好奇心には御用心
元星空恭弥です!
再びなろうに作者として戻って参りました。
今作は友人との合同作品になっております。
どうぞよろしくお願いいたします!
やあみんな、突然なんだけどみんなには誰か他人に自慢できる特技や才能ってある? え? 俺? 俺はないよ。強いて言えば記憶力にはちょっぴり自信あるかもね。
つくづく思うけど世界って不平等だよな。生まれた家とかによって大きく人生が変わるなんてひどいと思わないか? 誰がこんなこと決めたんだろうな。才能のない人間はあるやつに顎で使われなきゃならないなんて最低だ。
この物語はいわゆる「俺TUEEEEE」ではない。1人の少年の泥臭い努力の物語。
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なぜだろう。今すごく心地のいい浮遊感がある。ずっとここにいたい。
ーーま……き
なんだ? 誰か俺を呼んでいるのか?
ーーまさ……き
うるさいな。もう少し静かにしてほしい。
「真記!」
「ふぁい!」
変な声を上げつつ意識が覚醒する。どうやら俺は授業中に眠っていたらしい。
「授業中に寝るんじゃない! 真面目に授業受けろ!」
「すいませーん」
クラスにクスクスと笑いが溢れる。うーん。昨日夜更かししたせいでクラスの笑いものになってしまった。ちくせう。
「おまえ、さっきすごい変な声だったな!」
どうやら友達が休み時間にわざわざ掘り返すほどには変な声だったらしい。
「うるさいな。ゴリ先生の授業眠くなるんだよ」
「さすがにあんなに爆睡してるとは思わなかったぜ、思い出しただけで笑える。はははっ!」
「チッ」
舌打ちをして見せても友人の笑いは止まらなかった。
「ま、夜ふかしも程々にしとけよ。また船漕いで笑い者になりたいなら別だけどな、あはは!」
「はいはい、すいませんでした!」
全く……人のことバカにしやがって。お前だって時々寝てるじゃねえか。
勉強に集中していると4限目の授業が終わった。ようやくお昼の時間だ。
「走馬、屋上行こうや!」
休み時間になってすぐ声をかけてきたこいつは幼なじみの乾柴乃。色白で大人しめに見られることが多いが、そんなことはなくとても活発でいつもさらさらロングヘアーの持ち主だ。父親か母親かどっちか忘れたけど、どっちかが西の方出身の人らしい。
いわゆる、幼稚園から高校までずっと一緒の腐れ縁ってやつだ。
「いや授業終わったばっかだぞ、ちょっと待ってくれよ」
「女の子待たす男はモテへんよ?」
「わーったからちょっと待てって!」
幼い頃からこの調子だ。勝気で俺より少しおチビなこいつに俺は振り回されっぱなしなのである。
「ったく! 相変わらず人使いが荒いなお前は」
「お前ってなんやの? ウチには柴乃って言う可愛い名前があるんやで!?」
「あーはいはいわかったよ、乾柴乃さん!」
「そう。それで良いんや」
名前を呼ばれてご満悦。お前は犬か。
そうやっていつものように掛け合いをしながら歩いていると気がつけば屋上に到着していた。
「なぁ? 走馬はなに持ってきたん?」
「お? 気になるか。少しは俺も上手くなったんだぞ?」
「ほほぅ? 見せてもらおうやないか」
俺は少し古くさい効果音を口に出しつつ弁当箱の蓋を開け自慢げに柴乃に見せる。
「ジャーン! どんなもんよ! 午後の授業も頑張れる『スタミナ満点走馬特製弁当』だ! 少しいるか?」
「……え?」
「え?」
思っていたより良くない反応が返ってきた。俺の特製弁当に不満でもあるのか?
