7時【目覚め】
7時【目覚め】
「いい加減ーをーーーーよ!」
真っ暗な闇の中、また聞き覚えのある声が聞こえる。
そして、目に映るのは彼女の唯一の恋人、彼の姿が見える。
彼は涙ながらに、なにかを必死に訴えている。
だけど、以前と同じように聞こえない。
その声は届かない。
「もう、ーーーーよ…もう、忘れてよ…」
だが、微かに聞こえた最後の声。
彼女は彼の姿が見えている内に手を伸ばした。
そして、彼の手を掴むようにして手を握った。
「ひゃん!?」
(…ひゃ…ん…???)
妙な女性の声を聴き、即座に目を覚ます。
窓から差し込む明かりが眩しく、一度開けた目をそっと閉じ、再度ゆっくりと開ける。
すると、目の前には見知った先生の姿が目に映る。
「あ、、保健室の先生、おはようございます」
すると、先生は少し赤くなりながらも笑顔で答える。
「はい、おはようございます…それと…手を…離して…欲しいのですけど…」
(手…?)
少し恥ずかしがる先生を不思議に思い、少し手を動かす。
(なんだろ、柔らか…い?)
「ちょっと、千流さん!?や…やめて…ください…」
少しずつ顔が赤くなっている先生を見て、私は伸びている方の手を見る。
その手は…先生の胸部を掴んでいた。
(えっと‥…)
頭が回っていないのか、数秒の思考の末
「は…!?」
掴んでいる手を離して飛び起きる。
「ごめんなさい!先生!」
「い…いえ!大丈夫だから謝らないで…!」
そうして、保健室に異様な空気のまま、ベッドから立ち上がる。
「痛っ…!」
立ち上がった際に、猛烈な痛覚が体中を迸る。
痛みのする方を見ると、左膝に切り傷のようなものが見える。
(…?、この傷、いつの間に…?)
自分に見知らぬ傷ができていることに思わず動揺する千流。
それを見た先生は、医療セットを棚から取り出して話す。
「千流さん、身体中怪我してるじゃない。こっちの椅子に座って、手当してあげる。」
と、椅子に誘導するかのようにポンポンと椅子を軽く叩く。
「あ、ありがとうございます。」
と、会話を交わして、先生用のデスクの傍に置いてある椅子に腰かける。
改めて痛い場所を確認すると、傷口は首・膝・腕に計4つの切り傷があった。
先生は傷口を綿で薬を塗り始めた。
「くうぅぅぅぅぅぅ!?」
(痛い…痛い!!!!)
その傷口から電気が走るような痛みが彼女を襲った。
「こんなの軽い傷だし、少しだけだから、、我慢してね、、、」
「は…はぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
(なんで、どうしてこんな傷ができているの!?)
彼女は猛烈な痛みと、見知らぬ傷ができている事への混乱で頭が真っ白になり、ただそこには彼女の絶叫だけが響き渡った。
・・・・
「はい、終わったよ。お疲れ様。」
「はぁ、はぁ、ありがとう、ございます、、、。」
さっきまであった傷口を見ると、綺麗に包帯が巻かれている。
まだ痛みの余韻は消えないが、我慢できる程な為、心で抑える。
「千流さん、ほんとに長く眠ってたね。今、放課後に入ったから…6時間以上は寝てたんだよ。かなり寝不足だったのかな?」
そう言いながら、先生は医療セットを指定位置に戻す。
「そう…だったんですね…」
ふと時計を見ると、時計の針は下の方へ向いている。
外の色も、夕暮れのような暖色に差し掛かっていた。
それを見て、千流は何かを思いついたように手を叩く
(そうだ、あの事を聞かないと。)
そして、千流は気になっていたことを聞くことにした。
