機会と気組みと金殿玉楼
皆様お元気でしょうか
私は最近モチベ高いよ!
次の日、俺はワクワクして誰よりも早く起きた。
朝ごはんも一番に食べ終わり俺は外へと飛び出す。お供にサガも連れている。
アイラはまだお眠。バモスさんはもうでかけてたのでいない。タフトさんはまだ食事中なので俺たちだけだ。
「何もそこまで急がなくてもいいじゃないか」
「しょうがないだろ? 魔法とはなんの縁もなかったんだから。それに今日出発なんだしできる限り早く行きたいんだよ」
「もう一回だけ言っておくが、オレのは魔法ではないからな?」
「はいはーい。お願いしまーす」
「ノリ軽いなお前……。まあいいや。まず魔法を扱うにあたってその仕組みを理解しておかないといけない。ただ呪文を唱えたからってパッと使えりゃ誰も苦労しないだろ?」
「逆に言ってしまえば、それさえ理解してれば少しでも望みがあるってことか?」
「人に教えたことは無いから明言できないけど、多分できると思うぞ。できないオレが言っても説得力はない気もするが」
俺にもできるかもしれない。
その気持ちで俄然やる気が出てきた。
「よっしゃ! まずは何をすれば良いんだ?」
俺は急かすようにサガの指導を請う。
サガはコホンと咳払いをし一呼吸置いた後説明を始めた。
「まず『魔力』とは人はもちろん、空気中や木々などの自然にも含まれる魔法の元となる物のこと」
あ〜MPね、了解。
異世界では定番だよな。
「次に『魔法』とは魔力によって自身、あるいは自然の力を利用し生まれる技のことを指す」
これは少し定義が難しいけど、魔力を用いた技が魔法ってことで良さそうだな。
小説や漫画を読むと俺も魔法が使いたくなったものだ。
その妄想が今ここに現実となる。
ワクワクしてきたぞ。
「お前は好きなものを最後まで取っておくタイプか? 最初に食べてしまうタイプか?」
1人テンションを上げていると唐突に質問を投げかけられた。
「好きなもんは最後に食べたいかな俺は。でもなんでそんなこと聞いたんだ?」
「魔力のコントロールは属性によって難易度が違うからだよ。じゃあ難しいのからやるか。
これさえできてしまえば他のなんかすぐに覚えるだろうよ」
バケツのようなものを用意した。
中には水がたっぷり入っている。
「この水に手を入れてくれ」
「わかった」
しっかりと見たのは初めてだったがこの世界の水質はとても良さそうだ。
太陽からだと思われる光を受けてキラキラと輝いている。
つまり、仮にこの世界が地球と同じような惑星だとして、太陽らしい恒星があることも考えるとここはハビタブルゾーン内ということになるな。
これを地球で発見できていたら学会で発表できたのになあ。まあここが異世界じゃなかったとしても地球に戻る方法がわからないから無理なんだけどさ。
昔読んだ本のことを思い出しているとサガの説明が始まったので意識をサガに戻した。
「じゃあ説明するからな。1つ目、まずはバケツの中に手を入れ渦を発生させられるように練習しろ。自分の手のひらが空気を吸い込んでいることをイメージし念じるんだ。2つ目、スムーズにできるようになったらバケツの中の水だけを持ち上げるトレーニング。この時に自分の魔力を込める魔力で水を覆うことを意識するんだ。3つ目、持ち上げた水が振り回しても落ちないようであれば最後は勢いよく放つ! 自分の腕の伸縮性も利用つつ手のひらから勢いよく魔力を出し引き剥がせ。アイラがやってたのと同じやつだからお前もできるんじゃないか?」
いきなりすごい量の情報を言われたな。俺でなきゃ忘れちゃうね。
おそるおそる水に手を入れて念じる。
「いい忘れてたが、各属性魔法の高難易度の魔法は詠唱が必要らしい。他にも必要な魔法はあるらしいが細かいことはオレもわからん。中には詠唱をせずに発動を可能としているやつもいる。一時期一緒に旅をしていたやつにいたな。原理は教えてくれなかったけど」
魔法で定番の詠唱に関する説明がないと思ったらそういうことだったのね。
って意識が少しそれてしまった。やり直しだ。
吸い込む感じ。吸い込む感じ。吸い込む感じ。
