地獄はエルサレムの地下に眠る
あなたはモグラ科モグラ属アズマモグラのように地中深く、地面を掘ったことがあるだろうか・・・。
小学校の校庭の花壇でアサガオの種やホウセンカの種やツルレイシの種やインゲンマメの種を植えるために人差し指の第一関節分の深さだけほじくったおぼろげな記憶が、個人の新記録だろうか。
はたまた母校を卒業するその年に記念植樹のクラス代表に選ばれ、若木の根が埋まるくらいの深さを大きなスコップで掘ったのが、個人レコードという人物もいるだろう。
もしくは副都心線の建設作業員ならば、地下五階の地層へと潜った経験がある中軸社員もいるかもしれない。
しかし、それでも“たった“数百メートルである。五重塔は奈良時代に建立されていたのに、地下五階を走る列車が開通したのは平成時代である。
海底を地中に含めるならば、日本とパプアニューギニア独立国との中間に位置する“マリアナ海溝“が最深で、あの地球最高峰のマウント・エベレストがすっぽり収まる深さである。
それでも地球の核までは、とても足りない。小学校のソフトボール投げでインドア系女子が学年記録を狙うくらい足りない。
地球の核へ辿り着くには北海道から沖縄までの長さと同じ距離だけ地面の下を掘り進めて、ようやく“外核“と呼ばれる地球の核の「外側」へとたどり着くことができる。
外側だから卵の黄身の表面に針を刺したようなもので、中心まではさらに距離があると言われている。
高校のグラウンドをどんどん掘っていったら、反対側のウルグアイ東方共和国の沖合に出ると冗談を言った地理の教師がいるが、到底無理な話である。
では、中世の人は地面の下に何があると考えたのであろうか。
キリスト教世界では、エルサレムの下に「地獄の門」があって、その下に「地獄前域」、そして「アケローン川」を超えると第一圏の「辺獄」へと到達する。さらに第二圏(ここからが地獄)、第三圏と続き、「ディーテの市」を抜けると第六圏の“異端者の地獄“へと達する。
第六圏の下に「ブレゲトン川」が“流れ“、第七圏、第八圏と潜っていくと「巨人の大穴」が見えて来る。
その穴のさらに下が第九圏で“裏切り者の地獄“と言われる。おそらく『神曲』を書いたダンテや旧約聖書のワールドでは“裏切り“こそが最大の贖罪なのであろう。
その地獄のもう一段階下が最下層の「ルチフェロ(魔王)」で、別名“サタン”とも呼ばれる。
とどのつまり、昔の人は地面の下に地獄があると絵や書物を通じて想像していた。だから、西洋では棺を燃やすのではなく、地面にそのまま埋めたのであろう。良かれ悪かれ、何かしらの罪を一般の人は犯したと考えたのかもしれない。
だが、もしも人間の細胞を原子レベルまでにミニマム化できる技術を持った種族が地下で暮らしていれば、途方もなく厚い層で覆われた地獄を体現できるかもしれない。
これはそんな小さな地獄で起きた種族と種族の争いを描いたちょっぴりエロいお話である。