慣れる前は習え
お久しぶりです(^o^)
二人で意見を交わしていくうちにもっと記憶に残りやすいサブタイトルにしたいという結論に至ったため一話と二話のサブタイトルを変更させていただきました。
ストーリーに変更はございません。
「そいじゃちょっと武器を作ってみるか。自分で作ったほうが愛着が湧くもんだからな。とは言っても1から作るわけにはいかねえ。時間がかかりすぎるちまう。俺の試作品を少し改良する形でやるぞ」
加工場について開口一番、タフトさんはそう言った。
鍛冶なんてやったことないんだけど上手くいくのか? 心配だ。そもそも料理ですら火を上手く扱えない俺にそんなことが可能だとは思えない。こんなことなら夏休みの自由創作課題で鍛冶に挑戦しておくべきだったかなぁ。いやいや、まさかこんなことになるなんて昔の俺は思ってないから仕方ないか。
「大丈夫だ、これから俺が手本を見せる。その通りにやってみろ。難しいところは俺も手伝ってやる」
思わず不安が顔に出ていたようだ。いけないいけない。大丈夫俺はできる俺はできる。
……。
あんまり考えるとフラグになるかな?
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「ふー。よし、こんなもんだろう」
鍛冶というものは思っていたより断然難しいことだった。いくつか失敗作を出しながらもなんとか使えそうなものに仕上げることができた。フラグがちゃんとへし折れたことに安心だ。
額に流れる汗を拭う。とりあえず今はシャワーを浴びたい。昨日は疲れてて特に意識してなかったがこの世界にもお風呂やシャワーがちゃんとあったのはなかなかに驚きだ。
「どうやら完成したようですね、まあその場しのぎ程度かもしれないですけど」
外からひょっこりサガが顔を出してそう言った。その青い髪が夕日を浴びて輝いている。
気づけばもう夕方か。熱中しすぎて時間の流れを忘れていたようだ。
「もうご飯ができたので呼んでこいと言われました。冷める前に行きますよ」
それは楽しみだ。一仕事終わったことだしきっと、とても美味しいことだろう。
「ソウマ、今日中に道具の準備を済ませておく。明日と明後日はサガとアイラ、バモスに色々教わるといい。だから出発は3日後だな」
加工場を出る前にそうタフトさんは言った。
この世界のことはまだ全然わからないから道具を用意してもらえることはとてもありがたい。
「ありがとうございます!」
「なに、気にするな。お前は自分でできることを確実にやっておけばいい」
やはりかっこいいな、この人は。本当の父親のようだ。
「とりあえず今は美味い飯を食って明日への英気を養うことだな。飯を食わないと力は出ない。成長期ならなおさらだ」
俺は了承の意を示してリビングに入るのだった。
「あー、やっと帰ってきた! 俺ちゃんもうお腹ぺこぺこだよ〜!」
「なんだ、待っててくれたのか。別に先に食ってても良かったのに」
「食事は大勢で食べたいらしいですよ、この男は」
「その方が美味しいからええやん!」
その意見には俺も賛成なので頷いておく。ぼっち飯よりみんなで食べたほうがいいに決まってるのだ。
アイラが味方したことでバモスさんは調子に乗ったようだ。
「やった! 今回は俺ちゃんの方が味方多い〜!」
「別に反対はしてないですよ……」
「別にバモスの味方はしてへんけどね」
「落とすくらいなら上げないで!」
こうして騒がしく夜は更けていくのだった。
---・ ・・- -・・-
次の日、朝早くから3人にお願いして色々教えてもらうことになった。
「それではとりあえず役割の説明でもしましょうかね」
「うちにやらせて! まずは攻撃役やな! 攻撃役は攻撃を基本にする役職や。 うちら3人ともそうやで。ガンガン攻めてチームを勝利に導くんや。ちなみにあの時に見た事あると思うけどうちはこの大剣が相棒や」
そう言ってアイラはどこからともなく膝から頭、いやそれより少し大きいくらいの大きさの剣を取り出した。目測は100cmくらい。誤差はプラマイ3cmほどかな。
そんなことより、今どこからそれを出した? 影も形もなかったんだが……。
呆気にとられているとバモスさんが口を開く。
「俺ちゃんはこれ。これなら俺ちゃんはどんな的にも当ててみせるぜ!」
自慢げに見せてきたのはGを倒す時にも使っていた弓だった。この人もどこからともなくサッと出すんだよなー。なんで?
