失くしたもののありがたみ
皆様健やかに新春をお迎えのことと存じます。昨年は何かとお世話になりまして大変ありがとうございました。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
ちょこちょこ投稿してくでな!
お残しをするのは少し俺のポリシーに反するが仕方ない。
気を取り直して今日のことを考えよう。
今一番気になるのは柴乃のことだ。トグログさん曰く身の安全は保障されているらしい。となれば問題はその場所だ。昨日はずっとサガと特訓していたし考える余裕もなかったが、できることならば早く会いたい。いや別にあくまで『友達』として心配なだけだ。あそこのご両親は優しいから……。
とにかく憶測からはじめよう。鍵になるのは、『目立つものがなさそう』だけか。
あのトグログさんなら目立つものがあれば教えてくれそうだし。これ以上の情報は期待できないだろう。
「ソウマ、今日はどうする?」
「悪いな! 俺は今日やることあるからお暇なサガ君は1人で遊んでくれたまえ!」
「がおー! 僕はドラゴンだぞ〜……おら、これで満足か?」
「お〜、いいじゃん上出来だよ」
俺に対しフンと鼻を鳴らしてサガは一階に降りて行く。一部始終を見ていたら壁にかかっている地図が目についた。これは大きな手がかりになるかもしれない。
個人を特定できない場合、人の行動心理から物事を考えることが第一だってこのあいだ見た推理ドラマでやってた。
目立つものが無いのであればおそらく砂地か草原じゃないかな。流石にこんな世界でも水の上はないだろう。次に、だ。そもそもどこに人は住みたくなるのか。確か歴史の授業の中で人は川の近くで農業や酪農を営んで発展してきたと記述があった……であれば川の近くというのが妥当だろう。
ここで役立つのがさっき発見した地図! 流石に『あの』柴乃でも右も左もわからない状態で動き回ったりはしないだろう。
更に絞るのであれば……図書室から俺はこの世界に飛ばされた。その時柴乃も一緒に居た。恐らく柴乃は後を追ってきた。なら答えは1つ! 同じ所から出る。
そしてまたまたここで行動心理の出番だ。
知らない場所で迷子になって何十kmも歩き回らない。そうなれば捜索範囲は半径5kmってところか。あくまで予想だがどーせ柴乃のことだ。あながち外れてもいない、と信じたい。あらかた決まったし探しに行ってやるか。
そこまで考えたところでリズミカルに階段を登る音がする。
再び扉から青い髪と瞳が見える。
「この分だと夜までかかりそうだな……」
俺が頭を抱えているのを見てからウキウキで戻って来やがったなこいつ。でも少し遅かったな。もう8割特定できたぞ。……俺の予想通りなら。
「また賑やかになるだろうけど構わないか?」
「は?」
「留守番よろしくな〜。そんなに長くはかからないと思う」
これだけ言って察してくれるサガ。
「お前、世話になったってのに手土産も持たずに行くのか? 巷じゃ毒舞々螺の軟膏とか少し値が張るけど喜ばれるらしいぞ。なんでも有害物質だけを取り除いて作ったそれは動物の皮膚に触れると微少な熱を発して、患部の痛みの軽減、血流を促進させるとかなんとか」
うん、少し尊敬したことはなかったことにする。少し悔しいからってマウント取ってきたぞこいつ。本当に申し訳ないけどすごい早さで捲し立てると余計に必死に見えるんだぞ。うわ……質問どうぞ? の顔してるよ。
「へ〜そんなものがあるのか。ちなみにおいくら?」
「店にもよるけど、大体金貨2枚ってところだな。不安ならついてってやろうか?」
たしか銅貨が10円、銀貨が100円、金貨が1000円くらいだったか。
すると今回は金貨2枚だから2000円か。
軟膏1個で2000円!? 普段使わないから驚いたが趣向品って考え方をすればそんなに高く……ない…………のか?