しゃがんでバケツらしきものに手を入れる俺とそれを見守るサガ。
傍から見たら何をしているのかわからない光景だろう。
それでも俺は真剣にサガの言われたことを繰り返すのだった。
---・ ・・- -・・-
数時間は経っただろうか? 太陽(仮)が真上にはまだ来てないからお昼よりは前かもしれない。朝早くから練習するということは結果的に正しい判断だったと言えるだろう。
そんなこんなで俺は水を持ち上げ射出できるようにまで成長した。射出したらすぐ消えちゃうけど。
魔法と呼ぶにはまだまだ程遠いが非科学的現象を自分で起こすことができて驚いた。
「随分とスジが良いんだな。他の魔法も気になるとは思うがそれは自分の目で確かめてこいよ」
「サガの説明が結構現実味があってスッと落とし込めたよ。それじゃ図書館を見物しにでも行こうかな。またな!」
そう言って駆け出そうとした俺の首根っこをサガが掴む。
俺は猫か。
「ちょっと待った、お前何も持たずに行く気かよ? 必要なもん持ってくるからそこで待ってろ」
正論だ。首を絞めたことは不問にしてやる。
そういえばタフトさんが用意してくれるって言ってたっけ。どんな感じだろうか? やっぱりゲームみたいに無制限に収納できる物なのか。
1分もかからずにサガは戻ってきた。
「ほら。これだよ。大事に扱えよ?」
そう言ってサガはバックを俺に投げ渡した。
大事に扱うの意味わかってる?
そう思ったが俺は渡されたバックに興味が向いていたためにそのことはすぐに消えた。
ほ〜これがそうなのか。流石にゲームとは違うか。バックの底が見える。えーっと? ちょいちょい俺の世界にあったものと似た形状の物があるな。
「入ってるのは回復薬・魔力瓶が10個、発煙筒が3つ、煙幕が5つ、銀貨が2枚、携帯食料3日分、遺書を描くための紙と書くための木炭、手記」
「遺書ってあの遺書?」
「お前のいたところではいくつ遺書があったのかしらねえが、死ぬ前に自分の思いとかを書いておくアレだよ。オレは死ぬわけにはいかねぇから書かないけどな」
「じゃあこの丸っこいのと細長いのが発煙筒と煙幕なのか?」
「あぁ。発煙筒は位置を知らせる。煙幕は牽制と目眩し、妨害ができる優れものだぞ」
牽制? なんだかよくわからないが、困ったら投げてみることにしよう。
優れものらしいしきっと役に立ってくれることだろう。
「それじゃあこの手記ってなんだ?」
「これは記録用だな。見かけた魔物や野生動物を書き込んでいくんだよ。今回はいくつかオレとアイラとバモスで書き込んだから図鑑代わりにでもすると良いさ。まだ書き込める場所はあるから書いてない発見とかあったら書き加えとけよ」
なるほど。これは非常に便利そうだ。
未知の生物と事前情報無しに戦うのは無理があるからな。
「それと最後にこれ。タフトさんが持ってけってさ」
最後に手渡されたのは黒くて丸い形状のものだった。
これは……バッチ?
「なんだこれ?」
「さあ? タフトさんが渡してくれってさ。よくわからんが『服につけとけ』って言ってたぞ」
似てない声真似をどうもありがとう。
胸元にバッチを付けた。
幼稚園生のようで少々恥ずかしい気分もあったが、タフトさんが言うからには理由があるのだろう。
「色々ありがとうな! それじゃあ行ってくるよ」
「礼ならタフトさんに言ってくれ。森を一直線に抜けるだけだから迷うことはないだろ。」
改めてサガにお礼を言うと俺は意気揚々と歩き出した。
再びサガの声が届く。
「おい! 反対方向だぞ!」
俺は無言で戻る。
森は出口のすぐ近くで緑が生い茂っていた。
1度意識は削がれてしまったが俺は意気揚々と歩いている。
鳥がさえずり、暖かい日差しが木々の間から溢れているね。
俺は遠足気分で目的地の図書館を目指す。歌でも歌いたい気分。
歩いてみてわかったが確かに足場も悪く、毎日継続すれば良い鍛錬になりそうだ。
俺はおもむろに木の棒を拾い上げ、ガードレールにカンカンと当てる子供さながらに木にぶつけながら進んだ。
ここに来てからは本を見かけなくて読むことはなかったからとても嬉しい。
食事は体の栄養、読書は脳の栄養だ。いやあ嬉しいね!
