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目指せ!地獄のレコンキスタ!!  作者: 深山鬱金
キルカ族の城
9/18

第一 8 別に浮気なんかしてないぞ!!

ターニャが休憩に入った後、外を眺めると薄暗い地獄の崖道が延々と続いていた。そこは淡い白壁、墨色の地面で造形された急に視界が閉ざされる空間スペイスだ。

この先にキルカ族の前線基地があって、さらに奥へ進むと地表面へ上がる竪穴があるはずだが、太陽が差しているぼやけた光すら見えない。一人、真夜中のコンビニに買い出しに行かされた気分だ。

鬼や妖怪、ゾンビ、ドラキュラがいるわけではないが、太陽もなく水の流れもないことから地獄と形容してもあながち間違ってはいないだろう。


当然、光がないので影もできない。鏡花水月ファンタジーとは程遠いが、影がない世界も案外いいかもしれない。


そして、俺は警備しつつ、ふと自分の置かれた立場と警備に就くことの意味を思案した。

もし、ここに敵が攻めてくるとしたら、それはキルカ族の生き残りしかいない。つまりカスミたちのことだ。

俺はそのカスミたちのスパイなのだから、仮に何者かに襲撃されたとしても、それは仲間なのである。仲間が襲ってきたとして何を恐れる必要があろうか・・・。

いや、ない。

結論に達すると俺は警備をサボタージュすることにした。


しかし、サボるといっても会社から給料が出ているわけではない。詰まるところ、今の俺の上司ボスは王女様やターニャだ。あの二人にさえバレなければいいのだ。

俺は監視カメラがないか、周囲を見回した。自販機の下の硬貨を拾う子どものように。


それこそ針の穴のように小さな傷やほくろほどの小さな汚れもくまなく探索したが、カメラではなく鉄同士が擦れた汚れやゲートの操作に使うスイッチやボタンだった。仮にマイクロカメラがあったとしても、レンズは彼方を見つめていることだろう。

(よし、大丈夫だ)


どれくらいの時が過ぎたのだろうか。

江戸時代の日本ジパングのように安泰な城の警護はさっき過ごした一時間が無限に繰り返されているような気にさえなる。ある意味で地獄だ。

城の警護といっても直方体の壁に囲われた小屋と踏切のようなゲートがしっかりある。英国の古城というよりネヴァダ州にある軍事施設のゲートに近いイメージだ。


仲間が来た時は青いボタンでバーを上げ、怪しい人物や知らない人物の場合は赤いボタンを押して本部に通報できるようになっている。

その二つのボタンを見つめながら、金属製のケースを椅子代わりにして、ただただ時間が過ぎゆくのを待つのが今の俺の任務だ。

また、その過程で「ターニャとラブラブな関係になれ」との命も下っている。


あまりにも暇を持て余していたら、退屈な数学の微分積分の授業のように首がガクッとなって眠りそうになってしまった。昼下がりの電車だったらキョロキョロと辺りを見回して、何事もなかったかのように繕う高校生のようだったであろう。

気がつくと、安堵した俺の肩に小さな小さな昆虫バグがとまっていた。気持ちの悪い光沢の羽を持った未知の虫だったので、手で振り払おうとしたらカスミの鋭い声が聞こえてきた。


「刃、起きろ!」


「カ、カスミ!! 別に浮気なんかしてないぞ!!」


寝ぼけて、つい余計なことを口走ってしまった。


「何を言っている? 報告はどうした?」


気持ち悪い虫から女房兼キルカ族王女の声がした。さらにこちらの映像も見えるようだ。


「いやあ、すまん、すまん。敵の城内だから報告する隙がなくてな。今のところバレていないぞ。敵の王女様の謁見を終えて、裏門の警備を任されたところだ」


「そうか、上々だ。・・・で、敵の王女はどんな女だ?」


幾分カスミの声が妬いているように聞こえた。気のせいだろうか・・・。


「そうだな。カスミより奥手な感じでお尻も大きかったぞ」


「恋愛体質ではない! 優れた戦略家かどうかを聞いているのだ! 全く・・・」


珍しくカスミが怒鳴った。やはり嫉妬ジェラシーを感じているのだ。俺は慎重に言葉を選びながら、報告レポートを続ける。


「うーん。なんとも言えないな。ただ、キルカ族より進んだテクノロジーを持っているみたいだ。まともに戦って勝てる相手じゃない」


「よし。では、引き続き内偵しろ」


了解ラジャー


通信が終わるとマイクロサイズの音声昆虫ボイスバグはようやく俺の肩から離れてくれた。

(ふう、機械とわかっていても気持ちの悪い虫が肩にいると思うと気がそわそわする)


時間の感覚を失ったことに不安を感じた俺は周囲を見回した。ところが小屋から出てターニャが見たであろう場所に目を向けても時計らしきものは見当たらなかった。

ただ、そばの花崗岩のような白い崖や足もとに夜光花やこうばながほんのりと灯っているだけである。

(もしかして、あの花の光っている間が地上の昼に相当するのか?)

俺は逡巡した。

将棋で四連続王手をかけられた名人のように。

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