第一 10 私の授業は退屈か?
翌日。
電子弓の特別強化訓練が開始された。お尻ヨガの後で。
どうやら例の弓が原子力発電所のプルサーマル並みに高度な知識を必要とする武器のようで、電子弓そのものの構造や矢が放たれる原理を学んでおかないといけないとターニャは言うのだ。
さて、そのターニャのお尻タイプ診断の時間である。
まず、ターニャはお尻から膝にかけての脚線美が見事で、東京ガールズコレクションのモデル顔負けのスタイルである。カスミのように思わず膝枕をお願いしたくなるような太めのAタイプ尻もいいが、フラミンゴのように細い脚もまた魅惑的である。
次に足のつま先から膝、太もも、お尻にかけての筋肉美とでもいうのだろうか。大国ロシアのフィギュアスケート選手のように華麗なお尻である。
そんなヒップを有する教師が後ろを向いて板書するのだ。彼女のしなやかなレッグに魅了されない男子などまずいない。
もしいるとしたら、新婚ホヤホヤの夫ぐらいであろうとおもいつつ、自分もカスミと政略結婚させられて間もない蜜月であることを思い出したところで終業の鐘が鳴り、ターニャ先生は振り返りを始めた。
正直、電子弓の構造などほとんど頭に入っていない。授業の半分はターニャ様のメロンのようなお尻を脳裏に焼き付けておいた。
「それで電子弓の構造については理解できたか?」
「もちろんです。ターニャ先生」
俺は自信満々に答えた。
「では、質問だ。電子弓は同時に何本の光の矢を放てるか?」
「ううむ、難しい質問だな。さすがターニャ先生は質問の仕方が違う。生徒をここまで悩ませるとはきっと頭が切れるのですね。そもそも電子弓は体内の静電気を利用して発射するわけだから、相応の電力を集めなければいけない。そうすると一本の指に集める方が効率的だと感じました。迷いに迷ったんですが、私の答えは・・・・・一本です。お美しいターニャ先生」
「よく勉強しているようだが、正解はその四倍だ。正確には弓を引く指の数だけ放てる。突然変異の種族でもなければ、通常の指は五本。親指は別の用途があるから、残り四本の指で弓を引くことになる」
「ええ!」
「・・・・」
明らかに疑いの目を向けている、その視線はオホーツク海から網走沖にやってくる流氷のように冷たい。
「ターニャ先生、どうしました?」
「刃、私の授業は退屈か?」
先生が青筋を立てて怒りながら、問いかけてきた。
「そんなことありません! 四十五分間緊張しながら聞いていましたっ!!」
俺は起立して声を立てた。勢いで座っていた椅子が後ろに倒れるほどだった。
「・・・・・じゃあ、もう一つ質問する。これに答えられたら下校させてやろう」
「はいっ!」
俺は大阪の空手道部さながらに気合いを入れてターニャ大先生に返事をした。
「では、問題だ。・・・・・・・・・電子弓の矢は、どうやって・・・・・・・・・生成、されるか?」
とある元防衛大臣のようにかなりのタメが入った。
「セイセイ?」
俺は目をしばたたかせながら、聞き返した。
「そうだ。授業の冒頭でやったろう? それとも・・・たかが一時間足らずの授業が終わったら忘れてしまったのか? 不正解なら補習とする。さあ、答えよっ!!」
自信に満ち溢れたターニャの顔とは対照的に俺の表情は苦悶に満ちていた。なぜなら授業で覚えているのはターニャのお尻と体内の静電気を増幅させて矢を放つということぐらいで、矢そのものがどう作られるかといった科学的な数式はアインシュタインの相対性理論のように複雑でノートにさえとっていない。
「ノーコメントデス」
「くっくっく。補習決まりだな」
そして俺はターニャと二人きりで補習をすることになった。今、思えば最後の質問は答えられないのが前提であったクエスチョンで、もともと補習させることはターニャの頭の中では決定事項だったような気がしなくもない。
ガラガラとスライドさせる扉もない明け透けの簡易教室に俺がトイレ休憩から戻ると、なぜかターニャが俺の席から筒型カップラーメン一個分の距離で脚を組み、ペルシャ猫のように優雅に腰掛けていた。
「・・・戻ってきたな。それでは補習を始める。教壇からだとよく聞こえないようだから、ここで教育してやろう」
ターニャが細い足をすっと組み替えるとエナメルパンツのキュッとした衣ずれがした。
「は、はい」
思わずお尻と太ももにばかり目がいってしまう。間近で拝見すると実に艶やかな脚をしているのが改めて分かる。
俺はふと下を見て、一物の隆起に気づくとさりげなく左手でスパッツの膨らみを押さえつけた。
(しまった・・・)
「では、“初めての電子弓”の十六ページ目を重点的に教える。これがもっとも重要だ」
(うううう、めちゃくちゃ大きくなってきたあ)
「くっくっく。どうした? 目の前で私の脚を眺めることができて嬉しいのか? だが、お前は“お尻フェチ“だろう。さっきの授業で後ろを向いた時のポーズの方が好みじゃないのか?」
「・・・・・・」
「なぜ黙したままなんだ?」
「いえ、おしりフェチなんかではありません」
「そうか。では、このお尻をお前の顔に押し付けてもいいんだな? お尻が嫌いなら嫌がる行為だ。さっきの質問に答えられなかった罰としてはぴったりだ。くっくっく。だが、お前がお尻フェチならただの営業になってしまう」
ターニャが腰を上げ風船のようなお尻をくいっとこちらに向けると、俺の顔は溶岩のように紅潮した。
「ターニャ先生。お尻を顔に押し付けてください。罰は受けます」
俺はお尻が大好きなので賭けに出てみた。お尻には興味がない振りをするため、さっきからずっと下を向いたまま目を瞑っている。
そして脳裏にムフフな期待がよぎった刹那、ターニャ先生の絶望的な決断が下された。
「罰は辞めだ。お尻好きなお前を興奮させるだけだからな。こんなところで痴漢でもされたら、たまらん!」
「そ、そんなあああ」
ターニャは俺の席から離れると教壇に戻って、さっきの授業より詳しく板書した。例の数式を。でも、数式が長いためターニャの艶冶なお尻を見られる時間が増えたのは不幸中の幸いと言えるかもしれない。
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