ちなみに、世の中は調子に乗った者がミスをするようにできている。
足場が悪いことを忘れ調子に乗った俺は木の根っこに躓いて転んだ。
この世界に来てすぐのときもこんな事あった気がする……。
幸い怪我はなく痛みも少なかった。しかしその痛みは俺の興奮を忘れさせるには十分だった。
頭が冷静になると今まであまり考えていなかった事を考えてしまう。
紫乃は俺が消えてどうしているのか。あいつのことだ。泣いてるんじゃないかな。
父さんや母さんは心配してるのかな。捜索願とか出されてるのかな。心配かけてごめん。俺は今のところ無事です。
どうやって帰ればいいんだろう。このまま一生ここで過ごすのかな。
ゴリ先生は相変わらずゴリっているか。これは……どうでもいいか。ゴリ先生だし。
メリーゴーランドのように思考が回る。
そうやって考え事をしながら歩いていると再び転びそうになってしまった。
今度は転ばずに済んだけど。
おかげでまた少し前を向くことができた。
今は目の前のことを頑張るぞ。
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1時間は歩いただろうか。どうやら森を抜ける所まで来ていたらしい。視界がひらけ活気づいた街が見える。
森を抜けた俺の眼前に広がっていたのはホワイトハウスのように巨大な図書館だった。
真っ白で巨大な建物が太陽(仮)の日差しを受けてキラキラと輝いている。
あまりの大きさに見上げていると首が痛くなってきた。
「でっけ〜!」
思わず口から歓声が漏れる。さっきまでブルーな気分に浸っていたことは完全に忘れていた。
つい子供のように声をあげてしまったため通行人に笑われてしまう。
いやはやお恥ずかしい。
そそくさと俺は図書館に入ることにした。
中に入るとそこはまさに天国だった。
壁一面の本! 本! 本! ここが桃源郷か。もう一生ここに居たい。
感心して見回していると気を利かせた案内のお姉さんが俺に話しかけてきた。
お姉さんはサガに渡されたバッチのようなものを見ている。
「マサキソウマさんでお間違い無いですか?」
「はい! そうですけどなんで俺の名前を?」
「こちらの図書館なのですが、皆様に心地よく読書をしていただくため人数管理を目的に利用申請をしていただいています。そこでタフトさんという方からソウマさんの利用申請を頂いており、そちらのバッチが利用申請をした証明となっているんです」
はぁ〜しっかりしてるなぁ。利用者のニーズに合わせるとは接客のプロフェッショナルだな。
それに何から何まで本当に……。タフトさんには頭が上がらないや。帰ったらお礼をいっとかなきゃ。
「期間なのですが、30日間で承っております。ささ説明いたしますのでどうぞこちらへ」
「あぁどうもご丁寧に」
お姉さんに連れられて俺はカウンターと思しき場所へと移動した。
「こちらは職員が主に居る場所となります。ここでは本の貸し出しや返却をすることが可能です。お探しの本が見当たらない場合や、現在の貸出状況なども気軽にお尋ねください」
「了解です!」
俺の世界の図書館と基本的に仕組みは一緒なんだな。何か特別なルールが無さそうでよかった。
辺りを見回すと、話したり飲食したりしている人が結構いる。さながら本を楽しめるレジャー施設といったところか。
「では次は特別な場所へご案内します」
特別? なんかVIP的なやつかな。期待に妄想を膨らませ、俺はお姉さんに着いて行った。
ホールを抜け扉を開け、階段を下りて大きな扉のドアを開けて……。随分と厳重だな。よっぽど大切な場所なのか?
その後もお姉さんのあとに続きしばらく進み続けると巨大な扉の前についた。
お姉さんが扉を開けるとそこにはかなりの広さを持つ部屋だった。奥にももう一つ部屋が見える。外観と同じく真っ白だ。
俺は部屋に入ろうとしたがお姉さんが一向に入ろうとしない。
「あの〜どうかしたんですか?」
そう問いかけた俺の疑問には答えず、お姉さんは俺の背中を強く押した。
思わず前に転びそうになりながら部屋に半強制的に入ってしまった。この世界来てから転んだりすることばっかりだな俺。
俺がお姉さんの方を向くとお姉さんが口を開く。
「こ〜〜〜こ〜〜〜は〜〜〜こ〜〜〜く〜〜〜げ〜〜〜ん〜〜〜」
何言ってんだこの人。
あまりにも聞き取りづらいので一連の流れをメモすることにした。
紙と木炭を貰っといてよかった。
「ここは刻限の間と言って、この中と外界とでは時間の流れが異なります。この中での1時間は外界での1分に相当します。ここが特別な理由は利用できる人物が限られているからです。その条件は異世界から来た人間ということです」
もしかしたら俺が思う以上に異世界人というのは頻繁にこっちに来ているのか?
