3時【一緒に帰ろ】
3時目【一緒に帰ろ】
お楽しみください。
6時限後のホームルーム。
その時間の終わりを告げる鐘が鳴り響く。
『起立!礼!』
挨拶を終えると、放課後の時間へと突入した。
この学校では放課後に入るとまず、校内清掃の時間に入る。
彼と私の清掃場所は異なる為、一度離れなければならない。
「教室で待っててね、君。」
彼に手を振り、教室を後にする。
私は廊下沿いの女子トイレ清掃だ。
だけどまだ・・・誰も来ていない。
中に入り、デッキブラシを持つ。
トイレの床磨きだ。
その前にトイレの換気をする為、小窓を開けた。
トイレの中は、夏の暑さによって蒸し暑く、汗が滴り落ちてくる。
窓を開けていても、風が一切無いから蒸し焼きされているような感覚に陥る。
それでも、時間は刻一刻と減っていく。
彼と一緒に居る時間も減ってしまう。
(それは嫌だ!)
早く終わらせて、彼と一緒に・・・
その時、後ろからドタドタと走ってくる音が聞こえる。
その刹那、後ろに重みが加わる。
『ちーるちゃん!!』
「わぁ!?・・・なんだ、くるみんかぁ、ビックリした~」
後ろから抱き着いて驚かせてきた彼女は、夜風 久留美という、同級生だ。
高校一年の時に、バレー部で一緒に活動していたから、話が意気投合して自然と友達になった。
でも、
「ねぇ、ちーるちゃん。バレー部戻ってこないの・・・?」
「・・・」
そう、
私は二年生に上がる時に、バレー部を退部していた。
退部した時の事はよく覚えている。
私は一年生修了後の春休みに、彼に告白した。
そして、付き合うことになった。
桜が咲き誇る夕暮れの公園に呼び出して
人生で初めての告白をした。
まさか、その時の私は付き合えるなんて思ってなかったから、『いいよ』と返事をくれた時、心が舞い上がるように嬉しかった。
私の心は、彼色に咲き誇った。
そして私は、彼と多くの時を過ごすことになった・・・
休日は大体、彼の家に遊びに行くようになった。
それだけでも、十分幸せだった。
でも、
彼と過ごす時間が多ければ多い程、私の心は次第に満たされなくなっていった。
それに気づいた時、ふと思った。
それは、
【部活の時間が無駄なんだと】
そんな結論に至ってしまった・・。
部活をしなければ、彼ともっと時間を過ごせる。
そんな事を思った。
勿論、先生や親からは猛反対されたし、くるみんに至っては泣きじゃくっていた。
バレー部の中では誰よりも強い自信があった。
だから、次期部長として候補には上がっていた。
でも私は、
【これが私の選んだ事だから】
と、何度も説得を繰り返して、
退部することができた。
ただ、この学校は必ず一つの部活に入らなければならない校則が存在している。
だから、私は彼と同じ園芸部に入部して、彼と過ごす時間を増やした。
花に水をかけている彼。
そんな彼を見つめていたら部活があっという間に終わる。
更に、
園芸部には彼一人しか部員がいない。
だから、力になりたいと思った。
そして、
放課後も彼と一緒に帰れる。
これがなによりも幸せだった。
だから、絶対にバレー部には帰らないとその時から誓っている。
『・・・・ちゃん?』
この幸せを満たすためには・・・
『・・るちゃん』
これしか方法が・・・・
『ちーるちゃん!!!!』
『・・・はっ!?』
久留美ちゃんは、心配そうにこちらを見つめていた。
『も~、やっと反応した・・・さっきから体が硬直してたから、気絶したんじゃないかとビックリしたよ』
久留美ちゃんは心臓に手を当て、ほっと一息している。
「ご・・ごめんね~、、でもバレー部は戻れそうにないかな・・・。」
『そっか・・・よっ・・・わかった。じゃあ気が向いたらおいで!いつでも待ってる!』
「うん!ありがとう!」
お互いに笑みを交わし、お互いに自分の清掃場に戻る。
だけど、
『千流さん、あとは任せましたよ。』
「・・・え?」
同じトイレ掃除班の人が、私に水を出す為のホースを持たせてくる。
『え。じゃないですよ。私はもう便器掃除を終わらせたので、先に帰ります。』
と言い放ち、出口に置いてあった荷物を持ち、姿を消した。
「・・・そんなぁ・・・」
と、声を漏らしながらも掃除を始める。
もう掃除時間中に回想なんてしないと心に誓いながら・・・。
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「やっと終わった・・・」
トイレの床磨きが終わり、教室まで続く廊下を歩く。
案の定、いつもの終了時刻より遅くなってしまい、彼を待たせることになってしまった。
普段、清掃の後は部活動に向かう人でごった返すが、時間が遅くなった為、廊下の端から端まで無人だった。
私の足音だけが響いては消えてを繰り返している。
だが、やがてその音は消える。
教室前に到着した。
教室内の明かりは消え、机が綺麗に整理されている。
それを窓から確認し、扉の取っ手を持ち、横に力を入れる。
だが、
「あれ・・・?」
扉が開かない。びくともしない。
そう、鍵が掛かっていた。
「どうして・・・?」
疑問に思うのも無理はない
何故なら
彼との別れ際に、
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「教室で待っててね、君。」
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と、約束をして別れた筈だからだ。
(絶対に中に居るはず・・・もしかしたら閉じ込められてるのかも・・・!)
