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下からの景色

この題名は冒険そのものを山と捉えてこれから登ることを表しています


そして題名に含まれたもう1つの意味とは?

 机の上に夕飯が並ぶ。どれも温かい湯気が上っていてとてもおいしそうだ。

 少し元気がなさそうに見えたサガだったが、家につく頃には元気を取り戻している。バモスさんと口喧嘩という名のじゃれあいをしていた。例え空元気だとしても元気があるのはいいことだろう。

 そんなサガとは対照的に、戦いに勝利したアイラは疲れたのか少し眠そうだ。

 アイラの出していた『火』について聞きたいのだけど不機嫌になってしまっては困る。女性の機嫌を損ねることがよろしくないというのは、この世界に来てしまう前からわかっていることなのだ。

 だがしかし、ある人は言った。『覚悟が道を切り開く』と。

 覚悟を決めよう。この世界のことについては知ってることは多いほうがいいからね。


「ちょっとアイラ? 聞きたいことがあるんだけどいいかな?」


 食事を少しずつ口に運びながら口を開く。お、このパン美味い。


「ん〜? なに? まあええけど〜」


 比較的好意的なアクションで安心だ。これなら心配はないだろう。

 そう確信して再び口を開く。


「実はさっきアイラが靴とか剣から出した火のことについて聞きたいんだ」

「ああ、あれな……。あれはな火魔法の1つやで。火を纏うことができんねんで。あの時は氷に対抗するために火魔法を選んだんやけど他の属性のもあるで……。初めてやったから上手く行くか心配やったけど上手くいってよかったわ……」


 なかなか細かい情報を得ることができた。ふむ。やはり魔法だったか。

 ちょっとわくわくしてきた。もしかしたら俺も魔法を使えるようになるかもしれない。

 そう考えると興奮してきたな。


「俺も魔法使えるようになるかな?」

「……」


 一足遅かったようだ。夢の国にいってらっしゃい! してしまった。


「アイラ、寝るならベッドで寝なさい」

「……」


 タフトさんの呼びかけにも無反応。これは今日聞き出すのは無理だろう。まあでも魔法の存在がわかっただけでプラスかもしれない。これ以上無理に聞き出すのはやめておこう。

 何度でも言うが女性の機嫌を損ねることは非常に良くないことなのだ。


「仕方ない。運ぶか……」


 諦めたようにタフトさんが立ち上がる。そしてそっとアイラを持ち上げると2階に運んでいった。


「ごちそうさまでした。私も早めに寝るとします。お先に失礼しますね」


 タフトさんを追いかけるようにサガも立ち上がる。

 いつの間にやら食べ終わっていたようだ。

 待って! サガにも聞きたいことがあるんだ。


「サガ! さっきの戦いでサガが出してたように見えた氷はなんだったんだ?」


 階段を登りかけていたサガはこちらを見て少し考える素振りを見せる。

 振り返る瞬間表情が曇った気がした……。俺がその事に声を変える前に少し笑って言った。


「さあ? なんでしょうね?」


 サガはそのまま階段を上ってしまう。

 ……。どうやら俺に教える気はないらしい。

 そんなに冷たいと友達無くすぞ?


「大目に見てやってくれソウマ、サガはああ見えて優しくていいヤツなんだ。俺ちゃんが保証する。確かにちょっと……。いやかなりひねくれてるし性格悪いところはあるけどね」


 表情を読まれてしまったか。軽口を叩く関係なのもあってやはり仲はいいのかもしれない。バモスさんが優しい笑顔で言う。


「実はさ、サガって昔色々あったみたいなんだよね。俺ちゃんにも少ししか話してくれなくてさ。時々表情に影も見えるし」


 やっぱりさっきの表情は見間違いじゃなかったのか……。


「同年代のソウマならサガも心開いてくれるんじゃないかと俺ちゃん思うんだよね。ソウマ18歳って言ってたっしょ?」

「はい。今年で18歳になりたてです」

「俺ちゃんもだいぶサガとは仲良くなれたとは思うけど、やっぱり同年代には敵わないみたいなところあるじゃん? タフトのおっちゃんの試練をクリアした後にでも聞いてやってくれない?」


 その時のバモスさんの目はあまりにも真っ直ぐだった。

 こんなに真面目に話すバモスさんは初めて見た。

 それくらいお安い御用だ。この俺に任せてもらおう。


「わかりました。マブダチになってやりますよ!」

「いいねえ! じゃあ今日は俺ちゃんと呑もう!」


 さすがにお酒をいただくわけにはいかない。この世界ではどうかは知らないが日本では18歳じゃお酒は飲めないのだ。

 事情を説明して断ろう。

 しかし、断る前に俺の背後から声が届く。


「家主の許可なく酒を出そうとするんじゃない!」

「うげ! おっちゃん? いつからそこに!」

「『俺ちゃんもだいぶ……』あたりからだな」

「結構前じゃん! 恥ずかし!」

「珍しくいい話でもすると思ったら勝手に酒呑もうとしやがって……」


 グチグチと説教が続く。

 ……。巻き込まれないうちに俺も寝るか。

 面倒事は避けるが吉なのだ。


---・ ・・- -・・-


 次の日、朝早くから俺はサガとバモスさんに起こされた。

 俺に稽古をつけてくれるらしい。ちなみにアイラは未だ夢の国のようだ。


「さて、あなたには時間がありません。本当なら基礎から丁寧にやるべきなのですが、今回はとりあえず付け焼き刃でもいいから戦えるようにしましょう」


 サガが敬語を使うこともあってか再び高校生に戻った気分だ。この世界に来てからたった数日しか経過していないはずなのに懐かしさを感じる。


「とは言ったもののあなたは戦闘技術は皆無のようですので対処法から教えていきます。あなたが通る予定の森で魔物が出ることは稀ですが凶暴な動物たちが生息しています。あなたの持つ武器でどうにか彼らに対処する必要があるのです」