その事は後回しにして質問する。
「と言うと、異世界からこの世界にやってきた人しか利用できないってことですか?」
「ええそうです。元々書物は神からの賜り物なのですが、なんでも以前やってきた外界の者が書物を偉く気に入ったようで、神にあるお願いをしたそうなんです」
そう言うとお姉さんは懐から本を取り出し、本のみを扉の中にいる俺に差し出した。
本とは言ったがかなり薄い。すぐにでも読み終わりそうだ。
どうやらその本によるとその以前やってきた異世界の者の願いは
『ここにはたくさんの書物がある。私はそれを気に入った! だが私の残りの寿命ではとても全てを読み切れるとは思えない……そこで神よ! どうにか私の寿命を延ばしてもらうことはできないだろうか? 貴方様の御力なら可能なことだと愚考する』
というものだったらしい。
普通に神いたのか。俺無神論者だったんだが。
あらすじとかなくいきなり2人いるのには少し疑問を持ったが無視して読み進めよう。
先程の願いに対して神は
『いや〜嬉しいよね〜そんなこと言われたら〜。だけど〜寿命を延ばすってことは〜禁忌ってやつで〜その願いは〜叶えてあげられないんだよね〜』
と答えたそうだ。
いやチャラいなこの神。めちゃくちゃ語尾伸ばすじゃん。
話し方はともかく言うことは正論だと思う。神が何人いるのか知らないけど、もし複数人いるのなら他の神から怒られそう。
男は落胆し、そのまま帰ろうとしたが神がそれを呼び止めた。
『まぁまぁ待ちたまえよチミ〜、方法がないわけでもなくもないんだよ〜。本当はこれも危ないんだけどさ〜、チミの時間の流れを遅くしてあげちゃうよーん。そうすれば実質寿命が延びたのとトントンでしょ? だけど下界のみんながパニクっちゃうから、場所は本いっぱいなここだけね〜。本読みたいんだしそれでいいっしょ?』
そこでページは途切れていて、それを見たお姉さんが付け加える。
「男は歓喜しその場所を利用したようなのですが、いくら伸ばしたところで人間には寿命が存在します」
当然だな。死ぬのを遅らせたところでいつか死ぬことには変わりない。
だから人は不老不死や若返りを望むんだろう。
お姉さんの話はまだ続いているので意識を戻す。
「その男の死後に発覚したことがありまして。あろうことか神は男の名を忘れてしまったのです。一度はこの部屋を消してしまうことも考えられたそうなのですが、神は男を気に入っていたために消してしまうことを悲しまれました。そこで神は彼のような異世界の者が再びこの世界に訪れることを考え、異世界の者のみが入ることのできる空間にしてこの部屋を残すことにしたようです。あくまで口伝により伝わったものを簡易的にまとめただけなので詳しい情報は残っていません」
神ってすごいな。宗教に入る気は起こらないけどさ。
「そうなんですね! 神様ってすごいんですね。今でもこちらに?」
話しかけてしまったがお姉さんにちゃんと聞こえたかな?
