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第六話 白銀の男

 


「ゲームの終わり方が分かんない? ……ぷっ、プハハハハハハ!」


 シルバーと名乗る男にオレは、今までの経緯を話すこととなり正直に喋るとこいつは腹を抱えて笑い出した。

 ……殴っていいかなこいつ。

 笑い転げるシルバーに軽く怒りを覚えながらオレは拳を握りしめてその衝動に耐えた。確かにゲームの終わり方が分からないなんて馬鹿な話であるが、そこまで笑わなくてもいいじゃないかと思う。

 ひとしきり笑うとシルバーは、目元に浮かんだ涙を拭いながら立ち上がった。どんだけ、ツボが浅いんだよ。


「ハァ~、可笑しかった。っでなんでしたっけ、あぁ、ゲームのログアウトの仕方ですね? えぇと、右手でこうしてみてください」


 そう言うシルバーは、右手を目の前にかざすと人差し指をくいっ、と動かした。オレもそれを真似してみる。すると、目の前に透明な文字が現れた。

 驚くオレをよそにシルバーは説明していく。


「出てきましたか? それが、メニュー画面です。そして、そのメニュー画面の一番下に設定っていう項目があるでしょ?」

「……あぁ」

「で、その設定の項目をタッチするとまたいくつか項目が出るんですけど、その一番下にログアウトボタンがありますよ」


 言われて操作すると確かにログアウトという文字があった。それを見て、物凄い安堵感がオレを包んだ。


「……はぁ……良かった~」

「ハハ、どっかのデスゲームじゃあるまいし、ログアウトが出来ないなんてことはあり得ませんよ。あぁ、それとログアウトするなら街に戻ってからにしたほうがいいですよ」

「……なんで?」

「この場でログアウトしたら、また始める時にログアウトした所からスタートになりますから」

「……それって何か問題あるのか??」

「えぇと、ファングさんってもしかしてVRMMO初めてですか?」


 何やらオレの言葉にシルバーは、困ったような笑みを浮かべた。

 何か、おかしいこと言っただろうか?


「………そもそもゲーム自体あまりしない。……するとしても、ポケ○ンかマ○カーぐらいしかしない」

「ということは、MMORPGは初めてってことですか。なるほど……」


 オレの説明になぜか納得したかのように頷くシルバー。その変化に首を傾げているとさっき見せた無邪気な笑顔を再び見せた。


「えっと、もしここでログアウトしてまたスタートしたとき、目の前に偶々モンスターがいたらどう思います?」

「………ん? びっくりするだろうな」

「まぁ、そうですね。では、そのモンスターがいきなり襲い掛かってきたら対応出来ると思いますか?」


 シルバーに言われて考えてみる。彼が言いたいことは不意打ちに対する対処ということだろう。


「例えば、ファングさんが考える一番強い相手にいきなり襲われたらたまんないでしょ?」


 一番強い相手……そうなると、父さんか母さんだな。あの二人に不意打ちされたら……うん、間違いなく死ぬな。


「………なるほど、確かにそれは大変だ」

「分かってくれたみたいですね」


 シルバーの言いたいことはよくわかった。ゲームを始めていきなりゲームオーバーなんてたまらなくつまらないだろう。ここはこいつの言う通り一度、街に戻って……。

 っと、ここでオレはあることを忘れていることに気が付いた。


「………あっ、あの人」

「ん? あの女性のNPCですか? というか、ファングさん、さっそくクエスト受けていたんですね」


 女性のいるであろう場所を見ると相変わらず女性はそこから微動だにしないで立っていた。

 ていうか、またよくわからない単語が出てきたぞ?


「………クエスト?」

「えっ、クエストも知らないんですか!?」


 なんだか引かれたような気がするが気にしない気にしない。


「えぇと、クエストというのはなんていうのかな~、お使い? 手助け? あっ、そうミッションみたいなやつです!」

「………ミッション?」

「はい、クエストをクリアすると経験値やアイテムがもらうことができるんですよ」

「………へぇ」


 こいつよく知ってるな。


「………詳しいんだな」

「いや、今のは結構ゲームしてる人間からしたら常識中の常識ですよ」

「………そうなのか」


 つまり、オレはこの世界では非常識な野郎ということなのか。

 ……それってマズくね?


「で、どういうクエスト受けたんですか?」


 オレが頭を悩ましているとシルバーが、訊いてきた。えぇと、確か……


「………薬草を10本見つけろだったな。さっさと見つけないと、まだ1本も見つけられていないからな」

「そうですか、なら手伝いましょうか?」

「………いいのか?」


 シルバーの提案にオレは思わず訊き返してしまった。いや、手伝ってくれるのは嬉しいんだけどシルバーからしたら何の得にもならないと思うんだけど…。


「困ったいる人を放ってはおけないでしょ?」


 そう言うシルバーの顔は、さっきよりもより輝いていて眩しすぎて直視できなかった。

 ……こいつ、案外いいやつかもしれない。結構馬鹿っぽい顔しているから、油断していたが女性に襲い掛かっていた兎もあっという間に倒したし。


「それじゃ、さっさと探しましょうか。あ、薬草の探し方は一度アイテムボックスに入れると分かると思いますよ。スキルを持っているならいりませんけど」


 待て待て、また知らない単語が出てきたぞ。

 オレが質問しようと口を開きかけたが、ゆっくりと間を置いてから喋る癖のせいでシルバーは森の奥へと歩いて行ってしまった。

 ………とりあえず、薬草探そう。


 一人、寂しく残ったオレは再び地面にしゃがみ込んで草を引き抜くのであった。



☆☆



 結局、そこから10分ほど経過したがオレは薬草を集められていなかった。

 だって、引っこ抜こうとしたら消えるんだよ! どうやって集めろって言うんだよ!!