 ほうほう。さっそく作った武器が大いに頼りになりそうだ。


「ほいほい! ここで俺ちゃんから補足ね。肉食動物が危険なのは言わずもがな。敵意の無いように見える草食動物にも注意が必要だぞ! あいつらも肉食動物に対抗する手段を身につけているんだ」


 元いた世界でもサイやカバは危険な動物だった。仮にゾウのように体の大きな動物に踏みつけられてしまったら、ソウマおせんべいの出来上がりだろう。

 それだけはなんとしても避けたい。こんなところで死ぬにはまだまだ未練が残りすぎている。

 俺は少し焦るように言う。


「それで、危険なのはわかったんだけど、いったいどうすればいいんだ?」


 2人には申し訳ないけど前振りを長々とするよりスパッと教えてほしい。

 これがなにか楽しい催しならば大歓迎なんだけど自分の命に関わることでのんびりしてられるほど豪胆ではない。

 それに俺には30日という時間制限がある。

 戦闘経験のない一般人である俺がこの世界で冒険者として生きてきたタフトさんに傷をつけるのは、もしかしなくても難しい。時間が少ない状況で仕上げなくてはならないのだ。

 森を抜けて街に着く時間がわからない以上削れる時間は削りたい。


「せっかちだなぁソウマは。そんなんじゃモテないぞ〜?」

「いやバモスさんだってモテてないでしょうが! それにこっちは命かかってるんですよ!?」


 なんということでしょう! あんなに凛々しかった顔が、一夜にして伸びきっているではありませんか。

 昨日少し真面目だと思ったらこれだよ。昨日のバモスさんを返せ!

 こっちの世界来てすぐにもアイラからパッとしないって言われたし俺そんなにモテる要素ないのかな? 確かに告白された記憶はここ数年ない。


「まあ落ち着きなさい。私が師匠として色々教えますから何も問題はありませんよ」


 知らないうちに弟子になっているんだが?

 本当に大丈夫なんだろうか。

 まあサガは賢い感じだしバモスさんも場数は踏んでそうだ。

 おそらく、きっと、多分、大丈夫だと信じよう。


「まず1つ目です。草食獣にしろ肉食獣にしろ『見える武器には最大の警戒を払うこと』。鋭利な爪や牙、強靭な脚などが最たる例ですね。特にあなたは来たばかりで初めての場所に行くのですから種族による特性もわからないでしょうし。良いですか? 防げるなんて考えを持ってはいけませんよ。戦闘経験のないあなたが防いだところで、反動で隙を露呈することになりますし、万が一防げなかった場合致命傷を負うことなってしまうでしょう」


 慢心はいけないということか。

 某王様は「慢心せずして〜……」みたいなこと言ってたけど俺は気をつけよう。


「2つ目に『自分の命を優先すること』。仮にあなたがピンチの状況に陥ったとしましょう。その時は早急に回復を優先してください。タフトさんが荷物の仲に回復薬を入れてくれるはずです。タフトさん曰く『冒険者やるなら、回復薬は多少値が張っても品質のいい物を買え!』だそうです。そのおかげでこのパーティで使っている回復薬は飲むか傷口にかければ効果を発揮してくれますよ。重傷の場合は傷口に、複数箇所に軽傷を負った場合は口にした方が全身を巡るので量が少なくて済みます」


 命大事にってわけですね、わかります。

 RPGやってたときは基本攻撃を優先してたから注意が必要かもしれない。


「3つ目に『諦めないこと』。当たり前のことかと思いますが、これが一番大切なことです。心が体の原動力になります。気分が良いときは最高のパフォーマンスを発揮することができ、気分が悪い時は四肢が思うように動きません。先程の2つのこともこれに直結していると言って過言はないでしょう。生き残ることを1番に行動してくださいね」


 そうだな。今ここで死ぬわけにはいかない。

 たった18年とちょっとで人生終わらせてたまるかってんだ。

 そうこうしていると階段の方から足音が聞こえてきた。

 もしかしてアイラが起きてきたのかな?

 俺がそちらに顔を向けるより早く階段を確認したサガが声を潜めて言った。


「ああいけない、どうやら凶暴な肉食獣を起こしてしまったようですね。睡眠を妨害されたせいか気性が荒くなっています。注意しなくては……」


 なるほど肉食獣か。大剣を軽々振り回していた様子を思い出すと言い得て妙だな。

 思わず賛同しそうになったがそれより早くアイラがサガの肩に手を置く。

 ミシッと聞こえたかと思うとサガの姿が俺の前から消え鈍い音がなった。

 机から身を乗り出すと床に倒れたサガが見えた。


「せいぜい食われんよう注意するがええ。どうやら最低限の説明は終わったようやし、あとはそこで寝ててもろて」


 危ない。もし賛同していたら俺も同じ目にあってGAMEOVERになっていたことだろう。2人で床ペロなんて誰得だよ……。非常に危なかった。

 思ったよりアイラは凶暴なんだな、そう思ったことは心に秘めておこう。


「バモス、サガのこと見といてな」

「はいぃぃぃぃぃぃぃ!」


 人間ってそんな速度で動けるんだと、そう思う速さでサガに駆け寄り介抱する哀れなバモスさん。

 このパーティのヒエラルキーが垣間見えるようだ。


「ここからはウチが講師や! バッチリ教えたる!」


 森に出る前に命を落とさないか心配だ。

作中でソウマが告白された記憶が無いと嘆いていますが、1話に登場していた幼馴染ちゃん、乾柴乃がチョコや手紙など全て廃棄処分していたり、二人は一緒に登下校していたので帰り道遠回りするなどしていたようです。

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