「いや、せっかくだけど1人で行くよ。誰かが居てくれないと買い物1つできないなんて小っ恥ずかしいからな」
「面倒事引っさげて帰って来んなよー」
「そうだ! どの辺で売ってるとかわかる?」
「オレを誰だと思ってる。図書館の近くに街があっただろ。あの街のもうちょい奥の方に行けば虎の子通りがある」
「虎の子通りって?」
「大体どの街でもそうだがエリアが4つに分けられてる。まず必需品と趣向品、その中からさらに道具・食べ物と衣類。これは共通しているから頭に叩き込んでおけ。まあ例外もあるが今回は気にしなくていい。今回言った虎の子通りは趣向品の中でも道具・食べ物を扱ってる通りだ」
あら詳しい。というか日本の商店街より随分と便利じゃないか。
「さて、暇な私めはこのお屋敷を警護しなくてはならないので邪魔者はとっとと消えやがれくださいまし」
と言い放つと同時に強めに扉を閉められてしまった。久々に自分の喋り方に問題があったのかと反省する。もう少し刺激していたら危なかった。かといって後悔はしていない。楽しかったし。いつもは誰かさんに言われて気をつけるようにしていたが……。まぁ寝て食えば忘れてるだろう。
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虎虎虎っとここかぁ。へぇ普段から商店街には来ること無いけど結構賑わってるんじゃないか? 浅草とかアメ横とか家族で行ったことあるけどそれ以上だ。
「あら? 見かけない顔ですね。ご利用は初めてですか?」
「はい。実は毒舞々螺の軟膏を贈り物にと」
「そうでしたか! でしたら是非ウチに寄って行って下さい!」
いきなり話しかけられたがちゃんと対応できていただろうか? あまりに露出が激しいお姉さんが応対したのだ。これこそまさに招き猫だろう。……虎だけに。
「ちょいと若いからってズルいじゃないのさ! こっちにも寄越しなよ。兄ちゃんこっちのが安く仕入れてるよ」
「あ〜! またジープさんイジワルした〜!」
「順番に見て回ろうと思います。お気遣いありがとうございます」
「ほら〜、気使わせてる」
「誰のせいだと思ってるんだい。年頃の小娘がそんなはしたない格好で色目使うんじゃないよ」
はたから見れば迷惑この上ないだろうが、俺は別の世界だったとしても人間は人間であることに変わりは無いと安心できた。
だがしかし、このまま言い争いを続けられると目的を達成できない。どうにか切り抜けなくては。
ここで一つ問題が発生する。俺、こう言う時の仲裁が苦手なんだよ……。
『だからついて行ってやろうかって言ったんだよ。だいたいお前は……』
どっかで遊んでなさいと脳内に出てくるサガの小言を振り払う。本人がいたらどれだけくどくど言われることか。寒気がしてきたしこれ以上考えるのはやめておこう。
実際似たようなことがあるんだよな……。いつも正月に家族揃って行くお寺で商売繁盛の神様のエリアがあるのだが、そこの前に稲荷様を表現した小さな像2つとお揚げが2つで500円。それが2店舗連なって店を構えてるからどっちで買おうか多いに悩む。
しかし俺の親はこういう時に……。
「今回はこちらでお世話になります。明日はよろしくお願いしますね」
と交互に利用する旨を伝えるのだ。多少商品に差があっても値段にそこまで大差が無いのならどちらを利用してもさほど変わらない。それにそれぞれの店も食っていかなきゃいけない。それならば均等に利用するのが妥当だろう。八方美人と言われても仕方ないが、これが1番かなと思うのですよ。
波風立たぬ平和な解決! 大切ですね。
思い付きで明日来ると口走ってしまったが、この世界の相場を知るいい機会になるだろうな。
「いらっしゃ~い! ボクは何を買いに来たのかにゃ?」
初対面の女性にいきなり失礼だがこれはきつい。
耐えろ……耐えるんだ相馬。お前が今ここで鼻の下を伸ばしているところを誰かに見られてみろ。きっと3日は引き籠るぞ。でも……日本じゃこんなのそうそう見られないぞ。あっても渋谷のハロウィンくらいだ。だがしかし、ここを耐えれば一皮剥けた男になれる。
「え、えっと……毒舞々螺の軟膏を探していて……」
「何? 聞こえないにゃあ~?」
「ち、近いです」
「冗談冗談! 反応が可愛かったからボクをからかっただけだよ。お代は金貨2枚でいいよ」
「あ、ありがとうございます。それじゃ!」
俺はこれ以上ナニかが起こらないよう足早に立ち去った。
ぶっちゃけコミュニケーションを取るのは嫌いじゃない。でも年頃の男の子の前にあんな人出してみ? みんなこんなんなるって。
下を向きながら商店街を抜ける。しばらく歩くと人影も見当たらなくなった。森が近くなってきた証拠だろう。
もう数分も歩けば……ほら、見覚えのある場所だ。
「しっかし無駄に広いな。こんな場所のどこからさがしたら……」
なんということでしょう。諦めかけた刹那、すこしばかり遠くに一筋の煙が見えるじゃありませんか。そして微かに響く水の音。川だ。俺の推測が正しければ目当ての家かもしれない。このままここに居ても答えは出ないし、行くか。
駆け出そうとしたその時、前方から声が!
