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Break Ground Online 外伝~Birth of six&Disappearance of stars~  作者: 九芽作夜
第三章 Jack the Ripper&First event
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第三十五話 噂のPK

 


「おっ、来たな」


 メッセージに書かれていた店を訪ねると、外に設置されている席に座りパフェを食っているシルバーを発見した。オシャレなカフェの席は女性客で埋まっており、正直よく一人で入れたなこいつと思う。オレなら絶対に無理だ。

 女性が多いこともあって、気まずく思いながらもシルバーの向かいの席に座る。すぐに店員が来て注文を聞いてきたので、ジュースを頼んだ。その間もシルバーはパフェを食う手を止めない。


「……それ、美味いのか?」

「うん、美味い! 一口食うか?」


 あまりに美味そうに食うので、新しいスプーンを貰い口に入れる。

 うっ、あま……。

 口の中に広がるクリームに、蜂蜜やイチゴ等のフルーツ類。もはや砂糖をぶっこまれているかと思うほどの甘味だった。


「……お前、よくこれ食えるな」

「えぇ? 普通に美味しいけどなぁ。ファング甘いの苦手か?」

「……いや、普通だけど」


 パフェを容易く食べられるシルバーが不満そうな表情を見せる。

 こいつ、相当な甘党だった。

 口に広がる甘味を水で流す。幾分かマシになった口内を確かめながら訊ねる。


「……それで? 今日はどうするんだ」

「そうだな。最近、ファングのブーツの性能検証したりしていたから今日は普通に遊ぶか。もうすぐ初イベントだし」

「……イベント?」

「そう、BGOが始まって数週間。新しいマップも多くなったし、ここいらで一つイベントをってことらしい。お知らせに載っているらしいぞ」


 言われてメニュー画面を開いてみれば、確かにシルバーの言う通りイベント告知について届いていた。

 初めて知った。


「ちなみに、俺もディブロさんに言われて初めて気づいた」


 ……お前、オレよりゲームやっているよな?

 時々、こいつがゲーム玄人か疑いたくなる。


「……で、そのイベントって何するんだよ」

「さぁ? こればっかりは当日まで誰にも分からないみたい」

「……いつから?」

「告知によると来週」


 来週、か。なら、慌てる必要もないな。イベントの内容も分からないのなら、準備のしようもないし。

 やれることとしたら、レベル上げにスキルを磨くことくらいか。


「……なら、今日はどこに行く?」

「ん~、どうしよう? 《エスイ湿地》は前行ったし、《ガザルス荒野》はほとんどマッピング済んだからなぁ、あと行くとなると……《ミリュ森林》かな」


 《ミリュ森林》はここから西の方にあるフィールド。《イジイの森》よりも広く、多種多様な植物が生えているジャングル。

 自然で出来た迷路とトラップ。進む度にプレイヤーの精神をすり減らす、意地の悪い場所らしい。


「……分かった。なら……」


 【発見】スキルのレベル上げにはいい。準備が出来たら、早速行くかと腰を上げようとした時だった。


「あ~、《ミリュ森林》には行かない方がいいわよ」


 オレの背後から、そんな声が聞こえた。

 振り返りまず目に入ったのは山のように積まれた皿。

 ……これ、全部食べたのか。

 一瞬、口の中に甘ったるい感触が伝わる。


「……どちら様?」

「あっ、これじゃ見えないわね」


 ひょこっ、と皿の横から顔を出したのは、女性だった。

 紫色の髪を右側で結び、瞳の色は青い。だぼっ、とした白いローブに身を包む彼女がどんなプレイヤーなのかを隠しているようだった。


「初めまして、私はマリー。あなたたち、【銀狼】でしょ。まさかこんなところで会えるなんて思わなかったわ」


 そう言って微笑むマリーという女性は、オレたちの近くまで歩み寄る。


「ここ、座っても?」

「……」


 同席を求める彼女に、オレはチラッ、とシルバーを見る。


「いいっすー」


 なんとも軽い声で承諾した。

 シルバーの許可を得たマリーはオレの方に視線を寄越す。相方が許可したのに、オレが断るのもと思い頷く。


「失礼しますね」

「どうぞー、あっ、俺はシルバーです。んで、こっちがファング」

「…………よろしく」

「知ってます。あなたたち、有名人だから」


 言いつつ空いている椅子に座るマリー。

 シルバーは最後の一口となったパフェを食べ、マリーの顔を見る。


「それでマリーさん。さっき言っていた《ミリュ森林》に行かない方がいいってどういうことですか?」


 首を傾げて訊ねるシルバー。

 実際、オレも気になっていた。

 質問されたマリーは両手を組んで、顎を乗せると答えた。


「んとね、君たちここ最近騒がれているPK知ってる?」

「PK?」


 シルバーと顔を見合わせる。だが、そんな話を聞いた覚えはない。

 二人揃って首を振れば、マリーは説明してくれた。


「最近、あっちこっちのフィールドで無差別PKが発生しているの。被害者は男女、レベル、関係なし。出現するフィールドもバラバラ」


 無差別PKねぇ……。脳裏を過るのは初めてシルバーに出会った頃。共闘してPKを倒した記憶は、まだ新しい。


「でも、聞く限りそれは普通なことでは? そもそも、PKって言ったって複数人いる場合もありますし」

「それがね、すべてのPKにおいて共通することが一つだけあるの」

「……共通点?」

「えぇ、被害者は全員両手足を斬り落とされ、最後に首を斬り殺されているの。しかも単独で」


 なにそれえぐっ! こわっ!


「被害者は確認されているだけでも22名。目的も不明な謎のPK犯もう一体誰が呼んだか【切り裂きジャック】と呼んでるわ」


 ……【切り裂きジャック】って、なに?


「ファング、もしかして【切り裂きジャック】を知らない?」

「……お前は、知ってるのかよ」


 なんか残念な人を見る目をするシルバーにむっ、と思いながら訊ねる。


「【切り裂きジャック】は、昔イギリスで実際に起こった未解決事件の犯人の名前だよ。謎解き系のゲームじゃ定番なものだよ」

「まぁ、100年も前の話だから知らなくてもおかしくないわね」


 ゲームの知識と聞いて納得。こいつがそんな博識なキャラな訳ないよな。


「なんかまたファングが失礼なことを考えているような……」


 だから、心を読むな。


「で、最後に目撃されたのが《ミリュ森林》。まぁ、そーゆーわけだから今あのフィールドに行くのはオススメできないです」


 そう言ってマリーは、いつの間にか注文していた紅茶を飲む。

 でも、そういうことなら《ミリュ森林》には行かない方がいいよな。そんな恐ろしいPKがいる所なんか行きたくない。

 シルバーに行き先の変更を告げようとした時。


 キラキラ……。


 目の前に座るシルバーの瞳が輝いているような……。

 大きな瞳をより大きくさせ、オレを見ている。その眼が何かを訴えている。

 ……非常に不本意であるが、こいつが何を言いたいのかなんとなく分かる。


「ファング!」


 元気のよい声がオレを呼ぶ。

 うん、この後言う台詞が容易に思い浮く。


「そのPKに会いに行こう!!」










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