第二十四話 スキル構成
さて、加賀になんか慰められたオレであるが今思い返すと結構恥ずかしい気持ちになったきた。
女子に慰められるって、男としてどうなんだ。父さんが聞いたら「何事か!」と一喝が入る所だろう。
まぁ、そんなことはさておき。部活動紹介も無事に全て終わり、オレは現在帰りのHRに参加していた。
一日通しての生活の初日をなんとか乗り越えたことに少し安堵する。相変わらずオレに向けられる視線が遠巻きなものであるが、加賀のおかげで幾分か気持ちも楽である。
「それでは、今日はこれで終わります。今日から部活動の体験入部もありますから皆さん是非見学に行かれるといいでしょう」
最後の挨拶に一言先生はそう述べると、HRを締めた。終わると同時に、周りが一気に騒がしくなり皆が思い思いの行動に出る。どうやら早速部活の見学に行くらしい。
オレはというと、机の中身を全て鞄に入れるとそそくさと椅子から立ち上がる。今日は帰ったらすぐにBGOへログインする予定だ。シルバーと色々フィールドボスに向けて準備しなければ。
と、思考が既にゲームの事に向いていると。
「灰原君」
本日何度目かによる呼びかけが聞こえた。最早、誰の声かと疑問に思わなくなった。
「……なんだ加賀。部活の見学行かないのか?」
「あぁ、うん、それは行くつもりなんだけどさ。もしよかったら灰原君も一緒にどうかなぁって思って」
これもまた嬉しいお誘い。今日のオレ、人生で一番幸運なのではないか。こんな誘いそう何度もあることではない。
それにしても、見学か。う~ん、あまり興味ないとは言え強制的に入部するのなら避けては通れない道。
チラッ、と教室の時計を確認する。まだ四時過ぎ、五時半くらいに家に着けば約束に間に合うか。
視線を戻して加賀を見る。目を逸らさず、オレを見続けていた。
「……まぁ、少しくらいなら」
瞬間、加賀の顔がぱあ、と明るくなった。
「うん! じゃあ行こう!」
笑いながらそう言う加賀の姿は、フィールドを目指す奴にどこか似ていた。
☆☆
「……ということがあった」
「へぇ、部活見学かぁ。ファング運動神経ありそうだし、向いているんじゃないのか?」
BGO《ガウス街》南門エリアのメインストリートを歩きながらシルバーは興味深そうに言ってきた。
いつも通り待ち合わせをしてから今日もボス攻略戦に向けての準備をするためフィールドへ向かう。その途中で、一体どんな風に話題に上がったは忘れたが今日あったことを報告しあう流れになった。
「それで? どの部活に入るか決まったのか?」
「……いいや、あまりしっくりこなったからな」
実際、あの後加賀が行きたかったテニス部を見学して、その次にバスケ部、バレー、柔道等々。運動部を回ったのだが、普段からジムに行って運動している身としてはあまり魅力的に見えなかった。
「ふぅん、ま、まだ時間あるみたいだし慌てる必要ないんじゃないか?」
「……そうだな。じっくり考えるよ。それで、そっちはどうだったんだ?」
今日は確か、シルバーの方は入学式だったはず。オレが聞くと、シルバーは嬉しそうに頬を緩ませるとと口を開いた。
「あぁ、校長先生の話長かったから眠くて眠くてな。欠伸していたら先生に睨まれた」
そりゃそうだ。しかし、気持ちはよく分かる。どうして校長先生の話というのはあぁも長いのだろうか。もっと端的に換言すればいいものを。時間の無駄使いだろうに。
「……大変だったな」
「まぁな、でも友達できたしこれから楽しみだぜ」
おいおい、入学初日にしてもう友達ができただと? 一体どんな魔法を使えばそんなことができるんだよ。何こいつひょっとしてプ〇キュアなのか。
「今、ファングがすげー失礼なこと考えている気がする」
「……気のせいだろ」
こういう時の勘の良さは、少し心臓に悪い。普段阿保そうなのに……。
「まぁ、いいけど。んで、今日はどうしたものかね」
「……シルバーに任せる」
「お前、少しは自分で……まぁ、いいけどよ。えぇと、んじゃま、スキルでも取りに行くか」
