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Break Ground Online 外伝~Birth of six&Disappearance of stars~  作者: 九芽作夜
第三章 Jack the Ripper&First event
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第三十七話 殺意なき一撃



 森に風が吹き抜けたかと思った。

 しかし、それは速く真っすぐにこちらへと飛んできていた。


「うお!?」

「……なっ!」


 唐突に動き出した【切り裂きジャック】。手から覗く短剣の光がオレたちの反応を促していた。

 咄嗟に左右に分かれて突進を回避オレとシルバー。シュッ、と風を裂く音が耳に入る。

 

「え、なにごと!?」

「知るか! 構えろ」


 いきなり攻撃を仕掛けられ混乱するシルバー。オレだって焦っているが、警戒していたおかげかすぐに戦闘態勢に入れた。

 攻撃を躱された【切り裂きジャック】は地面を滑り振り返る。その途中、懐から何かを取り出すとオレに投げつけた。

 

「……くっ」


 顔面目掛けて投げつけられた物を両手で弾く。金属の甲高い音が響き、弾いたものが地面に落ちる。

 暗器の類か。小型のナイフが三本転がっている。

 中々に小癪な手を使いやがると舌打ちしていると。


「……ぬお!?」


 すぐ目の前で黒いローブが靡く。すぐにそれが【切り裂きジャック】と判断し、奴の短剣をガードする。

 ぐお、意外とSTRたけぇ。こいつレベル高いぞ。

 オレとシルバーのレベルが25。プレイヤーの中でも高い方にいると思っているが、こいつはもっと高い。うぐっ、受け止めきれない。

 

「……ぐお!」

「ファング!」


 受け止めるはずが逆に吹き飛ばされた。一瞬の低空飛行の後、背中が樹に直撃。空気が口から漏れ出る。

 シルバーが心配そうな声で呼ぶが答える余裕がない。【切り裂きジャック】が地面を蹴り、オレへと迫ってきていた。って、なんでオレばっかり狙う!!

 短剣の刃先がオレの眼前に迫る。やべぇ、顔面刺される!

 迫り来る短剣に何故か目が離せずにいると。


「ちょっと待ったぁ!」


 横からシルバーの剣が割り込み、短剣を受け止めていた。ギギギ、とせめぎ合う両者の剣が火花を散らしている。


「……チッ」


 初め【切り裂きジャック】から音が漏れた。苛立ちから来る小さな舌打ちが聞こえてきた。

 

「……お返しだ!」

「っ」


 シルバーとの鍔迫り合いの最中、【切り裂きジャック】の背後へ回り込み横腹へ蹴りをお見舞いする。

 クリティカルヒット。自分でも見事と思えるほど手応えがあった。

 蹴り飛ばされた【切り裂きジャック】は空中で体勢を整え、受け身を取る。最低限でダメージで済ませるあたり、やはり只者ではないようだ。


「ちょ、ファング!」

「……なんだよ」

「まだ話し合い終わってないぞ!」

「……話し合いする気がないだろう向こうは」


 こいつ、こんな状況になってもまだPKと話をする気なのか。最早お人よしを通り越してただのバカなんじゃないかと持ってくる。いや、バカなのは間違ってないが。


「……あいつは危険だ。ここで倒しておいた方がいい」

「でも……」


 なんで渋る。あの身のこなし、容赦のない攻撃、多大な被害者。それらが奴が危険人物であることを証明している。放っておくとオレたちが倒されてしまう。

 だと言うのに、そこまでしてどうしてこいつはPKと話をしたいんだ? 訳が分からん。

 

「しっ!」

「っ」


 オレがシルバーに対して首を傾げていると背後から攻撃の気配。咄嗟に回し蹴りで反撃に出る。

 ブーツと短剣がぶつかり、鈍い音と衝撃が駆け巡る。見た目普通のブーツだがやはりUWだけあって強度は凄いようである。

 衝撃により【切り裂きジャック】との距離が離れる。だがすぐに奴が特攻。オレ目掛けて短剣を振り抜く。

 対してオレは奴の攻撃を自身の反射神経を信じて躱す。無駄なく最小限の動きで攻撃を仕掛ける【切り裂きジャック】は身を屈めオレの足を狙う。それを察知して、攻撃されるより前に奴の脳天目掛けて拳を叩きつけようと試みる。

 

「【バック】」


 ここで初めて【切り裂きジャック】の口から言葉が紡がれた。

 奴の足元が光り、次の瞬間オレの拳が地面に刺さっていた。

 前を見れば、眼前にいたはずの奴が少し離れた所で立っていた。あれは、スキルか?

 

「【盗賊】スキルだな。知り合いが同じのを使った所を見たことがある。緊急回避に役立つスキルらしい」

「……なるほど」

「なぁ、ファング。もう少し時間をくれ。きっと何か事情があると思うんだ」

「……PKに事情があるか。奴はただ人を殺すことに快感を覚えているそこらのPKと何も変わらない」

「でも……」

「……どうしてそこまでお前はあいつを気に掛ける」

「だって……」


 もどかしそうに、何かを訴えかけるようにオレと【切り裂きジャック】の間をキョロキョロさせるシルバー。

 だが、こいつの意図がそれで分かるはずもなく。【切り裂きジャック】の追撃が再開される。

 素早い動きで今度はシルバーに狙いをつけた。


「今度は俺かよ!」


 シルバーが焦った声と共に剣で短剣を迎え撃つ構えを取る。

 

「……させるか!」


 二人の間に割り込むように前に出て、奴の懐に入り込む。拳を握り、がら空きの腹目掛けて叩き込む。

 【切り裂きジャック】はそれを捌く。優しく撫でるかのようにオレの拳を払い、軌道を逸らした。

 クソ、読まれてた!