「あと、先生」
「ん?どうしたの?」
「私、なんで保健室で寝てたんですか?」
すると、
「え…?」
先生は驚愕したような声を漏らして、
「千流さん、覚えていないの?」
と、聞き返す。
「は…はい。実は昨日からの記憶が一切なくて、気づいたらここに。」
「そ…そうなの…」
椅子に座り、肩を少し落とした先生は彼女の質問に返答した。
「私も詳細な事は分からないけど、木ノ下さんが朝早くに千流さんを運んで来たの…」
「木ノ下ちゃんが…?」
「そう、詳細な事は木ノ下ちゃんから聞く方が良いのかも」
「わかりました…。ありがとうございます!」
と、そんな会話を交わして千流は立ち上がる。
そして、ベッド横にある鞄を手に取り、肩にかけた。
「それじゃあ、私は家に帰りますね。手当ありがとうございました。」
「良いよ、私は保健室の先生だもの、いつでも頼ってよ。それと、帰ったら一先ず安静にしてね。」
「わかりました。」
と、笑顔で答えて出入口の扉の前で、先生に振り返る
「では失礼しました。」
そして、少し一礼。
「体調には気を付けてね‥あ!それと!」
「どうしました?」
「木ノ下さんにもお礼を言ってね」
「分かりました!」
そう言いながら、彼女は扉を閉めて保健室を後にした。
* * *
彼女が居なくなった後、保健室の先生である彼女は深いため息をつく。
「ふぅ・・・・」
(私が生徒の前で嘘を付くことになるなんてね‥‥。)
椅子の背もたれに倒れたまま、顔を上に向けて、上の空となる。
(私が外科の専門医として働いてた時の事を思い出すわ…)
彼女は目をそっと閉じる…。
ーーー私が保健室の先生になる前は、外科のプロフェッショナルと言われ、これまで様々な患者さんを助けてきた。だから、これまでたくさんの傷を見てきた。
何かに躓いて擦りむいたような傷
打撲で赤く膨れ上がったような傷
子供が怪我をして回復が早い傷
そんな、軽い治療で済むような傷から、
深い傷を負って大量出血で倒れ、一時的な措置で命を繋ぎ留めれる
そんな、重く深い早期な治療が必要な傷。そして、
刺し傷などの、即死と断定できるような傷の数々。
そんな、人が死に至るような外傷も多数見てきた。
その上で言うと、私の経験から察するに、彼女の外傷は『異常』であると言える。
何せ、死に至るほど深くないが、ナイフのような切り口で数個の切り傷があったからだ。
あれは、転んだとか、躓いたとかそういう次元の話ではない。
夢でも魘されていたようだし…
間違いなくあの傷は、『精神的』なものによる外傷だ。
証拠は揃っている。
一つ、数個のナイフのような刃物での切り傷。
二つ、首・腕・膝という不自然な所に傷があった。
三つ、それら全てを彼女は『認知していなかった』いや、『忘れている』?まぁ、どちらにせよ傷の存在を知らない事は事実。
それらを含めると、その外傷ができた要因は精神的要因だと推測できる。
だが、精神的なものになると関係が浅い私では解決するのも難しい…
更に私は精神科医の資格なんて無い。
私では、彼女を救えないのかもしれない。ーーーーー
…彼女の瞳は覚醒する。
(なんとか、救える良い手はないだろうか…)
そうして椅子から立ち上がり、教室内をウロウロし始めた。
自分のデスク周りを3周程終えた時、
ガラガラガラと、勢いよく扉が開かれる音が聞こえて、先生は勢いよく扉の方を振り返る。
するとそこには、
「はぁ、はぁ、、先生、千流ちゃんは、、、?」
息を切らせる木ノ下の姿があった。
(‥‥!!!!)
