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第二十八話 ボス攻略戦



 時刻は午後八時半。オレとシルバーは噴水広場に集まっていた。

 周りは相変わらずの人の多さ。大きな噴水があるここは、待ち合わせにはぴったりだからだろう。

 彼らの話に耳を傾ければ、どこに狩りに行くのかや最近のフィールド進行具合などの情報が飛び交っている。

 しかし、そんな彼らの話よりもオレが気になるのは隣にいるシルバーだった。しきりに体を小刻みに揺らし、落ち着きを見せない。ソワソワしているのが丸わかりだ。


「……はぁ、おいシルバー。少しは落ち着け。まだ集合時間まで空いてるだろ」

「いや、これが落ち着いていられるかよ! 今日は待ちに待ったレイド戦! 初めてのボス戦! 燃えなきゃゲーマーじゃない!!」

「……オレは別にゲーマーではないがな」


 ログインしてきた時からこんな調子だ。いつもテンション高めであるが、今日は余計に凄い。

 まぁ、ガチガチに緊張しているわけではないからいいだろうが。


「……少し早いが南門行くか」

「おう! 楽しみだなぁ!」


 集合時間は九時であるが、ここから歩いて十分圏内。丁度いいぐらいだろう。

 やはり落ち着きのないシルバーは、オレの言葉に大声で答えると拳を突き上げて広場の出口へと向かった。オレは奴のテンションにため息を漏らすと、ゆっくりと追いかけた。



☆☆



「おう、来たか」

「あっ、ディブロさん! こんばんわー」

「……こんばんわ」


 スキップして前を行くシルバーに呆れていると、いつの間にか南門に着いていた。見上げるほど大きな門の下には、プレイヤーの塊が出来上がっていた。その中からディブロさんがシルバーに気づいたようで、声を掛けてきた。


「おー、シルバーは今日はいつもより元気だな」

「はい、めっちゃ楽しみでした!」

「そうかそうか、ならその元気を糧に頼むぞ」

「ラジャー!」


 ビシッ、と敬礼するシルバーにディブロさんが笑った。

 すると、他のプレイヤーから呼ばれ「んじゃ、今日はよろしくな」とオレとシルバーに言うと呼ばれたプレイヤーの元へと向かって行く。

 その颯爽とした姿、大人だなぁ。


「……忙しそうだな」

「そりゃ、こんな人数を率いるしBGO初のボス戦。作戦やらなんやらを打ち合わせしないとだし実際大変だろうな」

「……オレには無理だ」

「俺もそういう頭使うのは得意じゃないな」


 ……意外だ。こいつの性格なら、こういう集団行動はお手のものだと思った。

 いや、行動の節々からあまり頭が良くないってのは感じていたが。

 

「ファング、今日の俺らの役割覚えてるか?」

「……雑魚の処理、だろ」

「うん、ちゃんと覚えているならいいや。今日の俺たちはディブロさんたち本隊がボスと交戦中に、ボスの周りに湧くモンスターを近づけさせないようにすること。ちゃんと周りとの距離や状況の確認を忘れないようにしないとな」


 シルバーの言葉に頷く。今日行われるボス戦でオレとシルバー、他数名のプレイヤーは援護という役割になった。本来ならばこういう裏方的な役割は揉めそうなものだが、シルバーが積極的に参加したこととディブロさんのリーダーシップによって円滑になった。

 

