん⁉
驚いた俺がタフトさんの方をとてつもない速さで見る。それは俺自身が驚く速さだった。
タフトさんはもう1度ため息をついて話してくれた。
「こいつ……トグっちゃんは俺が昔冒険者やってた時に同じパーティだったんだよ。元仲間を罠に嵌めようとするなんて落ちるところまで堕ちたな」
「タっちゃんなら鈍感だったしわからないかなーと思って。それにタっちゃんにしてこなかっただけであいつらからギャンブルで巻き上げたことなんてしょっちゅうだよ。タっちゃんはギャンブル嫌いだったじゃん」
知り合いどころかめちゃくちゃ近しい人じゃねえか。
そんな人ならタヌキ野郎という言葉にも納得がいく。
「それにしてもこの子はどうしたんだい? あっちはまだまだ現役だってか?」
トグロクさんは無言で叩かれた。
俺も子供じゃないからわかるけど普通は言うもんじゃないよ。
「いったいなあ。冗談だよ冗談、別の世界から来た子なんだろ?」
⁉ 俺の素性をなぜ……?
何一つ俺の情報を話していないというのに。
「相変わらず察しが良いな。と言ってもスキルのおかげだろ?」
「ちょっと! せっかく雰囲気出したのに」
なるほど。まだまだわからないことが多いけどそんなスキルがあるのなら納得だ。
「昔っからこいつのスキルはパーティの役に立ってたんだ」
このままスキルについて詳しいことが聞けるかもしれない!
そう思っていたのだがそうは問屋がおろさなかった。
「おおっとタっちゃん、一応これは秘密だからね? いくらタっちゃんが信用できる子であってもそれ以上話すのはいただけないなあ」
「わかってる。じゃあ今日はこれで失礼するぞ」
「はいはいどうもー」
そう言って部屋から出ようとする直前に思い出したかのようにタフトさんがトグロクさんに質問した。
「本当に7:3で構わないんだな? 圧倒的に俺たちが有利な条件だが」
「構わないさ。私としては王家との繋がりを得られたってだけで万々歳だよ。それに何かあったらタっちゃんのパーティの戦力を借りることもできるわけだしね。じゃあ私も忙しい身だから失礼するよ」
やはりこの人は抜け目ない性格のようだ。安易に信用しないほうがいいのかもしれない。
今度こそ戸を抜け俺たちは帰路についた。
「お手柄だったなソウマ。あのまんまじゃ大損してたところだったぞ」
「いやいや俺の世界ではあの手の騙し方が結構多いみたいで両親にはよく言い聞かされたもんですよ」
今回みたいなことが今後も起きないよう俺も目を光らせないとね。
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その後何事もなく無事に帰宅した俺たちは商業ギルドに入ったことのみを伝えた。
「へぇ〜!結構審査が厳しいもんやと思ってたのによう入れたな」
「まぁこれも人脈ってやつのおかげだ。人付き合いは大事だな」
「これでウチも安泰ね。お洋服とか買っちゃおうかしら?」
タフトさん一家のやりとりを俺とバモスさん、サガは暖かく見守った。
家族団らんの時間をひとしきり過ごしたタフトさんは俺たちの方に向き直った。
「あぁすまんすまん。置き去りにしてしまったな。サガとバモスは色々な生き物の素材を毎日少しずつで良いから集めてもらえないか? ソウマはアイデアを頼んだぞ。俺はお前らの頑張ったものを形にする。かみさんは店の顔として商品を売ってもらいたい。アイラはサガとバモス、母さんを交互で手伝ってやってくれ」
帰ってから間もないのにタフトさんはそれぞれの特色を活かした役割分担を一瞬でしてしまった。
もう1度思い返してみてもよく考えられている。
サガとバモスさんは今までの経験含め野生生物の相手はお手の物だろう。タフトさんは元鍛冶師の腕を振るう。俺の訓練の邪魔にならないようにアイデアだけを希望。綺麗な奥さんに客を呼んでもらう。アイラは冒険と看板娘を交互にやってもらうことで女の子としての均衡を。まさに完璧だな。
「これから忙しくなると思うが、週に2回休みをきちんと取るので安心してくれ。しばらくは冒険者稼業も休みだ。みんな頼りにしてるぞ」
やっぱりTHE・漢って感じがする。みんなを信頼して信頼される最高のリーダーだ。
俺が密かに感動しているとバモスさんが挙手をする。
「おっちゃん質問いいか?」
「どうしたバモス何か心配なことでもあるのか?」
「いやそういうんじゃないんだけど、次どいつの素材が欲しいのかなって思ってさ」
確かにどんなやつの素材かによって出来上がる商品が変わってくる。
俺はバックから手記を取り出しいつでも調べられるように用意する。
「次のターゲットは生息地域から考えて『双頭蛇』だ。しばらくはそいつと角兎をメインで考えている」
「え〜! しんどいやつじゃんそれー!」
タフトさんが言い切るのとほぼ同時にバモスさんが驚いたような声を出す。
そんなに強い相手なのか?
