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目指せ!地獄のレコンキスタ!!  作者: 深山鬱金
キルカ族の城
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第一 9 俺は好きだけどな

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それにしても暇だな。さっきターニャに習ったお尻筋トレでもするか」


名案がうかぶと、俺はそっと軽合金ジュラルミンのドアノブを回し小屋を出た。恥ずかしいので鍛えている姿が目立たないよう城壁のコの字形の暗がりへと移動してから、トレーニングを開始した。

人間、暇になると意味不明クレイジーな行動を起こすものだ。

どこに警備しながらお尻の筋肉を鍛える兵隊ソルジャーがいるだろうか。でも、関ヶ原の戦いの後のように広大な国土を制圧したばかりの東軍に戦いを仕掛ける輩はそう多くないはずだから決してあり得なくはない、などと自問自答しながら俺は一人で鍛錬することにしたのだが、ここは地獄だから場合によっては反政府軍がいないとも限らないという二十パーセントの杞憂を抱きながら、いそいそとヨガマットをひいた。


(・・・・まずは四つん這いになって片足を交互に動かすトレーニングだったな)

しばらく筋トレを続けていると、例のおしり筋が痛くなってきた。ターニャのレッスン中に子爵の称号を与えた箇所だ。真冬の夜に布団の中でふくらはぎが冷えて、足がつるような感覚さえあった。

(こ、これは危険じゃないか?? お尻筋がつった状態で警備などできるだろうか。きっと座るのさえままならないはずだ)

不安に駆られた俺は独断で四つん這いトレーニングを切り上げ、次のお尻ストレッチへと移行することにした。まるで数に物を言わせて御都合主義の法案を通そうとする与党の国会議員のように・・・。


(次は・・・と、“逆”四つん這いになって、腰を突き出してから開脚するストレッチだったな。そうそう、ちょっと恥ずかしいヨガのポーズだ)

こうして俺が頭で思い描いていた通りの淫靡な姿勢を取ったところだった。ふいに三人組トリオが俺の視界を遮った。

できるだけ、そちらに顔を向けようとしたが、後方がどうしても見えない。気配は感じるのだが・・・。

(だ、誰だろう? もしかして敵襲か? でも、これじゃあ反撃のしようがないな。仲間の可能性もあるし、他人のふりでもしておくか)


「おい、お前!」


そのうちの一人が言った。

(チッ、バレたか)

ところが、その周波数には聞き覚えがあった。ヨガのおかげで心拍数が低かったのだろう。この音声ボイスは知り合いだということが肌で感じ取れた。

しかも、かなり仲のいい間柄だ。


数秒ほど考えて、それが妻のカスミであることに気がついた。

(この姿勢はまずいな。スパイしながら一人でしこしこ愛撫していたみたいに見える・・・。ヨガトレーニングだと正直に言って凌ぐしかない)


「・・・・・何って、城の警備が退屈だから、敵襲に備えて“おしり筋“を鍛えていたんだ。そもそも俺はお前に命令されて、この城に潜入したんだ。もし敵が来ても、それはキルカ族たるカスミたちじゃないか。仲間を恐れる必要があるのか? それとも他に敵対勢力でも?」


俺は正論を捲し立てた。


「いや、ないが・・・。その格好で警備セキュリティとは恥ずかしいぞ」


カスミが浮気した彼氏二年目の男を見るような冷たい目で俺を見下ろしている。


「そうか? 俺は好きだけどな。男らしくて」


そう言いながら、俺は股間をさらに上へ上へと突き出してやった。高さ四十フィートを超えるアリゾナ州のサボテン、ベンケイチュウのように。


「もういいっ!! 早く見張りに戻れ!」


結婚したばかりのプリンスの下品な行動にカスミが落胆したようだが、エロいのはカスミも同じだ。何かあるとすぐ俺の股間を握り、男の快楽エクスタシーを制御しだす。

しかし、これ以上、キルカ族王女の信頼を失いたくないので茶番コントを止めて立ち上がろうとした。


その時だった。

初めて行ったバッティングセンターで体感した百五十キロの野球ボールのようにカスミの脇を光の物体がひゅっと通り抜けた。

ボーガンよりずっと先進的で、科学妄想映画サイエンスフィクションフィルムで見たエイリアンと未来地球人との戦闘を彷彿とさせるような武器だった。


「敵襲!!! 戦闘配置につけ!」


遠くからターニャの罵声が飛んだ。その相棒は全速力でゲートまで駆けてきた。どこかで監視カメラでも見ていたのだろうか。

スパイであることを疑われないよう俺は“敵”であるカスミを追撃する振りをしたが、二歩目を踏み出そうとしたところでターニャに肩を掴まれた。


じん! 深追いはするな!!」


俺はぴたりと立ち止まり、後ろを振り返った。ターニャは実に冷静な表情をしていた。さすが百戦錬磨の首領リーダーである。


「もう城はシボルチ族のものだ。外へ追い出せば、それで御の字だ」


「ふっ、そうだな」


俺はまた退屈な警備に戻ろうするとターニャが訊いてきた。


「ところで刃、戦闘経験バトルスキルはあるか?」


裏表のない率直な質問だった。


「多少は・・・」


浅いが経験はあるような素振りで返答するとターニャが口元に笑みを浮かべた。


「遠くでお前の様子を見ていたが、動きにもっと磨きをかけた方がいい。どうも徒手空拳での戦闘に頼っているように見える。そうだ! これから、お前にはヒップアップトレーニング後に特別強化訓練に参加してもらうというのはどうだ? 見たところ素質センスがありそうだ」


「ああ、ぜひ」


シボルチ族の戦士として見込まれたと直覚した俺は黙ってターニャの意見を受け入れた。

訓練は明日からでいいそうだ。すでに交代の時間なので、今日は仮眠室に戻って休むよう言われた。

(隊員の体調を気遣うところも素晴らしい。これじゃあ、カスミ王女もやられるわけだ)

俺はアメリカンコメディさながらに肩をすくめた。

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