 と、心の中で叫ぶもそれを聞いてくれる人もおらず、オレはポツンとただ途方に暮れていた。


「ハァ……」

「ため息すると幸せが逃げるらしいよ?」

「……うわぁ、びっくりした」

「いや、びっくりしたようには見えないよ」


 いきなり横から声がかかって来たのに驚いて声を上げるが、表情筋が動かないためかジト目で見られた。

 いや、これでも結構びっくりしてるんだぞ。


「………これでも驚いているんだ。あまり感情が表に出にくいんだよオレは」


 そのせいで、色々と言われることがあるためオレは自分の顔が好きになれない。

 だって、そうだろ? 全く感情が分からないなんて、オレでも気味が悪いと思う。

 長年培ってきた経験から、オレは彼がどんな言葉と表情を浮かべるのだろうと少し気になった。だから、そう、とシルバーの顔を窺う。

 しかし、こいつは__


「へぇ~、羨ましいなぁ」

「………えっ」


 まるっきり予想だにしていなかった言葉を投げかけてきた。

 羨ましい? この顔がか? 意外過ぎる言葉にじっと彼の顔を見た。だって、意味が解らない。こんな無感情な顔のどこに羨ましがる要素があるのだと言うのだろうか。

 オレの頭がそんな考えで支配されている中、シルバーは言葉を続けた。


「俺はさぁ、よく顔に出やすいって言われるんだ。ババ抜きとかしててもババ持ってるのバレるんだよね~、だからファングさんみたいなにポーカーフェイスとかすごく憧れるよ」

「………」


 言葉が出てこなかった。

 そんな風に言われたのは初めてで、そして、その言葉が決してお世辞や同情で言われた類のものではないと分かったからだ。

 こいつは、ほんとにオレのこの顔が羨ましいと思って言ったのだ。それがオレには相当、考えられなかった。


「あっ、そうだ。薬草集まったから渡しますね」

「………」


 オレが言葉で出ずに、ぼう、としている間にも彼はメニュー画面を操作していく。そして、彼の手から光が溢れるとそこから花のついた草が現れた。それを手にした彼は、ニコッ、と笑いかけながらそれをオレに差し出した。


「はい、10本。ファングさんも、集めてると思うけどこれ回復にも使えるから持ってて損はないと思うよ」

「………」


 オレは黙って差しだされた草を手に取る。

 だけど、これをどうすればいいのか分からない。


「………どうすればいい?」

「えぇと、これをずっと見ていてください」


 言われた通りに差し出された草をじっ、と見る。すると、草の上にまた文字が出てきた。


「文字が出てきたと思うので、その〇ボタンを押すとアイテムボックスに入りますよ」


 言われた通り、〇ボタンを押すとシルバーの手の中にあった薬草が消え去った。


「ふぅ、これでクエストクリアですね」

「………」


 確かに、これをあの女性に渡せばクエストはクリアできるだろう。

 しかし__


「………せっかくだが、これは受け取れない」

「……えっ?」


 オレが口にした言葉にシルバーは驚いた顔をした。コロコロと変わるその表情が羨ましい。


「お、俺何か怒らせました?」


 次には、すごく悲しそうな、そして、不安そうな顔をした。


「………違う」


 その表情がやばく感じたので急いで否定する。しかし、我ながら否定するまでに時間がかかる。


「で、でも……」

「………これは、オレが受けたクエストだ。だから、お前が拾ってきたものを渡しても意味がない」


 それではまるでオレが彼をパシらせたようでないか。


「………だから、オレに薬草の取り方を教えてくれ。教えてくれたら後は自分でやる」


 ポカン、とした表情をするシルバー。はて、何かおかしいことを言っただろうか?

 だが、次の瞬間、シルバーは突然噴き出した。


「………何がおかしい」

「あぁ、ごめんなさい。意外とファングさんって律儀というかなんというか義理堅いなぁと思っただけです。うん、そういうの俺凄く好きですよ」

「………」


 シルバーのこそばゆいセリフにオレは照れてしまいそうになる。こういう時は自分の表情筋が硬いことに感謝だな。


「分かりました。取り敢えず、薬草に限らず採取するために必要なことは教えてあげます。その後は自分で頑張ってみてください。あっ、その間はあの女性は俺が守っておきますね」


 言いながら女性のほうに視線を向けるシルバー。


「………いいのか?」

「えぇ、ファングさんまだ戦闘とかやってないみたいですし」

「………うっ」


 確かに彼の言う通り、オレはまだ一度もモンスターと戦っていない。先ほど兎から女性を守ったシルバーの方がオレより慣れていることは明白なのでここは彼に任せたほうがいいだろう。


「………なら、よろしく頼む」

「はい、任せてください」


 胸を張って口にするシルバー。その笑顔がとてもキラキラとしていて、やはりオレとは正反対だなと思わされた。





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