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砂漠の薔薇  作者: hybrid
4/7

3 思い出の対価 老夫婦


転た寝をしていた。

長い間座っていただけなのに疲れていた。

うとうととし始めてからは早かった。辺りが薄暗いこともあり、すぐ眠りに落ちていた。



「もし、そこのお方。少々よろしいかな。」

「あなた、お眠り中に失礼じゃあないかしら。」

「いや、起きることはない。」

誰かの話し声に目を開くと、仲よさげな老夫婦が覗き込んできていた。

「気持ちよさそうに眠っている所失礼するよ。」

「はあ....」

二人ともニコニコしているが断れない感じがしていた。


二人は向かいの席に座るとおばあさんの方が鞄から煎餅を取り出して渡してきた。

「あ、すみません。」

「いいのさ。沢山お食べ。」

俺は冷血漢だと自負していたが、最近なんだか流されている気がする。

おじいさんの方もいつの間にかお茶を飲み始めていた。


しばらく誰も話さない時間が続いたが、おじいさんが急に話し出した。

「やあ、若いの。わしらはこうして旅しているわけだが、元は山で暮らしておっての、何、ちょっとばかしわしらの話しを聞いてくれぬか。」

「あらあら、あなた、少々図々しいのではないですか。」

別に気にならなかったが面倒で何も答えなかった。

相手は沈黙を肯定と捉えたのかゆっくりと話し出した。


しわがれた低い声が柔らかく鼓膜を揺らし眠くなりそうだった。

「わしらが生きたのは大変な時代だった。今みたいに機械なんかなくて家事も仕事も手作業だった。今と一番違うのは世界中の仲が悪かったことだ。何年続くかも分からん戦争が何度も起こっていた。食料や人手が世界中で不足していて、わしらも労働力の確保のために結婚したくらいだ。その頃は世界中の人の心が荒んでいた。愛や平和など偽善者が語る絵空事だった。皆、そんなもの信じちゃ居なかった。信じているのは戦いに出された兄弟や父親、知人の無事生きて武功を立てているだろうと言うことだけだった。それで日々、明日を恐れて生きておった。」

「ええ、親同士の決めた結婚もよくあることだったし、いつ使うのか分からないような戦う方法を恐ろしい上官から教わったわ。兄弟が居なくなるのに文句を言ってはいけないのだもの、それは悔しかったわ。」

思い出したように苦々しげな顔をする。

俺は無言で煎餅をかじった。

「結局弟が一人帰ってこなかったが、文句は言えなかった。やがて平和な国としての体制を整え、国が発達してきた頃わしらに息子が出来た。嬉しかった。」

「まだ子供が死ぬことが多々あった時代だから、元気に走り回っているのが嬉しかったわ。」

頬を緩ませ、微笑む二人は本当に嬉しそうだった。

俺は子供どころか結婚すらしていないのでよく分からなかった。

「わしらは三人の子供に恵まれた。皆可愛かったが大変だった。百姓だったから食べるものには困らなかったが、学校にも生かせなくちゃならなかったからな、」

「毎朝弁当を作る度にもっと良いものを食べさせてあげたいと悔しく思ったわ。」

二人の顔からは悔しさがにじみ出ていた。

さっきからまったく表情の豊かな人々だ。

「そんな日々か幸せだった。やがて長男が嫁をもらう頃にはわしらも随分年をとっていた。孫の顔が見れるのは嬉しかったがな。四人目の孫が生まれて間もない頃わしはしんでし待ったが。」

「あら、私はひ孫まで見ました。可愛かったですよ。」

「うむ....」

悔しそうな顔のおじいさんをおばあさんは笑いながら見ていた。

本当に仲の良い夫婦だ。


ひとしきり笑い終わると、おばあさんは何かに気が付いたようにおじいさんの袖を引っ張った。

「さあ、そろそろ行きましょう。」

「ああ、そうだな。若いの、ありがとうな。静かに聞いてくれて。」

「お代は置いて行きます。」

満足げな顔で二人は何かを差し出した。

俺は咄嗟に手を引っ込めていた。

お代など受け取れない。

自分はただ聞いていただけだ。

手を引っ込めた俺におばあさんはにっこり笑いかけた。

「受け取ってちょうだい。あなたは私たちの歴史を後に残してくれるのだから。私たちの子供たちには出来るだけのものを残してきたわ。思い出とか血とかね。あなたにも何かをあげなくちゃ平等じゃないでしょ。」

「では....いただきます。」

素直にてを差し出すと、彼女は何かをすっと置いた。

次に彼が同じように置いた。


彼は俺の手を握ると力強く言った。

「後は任せたぞ若いの。お主の求めるものは絶対に手に入る。一歩一歩慎重にな。」

「え....」

私は彼らに旅の目的を言っただろうか。

呆然としているうちに彼らは手を振って薄くなっていく。

消える最後の瞬間彼らの顔からしわが消え、若い美しい夫婦が仲よさげに微笑んでいた。



はっと目を覚ますと何時もの堅い座席の上だった。

一瞬すべて夢かと思う。

しかし違った。

目の前の座席には二つの石が落ちていた。

一つは白い陶器の欠片、もう一つは灰色に濁った灰水晶、所謂スモーキークオーツだ。

所為なさげに汽笛がなった。

彼らの人生に後悔はない。

乗り換えも下車も出来ない人生を彼らは長い間走り続けたのだ。

鞄から煙草を取り出すと加えて火を付ける。

座席に置いてある二つの石の欠片を手に取ると天の灯りに透かして見た。

白く照る陶器は繊細な美しさを、肌色にも琥珀色にも見える水晶は儚い力強さを感じた。

しばらくして、煙を吐き出し、石をポケットへ突っ込んだ。

またいつか取り出す事があるだろう。

彼らの事を思い出すことがあるだろう。

それまではゆっくりと進むことにした。



***

はい、まりりあです。

スモーキークオーツという水晶をですね、持ってるのです。

じつは、この話の題名である、砂漠の薔薇も石の名称だったり……。調べてみてくださいね。

それでは、またの機会に。

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