0.プロローグ
好きなものに対して突き詰めることは自分の長所であると、私は思う。
私にとってそれは『仕事』と『趣味』であり、『恋愛』は一切含まれていなかった。
そもそも、父親と母親と妹がいて、幼い頃から趣味を共有してくれた友人さえいてくれればそれでいいと本気で思っていた。
全力で、自分の好きなことをたくさん行えた人生に悔いはないと、さっき道の脇まで押した子供を横目に、目の前に迫るトラックを見て、視界が暗くなった。
ああ、でも、みゆちゃんにまだ話したいことがあったな。
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「奥様おめでとうございます!元気な女の子たちです。」
周りがうるさい。あのあと運良く助かったのか?
「メイ、二人を抱かせてちょうだい。」
知らない人が近づいてくる?えっ身体が浮く?力強っ…じゃなくて私の身体が小さくなってる!?
「本当に可愛らしいわ。こんにちは、ラウラ。ハンナ。」
今私、赤ちゃんに転生してる!?
叫び声の代わりにでたのは、大きな産声。ひとしきり泣いたあと、私のお父さんらしい人がきて、泣きながら抱っこし、無事お顔びちょびちょになりました。
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喜んでるお父さんやお母さん、メイドさんの会話をまとめると、
私の方が『ラウラ・アードラースヘルム』。横に寝ている赤ちゃんは、『ハンナ・アードラースヘルム』。うーん、みゆちゃんから借りていたよくある恋愛シュミレーションゲームの登場人物。えっとタイトルは……忘れたわ。
というかこれ、やっぱり今はやりのトラック転生だよね。
ああ、なんか思い出してきた。確か、『ハンナ』が悪役令嬢で最終的に処刑もしくは国外追放されたんだったよね。妹が姉差し置いて、王子と婚約してたのは覚えてる。
ちょっと待って。その場合、私はどうなるんだっけ?…思い出せない、いやそこ重要でしょ。
いや、ラウラはモブポジだったし、王子の婚約者になるのは面倒くさそうだもの、ラウラでよかったわ。
とりあえず、王子との婚約は引き続きハンナにお願いして、ハンナを悪役令嬢じゃなくて淑女にすればいいのよ。
セオリー的には、悪役令嬢は上位階級の大貴族でしょ。ハンナが結婚して出て行くなら、この領地は私が継ぐじゃないかな。
姉は、領主。妹は第2王子の婚約者、最高じゃない。理想の領地にしてみせるわ。
まあ、とりあえず今は赤ちゃん生活を満喫します。