「なんでも気まぐれな方だそうで、少なくともここ1000年の間その御姿を見たという情報はありません」
理由はわからないけどちゃんと聞き取れていたらしい。
なるほどね。つまりこの部屋は昔の人のおかげで神様はぐーたらなチャラ男ってことか。しかし感謝しかないね。時間の流れが遅くなるってことは、1日に何冊も読むことができるってことじゃないか! しかも周りには誰もいない。
「とりあえずそこから出ていただいてもよろしいですか?」
注意されてしまった。
お姉さんが押したくせに……。そう思ったものの急いで部屋を出て謝る。
「すみません。つい」
「ではただ今よりお客様のお好きなようにご利用ください。私は他の業務がありますのでここで失礼いたします。こちらの部屋の鍵はお渡ししておきますね。運動に使われても構いませんが、それは手前の部屋でお願いします。奥の部屋には本があるので損傷がないようにお気をつけください」
そこまで言ったお姉さんが背を向けて歩き出そうとしたので慌てて質問を投げた。
「あの! 俺の他に異世界人がここを最後に利用したのっていつかわかりますか!」
「私がここに勤めてから既に7年が経過していますがその間に利用された人物はいません。そもそも私は異世界人という人種に出会ったのはあなたが初めてです。先輩方なら知っている人もいるかも知れませんがお呼びしますか?」
引き止めてしまっている以上そこまでしてもらうわけにはいかないだろう。急ぎの用件というわけでもない。
「いえ、それには及びません。引き止めてしまってすみませんでした」
「それでは失礼します」
来た道を戻っていくお姉さんに聞こえるよう、大きな声でお礼を伝えた。
それじゃあ早速読むことにするぞ。楽しみだなあ。
そういえばサガが
『もう一回だけ言っておくが、オレのは魔法ではないからな?』
と言っていたな。魔法とスキルにはどんな違いがあるんだろう。まずはそれに関する本を探してみるか!
俺は奥の部屋に入り本を探す。
それは意外と早く見つかった。『猿でもわかる! 〜魔法とスキルの違い〜』
ずいぶんとキャッチーだな。バカにしてんのか?
題名に怒りをぶつけても無意味な時間を過ごすだけなので俺は読みたい箇所を探す。
この辺に書いてありそうかな? 俺日頃の読書で身についた速読が身についたおかげかパッと記載を見つけた。
なになに?
【魔法は自然界や生物に含まれている魔力を用いて発動する技のことである】
これはサガの言っていたことだな。
生物ってことは野生動物が魔法使うこともあるのか?
そんなまさかね。
続きを読もう。
【ある特定の条件を満たすことで稀にスキルを獲得することがある。特定の条件と書いたがその条件は具体的には判明していない】
【スキルには多種多様なものがあり、効果も様々。スキルによっては元々存在しない属性の魔法を使う者も存在する】
【生まれつきスキルを保有する者もいる。そうである者とない者の違いはわかっていない】
【スキルの持つ権能は磨くことができる。才能は開花させるもの】
なるほど。どんな条件なのかは書いてないけど、サガは何かしらの条件を満たしてスキルに目覚めたわけか。
最後の文は漫画で見たことあるぞ? 多分偶然だけどね。
【常時発動しているスキルが確認された事例もある。幼い子供のように制御できない存在がそのようなスキルを獲得した場合、被害が甚大になる恐れがある】
さっきもちょっと思ったけど途中からスキルしか解説してねえじゃねえか!
こんな内容ならこれくらいで良いだろう。次はお待ちかねのちゃんとした魔法に関しての記載を探してみるか。
それもすぐに見つかった。近くにおいてあったからだ。題名は『目指せエレメントマスター』。……ポ◯モンか? お子様向けの内容な気がするがこの世界にきて数日な俺はお子様どころか赤ちゃん並だから問題はない。
エレメントは属性って意味だったはずだから、様々な属性の魔法を使えるようになろうってことかな。題名で内容がわかりやすいのはいいことだよな。多分。
一番最初のページには炎が燃えるような絵が書いてあった。
多分火属性ということだろう。確かアイラが使ってたものだ。
【火魔法。四肢の熱を一度心臓のあたりへと集中させる。そして心臓から腕へ、最後に手に集め放出する】
随分簡単に言ってくれるな。お子様向けに見える表紙に反して意外とちゃんと書かれている。
他の魔法もおそらくこんな感じなんだろうか。
ん? 注意書きがあるな。
【慣れてくるとそんなことをイメージしなくても使いこなせるようになる】
そりゃそうでしょうね。ようは自転車と同じだろ。
【同一魔法の中にも3段階の強弱が存在し、段階が上がるごとに威力に伴い消費魔力量も増加する】
あー! メラ、メラミ、メラゾーマみたいなやつか。わかりやすくていいね。
【魔力と表記はしたが、実際は体力が消費されるほうがイメージが容易だろう。1段階目は階段を登る程度。2段階目は軽く走る程度。3段階目は全力疾走する程度と一般的に言われている】
程度って……。解説がそんなのでいいのか?
