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第四話 稼働

 


 午後一時。オレは、昼食を終えVR機を装着した状態でベッドに寝ていた。

 ついに、今日から【Break Ground Online】の正式稼働である。朝のニュースにも取り上げられていた。自分のことなのにどこか他人事のように聞こえる。

 ヘルメット型のため、頭がすっぽりと覆われているオレの頭部はひんやりとしていてどこか気持ちがよかった。

 すると、徐々に視界がぼやけていき意識が遠くなるのを感じた。

 オレは昼寝をするように目をゆっくりと閉じた。


『ようこそ、【Break Ground Online】へ。ここでは、あなたのアバターを設定を行います』


 機械的な、感情がない声に反応して目を開けるとそこは一面真っ白な世界であった。


『まず最初に、あなたの使用するアバターの名前を入力してください』


 声がそう言うと、突如として半透明なキーボードが目の前に現れた。

 凄い、これがVRゲームという奴か。

 しばらく、新感覚な体験に感動するとキーボードをたたく。

 う~ん、名前かぁ、どうしようかぁ? 適当にいいかな? えぇと、敦獅だから……あっ、父さんがテレビで《ビーストファング》とかって呼ばれていたな。それ貰おう。

 キーボードに『ファング』と入力して、決定ボタンを押す。


『アバター名は『ファング』でよろしいですか?』


 確認するように問われたので肯定すると、しばらく声が止んだ。


『………アバター名を登録しました。続いて容姿を決めてください』

「容姿?」


 声に首を傾げているとキーボードが消え、今度はオレが出てきた。

 すげぇ、鏡見てるみたいだ。あっ、目の前のオレの周りにたくさんなんかアイコンが出てきた。なるほど、これをベースに好きなキャラクターを作れってことか。そうと決まれば、さっそく色々といじってみる。

 髪の色は……赤とか青があるけど、珍しいから灰色に選択。

 長さは今と変えなくていいかな? おぉ、目の色とかも変えられるのかそうなると目つきが悪いってよく言われるから修正してと……瞳は黒でいいや。

 あれこれと容姿を決めていき決定ボタンを押すとまたしても声が止む。


『……登録しました。続いて最初に使用する武器を選んでください。武器はプレイしていくなかで変えられます』


 続いて現れたのは武器の名前がたくさん書かれている項目であった。

 何々……片手剣、ナイフ、杖、弓か。う~ん、何がいいかな? 王道で剣? でも、オレ剣とか使ったことないし、杖も興味があるけどいまいちピンとこない、弓も使ったことない。となると、消去法的にナイフかな。これなら、父さんの知り合いの外国人に使い方教わったし問題ないだろう。

 ナイフの項目をタッチして決定ボタンを押す。


『ナイフですね。……登録しました。それでは、BGOの世界を楽しんでください』


 声がそう言うと、立っていた白い空間が黒へ変わっていき目の前から光りが放たれた。その眩しさに手をかざして目を細めると、その光は段々大きくなっていき部屋全体を包んだ。





 目を開けると、そこは広場となっていた。急に変わった光景に驚いた、何よりも周囲にいる人、人、人である。

 広場にはたくさんの人で溢れかえっていた。

 一体何人もの人がこの場にいるのだろう? 数えたらきりがない。そして、オレは自分の両手を呆然と眺める。握ったり開いたりして体感を確かめる。


 凄い。感覚がある。


 初めてVRというものを体験しているオレの心は大きく揺れ動く。周囲をぐるりと見渡しても、人がいて、建物があって、見上げるとそこには綺麗な青空があった。

 凄い、これがVRゲームなんだ。まるで違う世界に降り立ったような、そんな興奮が起こっていた。表情が全く動かないというリアルさも余計興奮させた。

 しばらく、興奮していると不意に広場にいたたくさんの人がいなくなっていた。

 あれ? どこに行ったんだろう皆?

 キョロキョロと首を動かしていると、皆それぞれ広場へ出る道へと向かっていた。う~ん、ついて行ったほうがいいかな? でも、まずは……


「……探検だな」


 きっと表情筋が動けばにやりと口角が上がっているだろうが、そんなもの気にしない。オレもひとまず皆に倣って移動を開始させた。





 街はフランスとかイタリアとかテレビでよく西洋風な感じの建物で溢れていた。こういうのをファンタジーって言うんだろう。

 それにしても人が多い、地元の夏祭りでもこんなに人が来ないのに。入手が困難じゃなかったのか?  まぁ、取り敢えず街の外へ出てみようかな。チュートリアルとかないし、モンスターとの戦い方ちゃんと知らないと。

 観光気分も一時間ほどで切り上げオレは、真っすぐと人の波に従って進んでいった。

 のんびりと流れる人の波に従って歩いていくととてつもなくデカい門が見えてきた。5階建てのビルくらいの大きさを持つその門を誰しもが止まって眺めていた。しかし、すぐに皆門の下を通り抜けていく。意外と皆興味がないのか?

