#5
勘違い
これはよくあること。
相手に自分の真意が伝わらず、その結果、誤解や問題に発展する。
言葉とは便利であり、とても不便というか諸刃の剣であることにはかわりない。
それほど、大事でもあり愚かなものでもある。
日高瑆の言ったこともそうかもしれない。
いつからか‥か。
かわいいし、いっか!
みずきは考えるのをやめた。
勘違いは、時として人をポジティブにすることもあるらしい。
みずきの場合は、そういう次元にいないのかもしれない。
いつからか?
この言葉に動揺して、色々考え悩み模索するのが一般なのだか、みずきの思考回路はそこで停止した。
事実、勘違いで助かる場合もある。
みずきの性格だからこそ、今の自分に対して前向きだし、ゲーム実況も続けてこれたのだろう。
かといって、かわいい顔を武器に立ち回るそぶりもない。
人を惹きつける何かを持っているのかもしれない。
当の本人は何一つ気にしてはないが、それもいいところである。
「ちょっと!聞いたわよ!」
真理がいつもの調子で話しかけてきた。
「日高さんが男バスの練習に参加するんだって?」
え?またまた聞いてないぞ
「知らないけど、そうなの?」
「みずき、いつもと変わらないねーなんか安心するわ」
これは褒められてるのだろうか?
「ほら、今度の校内のバスケ大会のための練習だってさ」
ああ、なるほどね!
校長が思いつきで開催するやつね!
NBAの六町基の活躍に感動しちゃって、大会やるみたいな流れになったらしい。
「日高さん、気合い入ってるんだね」
「んー、どうかな?日高さん負けるの嫌いだからじゃない?」
っと、真理が言ったことは一理ある。
なんか嫌な予感がするのは気のせいだろうか?
気のせいにしとこう。
「みずき、マークされてるんじゃない?」
真理がニヤニヤしながら言ってきた。
「全中MVPだもんねーみずきは」
「もとな」
「みっちーとか言われてた時もあったね!」
真理は笑いをこらえてる。
ただし、わたしの肩はバンバンしてる。
「わたしより、友慈のほうがMVPだと思うんだけどね!」
「そんなことはないさ!」
友慈登場!
後ろからわたしの肩に手をまわしてる。
「こらぁー友慈!なにやってんだ!ゆるさんぞ!」
真理の性格が変わった。
こういう時は、わたしの出番。
「まりり、大丈夫だから。ね!」
真理の頭をポンポンする。
ほら、おとなしくなった。
「オレにもポ、」
「断る」
「ポしか言ってないじゃんか!」
「お前の考えてることくらいわかるわ!」
ホント、なんだろな、この2人w
でも、この2人が幼なじみであり友達でよかったな。
そう思っていると、現実に戻される。
「なぁ、みずき、あの時のMVPはオレの方がよかったなんて、もういうなよ!」
「だってさ‥あの時、間違いなく友慈だと思ったけどな」
「いや、オレは大会関係者のあの時の見る目流石だと思った」
「みずきがいなければ勝ててなかった試合だし、あの大会中はみずき中心になってたからな」
「自分がいなきゃダメとか、自分しかできないと思ってそこから進まないのは、結局はその人がいなくても世の中が回ることを知らない人だって、だけど、その先を見据えて次の一歩を踏み出す人こそが、世の中には本当に必要な人だって‥ばあちゃんが言ってた」
「みずきは、まさにそれだったしな」
中学時代、みずきは誰もが認めるプレイヤーだった。
身長は大きくないが、スピード、ジャンプ力は特にすごく、オフェンス、ディフェンスも観る者を釘付けにした。
とくに、ジャンプシュートが美しくファンを虜にしていた。
そんなみずきが、大会全体、とくに決勝で言った言葉が仲間をより鼓舞した。
「ボクはこの試合自分の得点が0点でもいいんだ。みんながそれぞれ自分の役割を果たせないなら、ボクの得点になんの意味があると思う?」
この言葉だけを聞くと、そんなの当たり前ではないか?と思うだろう。
しかし、みずきは大会平均32.5得点をマークしてる。
そんな彼が言うのだから、仲間のハートに火がつかないわけがない。
そして、仲間はみずきが自己中心的なプレイヤーではないことを知っている。
仲間がいなければ、みずきひとりでは勝てない。
仲間がいるからみずきが得点できる。
当たり前のことを当たり前に思わないところもみずきらしいし、信頼されてる証拠だ。
だからこそ、みずきが友慈をMVPにふさわしいというには理由があった。
それは、また後日紹介しよう。
チームをまとめ、チームのために尽くす。
こんなエースがいたら頼もしいだろう。
そして、何よりも仲間思いで自分の立場に固執しない。
みずきは、自分じゃなきゃダメだと思ってプレイしてはなかった。
仲間の、チームの選択、確率の結果がみずきであったと言えばわかりやすいだろうか。
それに見事に応えたのがみずきだった、それだけの事らしい。
そんなみずきを観て心踊らせ観客席からみていた同級生がいた。
日高瑆である。