いつもとは違う1日の始まり
夜の繁華街の灯りが心地よく、帰宅へ急ぐ会社員や学生とすれ違う。
昨今の情勢からか、すれ違う人の表情はあまり明るくはない。
大通りから細い路地を抜けてしばらく歩くと目的のラ・メゾンがあった。
「……ここか……」
OPENと表札を横目に扉を開けると、店内には、カウンターに6脚と後ろにテーブル・ソファーが置いてあり、それ程広くはない。
カウンター越しにバーテンダーがグラスを磨きながらいらっしゃいませと席へ促す。
客足は……2人、カップルが座ってる位か……
とりあえず注文をと思いバーテンダーに声をかける。
料理を待つ間にカップル入れ替わるようにOLが入店してきた。パンツスーツスタイルのどこにでもいる普通のOLだが、ここに来る前に1杯引っ掛けてきたのか だいぶ酔っているようだ
俺の2つ隣の席に着くなりテキーラを頼んでいた
だいぶ出来上がっているのに大丈夫か?と思いながら見ていると出されたテキーラを駆けつけ3杯飲み干していた。強靱なレバーをお持ちのようだ
「お待たせしました」
OLを観察してるうちに注文した料理がきた
頼んだのはこの店の看板メニューでもあるカルボナーラだ
一言で言うと絶品だった。卵とベーコンといったシンプルな組み合わせだがベーコンの旨みを卵がしっかりと受け止め胡椒のアクセントが味を引き締める。
舌鼓を打ちつつ一息着いていると隣のOLが愚痴をこぼし始める
「マスタァーなんで私がこんな目にあうわけ?解雇っておかしすぎない?」
どうやらクビになったらしい
このご時世、職から溢れてるのは何も珍しくはない
「身に覚えのない明細書の山を突きつけられて不正したなら賠償しろって、500万よ?500万!」
そう言いながら何杯目になるのか分からないがOLはテキーラを飲み干す
横領の罪を擦り付けられたわけか……
どこにでも悪いヤツはいるものだなとしみじみ思いながらバーテンダーに対して俺は1つ注文した
「この店のオススメを」
このセリフと同時に懐のカードを提示する。
「ぽいんとかーど」と書かれた何の変哲もないカードだがこれには意味がある
「お客様、こちら当店のオススメが載っておりますメニュー表になります」
そう手渡されたのは黒の革表紙のメニュー表だった。
ここに書かれているのはメニューなんてものではなく今回の依頼だ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
依頼
ターゲット ミツバ商事 部長 瀬沼雅俊
報酬額 1000万
期限 1ヶ月以内
方法 おまかせとの事
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
写真付きではあるが依頼内容はシンプルなものだ
背後関係や成り行き等を調べてもろくなことにならないのだが、一般人にこれだけの依頼額を出すのがどうもキナ臭い
後で調べる必要があるらしい
依頼を受ける時は支払い時に1セント硬貨を渡せば承諾した事になる
受けない時はそのまま支払いして退店すればいい、特にペナルティとかは無い
この依頼情報を持ってターゲットに接触して護衛を受けるのもありだ
この業界に規則はないのかって?勿論ある、規則違反に触れればたちまち始末されてしまうだろう
1つあげるのするならば、法の光に触れてはいけないだ
当たり前だがこの仕事は表沙汰になってはいけない、もし表沙汰のニュースなどに犯人として取り上げられたらその時は暗部によって突然失踪する事となる
どの業界でもタブーはあるだろ?
アイドルのマネージャーとアイドルが出来てしまったらそのマネージャーは業界出入り禁止は勿論アイドルがこれから売れたであろう金額を事務所に支払わなくてはならないとかそれと同じだ
受けようか迷いつつメニュー表をバーテンダーに返そうと差し出した時
「私にもメニュー見せなさいよ」
突然伸びてきた隣のOLの腕がメニューをひったくりそのまま中身を見てしまった
「あーーーーー!こいつなんでここに載ってるの?!」
ひったくられた俺とバーテンダーが唖然とする中、店内に響き渡る大声でOLが叫ぶ
「お客様お知り合いか何かで?」
「知り合いも何もこいつが私の事を解雇した張本人よ!ターゲットって何?報酬って?」
バーテンダーの問いかけに対し語気を荒らげながらOLは答えていた
俺はとゆうとバーテンダーの右手がコソッとベルトのバックルにに向かうのを見て
「シェフ待ってくれ!」
思わずそう言ってしまっていた。
ふーーーーー
と長いため息をした後バーテンダーがこちらを睨み
「小僧、待ってくれってどうゆう事だ?」
先程の礼儀正しいバーテンダーとは違う殺気を込めながら問いかけられた
「シェフ暗部を呼ぶのは待ってくれ、今のは俺も油断していた流石にこちらの都合でこの女を始末してしまっては規則違反じゃないのか?」
この異様な空気の中OLは喋り出せないでいた
OLの頭には?が浮かんでいるが今はシェフを説得するのが先だ
「だからと言って、この女が勝手にしでかした事だ自業自得だろ?お前は横から銃弾を撃たれても復習しないのか?小僧いつから聖職者になった?」
と半分小馬鹿にしたように吐き捨てた
「聖職者にはなってない。何も知らない一般人をこの業界に触れさせた事について俺とシェフも何らかしらのペナルティを受けると思うが?」
「これ以上問題にならないなら、ペナルティも覚悟の上だ!それともこの女がこれからこの業界で生きていけるのか?たかが500万でピーコラピーコラ喚いていたやつが生きていける程甘い業界だったか?」
確かにシェフの言う通りだ。この業界は甘くないがペナルティはまずい。今回の件だと恐らくOLは始末俺かシェフのどちらか、もしくは両者の身体の1部欠損となるだろう…そうなれば仕事に差支えること間違いない。
かといってOLが1人で生きていくとなるとまず規則違反に触れると思う、そうなったら俺たち3人仲良く始末される事になるだろう
どうしたものかと両者思考に浸かっているとシェフが思い出したかのように切り出した
「そういえばバディ制度があったな…」