俺の素朴な疑問に答えるようにサガも言葉を続けた。
「あの程度なら余裕ですよ。たかが蛇じゃないですか」
「……いやほら。俺ちゃん弓だしあんなにのらりくらり躱されちゃあしんどいんだよ。それにサガも近接戦闘だと吐息ブレスきついんじゃないの?」
「あれ? バモスって弓で飛んでる虫の眉間にどうたら言うてなかった?」
バモスさんの言い訳をことごとく潰すアイラ。容赦ない。
サガもさらに追い打ちをかける。
「それに私だって無策で突っ込むわけじゃないんですから問題はありませんよ」
バモスさんは引きつった笑みを浮かべながら反論の一手を繰り出した。
「いやあ、俺ちゃん守りながらだとサガもしんどいかな〜って」
しかしそれはサガを怒らせるだけだったようだ。
「なんでてめえは守ってもらえる前提なんだよ!」
「サガ、俺ちゃん年上よ?」
「うるせえ! だったらもっと年上らしい振る舞いをしやがれって話だろうが! さっきのもただの強がりで爬虫類苦手なだけだろ!」
意外だ。なんでもいけそうなイメージを持っていたんだけど。
誰にでも苦手なものはあるんだな。俺はもちろん怒った女の人が苦手だ。昔柴乃にガチギレされた時は本当に怖かった。今思い出しただけでも鳥肌が……。
サガの怒りに一瞬怯んだバモスさんだったが臆することなく反論を続ける。
その諦めない心だけは尊敬できるかもしれない。
「だって気持ちわりーじゃん! うねうねするし毛無いし、ヌメヌメだし」
「あれ? 今まで意識してこなかったけど改めて言われるとオレも苦手なのかも……」
だめだこりゃ採取班が壊滅だ。
俺と同じことをタフトさんも思ったらしい。
タフトが本日3回目のため息をすると口を開いた。
「アイラ行ってやりなさい」
「はぁ〜!? なんでこんなお荷物連れて行かなあかんの」
「まぁまぁお店は私で回すから。ね?」
「おかんまで!」
お荷物と言われてしまったサガとバモスは地面に伏して声を合わせる。
「「お願いします! 丁寧に運んでください!」」
いやお荷物なのは否定しないのかい。プライドを捨ててまで嫌なものなのかな?
少し聞いてみようか。
「ねえサガ。プライドとかは邪魔しないのか?」
「うるせえ! プライドだけで生きていけると思ったら大間違いなんだよ!」
気迫と表情はかっこいいが言葉の中身はひどいものだ。
サガの容姿でやっと目を向けられるものになっている。
そんな情けないお荷物2人を睨みつけ、少しイライラした表情を見せたアイラがこちらを向く。
「ソウマ!」
「俺!?」
サガとバモスさんに向けられるべき怒りが唐突に俺を襲う! ……ことはなくアイラは俺に条件を提示した。
「双頭蛇の素材で女の人向けの商品考えてな」
「そんな無茶な。女性をターゲットにかぁ……。俺男なんだよなあ」
少しの間考えているとお荷物たちサガとバモスが俺にすがり付いてくる。
「だの”む”よ”ゾウ”マ”ぁー!」
「不甲斐ないけど頼む! なんとかしてくれ! 目標がねえと気持ち悪いこいつと一緒に気持ち悪い蛇と戦うなんて無理ですよ!」
「俺ちゃんも⁉」
敬語とタメ口が混ざるほど錯乱しているようだ。バモスさんが余計な事言わなければこんなことにはならなかったのに。
タフトさんがコアラのように俺の両足に張り付いている2人を引き剥がし俺に話しかける。
「ソウマ。とりあえず手記を開いてみたらどうだ?」
「えーっとここかな?」
『双頭蛇
角兎を好んで食べる。安定して食料を得るためいくつもの巣穴があるが、それらは一つに繋がっている。腹の下はとても摩擦が少ないため地面を水が如く自由に這うことができる。
左右の頭に毒・麻痺袋を持ち、どちらも相手をじわじわと痛ぶることに特化している。
とても細かい骨がいくつもあるので普通に食べるのは困難。煮込んで骨まで柔らかくすることが多い。
皮は装備品の上に纏わせ強度を上げるために使われる。毒・麻痺袋に矢を漬けておくことで矢に毒と麻痺各々の効果を付与することができるが、欲張って両方を混ぜてしまうと効果がなくなってしまう。なおピット器官は退化しているようだ。大きく成長した個体は人間を丸ごと飲み込んだという記録もある』
『追伸・こいつは視力が良くなくて、視界もそこまで広くないから後ろから攻撃すれば倒せるぞ!
毒と麻痺を合わせた吐息はよくわからないけど何かしらの反応が起きて大爆発した』
蛇なら皮を使ったアレだよなぁ。女性ものじゃないけどオシャレなら良いよね?