その時、先生の脳内は瞬時に一つの結論に至った。
その刹那、先生は一気に木ノ下の元に駆け寄る。
「木ノ下さん‥‥!!!!」
「ど…どうしたのですか…?先生?…わわっ!?」
駆け寄った先生は木ノ下の手を引き、保健室の中へ強引に入れた。
そして、教室の扉は閉ざされた。
* * *
保健室を後にした千流は校舎の玄関を抜けて、学校内の道を辿り、校門へ歩く。
すると、
「…!?君!!!」
目の前には先の方を歩く彼の姿があった。
彼女はすぐさま彼の方に近寄っては、隣を添うように歩く。
「よかった…君が居て…」
俯きながら話す千流
「あ、何でもないよ!一緒に帰ろう、君!」
前を向き直り、彼と話しながら帰路を辿った。
・・・
空はオレンジ色に染まり、陽は沈もうとしている頃
いつもの住宅街の道を帰宅中、千流はふと思い出したかのように
「ねぇ、君」
と、隣を歩く彼に話しかける。
「今日は保健室で休んでたから、一緒に居られなくてごめんね…」
今日千流は、学校の保健室で、朝から授業が終わるまで眠っていて、教室に入ることさえできなかった。
それにより、彼と過ごせる時間が減ってしまった。
その罪悪感が胸中に残り、悔やんでいる。
その空白の時間を埋めようと、一つの提案をする。
「だから、今週の土曜日に埋め合わせをしたいんだけど…良いかな?…ほら、だって先週の土曜日なんて急に私が飛び出していったでしょ?その埋め合わせも兼ねてだから!お願い!」
そう話し、彼の目の前に行って見合わせる。すると、低姿勢で手を合わせながら頼みこむ。
数秒間の沈黙の末
「良いの!?やった~!!今から土曜日になるのが楽しみだな~♪」
気分を良くして、再び家を目指して歩き始める。
「…ん?土曜日は急に飛び出して行っちゃったけど、日曜日は何をしていたんだろ…?」
そんな一言を零す。
その時、千流は一度足を止める。
(…?後ろから何か視線を感じるような…?)
振り向くが、誰もいない。
(ま、いいか。)
「あ、何でもないよ!ほら、行くよ!」
「…フフッ、良いこと聞いたわ。今から土曜日が楽しみだわ…!フフッ‥‥フフフフフフフフフ」
曲がり角に隠れた彼女は不気味な笑顔を浮かべながら、自分の家への帰路を辿った。
繧ゅ≧縺ォ縺偵l縺ェ縺
* * *
「‥‥千流ちゃん、大丈夫かな…保健室の先生も凄く心配してたし…」
空を見上げ、月見る。
「私…千流ちゃんの役に立っているのかな…」
その時、スマートフォンのバイブレーションと共に通知音が鳴る。
「ひゃ…!…びっくりした…」
身をびくりと震わし、スマートフォンに目を向ける。
とあるメッセージアプリからの通知だ。
手に取り、確認する。
その相手は
「…!千流ちゃんからだ…!」
彼女の幼馴染で大切な親友、千流からのメッセージだった。
息をのみ、恐る恐る内容を確認する。そこに書かれていたのは、
【今日は保健室に運んでくれてありがとう。何で運ばれたかは知らないけど‥おかげで傷とかの治療ができたよ。やっぱり、木ノ下ちゃんは頼れるね。】
その内容を読んだ彼女は、
涙を零した
* * *
朝の日差しの眩しさに、意識は朦朧としながら覚める。
小鳥は歌い、車のエンジン音は住宅街に轟く。
そんないつもの音を聞きながら、目を見開いた。
「んーーー!はぁ、、よし。支度しよ。」
千流はベッドから起き上がり、背伸びをして気合を入れた。
そう、彼と約束した土曜日がやってきた。
先週、途中で逃げ出してしまったお詫びでもあり、かなり張り切っている。
だが、彼女は一つだけある疑問が浮かぶ。
(そういえば私って先週、何でデート中に飛び出して行ったんだろう…?)
そう、彼女はデート中の記憶の殆どが消えていた。
(なんでだろう…思い出せない…?まぁ、いいや!いつか思い出すでしょ!)
と、頭を横に振って頭の中を切り替える。
パジャマ姿から、黒や白を基調にした私服に着替えた後、鞄の整理をする。
(今日はどこに行こうかな~、交差点通りにできた新しいカフェに行ってみたいな~。…よし、そこに行こう!)