「いやいやいや、1面揚げ物やんか!」
「そうだけど? 苦労したんだぞ!?」
「うちのを見てみい」
そう言われて柴乃の弁当箱に目を向けると、なんということでしょう。食欲を促すような美しい色合い。そして俺の弁当より圧倒的に栄養がありそうである。これが格の違いってやつか……。
そういえばこいつは昔から料理が美味かった。最近ようやく揚げ物を作れるようになった俺との差は良く考えればとても大きいものだった。
「……け、結構なお手前で」
「そんなん食べたらスタミナ通り越して胸焼けになってまうて。ほらこれとか食べとき? あーんしたげるさかい」
「良い! 自分で食うから!」
「なんやせっかくのチャンスやったのに……」
「そ、そーだ。今日は予定ないだろ? 今日は夏休み近くだからってことで飯食ったら解散だし、図書室にでも寄っていかないか?」
「なんや? 人気のない図書室で何するつもりなん?」
「……」
「え? もしかして本気で……?」
「ちょっと何言ってるかわかんない」
「なんやねん!」
不満げに頬を膨らませてこっちを見る柴乃を尻目に俺は弁当をかきこむのであった。
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帰りのHRも終わり、俺たちは席を立ち図書室へと向かった。
「おい、図書室では静かにしろよ? 柴乃はうるさいんだから」
「退屈しなくてええやろ?」
「……」
「なんで黙るんよ!?」
うーん、やはりこいつに図書室は似合わないな。外で運動しながらはしゃいでいる方がこいつらしい。黙って静かにしてれば別なんだけどな。その長い髪と色白の肌も相まって物静かに見えるんだが……。
まあ今はそんなことより本だ、本。最近は怪盗物と異世界転生物にハマっている。
「さ、て、と昨日はここの列制覇したんだったな」
「列!? 今列って!?」
何を驚いているんだこのおチビちゃんは。別にこんなの普通だろ。
「そうだけど、なにか?」
「『そうだけど?』じゃあらへんやろ! いつからそんなバカみたいなスピードで読めるようになったん?」
「バカとはなんだバカとは。なんだろう、ランナーズハイって言うのかな? 読んでるうちにどんどんハマっちゃって自然とこうなったみたいなんだよなー」
「……」
なんだ? 反応がないな。こういう時間をフランスでは天使が通るって言うらしいけど天使に興味はない。
「おい! 人がせっかく説明してるってのになにを黙りこくってるんだよ?」
「……」
「お、お〜い? 柴乃さん? どうした、何か問題でもあったのか?」
声をかけても活発なおチビちゃんは俺の後ろの本棚に目を向けて黙ったままだ。いつもの活発さはどこに行ったんだ?
「いや……走馬、ここなんかおかしない? なんかズレてる? というか……。断層みたいになっとるというか……」
何を言ってるんだこいつは。そう思いながらも俺はその真剣さに押されて後ろを見る。
「本当だ! 良くこんなの見つけたな。どうなってるんだ? これ。どれどれ少し見てみよう」
それはあまり大きくなかった。目を凝らしてみないとわからないかもしれない。
柴乃はその謎の現象に少し恐怖を覚えているようだが、俺は好奇心が恐怖を上回った。
「なんか嫌な予感する……。走馬、もうやめとき。何が起こるか……」
「こんなの見つけてじっとしてろって言う方が無茶だろ〜?」
俺は抑えきれぬ好奇心のままに近づき触れてみる。
「あ、開いた! なんだこの穴? 穴から空気が流れてきてるから恐らくどこかに繋がってるんじゃねえか?」
「ほら言わんこっちゃない。こんな訳分からん穴に吸い込まれて帰って来られなくなっても知らんで?」
「大丈夫だろ。こんなサイズの穴に入れるわけがない……ん?」
ふと俺の頭につい最近読んだ小説の内容が浮かぶ。人は頭さえ入れば体を全部入れることが出来るといった内容だったような……。ここで俺もようやく危機感を覚えたがそれは少し遅かったらしい。
「うわぁぁぁぁぁー!」
「走馬!」
俺は一瞬にしてその謎の穴に吸い込まれてしまった。最後に柴乃の驚愕の表情が俺の目に映り、そのまま俺は意識を失った。
図書室には尻もちを着いた少女と静寂が残された。
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ふと気がつくと俺は森の中に倒れていた。どうやら気を失っていたようだ。どこだここは?家の近くにこんな森あったっけ? いやいやおかしい。家の周りは森と呼べるほど大きなものはなかったはずだ。本当にどこなんだろうここは?
