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砂漠の薔薇  作者: hybrid
2/7

1 旅立つものを見送るもの。ダリア


小刻みに揺れる座席に座り、俺は紫煙を吐いた。

走り出した汽車は目的の場所へ向かう。


俺の脳裏にふと少女の顔が浮かんだ。

町にいた頃ちょくちょく顔を見せた少女。

俺が彼女に特定の感情を持つことは無かったが、彼女は俺に好意を持っていた。

気がついていた、しかし何もしなかった。

優しい言葉をかけるどころか言葉を交わすことさえ無かった。

彼女には何もしなかった。

家に着ても拒むことは無かったが出迎えることも無かった。

それでも彼女は笑顔を見せた。

彼女の名は.....たしか.....ダリア......


「何か入り用はございませんか。」

考え事をしていたら制服を着た女性が話しかけてきた。

押しているカートには様々なものが置いてあった。

お菓子の袋から飲み物の瓶までそれなりに揃っていた。

思案を邪魔されても何も思わなかった。

今は必要無いので静かに首を振る。

ごゆっくり。と言葉を残して前の方へ歩いて行った。



気付くと向かいの座席に一輪の花が置いてあった。

花弁が重なり合い、華麗で、威厳に満ちた姿をしている。  

彼女が好んだピンク色であった。


「彼女が可哀想だわ。貴方は知っていたのでしょう。彼女が貴方を思っていたこと。」

それは凜とした声で話しかけてきた。

しかし俺は何の反応も示さなかった。

そんなことは言われる筋合いも無い。

「貴方は彼女を助けられたのに、置いてきた。これって怠惰だわ。彼女がどうなるのか知っていたでしょう。知っていて何もしないなんて。人間として生きるなら与えられた仕事くらいこしなさい。そんなでは権利を失います。それがどういうことか分かってますか。」

彼女、あの町の少女がどうなるか俺は確かに知っていた。

このままだと彼女は片手を失うことになり、目が腫れ、涙が涸れるまで泣くことになる。

それでも俺は置いてきた。

彼女には恩こそあれど恨みはない、それでも俺には関係なかった。

どうなろうか知ったことじゃないが、それは恩着せがましく言ってきた。

「貴方は彼女を助けられた、私には出来ないことも出来たのに、何故しなかったの。」

軽く怒気を孕んだ声。

花弁も初めより濃い色に見えた。

五月蝿く思い、俺は鞄からチョコレートを取り出した。

パキッと折って食べ始めるとそれはわなわなと震えだした。

列車の振動でも分かる位に。

「ふざけないで、聞いているの。」

五月蠅かった。

仕方なく、それの前にチョコレートの欠片を置いた。

「貴方、私のことなめてますね。」

「いや.....」

怒髪天をついたようだ。


そろそろ聞いてやろう。

「で、俺は何の利点がある。」

「今までの恩、では駄目なのかしら。」

「おまえに恩は無い。」

深く紫煙を吐き出す。

白い煙が立ち上った。

「では、私の未来を差し上げます。それでどうかしら。」

列車の騒音に掻き消されそうなほど小さく、真剣な訴えだった。


俺は立ち上ると窓を開けた。

窓の外は見えない。

そして花を手に取ると窓の外に投げ出した。

花は一瞬光り、汽車の纏う風に反して下へと落ちていった。

彼女の願いを叶えるために。

彼女の見たいものを見るために。


一つ身震いすると急いで窓を閉めた。

堅い座席に身を投げ出すと、加えていた煙草を口から外し、煙を吐き出す。

煙草の先から立ち上る紫煙が揺らめいた。

向かいの座席にはチョコレートの欠片と小さな球根が一つ。

芽を出すことは無いだろうそれを無造作にポケットへ突っ込んだ。

また機会があれば取り出すだろう。

それは何時だか分からないが。



誰かに止められたような気がして、振り向いた。

危ないよ.....と小さな声が聞こえた気がした。

しかしそこには何もいなかった。

その時私の目と鼻の先を車が一台通っていった。

アレ?、と思った。たしかに今は青信号だったはずだ。誰かが呼び止めてくれたのだと思い、今一度後ろを振り向いた。

ただ、一輪の花が落ちていた。 

美しく花開いたそれを手に取ると、曇り空を見上げた。

汽笛が聞こえた気がした。

悲哀を秘めた、だが確かに希望に鳴り響く汽笛が.....




***

こんにちは、まりりあです。

思えば、これを書いたときゴダイゴさんの銀河鉄道スリーナインを聞いていて、こんな話になったような………

メーーテルーー!

こんな感じで、一話完結で進みます。

では、またの機会に。

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