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目指せ!地獄のレコンキスタ!!  作者: 深山鬱金
キルカ族の城
4/18

第一 3 いわば新人声優のような立ち位置だ

登場人物紹介:


斎藤さいとう じん

前職は声優マネージャー。幼なじみを救うためカスミと性の儀式を行う。誘拐された幼なじみと交換でカスミたちは地獄へ戻ると思っていたが、カスミがキルカ族の王女と知って仕方なく地獄へと向かう。実家は静岡の三島で大のお尻フェチ。


日比谷 カスミ(ひびや かすみ)

本名はヴィクトリヤ。キルカ族の王女で城を奪われたため、刃の住む地上へと亡命する。政略結婚によって刃をキルカ族の王子として迎える。偽名を使っているのは、亡命中のため敵に察知されないようにするため。実は地上でアイドル活動をしていたときの芸名を転用している。

お尻のタイプは安産型のAタイプ。


泉岳寺 アスカ(せんがくじ あすか)

本名はアリーナ。無口だが、機械操作が得意。王女ヴィクトリヤの護衛。お尻のタイプは不明。


広尾 リン(ひろお りん)

本名はイリーナ。分析が得意な冷静沈着なキャラ。王女ヴィクトリヤの護衛。お尻のタイプは不明。

・・

・・・・・・・明け方にエアコンのタイマーが自動停止したような音が頭上から聞こえた。

音のする方へ目をやるとアスカの放った偵察昆虫スパイバグのうち一匹が生還していたことに気がついた。

“偵察完了”とばかりにホバリングしている胴体の辺りを指で軽くつまむと、偵察昆虫は羽ばたくのをやめ、両眼の小さなライトを赤から群青へと切り替えた。初めてエアポートターミナルに降り立った外国人のように困惑した表情を浮かべているとアスカが“私に任せて”と言わんばかりに手を差し出してきた。

偵察昆虫を受け取ったアスカは出来るだけ平らな岩壁を探すと、俺が口を挟む間もないほどテキパキと羽を開いて投影モードへと切り替える。

数秒で天然の花崗岩スクリーンに警備兵とそのバックにそびえるゲートが映し出された。

映像はハイビジョンテレビ並みの解像度で兵士のヘアスタイルや装備の素材、門柱の形状まで判別できるほど鮮明だった。背景の岩がボコボコしているのでやや歪んで見えるが、それらを除けば文句ないほど美しいだった。


守衛の一人だろうか。パリコレクションのトップモデルのような人物が裏門の前を何度も往復している。警備というより持て余した時間を潰しているようだった。

映像をじっと見ていたカスミは守衛の姿形からシボルチ族の一人ではないかと推測した。ともに映像を確認していたアスカとリンも一様に頷く。

分析官のリンによれば、地獄基準ヘルスタンダードでシボルチ族はキルカ族より背が高く、体型はどちらというと細身の人種だそうだ。映像に写った人物は女性で、身につけている装備からリーダー格の兵士との分析結果だった。

岩壁に写った歪な映像にも関わらず、性別から階級までの仔細を確認できたのはリンの分析力の高さを示している。


では、例のリーダー格の兵士と我がキルカ族の勢力とを分析・比較してみよう。

まずは王女のカスミ、次に監視役のアスカと分析官リン、最後にプリンスとなった俺を含めて合計四人だ。仮に相手がさっきの守衛一人だけならば、習得したばかりの“お尻プロテクト“で電子弓の攻撃を防ぎ切ることができるだろう。


勝算があると踏んだ俺はカスミに“裏門突撃作戦“を提案した。しかし、カスミからの意見はかなり手厳しいものだった。


「よし。ではお前一人で行け!」


妻のカスミはハネムーン気分など皆無で、王女としてキルカ族存亡を懸けて全うな命令を下した。それにしても新婚早々、敵陣に切り込む王子が一体地獄のどこにいるだろうか。

さすがに焦った。

額や脇から冷や汗が止まらない。“前職プロレスラー“というプロフィールを有しているわけでもない、ただのへなちょこ声優マネージャーがどうして地獄のリーダー級兵士と剣術で渡り合えるだろうか・・・・・・。俺の顔は不安と恐怖と動揺の三色絵具で塗りたぐられていた。


「安心しろ。お前の顔は地獄では知られていない。いわば新人声優のような立ち位置だ。声は知られていても顔まではわかるまい。なれば、相手も油断して襤褸を出すだろう。それが今のお前の強みだ! さあ、今こそシボルチ族を叩きのめせ!!」


カスミは勢いよく宣言した。ところが、俺の士気を高めるには至らなかった。そこで全軍突撃を王女に打診してみた。


「その間、カスミたちは何を? 一緒に突撃すればいいじゃないか」


地獄でたった一人敵陣に切り込むのが初陣とは悲惨な境遇に置かれたものだ。いっそのこと地上で黒糖タピオカミルクティーをすすりながら、お気に入りの映画を8K大画面テレビで鑑賞していたかった。皮肉にも今では自身が映画の主人公になった気分だ。

フィルムの世界でブルース・ウィリスやジャッキー・チェンやスティーブン・セガールやジェイソン・ステイサムはどのような心境で敵と対峙していたのだろうか。ぜひ後方からアドバイスを送ってほしい。


実現しそうにないハリウッドスターたちのキャスティングを脳内再生しているとアスカが口を挟んだ。


「お言葉ですが、カスミ様は王女の地位にあられるお方。もし戦闘で命を落とせば、キルカ族存亡の危機に瀕します。その上、お腹には刃様とのお子が・・・」


“お子が”とアスカが言いかけたところで俺は新婚であると同時にキルカ族後継者の父親という地位であることにも気づいた。もう幼なじみと原宿でパンケーキを注文していた頃には戻れない。

カスミが俺たち、いやキルカ族の将来を左右する“次期プリンセス“を身篭っているとなれば、シボルチ族との戦いに同行させるという愚挙に出ることはできない。カスミとアスカ、リンには岩陰に隠れて、冬眠するツキノワグマの如くじっとしておいてもらおう。


「・・・・・軽率だった」


俺はキルカ族第一王子としての使命を胸に、いざシボルチ族との戦いに出ようと決意を固めた。それは高所恐怖症の頼りない男子が彼女のために初デートで富士急ハイランドの超高速ジェットコースターに乗車するようなものだった。

すでに身篭っているかもしれないカスミの警護はアスカとリンに任せ、俺は颯爽とキルカ族の前線基地から出立した。敵の名前さえ知らないが、必ずや討伐してキルカ族の城を奪還しようと後ろ向きになって岩山のでっぱりを両手で掴んだ瞬間だった。頭上から愛するプリンセスの声が耳に入った。


「おい! 死にそうになったら、あの技を使え」


(何だよ。やられるの前提かよ)

そう心の中で叫んだが、俺は王女を心配させまいと親指を立てて“まかせろ”の合図を送った。登る時は四人だった斜面も一人だと大海に漂う一艘のヨットのように心細い。しかも、急な下り坂だから登る時以上に神経を使う。俺はヒカリゴケがほんのりと照らす岩壁を一人、初めてジャンボジェットに搭乗する青年のように慎重に下っていった。

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