【火属性の3段階。ⅠファイヤⅡフレイムⅢブレイズ】
【なお上位になるほど難易度は上昇する。上達したならばそれぞれを発展させるのも魔法の醍醐味だろう】
早速サガと練習したときみたいに火魔法もやってみるぞ。多分両手でやるのは無理だから利き手から試してみよう。熱を一箇所に集めて放つってことだよな?
イメージを膨らませよう。全身の熱を中心へ……。いや難しいな! 何だよ中心に集めるって。全身の熱を中心に集めちまったら身体活動に影響出ないか?
もういいや我流でやる。魔力のコントロールができたんだ。火魔法もできるだろ。
確か運動エネルギーは熱を持つはずだから、腕を振り回して魔力を込めて放てば行けそうか?
魔力は水で練習した時を意識してやってみよう。
俺は肩が外れそうな勢いで腕を回し始める。それくらいの勢いでないと運動エネルギーはそうそう溜まるもんじゃないだろうからな。
肩がほぐれてきたな。この辺で魔力込めてみよう。
「ファイヤ!」
ちょっと子供っぽいとも思った、気合があれば何でもできるはずだがどうだ?
何かが射出された気配はない。どうやら失敗のようだ。
落胆した俺は右手で髪を掻き上げた。
「あっつ! ハゲるハゲる!」
普段より明らかに高い熱量に驚き掌を見てみると少しばかり手が赤みがかっていた。
失敗かと思ったが、我流ファイヤは成功の兆しがあるようだ。
---・ ・・- -・・-
あれからどれほどの時間が経っただろうか。
練習の末、俺の手からはお好み焼きの鉄板くらいの温度が出るようになった。
部屋に設置されている時計に目を向けると、もうすぐ日の暮れる時間なので今日はここまでにすることにした。
部屋を出た俺は謎の感覚に襲われる。なんと体が異常に軽いのだ。
あくまで推測だが、時間の流れを遅くするためにあの空間にとても強い力がかかっていたのだろう。何の影響も無い外に出た時にその効果を実感したんじゃないかな。
あの空間は本を読む以外にトレーニングルームとしての価値がありそうだ。実際運動してもいいってお姉さん言ってたし。
よし帰ろうと思って来た道のりを思い出す。この疲労困憊の状況でまたあの道を戻らなきゃ行けないのか!?
お金ももらったし宿屋に泊まるのもありかもしれない。そう思ったがこの世界の相場がわかるはずもなく泣く泣く帰ることにした。
カウンターでお姉さんを見つけた俺は挨拶をし帰ろうとする。
「ありがとうございました……」
「少し香ばしい匂いがしますがどうしましたか?」
うっ。少し髪を焦がした事がバレそうだ。
さすがにちょっぴり恥ずかしいのでここはごまかすことにする。
「あはは。ちょっと魔法の練習を」
「そうでしたそういえばあなたはバモスさんという方とお知り合いではありませんか?」
「はいそうですけど……」
なぜここでバモスさんの名前が?
「タフトさんから利用申請をいただいた時に一緒に来られていた方なのですが、本を返却していただいておらず少々困っておりまして。お手数なのですが、返していただくようお声がけいただけますか?」
へぇ、あんな感じのバモスさんが読書か。
一体どんな本を読んでいるんだろうか? 俺もその本を読んだらもっと親交を深められそうだな。
「ちなみになんて本の名前を伺ってもいいですか?」
「少々お待ちくださいね。『読むだけでモテモテに! 今日からのモテ指南』だそうです」
あー……。そっかぁ。
はい。えーっと。だよなぁ。あの人だもんなあ。
しかし……。うーん。
うん! 記憶バイバイ!
「返すように声をかけておきますね」
「宜しくお願いします」
最初は疲弊した状態でも頑張って来た道を戻ることを考えた俺だったが、夜の森は不気味な雰囲気を醸し出しており少し進んだところで野宿をすることにした。恐怖は薄れないが火を炊いとけばなんとかなるだろう。
この辺りで良いだろうか? まずは木の枝を集めてっと。火の粉は……石同士をぶつけるか。火打ち石であることを祈ろう。
燃料にするために枯れ木を集めていると白い動物の姿が見えた。
あれは兎かな? 見るのは紫乃に連れて行かれた動物園以来だろう。
あの時靴紐を噛みちぎられたことは今でも忘れてない。
「ちょっとじっとしててくれよ?」
俺はサガに言われた通り手記を開く。
兎のページは……あった!
