第一 11 明日は実戦だ
真剣にノートをとっていると針のような物体がお尻を刺した。チクリと。
「ふげえ!」
その衝撃で俺は一物が肥大化したのも忘れて椅子から立ち上がり、大きくなったあそこを丸々と机の上に晒した。さらに微妙に先端が机の縁に触れ、
(あっ、気持ちいい)
とコンマ三秒の快楽を得たところで我に返った。
前方には何が起きたのかと振り返るターニャ先生の顔があった。
俺の下半身にはぴちぴちのスパッツ。そして、ボトムスの上からでも分かるほど、大きなあそこが日本アルプスのように聳えていた。淑女に見られた恥ずかしさで俺はたまらず赤面した。
しかし、ターニャは意に介せず授業を続けている。きっと教室中央の席に座っていたから分からなかったのだろう。平然と話しかけてきた。
「どうした? いつまでそうしているんだ? 補習を再開するぞ。くっくっく」
一方で生徒側はいろいろと考えてしまう。これはどういう戦法なのか。いわゆる大人の対応か、それともこうした状況は日常茶飯なのか、などと。
逡巡しながら俺はそっと椅子に座り直した。オナモミや画鋲やコンパスがないか確認しながら。
「は、はい。すみません。ターニャ先生」
気のせいだろうか。
ターニャの目がちらりと一物を見たような気がした。
ここで進言するのも微妙なので、依然として左手でスパッツの中心を押さえつけたままターニャ先生の授業を聞いていた。
ところが手で抑えれば抑えるほど、下腹部は興奮してくる。その上、眼前には見事なおしりをしたターニャ嬢がいるのだ。しかも、エナメル素材のぴたぴたパンツを履いている。
キルカ族でなくとも情欲を抑えきれないのが普通だろう。
俺はスパッツの中で乱舞する息子と格闘しながら電子弓の補習を終えた。悶々としたまま。
「さて、これで補習が終わったわけだが・・・」
ターニャは教科書を教壇の上に揃え帰り支度を始めると、一息入れてから何かを言おうとしたが、先手を打ったのは俺だった。
「あっ、お尻ふみふみですね」
一度断られたぐらいでムフフなチャンスを逃してたまるものか。俺は退屈な物理の授業が脱線するのを願う高校生のようにターニャ先生をエッチ路線へ誘導しようと試みた。
「くっくっく。懲りない男だな。まあ、その変態根性だけは認めてやろう。そういう男も嫌いではない。いや、むしろ素直でいいとも思う。が、しかし教師という身分を持った、この私が一介のキルカ族の男子にそんな卑猥な行為をするはずがないだろう。冷静に考えてみろ。せいぜいこのお尻を眼光に焼き付けて今夜のおかずにでもするんだな。くっくっく」
(ちっ、失敗したか。次こそは!)
授業を終えるとターニャは教壇を降り、空疎な教室から出ようとして振り向きざまに俺に詰問をしてきた。
「・・・ところで、さっきの賊だが・・・・・・・・・お前の・・・知り合い、か?」
(もしや、スパイ活動がバレたのか? いや、そんなはずはない。なんとか誤魔化すんだ)
「いえ、怪しかったので身分を確認しようとしただけです」
「そうか。なら構わん。帰って電子弓の構造について復習しておけ。明日は実戦だ」
「はい・・・」
どうやらスパイの件は露呈していないようだ。
それにしてもこの膨張した一物をどうしようか。途中、キルカ族の女子とすれ違ったら恥ずかしい。ひとまず教科書、“初めての電子弓”を股間の前に持ってきて、巧妙にガードしながら宿舎へと戻ることにした。
振り返るとお尻の“ちくっ”は、シボルチ族特製スパッツに仕掛けられた貞操帯のような、俺の性欲に反応するシステムだったのかもしれない。そう考えるとターニャが素知らぬ振りをしていたことも得心がいく。
もしやと思い俺は脱走を試みることにした。予想通りならば裏門のゲートから大きく離れれば、スパッツに何らかの変化が起こるはずだ。
ベットのある宿舎は裏門のそばだ。ちょいとゲートを出て、ダッシュすればいいだけ。と、ここで疑問が湧いた。俺とターニャの二人で裏門を警備することになっているのだが、電子弓の授業を受けている間は一体誰が警備してくれていたのだろうか。
不安に駆られながら、ゲート脇の小屋を覗いた。
(誰もいない! ・・・・・・・・結構抜けてるんだな、シボルチ族って)
ただ、顎に手を当てて考えてみると裏門の先は地上への入り口があるだけだ。仮に地獄でシボルチ族とキルカ族以外の種族がいたとしても、裏門からは来ない。言い換えれば、地上の人間か逃走したキルカ族しか裏門からは攻めてこないのだ。
ターニャが俺を見た途端、キルカ族と断定したのは、そうした理由があったのだ。
一安心すると俺は胸を撫で下ろし、ゲートのバーをくぐると脱走実験をすることにした。本当は全力疾走したいのだが、一物が興奮気味なのでテクテクと歩いて、ちょっと遠くへ行ってみた、というニュアンスでスパッツの隠された機能を試すことにした。
そして、軽自動車二台分歩いたところでスパッツにある変化が起きた。
ピクピク。
(ん? 何だ。スパッツが変形しだしたぞ)
・・・様子を見ていると股間の辺りが大きく前方に飛び出し、ちょうど自販機の缶ジュースほどの大きさになった。やがて、冬眠から目覚めたヒグマのようにもぞもぞと動き出し、俺の一物を吸い上げ女性の手のような柔らかさでマッサージし出した。
ウインウインウイン。
電動音が股間の辺りから耳まで届く。
(へっ? 何これ? 自動股間快楽器なの? すごい気持ち良くなってきた。っていうか立ってられない)
〜想像してごらん。
いや男子ならば、一人でこっそりと試してほしい。
一人エッチのパターンは仰向け、横向き、椅子に座って、の三種類がメジャーだ。直立したままや歩きながら、プレイしたことのある人はそんなにいないと思う。
でも、実際にマッサージされると本当に立ってられず、膝がガクガクして、その場にへたり込みそうになるんだ(キルカ族のGさん)〜
これこそ、究極の脱走防止システムである。
男子の性欲を開放させることで体力を減らして逃げられないようにし、逃走を計った男子は昇天した状態で膝をつき、シボルチ族の女性兵士に連行され嘲笑されるのだ。永遠に。
逃走実験中の俺のあそこはターニャの誘惑で少し興奮気味だったので、すぐに有頂天外となり、あと少しで果ててしまいそうになったところで俺は脳髄に退却命令を出した。
(どどどど、どうしよう。やばい、戻らないと)
俺は前傾姿勢のまま後退りして、このシボルチ族特製スパッツを通常モードへ変形させることに成功した。
(ふう、やばかったな。ターニャの言ってた仕掛けって、これだったのか・・・)
気持ち興奮したまま俺は裏門を潜り、宿舎へと帰った。