とりあえず何があったかを思い出そう。確か俺の産まれた病院は……。って違う違うそうじゃない。出生から思い出してちゃ日が暮れちまう。えっと柴乃と一緒に飯を食ってその後に……。
そうだ思い出した。よくわからんズレに触ったら穴が空いてその中に吸い込まれちまったんだ。しかし図書室で吸い込まれるなんてどういうことだ? 自分の記憶を疑いたいところだが、あいにく俺の記憶力はいい方だ。物体が瞬間移動する確率は0ではないらしいが……。「ありえない」なんてことはありえないって名言を残したのはあの強欲のホムンクルスだっけか。
そういえば学校で異世界物が流行ってたけど、俺異世界来ちゃいました? 確かに俺も好きなジャンルだけどあれは読む立場だから面白いんであって実際経験したら困ることしかないんだよ!
いやいや、ここが異世界だとまだ決まったわけじゃない。もしかしたらここは家の近くの森かもしれない。散策すればきっと人に出会えるだろう。
この時点で俺は先程家の近くに森がないと自分で確認したことを忘れていた。忘れるほど焦っていたとも言える。
しかしそのことには気づくことなく俺は探索に向かうのだった。
周りを観察しながら探索を始め、だいたい10分は経ったと思われるがまあそう都合よくこんな森の中に人がいる訳もなく誰とも出会うことはなかった。
わかったのはここが穏やかなところだということ。木漏れ日は暖かいし風は涼しい。とても過ごしやすい。今のところ情報が何も無いことと自分の置かれてる状況を理解できないことを除けばなかなかにいい時間だった。
そんな穏やかな時間もここまでだということを俺は知ることになる。それは本当に偶然、後ろを振り返ったことがきっかけになった。
俺から10mほど離れた位置にやつがいた。日本人ならおそらく誰もが嫌う黒くてながーい触覚のあるしぶといやつ。黒くてテカテカしてすばしっこくて憎い奴。
ここまで言えばもうわかったよね! やつが俺に近づいてきていたのだった。付け加えると目測で5mほどの大きさ。そして赤い目がこちらを見ている。
あんなのがいるということはここはほぼ確実に異世界だろう。どうやらあの穴を通り俺は別の世界に来てしまったようだ。
とりあえず現状の理解はできたが、そんなことをしている場合ではない。なぜなら向こうからの熱い視線をバンバン感じるから。気のせいと思いたいが明らかに目が合ってしまっている以上これは気のせいではないだろう。これが美女だったらとてつもなく嬉しいのに……。って危ない危ない、現実逃避している場合ではない。理性も本能も言っている。このままではマズイと。俺は全速力で駆けだした。
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走り続けること25分。こんなに長い間走ったのは授業の長距離走以来だぞコノヤロウ! あの時とは違って命の危険があるけどな!