えーっとなになに?
『角兎
自然の豊かなところに多く見られる。その角は主に攻撃用に用いられる。子供の近くには常に親がいるため注意が必要。毛皮は装飾品として主に一般家庭で重宝され、角は装飾品や武器として使われる。肉はとても柔らかく美味しい上、討伐難易度も高く無いことから人気の食材である』
食うのかよ……。ふれあいコーナーのマスコットだろうに。
兎美味しいかの山だし仕方ないか。まあ兎追いしかの山なんだけどさ。
と言うか兎を追って食べてた時代もあるんだし兎美味しいでも間違ってない気がする。
いけないいけない! 思考がそれてしまった。もう一度手記を読み直す。
ん? 幼体の近くには親がいるんだな。
サイズ的におそらくだがこいつは子供だろう。
でもこいつ角は見当たらないし大丈夫だよな。
『追伸・幼体の時に角は生えておらず成体に近づくにつれ角が形作られ立派なものになる。通常種と見分ける場合は耳に羽が生えてるかを確認だ! 自由に飛び回ることはできない。せいぜい滑空程度だから安心だぞ!』
最後の2行書いたのバモスさんだろ。
やたらと今日の俺に関わってくるなあの人。朝いなかったのに。
いかんいかん。また目の前の兎のことを忘れていた。
俺はよく目を凝らして兎の耳の部分を見た。
俺が知っている兎にはなかったものが見えるねこれは。あれが恐らく羽だろう。
ってことは?
「ブー!」
いますよねぇ……。豚かよ! って言いたくなるけどウサギには声帯が無いから息の振動で鳴いてるように聞こえるんだったよな。
また意識がそれた。随分ご立派な角ですこと。突かれたらひとたまりもないねこりゃ。
武器を取り出してっと。……あれ?
慌ててバックの中を探す。何一つ武器がない。
そういえばサガに渡されてそのまま来ちゃったから入れ忘れたのか! こんな大事なときにないんじゃ作った意味がないだろ! 過去に戻れたら数時間前の俺を殴りたい。
過ぎたことを嘆いても現状は変わらない。今あるもので改善させなくては。
木の棒は心許ないしバックに何か入ってなかったかな?
これだ!
「煙幕ぅ〜!」
いかんいかん。バックから道具を取り出すときにいっつも真似してしまう。こんなことをしている場合じゃないのに。
『煙幕・火』が5つあるようだ。確か牽制にも使えるって言ってたからなんとかなるかもな。
「焼肉にしてやるぜ!」
普段の俺ならこんなバカなことは言わないがパニックになっていたのだろう。火って書いてあったのも余計にだな。
投げてみると炎が瞬く間に角兎の足元に広がった。まさに火計そのものだ。
「キーッ!」
甲高い声を上げ角角兎炎に包まれた。
---・ ・・- -・・-
流石に骨まで焼ける程の効果はなかったが戦闘不能にし捕らえることができた。
熱が冷めるまで待ったせいで少し時間が過ぎてしまったが仕方のないことだろう。
「こんなところで寝てたらヤバいな」
俺は荷物をまとめ、角兎ホーンラビットを担ぎ皆の元へ帰ることにした。
さっきはたまたま命中したがこれからも当て続ける自信はない。さっさと帰るのが吉だろう。体感1時間くらいかかるけどな……。
これからは最低限武器を持ち歩くようにしないと幾度となく命の危険に晒されることになる事がわかっただけ収穫だろう。
俺は使い終わった煙幕を観察と道中の暇潰し目的で拾っておいた。
仕掛けが気になったのだ。手を入れて中身を確かめてみる。良い子は真似しちゃだめだぞ。
煙幕の入れ物の中に引っ張られる感じがしてすぐに手を引っ込める。
あくまで推測だが、ブラックホールのような魔法でこの中に別の魔法を閉じ込めていたのかな?