「……それにしても、どうしてお前この役割に積極的なんだ?」


 オレは別にどっちでもいいけど。


「えっ? あぁ、なんというか、誰もやりたくなさそうだからかな」


 オレの疑問に、返ってきたのは意外な答えだった。


「……誰もしないからお前がやるのか?」


 それって、結構損なことじゃないか。


「というよりも俺はさ、ゲームの完全攻略とかよりもまず、楽しみたいんだよ」

「……楽しむ」

「うん、そりゃゲームクリアってさ楽しいよ。でも、それ以外にも楽しむことは出来る。こんな自由なゲームなんだからさ、もっといっぱい精一杯に楽しんだ方が得だろ」


 そう言うシルバーの顔は、どこまでも笑顔で輝いていた。

 楽しみ方は無限大。新しい発見をより多く。そんな風に、まだ見ぬ世界に想いを馳せる男の顔はどこまでも純粋だった。


「それに__」


 シルバーの考えもしていなかった想いに呆然としている最中、彼は続けた。


「雑魚狩りつくしたら俺たちも本隊と合流していいはずだぜ」

「…………」


 前言撤回、こいつにあるのはただひたすらなまでの貪欲さだった。



☆☆



 《イジイの森》最奥部。レベル上げなどによく訪れて、もはやここは庭のように思えてきていた。

 だが、庭に隠されている部屋を発見することが出来るのは果たしてどのくらいの人だけだろうか。

 どれだけの人が、どれだけの時間と労力を費やしたのだろうか。

 考えるだけでも分かるその苦労と本気。それを証明するように、この場にいる者たちの顔つきも徐々に、変わっていた。

 リラックスした状態から真剣な表情へ。

 これから行われる挑戦に全力で行くという決意が現れていた。


 そして、辿り着いた木々と蔓によって隠された道。大きくもなく、かといって小さくもない暗く奥へと続いたトンネル。

 入り口から出口まで50メートルほど。出口から覗く光だけが頼りとなる道のり。

 皆が黙ってトンネルを抜けると広がるのはドーム状の不思議な空間。音もなく、木々が取り囲むように立っている。

 なのに、地面は固いコンクリートのような感触。

 不思議な場所だった。同時に、気味悪い。

 

「さぁ、いよいよだぞ皆」


 ディブロさんが呼びかける。

 ゴクリ、とどこからか唾を飲む音が聞こえた。

 

 そして__


「BRYOOOOOO!!」

「っ!」


 轟く咆哮、足がすくみそうな威圧感。

 円の中央。

 そこに見えたのは巨大な熊。

 軽装の胸当て、尖った兜、手に持つ鋭利な剣。

 目は黄金に輝き、茶色の毛並みが逆立つ。



 【グリズリーロード】 Lv15



「タンク前へ! 突っ込んで来るぞ!」


 ディブロさんの指示に素早く盾を持つプレイヤーが前へ出る。

 最初の咆哮を放った【グリズリーロード】はディブロさんの言った通り二足歩行から四足歩行へ変わり、前傾姿勢のまま地面を蹴った。


『【シールドアップ】』


 盾を構えたプレイヤーが一斉に防御力上昇のスキルを唱える。

 衝突。

 重々しい音と衝撃が後ろにいるオレの方にまで伝わってきた。

 しかし、誰一人としてボスの突進に吹き飛ばされることはなかった。


「よしっ、このままタンクはヘイトを集めてくれ! その隙に他は攻撃を! 決して手を休ませるな!!」


 号令と共に、各プレイヤーが動き出す。【グリズリーロード】の横へ、後ろへと移動し各々が自分の武器を振り出す。


「GYYYYYYY!」

「っ、雑魚がポップした。打ち合わせ通り頼む!」


 攻撃されたボスが三度目の咆哮を上げる。それと同時に【グリズリーロード】の奥から光が出てきて、湧き出る複数の熊たち。


「ファング!」


 隣からシルバーがオレを呼ぶ。ここまでは作戦通り、オレたちがあれを抑えている内にディブロさんたちがボスを倒す。

 オレたちが崩れたら破綻する。


「さぁ、行くぞ!」

「……おう」


 気合の入った声と静かな呟き。

 対照的な態度のやり取り。だが、もはや見慣れた光景だ。

 シルバーは背中の剣を抜き、オレは拳を固める。

 大丈夫、いつも通りやればいい。

 視界に映るモンスターを確認して、オレとシルバーはモンスター目掛けて駆けだした。


 オレとシルバーの初めてのボス攻略戦が始まった。



 



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