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第二話 VRは配達から



 さて、朝食も食べたことだし何をしようかな。

 朝食を終え、食器を片付けたオレはテレビのボタンを付ける。ちなみに、母さんは洗い物を父さんはまたトレーニングのため地下室へと向かった。


『さぁ、ご覧ください。この長蛇の列を! 今日から発売されるオンラインゲーム【Break Ground Online】を購入しようと朝早くからこんなにも並ぶ人がおります』

「……なんだこれ」

「わぁ、すっごい人ー」


 画面の向こうにはまだ肌寒い日だというのに、店の前には沢山の人が列をなして開店を待っていた。隣に座る杏沙もその光景に目を丸くしている。


『早い人だと、朝の4時から並んでいる人もいるそうです』

「……オレには無理だな」

「おにぃ、朝は苦手だもんね」


 いや、ゲームを買うためだけに早起きするとか訳わからんし。そんな時間があるなら、オレは『戦国合戦フィギア』でも作成するわ。そっちの方が有意義な時間だろ絶対。


「おにぃ、見て」

「……なんだ?」

「私たちと同じくらいの子もいるよ」


 言われて目を細めて見ると、確かに画面の端のほうにオレと同じくらいの子供が父親らしき人と一緒に並んでいた。

 ……理解不能だ。


「……そんなにこのゲームって人気なのか?」

「さぁ? 杏沙分かんなーい」


 既にニュースに飽きたのかリモコンを手に取ると、チャンネルを変えた。画面には日曜の朝に放送されている少女向きアニメが出てきた。

 暇であるが、テレビも興味ないため部屋に戻ろうとソファから立ち上がりリビングから出る。


 ピンポーン


 その時、玄関からベルが鳴った。一番玄関に近かったのでオレが出る。


「………」

「おはようございます! こちら、灰原さんのお宅で間違いないでしょうか?」

「…………はい」

「灰原杏沙さんにお届け物です。こちらのほうにサインからハンコをお願いします!」

「…………ちょっと待っててください」


 宅配便のお兄さんに一言言うと、リビングで洗い物をしていた母さんを呼びに行く。

 洗い物の手を途中で止めると母さんは、手をエプロンで拭きながら玄関へと小走りで向かった。

 オレはそのままリビングで待機する。


「……おい、杏沙。お前また何か懸賞当てたのか?」

「うん? なんか来たの?」

「……宅配だってよ。何を当てたんだか」

「う~ん、分からない!」


 ウチの妹は懸賞やらくじ引きやらが凄い好きで、よく雑誌やインターネットの懸賞に応募しては当てることが多い。我が妹ながら運の良さが羨ましい。


『ありがとうございました!』

「いいえ、ご苦労さまです」


 扉が閉まる音がするとオレは再び廊下へと出る。我が家は玄関の近くに二階へ続く階段があるのだ。

 そこで荷物を受け取った母さんとすれ違う。


「敦獅、あんたまたその顔で出たの? 愛想よくしろって言わないからせめて表情筋くらい動かしたら?」

「……そんなこと言われても」


 母さんの言う通り、オレは感情表現が昔から苦手だ。別に感情がない訳ではないのだが、自分で笑っているつもりでも何故か全く顔の筋肉が動いていないらしい。ウチの家族は大体わかるらしいけど他の人となるとちょっと誤解を招いたりするので出来るだけ気を付けているのだが、やっぱり難しい。


「……笑っているつもりなんだけどなぁ」

「……まぁ、それも個性の一つだからね。あまり気にしすぎてもダメよ」

「……うん」


 オレがこのコンプレックスに悩んでいるのを知っている母さんの気づかいに心が温かくなる。やっぱり、どうにかしないとなぁ。このままじゃ、妹や母さんに迷惑がかかる。

 父さん? いや、別にどうでもいい。

 母さんがリビングに行くので、箱の中が気になったオレもついて入る。


「杏沙、荷物よ」

「は~い、何が当たったかな~?」

「……この前は、音楽プレイヤー当ててたよな」

「おにぃ、開けて開けて」

「……はいはい」


 杏沙に言われて段ボール箱に貼られているテープを剥がす。さて、今回は何が出るやら。大きさからして家具とかじゃないようだけど……。

 テープを丁寧に剥がし、段ボール箱を開ける。


「……ん? なんだこれ」


 箱を開けたら、また箱が存在していた。マトリョーシカか。

 仕方なく、段ボール箱から箱を取り出しそれをテーブルに置く。

 取り出された箱にはどっかで見たことのあるマークが描かれていた。これなんだっけ?


「これは……〈Dream〉のロゴじゃない。ゲーム機を当てたの? 凄いわね杏沙!」

「えへへ~」


 箱のロゴを見た母さんが驚きながら杏沙の頭を撫でる。気持ちよさそうに杏沙は目を細めていて、その光景はどこか和む。


「……〈Dream〉って確かゲーム売ってる会社だっけ?」

「そうよ、最近じゃVRゲームを生業としてるわね。どの作品も人気なのよ? あなたたちはあまりゲームなんて興味ないから知らないと思うけど」

「……へぇ」


 母さんの言う通り、オレや杏沙はあまりゲームなんて興味がない。杏沙はともかくとしてオレは男子としては珍しいほうらしい。といっても、オレだってマ〇カーやポケ〇ンとかはちゃんとしているぞ。通信対戦する友達はいないが……。


「おにぃおにぃ、開けてよ何が入ってるのか気になるよ」


 気になっているのか杏沙がぴょんぴょんと飛び跳ねている。いちいち、行動が可愛いのでつい手が止まって……じゃなかった箱を開けないと。

 箱を開けると、何やらヘルメットのようなものとカードが一枚収められていた。それを取り出し二人に見せると母さんがより一層驚いた顔をした。


「まぁ! これってもしかして最新型のVR機じゃない!? こっちのカードは……【Break Ground Online】! これ今日から発売のオンラインゲームじゃない。凄いもの当てたわね杏沙」

「へへへ」


 中身を知った母さんがさらに杏沙を褒め称える。杏沙も嬉しそうに胸を張り上機嫌となった。

 だけど__


「……杏沙、このゲームするのか?」

「う~ん、ゲーム興味ないからいいかな。おにぃにあげるよ」


 そう、杏沙はあまりゲームに興味がない。速攻でオレに丸投げされた。

 いや、オレもたいして興味ないんだが……。


「……母さんの知り合いにでも渡せば? オレも大して興味ないし」

「う~ん、それがいいかもしれないけど。こんな幸運滅多にないと思うわよ? これを予約するの凄く大変だったってご近所の奥さんが言ってわよ」


 だがしかし、その滅多にない幸運を当たり前に使うのが我が妹であるのであまり実感がない。

 でもなぁ、興味ないしなぁ……。


「お試しで一回使ってみれば? 面白くなかったらデータ消して誰かに渡せばいいし、それにおにぃ、今春休みだからヒマでしょ? いい暇つぶしになると思うよ」


 と、杏沙が勧めて来る。確かに、この春から中学に入学するし、その時にこのゲームやってるって言ったら少しは話題となって友達とかできるかもしれない。考えたらいいことではないか。飽きたら父さんの知り合いにでも渡してもらえばいいし。


「……そうだな、取り敢えず春休み期間はやってみようかな」

「そうね、当てたのに使わないじゃもったいないわね」


 母さんも賛成してくれたので、晴れてこのVR機とゲームはオレのものとなった。


「……さて、そうと決まればさっそく遊んでみるか」








 この時オレは、これから出会う様々な人や冒険がどれほどのものなのか想像だにもしていなかった。





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