#6
「ハイ!もうおしまいにしよう!ね!」
わたしは、バスケの話をやめるよう進行係に言った。
そう言った途端に進行係から言葉はなくなった。
「過去は過去。過去は前に進むための推進剤にしなくちゃね!」
わたしは空を見上げた。
「あっ、今日は雨だっけ!」
雨粒がみずきの柔らかい肌にあたって流れた。
雨の日はいつも思い出す。
「琴波ちゃん‥」
みずきの柔らかい肌に目からもやさしい雫が流れる。
「琴波ちゃん、待ってよー!」
「追いつけたら、わたしの絵描いてもいいよー!」
琴波は嬉しそうに言った。
みずき、小学生、サッカークラブ所属、趣味絵を描くこと。
琴波とは毎日遊んだ。
琴波はかわいくて、とにかく元気な子だった。
みずきはよく絵を描いていた。
ある日、そんなみずきの絵を琴波に見られた。
「これ、わたし?」
「ご、ごめん勝手に描いて!」
「なんで謝るの?わたしは嬉しいけどぉ?」
「ホント?」
「ホントだよ!だってわたし、みずきちゃんの絵好きだもん!」
好きで描いてる絵をほめられて嬉しいわけがない。
みずきのテンションがみるみる上がる!
「ちゃんとみて描いてほしいな」
「え?」
ボクは驚きを隠せない。
「だから、勝負しない?」
「わたしが逃げるから捕まえられたら描いていいってルール、どうかな?」
「うん!」
ルーズボールやフリーでもみずきには気をつけろ!
仲間たちはそう言っていた。
みずきはカウンター潰しが得意だった。
何か目標があると、スピードが上がるらしい。
ノーマークやフリーという言葉はなくなる。
学年では3番目の足の速さだったが、ことこの件に関しては学年1位と言えた。
そんなみずきを知ってか知らぬか、琴波はつかまえられたらと言った。
みずきちゃんらしく描いてね!
みずきは真剣に描いている。
言うまでもなく勝負はみずきの勝ち。
でも、みずきは嬉しかった。
琴波といる時間がとても心地いいからだ。
そんな琴波が転校してしまった。
あんなに元気だった琴波ちゃんが目の病気を持っていたことは、後で知る。
転校してから琴波ちゃんとは会っていない。
琴波ちゃんがいなくなったとか、なくなったなんて噂もよく聞いた。
真相はわからない。
そんなことを思いだしながら、やさしい雨の中歩いているみずき。
ふと、身なりの綺麗な初老のご婦人が話しかけてきた。
「こ、琴波ちゃんかい?」
わたしは驚いた。
わたしの顔は琴波ちゃんそのものらしい。