そう思い、もう一度窓から教室内を確認する。
だが、
教室内に人は誰一人残っていなかった。
(・・・っ!)
身体の暑さは更に増していく。
それは、夏の暑さだったのか、もしくは別に理由があるのか・・・
分かる筈もなく・・・。
窓を確認した後、急いで廊下をさっきと反対に走る。
(なんで私は・・)
(なんでこんなにも焦っているの?)
(なんでこんなにも胸が苦しいの?)
(なんでこんなにも涙が出そうになるの・・・?)
走る彼女は自問自答を繰り返す。
だが、そこには自答が無かった。
自問だけが増えていき、心も身体もあらぶっている。
まるで、自答を拒絶しているかのようだった。。
だが、今の彼女がそれに気づく筈もなく、廊下を走り抜ける。
(とにかく、行かなきゃ・・・!)
まさに、無我夢中だった。
彼女は階段を2段飛ばしで駆け下り、部活動教室へと向かった。
外の渡り廊下を通ると、
夏の太陽はオレンジ色に染まろうとしている。
スポーツの部活動では、熱き声援や熱き雄たけびが耳に響く。
その時、微かに水の音が聞こえた。
それは、水の出る心地いい音。
足を止め、学校内の花壇に視線を送る。
そこには、
「・・・!君・・・!」
そう、彼が私の目に映った。
彼は、穏やかな顔で水やりをしていた。
「もう!心配したんだからね・・・!」
彼女は不意に涙を零す。
(あれ・・・?私、なんで泣いて・・・?)
涙の理由を知らぬまま。
彼女はその場に鞄を置いた。
そして、
「今日も頑張ろうっ」
彼女は学校で“一つしかない”ジョウロを手にする。
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『ぷは~!やっぱり学校のウォータ―サーバーは神だわ!』
『わかるwこれが無いと生きていけねえよw』
『なぁ、あれ、千流じゃね?ほら、うちのクラスの』
『確かに、ってかまだ現実を受け止めてないんだな』
『誰か教えてやらねぇのか?』
『やめてあげて、それを受け入れたらきっと彼女は崩壊するわ。』
『『『うお、いつのまに夜風が!?』』』
『なんで私は苗字なのよ・・・』
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「終わったね~!」
背伸びをしてアピールをしながら話す。
彼女は、花壇の水やりを一通り終わらせ、部室で休息を取っていた。
園芸部としての活動は花壇の水やりだけだから、早めに終わらせている。
何故なら、
「一緒に帰ろ。君。」
彼の隣を歩きながら、帰宅したいからだ。
汗をタオルで拭った。
バレー部に居た時からの癖で、ついつい持ってきてしまう。
でも、必要ない時期がやってくるのかと思うと、少し寂しくなる。
(でもこれは、彼との時間を多く過ごす為・・・!)
そう思いながら園芸部室の電気を消し、鍵を閉める。
そして、彼と帰路を辿る。
太陽は夕焼けとなり、沈もうとしている。
部活動の雄たけびが絶え間なく続いている。
それと同じく、彼との会話も絶え間なく続けた。
私が一方的に話すが、返事は帰ってこない
それでもよかった
彼と一緒に居れればそれだけでよかった。
学校を離れて、大通りの交差点に差し掛かる。
すると、一つの服屋を見つける。
そのお店のショーウインドーに飾られている服うを見て、心を奪われる。
「これって・・・!」
そこにあったのは、
女性なら誰もが憧れるであろう純白の服
【ウエディングドレス】だった。
その見た目の迫力から、目が釘付けになった。
その時、
「いつかこの服を着させてね、君♪」
と、少しからかいの言葉を口にした。
そして、青信号となった交差点を渡る。
彼女は、少し照れていた。
その光景を見ていた人が、『店のショーウインドウを見ながら独り言を話す女の子が居た』と、ネットに書き込みをした。
その交差点で、人工的ヒヤシンスは咲き続ける・・・。
神果みかんです。
【3時目】の投稿です。
最近、少し腹を壊すわ鬱になるわで大変だったので、少し遅れました(;´∀`)
後半は病み上がりだったので、誤字がある可能性があります。
なので、誤字報告・感想など頂ければ投稿者は大喜びします。
少し、熱みたいな症状が出てきたのでここで閉めます。
読んで下さり、ありがとうございます!
次回4時目【じゃあ行こっか】で会いましょう!!!
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『お姉ちゃん、何してるの?』