このように、疲れと怒りにより注意散漫になっていた俺は足元に転がっていた石に気がつくことができずにギャグ漫画のように派手に転んでしまった。
「いってえな……」
思わず声に出てしまう。高校生にもなって転ぶなんて久々じゃないか? 膝擦りむいちゃったよ。距離も少し詰まっている。
でも転んだおかげで光明が差した。そこにはこの場を切り抜けるのに必要だと思える植物が生えている。そこにあったのはハッカと似た形状の植物だ。確かハッカはオーガニックの虫除けに使われていた。しかも茂みになっていて俺が隠れるだけのスペースがありそうだ。
ただ隠れるだけじゃ突っ込まれて人生が終了になりかねない。どうにかこいつでやつの意識を逸らさなくては。
もしやつが俺の元いた世界と同じ性質を持っているのだとしたら、こいつを嫌がって意識を逸らすことができるかもしれない。
とはいえ、匂いと形状が似てるだけであってこれがハッカという確証はないし、仮にハッカだとしてもこの世界のやつには効果は薄いかもしれない。だが今の俺にはこれを試す以外に命が助かる方法は思いつかない。俺の事から一瞬気を逸らすだけでいいんだ。
確か葉をちぎると匂いが増すんだったよな。これを道にばらまいてみよう。
一瞬、ほんの一瞬だがハッカらしき植物に気がついたやつの意識が怯んだ、ように見えた。命の危機があるためか俺は今まで生きてきた中で最も早く動き茂みに身を隠すことができた。あとの結果はカニの味噌汁、じゃなかった。神のみぞ知る。どうか別の場所に行ってくれ。
何分たったのだろう。5分と言われたらそのような気もするし1時間と言われたらそのような気もする。茂みからこっそり頭を出して周りを確認する。……。どうやらやつはいないようだ。よかった……。張り詰めていた気が抜ける。元いた世界では命の危機なんてそうそうなかったからな。緊張感が半端なかった。よかった、助かって本当によかった。
気の抜けて少し放心状態の俺の耳に飛び込んで来たのは人の声らしきものだった。
認めたくはないが異世界転移をしてしまったらしい俺にとって初めての意思疎通ができる可能性のある生命体との遭遇である。
会話を聞き逃す訳にはいかない。俺は息を潜め、聞き耳を立てた。
「―――――!」
「―――――――――!」
茂みの中にいるせいか若干聞き取りにくいな。この際顔出しちまうか。
「はぁ〜? 流石の俺ちゃんもプッツン来ました!」
「どうぞどうぞ、好きなだけお怒りになってください。あなたがどれだけキレ散らかしたところで私には痛くも痒くもないのですよ。かかってくると言うなら相手になりますけどね」
「おいおい、その辺にしとけ2人とも」
「そうやそうや! こんなところでいらん体力使わない方がええて!」
おー! まさかの言語理解が可能とは! 今まで神様に感謝したことはほとんどなかったけどこれは本当にありがとうございます!
なんか喧嘩してるみたいだけど喜びに溢れている俺にそんなことを気にする余裕はない。とりあえず声をかけてみることにした。
「あのー、今って忙しかったりします?」
4人の視線が一斉にこちらを向く。その中で可愛いピンク髪の女の子が口を開いた。
「なんや? パッとしない男やな」
この際関西弁なのはスルーするとして、初対面で言われた言葉がこれって酷くないか? なんか男勝りな感じもするし俺ってこういう女の子になんか縁でもあるのか?
だがしかし、人と会話ができることに心踊る俺は気にすることなく会話を続け、4人組を観察する。
「実はさっきまで巨大な虫のモンスターに襲われていまして、命からがら逃げてきたんですよ」
「それはそれは災難でしたね、もしかして撃退を?」
そう声をかけてきたのは青い髪と目のイケメン。手袋をしてるな。そんで左耳にイヤリングをつけている。そしてイケメン。
「必死に逃げて来たんですよ! すごく怖かったです」
「そいつはすごいな。見たところ冒険者でもないようだし、俺ちゃんなら怖くて足すくんじゃうね」
「あなたならすぐにやられて食べられてしまうでしょうね」
「口挟んでくるな! お前は俺ちゃんにもっと敬意を払うべきだぞ!」
青髪とこの人がどうやら喧嘩していたらしき人だな。無駄にイケメンな金髪。そしてベルトを斜めにしているな。オシャレか?