でも同じものが無いかどうか一応確認だけしておくか。
「みんなお金ってどこに入れてる?」
バモス、タフト、アイラはバックに直接、サガと奥さんが袋の中にという結果だった。
「じゃあ作るものを発表します! ズバリお金入れです」
訳せば財布だ。趣向品繋がりでも良いと思うし、この蛇の柄を見る限り鮮やかな模様なので財布にしたら高級感もそれは相当なものだろう。
「なんでお金入れを作ろうと思ったんだ? そんなもんバックに直接入れときゃ良いじゃないか」
「だからモテないんだよ……。ただの布を豪華にしようってことだろ?」
バモスさんに敬語を使わないところを見るとまだ怒りは収まってないようだが一先ず錯乱状態から回復はしたようだね。
「確かにただの布切れに包んでても味気ないわよねぇ」
「あんまり可愛いとは思わへんけど、特別な感じはありそうやな。バックに直接入れてると散らばることもあるし」
女性陣からの意見も比較的好意的なようだ。
よしよし、これなら上手く行きそう。
「双頭蛇の皮は丈夫だが……。まさかそれを狙ったのか?」
「はい。それに蛇はもともと縁起が良い生き物として有名で、その皮は自分にお金を舞い込ませてくれるという言い伝えもあるそうですよ」
財布がこの世界になくてよかった。蛇の皮で作れるものなんて限られている。バックだってあるわけだし。
「それじゃあ決まりだな。次は貨幣を入れるものとやらを作るぞ」
俺の世界の知識があったらこの世界に支店がいくつもできる程は稼げそうだ。
著作権や特許? ナニソレオイシイノ。そもそも異世界なんだから日本の法律が適用するわけないんだよな。
それにしても自分の考えたものが他の人に認められて形に残るってこんなに嬉しいことなんだな。
「じゃあ目的も定まったことだし! 今日は稼いだお金で豪遊だ〜!」
「お前が決めるんじゃない。……だがたまには良いだろう。外に晩御飯を食べに行こうじゃないか」
はしゃぐバモスさんをタフトさんが諌めた。がその意見には賛成のようだ。
俺も賛成だ。金は天下の回りものって言うし。
「洗い物をしなくて良いのは助かるわねぇ」
「オレは焼き魚が食べられれば」
「お荷物預かるさかい、高いもの食うてもバチは当たらんよね?」
すごいテンポで話が進んだが、俺は鍛錬の片手間にアイデアを考えれば良いんだよな?
タフトさんの試験まであと3週間か。今まで戦ったサガとアイラとは違って威力が肝心だな。
でも今は、俺のやるべきことは忘れて初めての外食を楽しむとしますか!
-・ --- -・ ・- -- ・
これはサガたちがソウマの世界にいた時のもしものお話……。
演者はサガが医師、バモスが訪ねてきた人だそうです。
バモス(以下バ) 「先生……妻は助かるんでしょうか?」
サガ(以下サ) 「ん〜難しい手術になるでしょうね」
バ 「ん? そういえば先生、さっきから気になってたんですけどおでこのそれ光り過ぎじゃないですか?」
サ 「これですか? いや〜アナタもそうですか」
バ 「アナタも?」
サ 「いやね? 勘違いしてるかもしれませんが、これ額帯鏡と言いましてね? ちゃんと鏡なんですよ」
バ 「へぇ〜そんなものだったんですか。にしてはかなり大きいですね。ちょっと近くで見てもいいですか? ……これCDじゃねぇか! 裏表ない百均のCDじゃねぇか!」
サ 「いやまぁ反射はしますので問題ありませんよ」
バ 「本当なんですかー? で、妻の容態は」
サ 「これがかなり厳しいですね。CTスキャンをしたのですがどうも不思議な写真になってしまいまして、え え。こちらなんですが写真のところどころが虫食いのように見ることができなくてですね……これです」
・サガがデスクから写真を取り出しバモスへと渡した
バ 「はいはいなるほど」
・バモスが手渡された写真はところどころが虫食いのようになってしまっていた
バ 「お前……妻のデコにもCD貼っつけただろ? それで光反射してんだよ〜、CDスキャンだよそれはもう〜 お守りじゃねぇんだからつけんじゃねぇ〜よ!」
サ 「いやね? 私これがあると非常に安心するので奥さんにも安心をお裾分けしようと。
私の先輩が言ったんです。『心のケアまでできてこその医者だ。お前もとりあえずこれでも付けとけ』 って」
バ 「確かにいい言葉だ。それじゃあその安心できる物って……」
サ 「CDです」
バ 「だろうな! そらそうだろうな。こんだけ擦ってるんだから。てかCDって言っちまってるじゃねぇか! は〜もういいです。他の病院に頼ります。」
サ 「あ、では今回の処方箋とこちら……他の患者さんには滅多に出さないんですが、よく効くんですよ?」
バ 「え! いいんですか? なんか途中態度悪くなってすみません」
・サガはバモスに1つの封筒を手渡し、バモスは受け取る
バ 「で? これはなんですか」
サ 「CDです」
・サガが答えるのと同時にバモスが中身を取り出した
バ 「いらねぇよ!」
・思わずバモスはCDを地面に投げつけるのであった