「あいてててて……」
1人苦しむおじいちゃんを見つけた。どうやら野菜を台車で運んでいるようだ。
「おじいちゃん大丈夫? もしよかったら手伝うよ」
「おやまぁ。良いんだよこんな老いぼれに気を使わんでも」
「そうはいかないって。おじいちゃん無理してるでしょ?」
「うーむ。断るのも悪い気がしてしまうのぉ。そこの商店街までなんじゃが手を貸してはくれぬか?」
「お安い御用だって! 俺にもじいちゃんが居て、そのじいちゃんが言うんだ。『誰かが幸せになれるなら一緒懸命になりなさい』って」
「お主みたいなモンがあの国のてっぺんだったらよかったのじゃが」
あの国ってのが少し突っかかるけど、お国の政治はお偉いさんたちにしか動かせないし俺が気にしても仕方ないよね。おじいちゃんの言葉をあまり気にかけずに俺は台車を押したのだった。
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「おじいちゃん! これで全部かな?」
「へいへい、ありがとさんよぉ。お礼に茶でも一杯どうじゃ?」
「それじゃあ遠慮なく。ついでになるけど他に困ってることある?」
「いんや。ウチにも最近若い娘さんが来てのぅ大半のことは手伝ってくれておる。ありがたい申し出じゃが気持ちだけ受け取らせてもらうとするよ」
「娘……? おじいちゃん、その子の名前って何?」
「名前? はて……そういえば聞いてなかったのぉ」
いや聞いてないんかい! 気にならないのかな? 俺なら気になるなぁ。
「どんな感じの子? ほら、特徴とか」
「げへ……。顔はべっぴんで。発育も良くて。髪はサラサラで。良い香りがしよる。婆さんの若い頃を思い出すわい」
なーんかイキイキしだしたな。何年経とうが男は男ってことだな。
このおじいちゃん、話してるとすごい良い人って感じだったから驚きだ。
「……冗談じゃよ冗談! さ、もう少しの辛抱じゃ」
その娘さんとやらが柴之じゃないにしても一度事情聴取くらいはしておいた方が良さそうだな。
「ほれ、見えるかの? あの煙が出とる家じゃ。婆さん! 帰ったぞお客様も来とる、茶を沸かしてくれ」
荷台の時のようにすぐ声をかけようとしてしまったが、気づかいも度を過ぎるとおせっかいになりかねない。ここは扉を開けるくらいが丁度良いだろう。
人に尽くし過ぎるのではなく、適度に甘えられる人が可愛がられるとじいちゃんも言っていた。
「何から何まですまんの」
「いえいえ、むしろこれぐらいしかできなくてすみません」
「あらおじいさん。こちらの方は?」
「あぁそうかそこからじゃったな」
俺はおじいさん宅に招かれ淹れてもらったお茶をいただきながらこれまでの経緯を説明した。
「まぁそんなことが……。本当にありがとうございます」
「気にしないでください、当然のことですから」
褒められるのは素直に嬉しい。人から感謝されるのって結構良いものだな。
サガも連れて今度ここに手伝いに来よう。あいつはちょっと前向きな感情を表に出すのが下手な気がする。
その後も思いの外話は弾み、体感で30分ほど話していたかな。すっかり当初の目的を忘れそうになっていた俺だったが、ある音を聞いて少しずつ思い出していく。
話に夢中で分からなかったが微かに『トントントントン』と聞こえてくるのだ。
扉をノックするのであればもう少し強く叩くだろうし、おじいさんとおばあさんが何かしているわけではない。この家に何かが、いや誰かがまだいるのだ。
「どうだろうソウマ君。君さえ良ければ晩飯を一緒にというのは」
「そうよ。食べ盛りなんだろうし沢山食べて行きなさい」
「願ってもない申し出でありがたいんですけど、連絡手段を持っていないので……」
そう言った俺は判断を下すために一度外を見て冷静に考えた。
しかしそこに見えた光景で俺は集中力がすっかり途切れた。
なんとサガが木の上からこちらを見ていたのだ。あの野郎全部見てやがったな? うわぁー無いわー。
「すみません、一度席を外してもいいですか?」
「どうしたんでしょうねぇ」
「わしにはさっぱりじゃ。あんだけ良い青年なんじゃから何かしら事情があるに違いないわい」
「お前付いてくるなら一言断りを入れてだな……」
「シルビアさんには俺から言っておく。1回首突っ込んだんだから最後までやれ」
「やれっつったって向こうの好意なんだぞ? そういう言い方は……居ない!」
あいつ俺が反論した瞬間にどこか行きやがったな。でも連絡係してくれるならチャラにしといてやろう。
「すみませんお待たせしました。ご一緒させてください」
「おじいちゃん、おばあちゃん静かになったけど話終わった? 晩ごはんできたよー」
「「あ」」
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いやいやいや。なんとなく声で察しはついてたけど久々に会って一言目が「あ」って何よ。こっちはどうなるかもわからない状態で後を追いかけたっていうのに、せめて「良かった無事で」とか「ずっと探してた」とかあっても良いんじゃない?