「出会い頭にうちの娘がすまんな。怪我とかはしてないのか? 回復薬あるんだが使うか?」
「それじゃあ頂いていいですか?」
「もちろんだ」
今話しかけてきたのは筋肉隆々で背中に盾を持ったナイスガイ。さっきの女の子のお父さんかー。ということはこの人が1番年長者なのかな? そして回復薬だと?! 異世界に行ったら1回使ってみたかったんだよねこれ。この時点でここが異世界ということが確定してしまったわけだが今の俺に気にする余裕はない。ワクワクしながら液体状のそれを振りかけると擦りむいた膝がみるみるうちに再生した。
「ありがとうございます!」
「なあに、当然のことをしたまでさ」
めっちゃかっけえなこのナイスガイ。一生着いていける。
「俺ちゃんから質問いいかな? どんなやつに遭遇したんだ?」
「事前に聞いておかないとあなたは逃げられませんからね」
「うるさいぞ!」
この金髪と青髪は仲が良くないのか? 口喧嘩ばかりじゃないか。まあ喧嘩するほど仲がいいとは言うけども。
「おや? 私は事実を言ったまでですが? 戦闘になったらすーぐいなくなるのはどこの誰でしたっけ? どこぞの金髪だったと私は記憶してるのですが……」
「ぐっ、今回は引き分けということにしてやる」
そして青髪の圧勝。金髪の方が年上に見えるんだが口喧嘩は強くないようだ。
「お前の大敗な気がするが大丈夫か?」
ガタイいいおっちゃんが俺の言いたいことを言ってくれた。そして若干しょぼくれた顔をする金髪。
「こら! 話逸れてるで! さっきまでの話どこ行ったん?」
ピンク髪の女の子はしっかり者だな。学級委員長タイプだ。
「そうだったそうだった。俺ちゃんの命に関わることだからな」
「この場にいるのはあなただけじゃないんですけどね」
どうやら口喧嘩じゃ分が悪いと踏んだらしい。金髪は睨むだけだった。っと観察してる場合じゃない。聞かれたことには答えないと。
「えーっと、黒くて光沢があって触覚が長いやつでした」
「もしかしなくても気持ち悪いやつですよねそれ」
声色に明らかに嫌悪感を表しながら青髪が言う。その通りである。見たら殺さなくてはならないほど気持ち悪いやつだ。
「そうですそうです! めっちゃくちゃ気持ち悪いやつです! もしかしてご存知でした?」
「こいつ虫大っ嫌いの潔癖症だからな!」
なるほど、だから手袋してるのかな? そしてここぞとばかりにいい笑顔の金髪。
「うるさいですね。誰にだって苦手なものの1つや2つあるでしょう」
「こいつにはなかなか勝てないけど虫を使えば俺ちゃんでも勝てる時もあるんだぜ!」
「喧嘩になるようなことはやめろ!」
やはりナイスガイがリーダー的なあれなのかな? 年長者っぽいし。ナイスガイに追従するように青髪も言う。
「そうですよ。こんなことしてる場合じゃありません。もし彼の言うやつが来たら……」
お前が言うか、とツッコミたかったが、青髪はそこまで言うと顔を真っ青にしてその場に崩れ落ちてしまった。
青髪以外のみんなも顔を青くしている。どうしたんだ?
「勘弁してや! なんでここぞっちゅう時に役に立たへんの?」
イケメンが美少女に介抱されてる! 罵倒されながらとはいえ許せん……。爆発しろ!
私怨を抱いている場合ではない。なぜにみんなして突然顔面蒼白しているんだ? 悪い予感がするのだが……。
「あのー」
「俺ちゃんから警告なんだけどさ、後ろは見ないほうがいいと思うぜ。さっき話題にしてたやつが仲間引き連れてきてるからさ……」
俺の言葉を遮るように金髪が教えてくれた。要するにやつが大勢現れたってことですよねふざけんな。同一個体かわからないからキレても意味ないかもだけど。
「とりあえず俺が気絶してる奴を背負うからとにかく全速力で逃げるぞ。合図を出すから、森を抜けることを考えてまっすぐ走れ。はぐれたら面倒だからまっすぐだぞ」
さすがリーダー(?)。ちょっと雑だが判断が早いな。年の功ってやつかな?