「確かに真面目に狙撃している時に外したところは見たことありませんね」
「お、サガ珍しく褒めてくれんの? 褒めても何も出ないぞ〜?」
いつも皮肉を言ってるイメージのあるサガが褒めた。仲悪いように見えたけど別にそういうわけではないのかもしれない。
「事実を言ったまで。あ、私は武器は特に使ってません。強いていえば私自身ですかね」
「照れなくていいんだぞ!」
「照れてません!」
なるほどサガは徒手空拳ってことかな? だから手袋を付けているのかも。
「ごほん、先程アイラが言った通り基本的に私達は攻撃を中心に行います。バモス以外の我々2人は敵と距離を詰めるので怪我をしやすいですね」
「逆を言うと俺ちゃんは遠くの敵なら相手できるしサポートもできるんだけど近づかれるとまずいんだよね。森の中とか木の上みたいに逃げられるところがあればいいんだけど」
同じ役割でも特色が違うようだ。俺はどうするのがいいんだろう?
「お次は盾役ですね。タフトさんが担っています」
「おとんはすごいんやで! 鉄壁の防御やねん」
「あの防御を破るのは至難の業です。仮に彼を突破するには私とアイラが連携して攻撃を仕掛けている間に遠くからバモスが撃ち抜きでもしない限りは難しいでしょう」
確かにGと戦ってた時も後ろにいた俺とサガには全く攻撃は飛んでこなかった。しかもあいつらを自分に惹きつけているように見えた。なかなか大軍だったのにすごいと思ったものだ。
「タフトのおっちゃんのおかげで俺ちゃんたちは自由に攻撃に専念できるんだよねえ」
「初めの方は連携が難しかったですけどね……」
確かにMMORPGとかでも盾役は難しかった。仲間の邪魔にならないのが大前提だし。責任も押し付けられやすかった気がする。
そういえばよく考えてみるとこのパーティは攻撃役と盾役だけでも成立してるのか?
あと2つ……。ソーサラーとヒーラーだっけ?
考えてもわからないので聞いてみることにした。
「なあなあ、残りの2つの役割はいないみたいだけどなんとかなってるのか?」
「それについても説明するで。魔法役は魔法を中心に使うねん。遠距離攻撃や仲間の強化、相手の弱体化をする役割やで。うちらはソーサラーおらへん代わりに個人個人が魔法をつこうて補ってんで」
なるほどなるほど。個々人で頑張ってるのね。なんだか大変そうだけど口ぶりからしてなんとかなっているのだろう。
「まあサガは魔法使えないから自力で頑張ってるんだけどね。必死に鍛えて努力してるの俺ちゃんは知ってるぜ!」
あ、バモスさん殴られた。照れ隠しかな?
「次の説明に移ります!」
めちゃくちゃ早口になった。サガは褒められるのは苦手なのかもしれないねこりゃ。
「回復役は仲間を回復させることを主にしている役割です。武器も他のものに比べて特殊な形状なものが多いです。確か……。楽器のような形状のものが多かった気がしますね。私達は個々人が回復薬を持って対応しています。今我々が持っているものなら部位欠損でもしない限り回復できます」
なるほど。俺も使わせてもらったやつか。傷が治っていく感覚はなんだか言い表しにくいものだった。
「まあ説明はこの程度ですかね?」
「そうだねえ。俺ちゃんも全部説明できたと思うぜ」
「それじゃあ少し実戦見てもろたほうがええんちゃう?」
確かに俺はまだ基本の『き』もわかってない一般人だ。Gとの戦闘は見たけどあれは例外な気もするし。対人戦は見たことがないし、格闘技レベルなら偶に見たことあるけど命の危険があるようなものは見たことがあるはずがない。
「えー。俺ちゃん汗かきたくない」
「年下に負けるのが嫌の間違いでは?」
今日もサガは絶好調のようだ。昨日ご飯を食べているときにアイラにも突っかかっていたがやはりバモスさんが一番標的になりやすいみたいだな。
しかしこれはこれで面白いのでもう少し見ていよう。
「うーん。昔はもっと素直に慕っていてくれた気がするんだけどなあ」
「そういう夢を見たんですね。可哀想に」
「……」
あーあ。バモスさん完全に拗ねた。こっち見ようともしない。
このままにしておくとめんどくさいことになるのは火を見るより明らか。
仕方ない。ここは俺がごきげんを取ってあげよう。
俺は少しだけ考えて口を開く。
「大丈夫ですよバモスさん! これはきっと照れ隠しです!」
「なるほど照れ隠しね! 俺ちゃん超納得!」
2人で笑い合う。これでもう大丈夫だ。元気元気。
鈍い音が3回響く。俺とバモスさんがサガに叩かれた音だ。
どうやらタブーに触れてしまったらしい。痛くなかったしほんとのほんとに照れ隠しかもねこりゃ。
「なんで俺ちゃんだけ2回……?」
悲壮な声はサガに届くことはなかった。
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10分ほどサガとアイラに連れられて歩いた。後ろには頭をさすっているバモスさんも。
どこに向かっているのかはまだ聞いていない。実戦を見せてくれるらしいので開けたところなのかもしれない。
「着いたで! ここや」
アイラの指す方向を見る。
そこは俺の予想通り開けていて、四角に囲われていた。
公園よりは少し狭いだろうか。
「ここは模擬戦に使える広場やで! 今日は他に誰もおらんね」
「これなら存分に動けそうですね」
そういうと2人は準備運動をして体をほぐし始める。
始まるまでボーッとしていてもしょうがないから段差に腰掛けて、バモスさんに話しかけることにした。
「バモスさんは基本的に戦わないんですか?」
「まあ基本的にはね」
「なにか理由でもあるんですか?」
「そ、そりゃあお前! 俺ちゃんが強すぎて怪我させるのが怖いからに決まってんじゃん!?」
なんか目が泳いでるんですけど?