 途端、オレの体に剣筋が描かれる。同時にHPがぐんっ、と減ってしまった。


「ファング!」


 追撃をかけ、【切り裂きジャック】がオレの胸に短剣を突き立てた。残っていたHPがさらに減る。

 痛みを感じない、だからこそ目の前の光景に恐怖を覚えた。


「クソ!」


 苦悩に満ちたような声が聞こえた。迷いが声色から分かった。

 シルバーの剣が視界を横切る。同時に奴が大きく後ろへと飛び退く。


「ファング! 回復して」

「……分かってる」


 ポケットから回復ポーションを取り出し、ガラスの瓶を握り壊す。

 ポーションは飲む以外にも、体にかけることで回復をすることが出来る。液体が体に触れさえすればいいのならこうして握りつぶした方が早い。

 減少していたHPが完全とは言えないが回復。これでまた戦える。


「このっ」


 剣と短剣が接触し、ギギギと甲高い音が鳴り響く。互いに剣を弾き、さらに斬り込む。

 キン、キン、と何度も剣戟の音が森に轟く。

 シルバーの剣が一閃するなら【切り裂きジャック】の短剣が受け流す。【切り裂きジャック】の短剣が突きを繰り出せば、シルバーが躱す。

 互角の戦い。どちらも高レベルな技術の応酬で、そこだけ世界が違うかのように思えた。

 だが、シルバーばかりに負担をかける訳にはいかない。

 発動している【熊殺し】が切れない内にと地面を蹴り、二人の戦闘に参加する。


「【ボルトスマッシュ】」


 手から迸る雷撃が【切り裂きジャック】の体に命中。不意を突かれ、相手は吹き飛ぶ。

 2対1という状況を卑怯だとは思わない。こいつは大勢のプレイヤー、パーティを殺してきたのだ。対複数の闘いなど慣れているはずだ。

 敵の体勢が崩れた所を畳み掛ける。まずは下段蹴りで足を払う。

 

「っ!」


 僅かの浮遊の後、奴の体が地面に落ちた。

 完全に無防備となった【切り裂きジャック】。この好機を逃すわけにはいかない。

 

「【ヘヴィドロップ】」


 光輝く踵落しが【切り裂きジャック】の体に吸い込まれるように軌道を描く。

 決まった。

 そう、思った。



 グワキンッ!



「……なっ!」


 目の前の光景に思わず声を荒げる。スキルの威力に地面が揺れ、余波が草木を揺らした。

 眼前には倒れる【切り裂きジャック】の体ともう一つ。


 オレの足を受け止めているシルバーの姿があった。


「……何してんだお前!」

「ファング、ちょっと待ってくれ」


 味方の攻撃を防いだバカに、オレは責めるような口調になっていた。

 剣を横にし、両手で耐えるシルバーは真っすぐにオレを見ていた。

 真剣な眼だった。PKの時も、ボス戦の時もこいつはこういう眼をしていた。

 だからか、オレは思わずたじろいでしまった。

 それが油断となった。


 ザクッ


「……え」


 呆れるほど、間抜けな声が漏れていた。

 大きく目を見開かせるシルバーもまた、何が起こったのか分からないという顔を浮かべる。

 シルバーの胸。

 そこに、一本の短剣が見えていた。


「ぐっ」

「シルバー!」


 背中から短剣を突きさされたシルバーの顔が歪む。グリーンを示していたHPが一気に減って行く。

 シルバーの背後に隠れる【切り裂きジャック】目掛けて攻撃を繰り出そうとする。

 しかし。


「ふんっ」


 まるでオレの行動を蔑むように。

 奴は鼻で嘲笑う。


「【無垢なる殺傷(イノセンスリッパ―)】」


 刹那、血しぶきが飛び散った。もしもそれがリアルな血だったならば吐いていただろう。

 それと伴うように、オレの視界に四つの物影が映った。

 映ったものがシルバーの四肢と認識するのに時間が有した。

 唖然とするオレとシルバー。突然の出来事に頭が混乱している中、【切り裂きジャック】の姿が揺れた。


「【殺意なき一撃(アンマーダーブロー)】」


 不可視、不回避。

 神速の刃がシルバーの首で閃く。

 

 気づいたら、シルバーの体が光の粒子となって消えた。


「……」


 何が起こった。

 光となり消えたシルバーの姿を呆然と眺める。森の喧騒が妙に耳に残る。

 そうして、数秒かけてようやく状況を呑み込む事が出来た。

 次の瞬間、湧き上がるのは激昂。仲間を殺されたことに対しての怒りで身体が支配される。


「……テメェ!」


 ゆらりと体を起こす【切り裂きジャック】。

 顔も名前も知らないPK。

 だが、そんなもの関係ない。



「ぶっ潰す」



 気づけばオレは地面を蹴っていた。




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