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砂漠の薔薇  作者: hybrid
6/7

5 前編


シューという音と共に列車はゆるゆると停止した。

『続きまして、降り口右です。皆様お忘れ物の無きよう、今一度ご確認ください。』

アナウンスに従い、自分の座っていた所を見返す。木の枠と赤色クッションで出来た座席、網の張られた荷物棚、ゴミの一つも落ちてない綺麗に清掃された通路。

椅子の下はさっき確認した。

元々持ち物が少ないため、そんなに長い間見なかった。

扉が閉まる前に外に出る。

ここからは歩きになるか。

憂鬱げに考えながら煙草をくわえ、火を付けた。

少しして列車の扉がフシューと音を立てて走り出した。

振り返り、黒いそのボディーを見る。

短い間だったが、運んでくれた列車はまた次の駅に向かって走り出した。

一陣の風を残して消えていった。

俺はそのまま煙を吐き続け、粗方吸って短くなった煙草を灰柄入れに擦りつけた。さて、と歩き出したところで前から声がかかった。

「お兄さん、一緒に行こうか?」

顔を上げると緑の髪の少女が立っていた。

周りを見渡したが自分しか立っていない。

どうやら俺に話し掛けているみたいだ。

「やだな。君に話し掛けてるんだよ。」

「俺か」

そう、と頷いた彼女は俺の手をとった。

「お兄さん、捜し物の在処は分かったのでしょう。私はあなたを連れて行くの。」

そう言って少女は手を引いた。

思ったよりも強い力で引かれた俺はつんのめって倒れそうになった。

床に手をつこうと咄嗟に手を離す。

その瞬間、あっ。と少女の声が聞こえてくる。そしてどこからか現れた黒い靄に囲まれた。

いや、これは逆に黒い世界に光があったといったほうが良い。

「な、ここは....」

周りを見渡しても光は見えない。

ただポケットがぼんやり光って見えた。

何だ、とポケットに手を入れる。

そこには今までお代として頂いてきたもの。

「光ってる.....」

取り出した光源はゆずりが渡してきた浜辺の沈まぬ太陽。

確かに太陽のように輝いていた。その光に導かれるように二つの欠片が飛び出してきた。

あの老夫婦が渡したものだ。

それらは飛び出すと陶器の欠片は薄い煙を吐き出し、水晶は浜辺の太陽に照らされて白い煙に何かを映し出した。

揺れた映像はやがて見やすくなり俺の目に写った。

それは

「....俺か........。」

どう見ても幼い頃の自分だった。

見慣れない所にたち、洒落た服を着ている。

誰かに手を引かれて歩いているようだ。

不思議そうに手を引く者のほうを見上げる。

その手を引いているのは若い女性。

見たことの無い女性。

だが俺は彼女のことを知っていた。

彼女は俺の探している女。

どんなで、どう言う関係かも思い出せないが無性に求める女。

だんだんと二人の周りも見えてくる。

暗い闇と星。

石で出来た建物。

ここは大分地上から離れたところのようだ。

風が強く当たり、二人の靴が立てる音を消していく。

知らない情景。

覚えている香り。

いつかの時。

彼女が立ち止まったとき、俺はすべてを察した。

まずい。

俺は止めようとしたんだ。

あのときも、同じように。

ここから下へ落ちていく彼女を。

短い手を一杯に伸ばして、小さな足を踏ん張って。

彼女の細い指を捕まえようとしたんだ。

彼女は...そうだ....

笑ったんだ。

驚いたような顔をして、

今度こそ。

捕まえる。

届くはずのない靄に向かって手を伸ばした。

しかし、つかめるはずもなく、

「.....っ。」

爪先に靄はみだされ消えていった。

残ったのは先と変わりない暗い闇。

思い出した。

あのとき俺は救おうとしたんだ。

高いそこから落ちていったたった一人の愛した人。

自らの母親を。

「もう、手を離しちゃ駄目だよ。君はすぐに取り込まれちゃうんだから。まだ闇と一緒にはさせないよ。」

力なく降ろしていた右手に小さな手が触れた。

温度のないその手が触れた途端、闇は消え、青空が帰ってきた。

「君は.....」

「お兄ちゃんは会いに行かなきゃいけないのでしょ。一緒に行かなきゃ分からなくなっちゃうよ。」

ニコリと笑いかけた少女はそのまま俺の手を引いた。

そのまま宙に浮かび上がった。

「なっ・・・・・」

背中に白い羽毛の生えた羽がついていた。

パタパタと羽ばたく。

落ち着かない浮遊感に身を固くした。

それを見て少女は可笑しそうに微笑んだ。

「あはは。そんなにしんぱいしないで、私はあなた位ならいくらでも運べるわ。」

空を飛ぶのは初めての体験だった。

風が髪を透かしていく。さっきまでの事でかいた汗が乾いていっていった。

「あはは気持ち良いでしょ。人間は空を飛べないのは本当だったのね。」

たかい木を眼下に見やり、俺たちは目的の場所へ進んでいった。

進むに連れて空は暗くなっていく。

いつの間にか天はいつかと同じ輝きを見せる。

儚く輝く星を彼女は愛していた。

金の髪を持つ彼女は俺にとってそれと変わらない愛しさだったが、彼女にとって俺はそれと同じだけの存在だっただろうか。

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