「元気にしてたか?」
「これが元気に見えない?」
「んー……前よりも元気そうに見えるな。っておいおい! どうしたんだよいきなり」
「え?」
なにこれ? 相馬の顔がよく見えない。これも夢なの? いつもみたいに学校行っていつもみたいに話してて、それで突然当たり前が崩れた。夢と思ってもおかしくないよね?
「ああもう。これ使えって」
あんまり見えないけど受け取ればいいの? ん……なんか布っぽい。
「これ受け取ってどうすれば?」
「どうって……泣いてるだろ? やっぱり相馬さんはしっかりしてるな。男がハンカチを持つのはもう当たり前なんだよなー! その……何て言うか悪かったな。後先考えずに好奇心で行動して結果的に柴乃を巻き込むことになって」
そっかハンカチだったんだね。でも今はっきりした。相馬がここに居てうちがここに居る。なによりあの日あげたハンカチが今ここにある。これは夢なんかじゃない。
「『3年C組 真記 相馬』ってこどもじゃないんだから」
「幼稚園のころ失くしものが多かった俺にお前が教えたんだぞ? 『だいじなものにはなまえかかないとだめだよそうまくん』って」
「似てないんだからモノマネしないでよ。でも色々ありがとうね。今になってやっと状況が理解できた気がする」
今も大切に持っていてくれたんだね。でもこれからどうすればいいんだろう。相馬と一緒に行きたいけどお世話になった御恩もあるし。
「コホン……ゲホッゲホッ。ゴホッゴホッ! いやぁすまんすまん咳払いしたかっただけなんじゃがたまたま咽せてしまったようじゃ」
「ちょっとおじいさん……とりあえず積もる話もあるでしょうからお夕飯を食べながらゆっくり話しましょ。知ってた?シノちゃんってとてもお料理の腕がいいのよ」
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俺たちは柴乃の手料理を食べながらこれまでの経緯とこれからどうしたいかなどを話し合った
「うちもそりゃあ付いていきたいけどまだまだ御恩を返せたなんて言えないし、何か良い方法あったりしない?」
「いや良いんじゃよシノちゃんや。これまでたくさん元気を分けてもらった。それだけで十分じゃよ。わしらこそ元気のお返しにソウマ君やシノちゃんを連れて行ってくれんか?」
おばあさんは黙って頷いているのでどうやらおじいさんの意見に賛成らしい。
「そうですねぇ……俺こういう者なんですけどって証明できるものないんだった。えーっとタフトという男性が営む道具屋はご存じでしょうか?」
「あー! あのお店ね。なんでも最近この辺じゃ見かけないものが売ってて質も良いと話題になってたわ」
よしよしおばあさんが喰いついてくれた。
「なんと! 王国にも商品を納品したというあの店か。それでその店がどうしたんじゃ?」
「自慢……ですねこれはもう。その見たことのない商品という物は俺が考案しているんですよ」
「それじゃこっちでは読書オタクじゃなくてバリバリのマーケターってこと?」
「いや、正式には冒険者だ。俺も住まわせてもらってるから恩を売り上げで返してるんだ」
マーケティング業務だなんて考えたこともなかったが、言われてみればそうか。これからは広告とかにも手を出して売上が上がるようにしてみようか。
「あ、そこでですね。1つ質問させていただきたいのですが、もしこのまま農業を続けるとして俺が交渉をした場合、毎日街まで作物を運ぶ必要が無くなるとしたらどう思いますか?」
「そりゃあわしらも歳じゃからそれはありがたいが、良いのかね? ここで育てているものの多くは食用。とても道具屋の役に立つようには思えんのじゃが」