疑問を覚えて俺はバモスさんに再び問いかけるために口を開く。
しかしそれよりも早く、俺達の隣に人が来て口を開いた。
「そんなこと言って自分が怪我するのが怖いだけだろう。ちょっと勇気を出して恐怖心を消せれば十分強さを発揮できる」
声の主はタフトさんだった。どうやら俺達の会話を聞いていたらしい。でもどうして俺達がここにいるのを知っているんだ?
家を出る前にはでかけてくるとしか伝えてないんだが。
そのことについて聞いてみると、
「広場で娘が模擬戦をするって知らせてくれたやつがいたんだよ。そのうち野次馬が集まってくるぞ」
とのこと。
タフトさんの言う通り人が集まってきて少し騒がしくなる。中には物騒なことを叫んでいるおじさんもいた。
そうこうするうちに2人は対峙していた。
空気が変わる。まるで火花が散っているようだ。
「さて、準備運動はもういいですか? 私は十分ですよ」
「こっちも準備できとるで!」
そう言ってアイラは大剣を取り出す。
サガも手袋をはめ直すと地面を蹴り一気に距離を詰めた。そして右手で殴りかかる。
危ない! そう思ったときにはアイラも既に行動に移していた。
大剣でサガの拳を防いだのだ。そのまま押し合いに発展する。
「フッ!」
ジリジリと続く押し合いを制したのはサガ。アイラを弾き飛ばして距離を取る。
目で追うことはできても反応できるかと言われたら素直にうなずくことはできない。2人と対峙しても瞬きする間に俺は負けてしまうだろう。
「2人とも腕を上げているな。そろそろ本格的にギルドの依頼なんかをこなすようにしてもいいかもしれない」
「今までは依頼を受けたことはないんですか?」
「あることにはあるんだけどね。おっちゃん過保護だからさ。薬草集めたりとかの簡単なやつしかないんだよ」
「アイラが怪我をしたりむさ苦しい男に襲われたりしたら問題だろう」
よっぽどアイラが大事なんだな。バモスさんの『過保護』という言葉にも納得だ。俺が父親になればわかるのかもしれないね。
そうしていると周りから歓声が上がる。アイラがサガをふっ飛ばしたのだ。
飛ばされたサガは空中で一回転して着地すると体制を立て直す。まだまだ余裕そうな表情だ。
「おやおやおや。これまた随分と力をつけましたね」
「無駄口叩いとると痛い目見るで」
アイラはそう言うが早いか走り出す。
距離を詰めて跳び上がり大剣を振り下ろすという魂胆なのだろう。落下に関わる重力も合わさり絶大な威力になることは想像に難くない。
このままだとサガは真っ二つになってしまうだろう。模擬戦なんかじゃ済まなくなってしまう。どうするつもりなんだ?
俺の心配を他所にサガは微動だにしない。思わず立ち上がりそうになる。
しかし俺の想像するような自体にはならなかった。着地したアイラが滑って転んだのだ。
なんだ? なにがどうしてどうなった?
「お嬢さん、足元にはご注意を」
こんなときも煽りを忘れないサガ。そしてイラッとした表情を見せるアイラ。
よくよくアイラの足元を見ると光を反射してキラキラしている。
あれは……氷? さっきまであんなものはなかったはずだ。一体どうして……?