 と言うオレもちょっと上を見て終わり、門を潜った。


 門を潜ると、景色は一変していた。

 建物は存在せず、前方にあるのは真っすぐに延びている道とその両側に深い緑が生い茂っていた。


「おぉ、凄いなぁ」


 目の前に広がる光景を見て、思わず口に出していた。

 そこで、オレはあることに気が付く。


 あれ? このゲームって何すればいいんだ?


 根本的なことを何も知らなかったのだ。



 ☆



「……さて、困ったなぁ」


 一度街へ戻ったオレは、広場にあるベンチに座っていた。

 説明書など、ゲームに関することはあの段ボール箱にはなかったと思う。つまり、今オレは何をすればいいのかのみならず、基本的な操作方法なども知らない状態である。


「……一旦止めるにしても、どうすればいいのか分からないぞ」


 ゲームなんてスイッチくらいしか知らない。VRゲームなんてやらなければ良かった。


「……もしかして、一生このままなのか」


 絶望的な状況に血の気が引くのを感じる。いや、こんな所までリアルに作らなくてもいいだろうに。


「……と、とにかく、人に訊こう。うん、それが一番確かだ」


 絶望的な状況から脱するためにも急いで立ち上がった。幸い、まだ街には人が沢山いる。一人聞けばきっと大丈夫だろう。そう思うと、少しだけ落ち着きが戻りバクバクいっていた心臓も静かになった。

 広場から出て取り敢えず誰かに話しかけようと人を探す。しかし、ここでオレは壁にぶち当たる。


「……あ」


 一人がまたオレの前を通過していく。


「……あ、あの」


 また一人、通過していく。


 うん、知ってるよ。自分のことは自分で知ってるよ。オレ人見知りなのは知ってるけどよ……もう少しだけ頑張ってくれよオレ。

 昔から人見知りで人と仲良くなるのに時間がかかるタイプだったオレは今のように道すがら人に何かを聞くという行動は苦手である。それに加え、顔はまったくの無であるのが災いしておどおどしているのに、他の人には顔がまったく困っている様子には見えないようだ。


 そして、また一人オレの前を通過していった。

 あぁ、このままじゃオレはこの世界に残されて、母さんや杏沙に二度と会えなくなるのかなぁ、嫌だなぁ。あ、そう思うと泣きそうになってしまう。

 いやいや、と首を振る。まだ諦めるわけにはいかない。諦めたらそこで試合終了って父さんの古い漫画に言ってたし。よしっ、気合入れろ敦獅! 男だろう。


「……よしっ」


 一つ、気合を入れるとオレはまた道を通る人を眺める。すると、今度は目の前に女性が一人通りかかった。

 オレは勇気を振り絞ってその人に声を掛ける。


「……あ、あのっ、すみません!」

「はい?」


 今度は詰まらずに声を掛けることに成功した。歩いていた女性は、振り返ってオレのほうを見た。


「……ちょ、ちょっと聞きたいことが「あれ? もしかして『開拓者』の方ですか?」……えっ?」


 オレの言葉に被せるように女性は聞き慣れない単語を放った。はて? 『開拓者』、なんだそれ?

 首を傾げているにも関わらず女性は言葉を続ける。


「なら、私のお願いを聞いてもらっていいですか?」

「……えっ、いや、オレは」

「お願いします。実は私これから少し森で薬草を探さないといけないんですど森にはモンスターもいますから私一人だけじゃ不安で……なので、手伝ってくれませんか?」


 オレが戸惑っているにも関わらず、女性はスラスラとまるで作文を読み上げるかのように言葉を紡ぐ。まるで理解に苦しむ状況に置かれ、人見知りも発動しているためまともに反論することが出来なかった。

 で、結果__


「……はい」


 力なく頷く。自分のコミュニケーション能力の無さを恨みたい。すると、オレの目の前に文字が浮かび上がった。


『クエスト“薬草採取”を受けますか? YES/NO』


 ……もはや、なにがなんだかわからなくなってしまった。

 取り敢えず、頷いてしまったからにはやるしかない。オレは手元にあるYESのボタンを押した。









 後に、このクエストを受けて良かったと思うのだがそれはもう少し先の話である。



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