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宛先不明郵便  作者: 村良 咲
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しぃーちゃんへ

  しぃーちゃん、元気でいますか?


  今、どこにいますか?


  勉強ができて、テストではいつもトップだったしぃーちゃん、


  勉強が苦手だった私とは、


  どういうわけかウマが合って仲良くしてたね。


  ずっと、そうして仲良くしていると思っていたけど、


  高校が別になって、登校する方向も全然違ったから、


  それまで毎日一緒だったのが、


  その日から顔すら合わせなくなったね。


  いつも一緒だったから、電話で話すことも滅多になくて……


  そう思ってたのは私のほうだけだったことに気付いたのは、


  しぃーちゃんが姿を消してからだったよ。


  私は、しぃーちゃんのお父さんが、


  本当のお父さんじゃなかったことを知らなくて


  しぃーちゃんは、お父さんにたくさん遠慮していたこと、


  全然知らなかった。


  あの頃は、今みたいにスマホやネットを使って連絡するとか、


  そういうことできなかった時代だったもんね。


  だから、しぃーちゃんがいなくなったことを知ったのも、


  私は高校卒業して随分と経ってからだったんだ。


  あんなに毎日一緒にいたのに、


  お互い連絡すら取らなくなってて、


  私たち、友達じゃなかったのかなって……ごめんね。


  ネットを使うようになって、


  しぃーちゃんの名前、検索してみたけど見つからなかった。


  もう一度会いたいかと聞かれても、


  会いたいとすぐには答えられない。


  そのくらい、心に距離があります。


  その距離は、知らない時間と同じくらい大きなもので、


  埋めるには、かなりの覚悟が必要になります。


  つまり……会わなくてもいいのかなということです。


  しぃーちゃんが私に会いたいと思えば、


  それは間違いなく必ず叶うことです。


  私は、今も一緒に遊んだあの街にいるのだから。


  と、じゃあなぜこんな手紙を書いているのか……


  自分でも、よくわかりません。


  「友達」って、誰のことなんだろう。


  その自分の中にあった定義に、


  あの日から揺らぎを感じています。


  あれから、誰とも深く関われずにいる自分を感じてきました。


  しぃーちゃん、どこにいますか?


 

 玄信は、手紙を読み終えると自分の子供の頃を思い出していた。


 あの頃、毎日のように遊んでいた圭太は、今、どうしているだろう。


 友達というものも、生活や環境によってその関係に変化は出てくるものだ。どんなに親しい間柄でも、それこそ遠距離の関係になれば、滅多に会うこともなくなり、その期間の間に互いに起きたことも知らずに過ごし、差出人も書いているように、心の距離はその離れていた時間に比例していくものだろう。


 そんな中にあっても、会った瞬間、親しかったころに一瞬で戻れてしまう。それができるのが『友達』なのかもしれない。


 そう考えると、その所在が全く辿れなくなっているというのは、逆を言えば、その距離を相手に取られたというのはやはり寂しさを感じるのだろう。


 そしてそれだけ距離ができていたことを知った時、その距離は自分でも作ったものだったと気付き、関係に揺らぎを感じるのも無理はない。だが、そんな距離になっていても、会った瞬間『あの頃』に戻れるのではないか……とも思う。


 会いたいと思えば会える。連絡したいと思えばそれができる。そう思っていたのに、それができないと知り、相手からの一方通行になってしまった差出人の感じた寂しさ……


 いつか、しぃーちゃんが会いに来てくれるといいな。そう願いながら、「ある意味、これが本当の宛先不明郵便だな」と独り言ち焚き上げた。


 小さい時から高校生の頃までよく遊んでいた圭太と連絡を取ってみようか。なに、圭太との連絡ならすぐ取れるさ。圭太の実家の菩提寺は、ここなのだから。 


 

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