十四話
朝、目が覚めると僕の頬に涙が一粒落ちていた。
ボヤッとしていて具体的には覚えていないけれど、なんだか悲しい夢をみた気がする。
今日はオーディションだ。
台詞も覚えたし、それを言った主人公気が一体どういう気持ちなのかも自分なりに考えた。
今日はそれを表現するだけだ。
そうわかっていても、緊張をなくすなんてことが出来るわけがない。
まあ、学校に遅れては元も子もない。
僕は目をこすりながらも制服に着替え、兄貴特製の美味しい朝食を食べ、その他準備もろもろを済ませた後、少し早めに家を出た。
最近空気が前より暖かくなった気がする。
ぽかぽかとした陽気の下を、僕は早歩きで敵へと向かった。
「それでは、今からオーディションを始めます。どちらから始めるかはじゃんけんで決めてください」
那奈先輩は落ち着いた声で言った。
先輩が入学するよりも前に一度、どちらが初めにやるのかということで揉めて時間がかかってしまったということがあったからじゃんけんで決めるようになったそうだ。
それに加えて、運も実力のうちだからとも教えてくれた。
じゃんけんに勝った方から演技をすることになっている。
軽く深呼吸をする。
僕はチョキを出して、ゆずが勝った。
僕が二番目だ。
「じゃあ始めます」
那奈先輩の声が響いた。
「終わったね……」
「そうだね」
僕はそういった。
満足がいく出来とは言えないかもしれないけれど、後悔はない。
ゆづと僕は全く違った。
ありえないくらいに。
同じ文字面を見ていたはずなのにそこにある世界は違うんだって、そう思った。
綺麗事かもしれないけど。
「一週間後に発表だっけ」
「うん」
「あー、なんか緊張するね」
「そうだね」
下校途中の小学生が、僕らの横を元気よく駆けていく。
楽しそうにきゃっきゃと騒いでいた。
二人の演技が終わった後に那奈先輩が言っていた。
二人の色が出ているって。
正直に言うと、自分の色がどんななのかわからない。
でも、もしかしたらと仄かな希望を抱いた。
僕はどこかにあるのかもしれないと。