「……スキル?」
スキルなら一応持っているが。
「普通、スキルっていうのはいくつも持っているもんだぞ。今、ファングのスキルポイントは?」
シルバーに言われてメニュー画面を開き、スキルポイントを確認する。
「……5だ」
「控えスキルは?」
「……【ナイフ】しかないけど」
「あぁ、もうちょい使えるスキル増やした方がいいだろうね」
「……そんなものか?」
「そんなものだ…………まぁ、例外はあるけどな」
「……ん、なにか言ったか?」
「いいや、何も。それじゃ、とりあえず、あそこ行くか」
「……あそことは?」
オレの質問に、シルバーはにぃ、と白い歯を見せながら答えた。
「【ギルド会館】」
☆☆
《ガウス街》の中央エリアにある街並みをプレイヤーは中心街と呼び、BGOにおける重要施設が建ち並んでいる。
例えば、どこにどんなクエストが存在しているのか、プレイヤーにクエストを発行したい場合に訪れる【クエスト受容所】。モンスターの情報、また魔法スキルを得るために必要な魔導書を置く【図書館】。
そして、プレイヤーがギルドを設立しその拠点とするために訪れる【ギルド会館】。月々のお金さえ払えばどんなに小さなギルドでも部屋を借りることが出来る。
以上、シルバーからの受け売り。
巨大な建造物を前に、オレはじっ、と長方形に伸びる階を眺めていた。
存在は知っていたが、じっくりと見たのは初めてだ。間近で見ると案外大きいなこれ。
「……で、なんでここなんだ」
街中の喧騒に負けないよう、シルバーにしっかりと聞える音量で訊ねる。
通常、【ギルド会館】はギルドに部屋を貸す施設。オレたちには縁がないように思えるのだが。
ここまで理由もなく連れてきたシルバーは「ふふ~ん」とどこか誇らしげにドヤ顔を決める。シンプルにムカつく。だが、説明を求めている以上ここでツッコんで話を脱線させたくなかったので黙った。
ドヤっていたシルバーは、得意げに説明し始めた。
「まぁ、確かに【ギルド会館】はギルドを設立してその拠点となる部屋を借りるための施設だけど、それだけではないんだよ。【ギルド会館】は開拓者のサポートをするための施設でもある」
例を挙げれば、《ガウス街》の詳細なマップやアイテムの換金、さらには(まだいないらしいが)リアルマネーでステータスの初期化なんかも出来るらしい。
「そして、今回の目的はファングがどんなスキルを取るかを決めるためにガイドブックを見せて貰おうって訳」
「……そんなものがあるのか」
「うん、でも持ち出しは出来ないから【ギルド会館】の中でしか読めないし、スキルの数も基本的なものばかりしかない。けど、初心者が迷った時にはオススメされる方法だぞ」
そんな親切なあるのなら、初めからここに来たかった。何故に、そういう情報をもっと早くにくれないんだろう、このゲーム。くそぉ、過去の黒歴史に泣きそうだ。
が、オレはふとある疑問を思い浮かべた。
「……お前が教えるんじゃダメなのか?」
ムカつくがこいつはゲームに関しての知識は豊富だ。いちいちガイドブックなんて読まなくてもシルバーが勧めるスキルを得た方がいいのでは。
オレの考えに、ドヤ顔だったシルバーは僅かに困った顔になった。しかし、すぐに元の顔つきに戻った。あれ、見間違いだったかな?
「……ま、まぁ、それでもいいけどさ、せっかくゲームしているのに人に教えられたものばっかっていうのも面白くないだろ。自分の好きなように組み合わせていくのも楽しいぞ?」
「……そういうならいいけど」
違和感が拭えきれないが、彼の言うことにも一理あるのでそれ以上何か言うことはしなかった。
けど、少し見せたシルバーの顔。なんか、触れてはいけないものに触れてしまったような感じなのはどうしてだろうか。聞いてもいいが、教えてくれるとも思えないのでオレはその違和感を胸の奥にしまった。
「それじゃ、行くか」
「……おう」
結局、シルバーに対しての疑問を抑えてオレは促されるまま【ギルド会館】へと足を踏み入れた。