「そちらに関しては考えがあるので大丈夫です。あ、もちろん提供いただけた場合は代金の方も支払います」
仮に商品にならなくても知っている人が作った作物なら安心して食べられるし、それに絶対に失敗はさせない。必ず成功させて老夫婦とタフトさん達に恩返しをするんだ。
「でも良いのかしら? そんなに良い内容にしてもらって」
「ばあさんや。せっかく申し出てくれたんじゃ任せてみようじゃないか」
「ありがとうございます。受け取りには俺と柴乃で伺う予定です。お前はこれで良さそうか?」
「なんか社交性上がった? win-winになってるみたいだから反論も何もないけど」
「いやぁご馳走になっちゃってすみません」
「どういたしまして」
「あぁそっか柴乃が作ったんだった」
「またいつでも遊びに来てちょうだいね」
「もう日も暮れとる。気をつけて帰るんじゃぞ」
「あのさぁ」
なんだ? 心残りでもあるように柴乃が喋りだした。
「どうした? なんか忘れ物でもしたか?」
「ここに来た時から気になってたんだけど、その包みはなんなの?」
「やっべ忘れてた。これお土産です」
「そーゆーところは変わんないんだね……」
お土産を渡してから後は夜も遅くて集中力が残っていなかったからなのか、安堵から疲れがどっと出たのか、あんまり覚えていない。最後に覚えているのは寝巻のサガが出迎えてくれて食卓で泥のように眠ってしまったことだ。
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おいおいおい! なんなんだよ一体。寝て起きたらまーたカップルが増えてるじゃねぇかよ。
あーもう! 俺ちゃんもなんか良い出会いねーもんかな。
「バモスさんどうかしましたか?」
「皮肉か? 皮肉なのか!」
そんなに綺麗な目で見るな。爆ぜるぞ俺ちゃんが。
どうやらこのお嬢さんは『シノ』さんって名前でソウマの幼馴染らしい。良いよなぁ~幼馴染。マジ羨ましいわ。ソウマの後を追ってこの世界に来たらしい。しかも一途なのかよ……。ノーチャンスってわけだな。住まわせてもらう代わりに家事全般をやってくれるみたい。もう嫁さん候補として完璧じゃん。とっとと結婚しろよソウマ。俺ちゃんが盗っちまうぞ?
「ねぇ相馬? この人なんか怪しいんだけど……」
「なんてこと言うんだよ!」
ソウマ……やっぱりお前良いやつだな。俺ちゃんの数少ない親友として認めてやるぜ!
「確かに髪とかボサボサだし、無精ひげも生えてるしチャラいけどそれなりに顔整ってて良い人なんだぞ!」
やっぱやーめた。もうオーバーキルにも程があるだろうが!
「盛り上がってるところ悪いが、寝床はどうするんだ? 俺とかみさんも住むことに異論はないんだが。サガとキャンディみたいに一緒の部屋が良いか? でもあの2人は夫婦だからなぁ……」
「面倒なことは考えなければいいじゃない。部屋だって限られてるわけだし」
キャンディちゃん? 俺ちゃんの過疎化が急速なんだけど。……まんざらでもない反応をするんじゃない。
「これで全員誰かしらが部屋に居るってこと……あ。なんでもないです忘れてください」
おーーーーーーーい! サガ貴様ゴルァ。
「とりあえず部屋は一緒でも大丈夫です。ひとつ屋根の下なんで何か起こることもないでしょうし」
「そうだな。ひとまず決まったことだしこれでお開きにしようじゃないか。みんな今日もよろしく頼むぞ」
くっそー! 俺ちゃんだって良いオンナ引っかけてきてやるからな!俺ちゃんより若いやつらばっかり楽しみやがって。それまではあいつらからどことなくアドバイスとかもらってみたりするか……。
「部屋が……広いな」