「まだまだいけるで」
そうは言いつつもつるつる滑ってしまいなかなか立てていない。このままじゃアイラの負けは確定してしまうだろう。
さすがに美少女がボコボコにされるところは見たくない。そんなことはしないと思うけど。
「もう少し温存しときたかったんやけどしゃあないか」
まだアイラの闘志は消えていなかった。
アイラの靴から炎が上がり足元の氷が溶ける。
こうやって氷が突然現れたり靴から炎が上がったりするのを見ると異世界に来た実感が強くなる。
ここまでくると野次馬も声を上げることはしない。みんなが戦いに見入っている。
「まだまだこっからやで!」
「それはこっちのセリフですよ」
そこまで言ったサガの付近から氷らしきものがアイラに向けて放たれるのを見た。
これは魔法なのだろうか。
俺の疑問を置き去りにしたまま戦いは進む。そのままサガは氷を放った勢いで下がり距離をとった。
今の攻撃らしきものは牽制の意味合いが強いのかもしれない。
「そっちがそうならこっちはこうや。一気にケリつけたる」
今度は大剣が炎に包まれ、放たれた氷をすべて切り裂き突っ込んでいく。
サガも前に出て距離を詰める。もしかしたら次の一撃で仕留める気なのかもしれない。
しかしこれでサガは完全に大剣の射程距離内に入ってしまう。下手したら1発でお陀仏だ。
「「はあああ!」」
振るわれた大剣に対しサガは蹴りを繰り出した。
大剣と足がぶつかり再び押し合いになる。
最初の押し合いとの違いはサガが手ではなく足を使っていることだ。
足の筋肉量は腕に比べて3倍だというのを昔見たことがある。この事実だけを見ればサガのほうが有利に感じられる。
しかし現実は違った。サガはアイラのパワーに勝つことができないでいる。
「あーこれはサガきついね。むしろよく片足でここまで耐えてるよ」
バモスさんのつぶやきを聞いて俺は自分の間違いを悟った。
片足で立ちながらもう片方の足で敵の攻撃とぶつかりあうなんて俺にはできないだろう。
それからも少し耐えていたサガだったが押し切られて倒されてしまう。
そのままアイラはサガの首元に剣を当てる。
「今回はウチの勝ちやね?」
その言葉と一緒にニッコリと笑顔を見せる。
「チッ……。まぐれですよまぐれ」
アイラは見事に勝利したのだった。サガの言葉を皮切りに野次馬が歓声を上げる。
「嬢ちゃんさすがだぜ!」
「坊主もよくやったぞ!」
アイラはサガに勝利したのがよっぽど嬉しいのかご機嫌だ。普段男勝りな女の子のああいう表情はグッと来るものがあるね。
「2人ともお疲れちゃん! サガ〜? 油断しちまったみたいだな?」
「うるさいですね。最近対人戦は少なかったから勘が鈍っただけです」
「油断したことは否定しないんだな」
珍しくバモスさんが煽る。サガは自分が油断した自覚があるのか苦い表情だ。
そこにタフトさんがとどめを刺したことでサガは何も言えなくなってしまった。
「いや勝ったうちを褒めて⁉」
完全にアイラを置いてきぼりにしてしまっていた。
このままだと2人もめんどくさい対応をしなくてはならない。これはなんとか防がなくては。
とりあえず労いの言葉をかけよう。
「アイラもお疲れ様。剣から火が吹いたのはびっくりしたぞ」
「あれはまだサガにも見せたことなかってん。すごかったやろ?」
「すごかったすごかった! かっこよかったぜ」
「ふふふ。ありがとね」
よかった。機嫌を直してくれたようだ。
女の人の機嫌を損ねると色々大変だからね。
「ほら帰るぞ。あまり遅くなると母さんが心配するからな」
タフトさんの言葉に従って俺達は帰路につく。気がつけばもう日が傾いているではないか。お昼を食べそびれてしまったからかお腹が空いた。夕飯が楽しみだ。
約1名元気がなさげなやつがいるけどご飯食べればきっとたぶん元気になってくれるはず。
もしならなかったら……それはその時に考えよう。
そうだ。寝る前にサガに模擬戦で使っていたあの氷について聞いてみよう。何かを教えてくれるかもしれない。あとアイラの出した炎も。コツを教えてもらえれば俺でも魔法を使えるようになるかもしれないね。
夕焼けを見ながら俺はそんな事を考えたのだった。