この容器に衝撃が加わるとブラックホールのような魔法から中に収納していた魔法が飛び出て作動するといった仕組みだろうか? ブラックホールで例えたけど実際にそうだったら今ごろ俺の指は無くなっていただろうから実際には別のものだろう。
仮に推測通りだとしたら魔法の中に魔法入れるって相当な技術が必要なんじゃないか? 知らんけど。
それからも使い終わった入れ物をいじくり回す。わからないということはわかったね。
途中何度か野生動物と遭遇し、午前中は運が良かったのだと思い知らされた。
足が遅い動物からは逃げ切れたがそうでない動物には残りの煙幕を使うことになった。
命中したのは最初の一回きりで後は足止めにしかならない。逃げ切れただけ僥倖と言えるだろう。
息も絶え絶え、疲労困憊にはなったが行きよりかなり早く帰ってこれた。だいたい45分くらいかな?
これからはサガかアイラについてきてもらったほうがいいかもしれない。
「ただいま」
「おかえり〜。ってどうしたんだそりゃ!」
しっかり焼けた兎の丸焼きを抱えた俺を見てバモスさんが驚いて言う。
苦笑いするしかない。
「狩りをしてこいと言った覚えはないんだがな……」
タフトさんにそう言われたがこれは正当防衛だから仕方ないだろう。
そう思っていると奥の部屋からサガが顔を出しニヤニヤしながら口を開いた。
「おやおやおや。どうせ帰るのがめんどくさくなって野宿しようとしてたら襲われてピンチ! ってところですかね。なんと情けない」
はい……。サガ先生図星です。今はその煽るような敬語に突っ込む元気もないので許してください。
持って帰ってきたこのウサギどうしようか悩んでいるとアイラのお母さんが兎を持ち上げて言った。
「あら? ちょうど良かった! そろそろお肉の蓄えが尽きるところだったから助かるわぁ」
「お役に立てたのなら良かったです」
「まったく。おかんは甘いんやから」
アイラ、そんな目で俺を見るな。俺はこの世界に来てまだ数日しか経ってないんだぞ! 赤子レベルだぞ!
憤る元気はないのでタフトさんにお礼だけは言う。
「タフトさん色々ありがとうございます。俺精一杯頑張りますから!」
「おうよ! 試験の日が待ち遠しいな」
そう言うとタフトさんはサムズアップしてみせた。
しっかし俺はこれから先こんな一ヶ月を余儀なくされるのか。
そりゃあ皆が止めるわけだ。
せめて試験までは頑張ってくれよ? 俺の体。
ふと手記に書いてあったことを思い出してタフトさんに問う。
「こいつの角って普段は装飾品とか装備に使ってるんですよね?」
「おう。硬度もしっかりしてるからな。でもどうしたんだ?」
「実は儲けになりそうなアイデアがありまして」
「なになに!? すっげぇ気になる」
さっきまで晩御飯に集中していたバモスさんが急に儲け話に割り込んできた。
現金だなこの人。
「ウチも気になる! な? おかん」
「確かにお金はいくらあっても困らないわね……」
女性はオシャレにお金使うだろうからわかるけどさ。
「大丈夫なんだろうな? あまり周りに広めると乱獲されて生態系を壊しかねないから内密にな」
「任せてください! この角で食器を作るんですよ!」
「「「「食器?」」」」
まぁそりゃそうだよな。誰も想像がつかないから儲けになると思ったんだよ。
ちなみにサガは無関心だった。それはそれで悲しい。
「少し見ていてくれないか?」
そう言うと俺は道具を借りて作業を始めた
「まずあのウサギから外したこの角の表面を削って滑らかにする。次に先端をバッサリ切る。最後に中をくり抜いて空洞にすれば飲み物の入れられる食器の完成だ!」
みんな驚いた……というより感心しているようだ。
「確かにこりゃあ良いな。木以外の食器は趣向品になるからこれは高値で売れるぞ! お手柄だなソウマ」
どうやら俺のアイデアは好印象だったようだ。
鍛治を生業とするタフトさんが言うのだから間違いないだろう。
これだけ喜ばれるんだったら他のモンスターも狩って今より豊かな暮らしにしてあげよう!
「じゃあ俺はご飯食べたら寝ます。もう遅いんでおやすみなさい」
みんな満足した顔でそれぞれの部屋に戻って行った。
さてと、明日はどんなモンスターに会えるだろうか。
危険なやつには会いたくないね。
「ところでどうして宿に泊まってこなかったんだ? お前は2日か3日は帰ってこないと思ったけどな」
サガが料金について説明してくれたら泊まってきたんですけどね!