「よいしょっと。準備できてるか? そいじゃあ行くぞ……。3、2、1、今だ!」
弾かれたように走り出す。それはやつらも同じだった。どうやらタイミングを伺っていたらしいな。そしてさっきより明らかに速い。
よく見るとやつらの脚には鋭利な鎌らしきものが見受けられた。こいつで切られたら一巻の終わりだということが容易に想像出来る。
「あんたが連れてきたんやからね! これで死んだら許さへんで!」
「許さないも何もあなた達が死んだら俺も死にますから! 名前も知らぬお嬢さん! どうせなら最期に俺の童てーー!?」
何だこの殺気は!? あいつとは似ても似つかない。まるで子供を守るライオンのような……。これは右か? 今絶対に右を向いてはいけない気がする。視界の端に少し映っているのはナイスガイ。そういえば親子だと言ってたな。
「どう? どうってなんや?」
「いやいやいやなんでもございません忘れてください」
純粋な子でよかったよほんとに。人生最大の危機更新しちゃったけどな! この話題を出すのはやめておこう。
なにか別の話題を出してお茶を濁さなくては。そうだ!
「これどの辺まで逃げ続けますか!」
これでどうだ。危機的状況を切り抜けることは1番大事だからな。
「俺ちゃんはそろそろ体力限界!」
「そんな情けないことを叫ぶんじゃねえ! と言いたいところだが埒が明かないのも事実だ。ここまであいつらが速いとは思わなかったぜ」
「そんな冷静に分析しとる場合やないでしょおとん! このままやと街まで着いてきてしまうかもしれへん! この潔癖症は起きてこないし!」
もしかしなくてもマズイ状況だったりします?
「仕方ない、やつらを撃退するぞ!」
「マジで言ってます?! 俺ちゃんは大反対です!」
「普段は戦闘から逃げてばかりなんだからこんな時くらい気張れ!」
「ああもう! わかりましたよ! たまには俺ちゃんだってやれるんだって見せてやりますよ!」
「その意気だ! こいつのことは一旦任せる!」
「任せておとん!」
ナイスガイは美少女に青髪を投げ(?!)美少女はそれを綺麗に受け止めた。その流れるような動きに見とれていると、ナイスガイは斧と盾を、金髪は弓をどこからともなく取り出した。どういうことだ?
考えてるうちに戦闘はスタートした。ナイスガイが盾で1番先頭の個体の攻撃をいなしつつ金髪が弓で攻撃する。時々斧で切りつけたりもしているな。しかもどういう方法かわからんがやつはナイスガイに集中攻撃している。そのおかげで金髪は自由に動けているようだ。
当然の事ながら喧嘩とは大きく違い、その激しさに少しビビったのはここだけの秘密だ。
「さて、それじゃあウチも参加しますか! ちょっとこの男見といてな!」
「えぇ?!」
観戦に夢中になっていたら面倒事を押し付けられてしまった。抗議の声は無視されてしまう。不満を顔に表しつつ美少女の駆け出した方向を見るとまたもどこからか大剣を取り出しているではありませんか!
「はぁぁぁぁぁ!」
大剣をやつの脳天に振り下ろし、絶命させてしまった。人は見た目によらないってこういうことを言うのね。
「滅多に見せない俺ちゃんの奥の手見せてやる!」
何らかの魔法のたぐいなのだろうか。金髪が広範囲に緑色に光る矢を放ちやつらを殲滅した。どうやら危機を脱したらしい。
「やればできるやん!」
「ふっふっふ、俺ちゃんのこと尊敬してくれてもいいんだよ」
これは満点のドヤ顔。今のは尊敬出来るかもしれぬ。
「普段から真面目に戦ってれば尊敬できるんやけどね。こんな時くらいしか役に立たへんからな」
「あのさ、普通に悪口言ってくるけど俺ちゃんだって傷つくことあるんだからね?」
これは満点の悲しい顔。普段から素行に問題があるらしい。
「あ、あんた街までの行き方知っとる?」
「え? 俺ちゃんのこと無視?」
「いえ、ここには来たばかりなので……」
「それならとりあえず俺たちの村まで送ってやろう」
こうして話はするする進み俺はこの人たちに同行することになっていた。