そんなことを考えながら、彼女は自室を後にする。
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朝ご飯を済ませ、顔を洗った彼女は玄関へと向かう。
その時、
「待って。」
キッチンの方から、母親の声が聞こえる。
彼女はそちらの方に向いた。
「どうしたの?」
「千流…どこに行くの?」
「え?彼氏と遊んでくるだけだよ?」
顔を傾けながら、千流は話す。
母親は、ため息をついて
「そう…気をつけてね…何かあったら、すぐに帰って来なさいよ。」
「ん?わ、分かった~。いってきます」
「…いってらっしゃい」
そうして彼女は、廊下を歩き、靴を履いて玄関を出た。
扉の閉じる音は
さながら、虚無であった。
螟峨o繧後◆縺九b縺励l縺ェ縺
* * *
「はぁ…」
キッチンに居る母親は、ため息を零す。
「私は、あの子に優しすぎるのかしら…」
そう言いながら、夜ご飯の仕込みの為、包丁で肉を切る。
「問題が起きる前に彼女自身で気づいてほしいわね…彼の事…」
そんなことを言いながら、調理を進める。
母は夜勤の仕事を行っており、少しでも収入を多くしようと努力している。
だから娘が夜に帰ってきても、傍に居ることができない。
夜勤が無い日でない限り、彼女は食卓を共にすることができない。
でもこれは仕方がなかった。
彼女とその父親が抱えたものは、重く、生きにくい足枷を付けられているようなものだった。
でも、娘に足枷を付けさせるわけにはいかない。
“悲惨な過去”は取り消せないけど、これからを生きる娘だけは少しでも自由に生きて欲しい。
それが、彼女の願い。
* * *
「おはよう君、じゃあ行こうか」
そうして、千流は商店街の方へ歩き始めた。
いつもと同じように、彼と話しながら…。
・・・
数分後、彼女は商店街の交差点にやってきた。
「さて、今日は行ってみたかったカフェに行こうと思ってるんだよね~…あ、でも君ってコーヒー飲めなかったよね…?大丈夫かな?」
一拍置き
「大丈夫?良かった。じゃあ、渡ろっか。この先だよ。」
と、渡ろうとした瞬間
「そこの人、止まりなさい」
と、後ろから男性の声が聞こえてくる。
千流は驚いた表情で、後ろを振り向く。
すると、記憶に残る人の顔が目に映る。
「よう、嬢ちゃん、あの時ぶりだな」
その声の主は先週、遊園地に行く際、交差点に飛び出そうとしていた千流を助けた男の人だった。
「あ…先週の、あの時はお世話になりました。」
お辞儀をして、丁寧に礼をする千流。
「いや、いいんだよ。それより…君の事だったのか…」
男の人は、困りながら頭をかく。
「私が…どうかしました?」
「…まぁ、ここで嘘を付いても意味は無いな。」
「…?」
そう言った男性は、胸ポケットからあるものを取り出す。
それは、
「警視庁の杉藁です。取り調べをしますので署までご同行を。」
警察手帳だった。
今回の投稿に至って、少し書きたい事がございます。
私、神果みかんは、小説家になりたいです。
この期間で、様々な考え方を持つ人に出会い、人々の考え方の多様性を痛い程学ぶ貴重な体験をしました。
学校の生徒・小説家になろうのオープンチャット(LINE)の皆様のご意見・他、YouTubeなどのコメント欄・Twitter 等…。
様々な所から、人の意見の違いという観点から様々な学びをえることができました。
なので、悩み、苦しむ毎日な空白の1か月でした。
でも、改めて気づきました。
【私は私で居る事】
それが、とても大切なのであるということ。
その上で言います
私は、小説家になりたいです。
ご感想・ご意見・誤字脱字のご報告、お待ちしております。
次回 8時【逮捕】(仮)です。
気長に、お待ちください。