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第十九話 ボス会議2



 酒場に集められたのは20名の屈強な男たちだった。挨拶を前にまずは皆思い思いに飲み物を注文する。一気に増えた客にマスターは驚く様子もなく、ただニコリッと笑い頷いた。

 あっという間に揃った飲み物。全員がちゃんと手にグラスを持つのを確認するとディブロと名乗った男が口を開いた。


「おぉし、全員飲み物揃ったな。では、これより《イジイの森》フィールドボスレイド会議を始める。今日は俺の誘いに乗ってくれたことを感謝させてくれ」


 全員を前に堂々と頭を下げるディブロさん。凄い、オレは立つだけで何も言えなかったのにどうしてこんな大勢を前に堂々といられるのだろうか。周りから飛ぶ野次は柔らかく、ディブロさんとの仲の良さが伺える。


「んじゃ、次は自己紹介はもう済んでいると思うけど一応言っておく。俺はディブロ、職業は騎士だ」

「騎士なんて職業(ジョブ)ないだろう!」

「どっちかと言うとニートだろう!」

「ニートじゃね! ちゃんと働いているわ!!」


 仲いいなぁ。ディブロさんの人望の広さが分かる。

 隣に座るシルバーも、目の前の光景に声を出して笑っていた。


「ごほんっ、冗談はさておき、早速だけど今日の内容について話す。先遣隊の情報だとフィールドボスのいる部屋は《イジイの森》南方にある巨大な木のある扉にある。ボスの名前は【グリズリーロード】。熊型のモンスターだが、軽装の鎧と剣を使う。動きも素早く範囲攻撃も持っているから気を付けないといけない」


 ディブロさんが話す言葉に一瞬で静寂になる場。皆、真剣な表情を浮かべている。普段おちゃらけているシルバーも真面目に耳を傾けていた。


「そこに俺たちは20名、通常ならば6名1パーティだから24名いるが今回は人が集まらなかった。今日ここに来ている暇人の諸君、ありがとう」

「誰が暇人だ」

「お前が誘ってきたんだろうが!」


 パーティの最大人数は6名まで、20名となると2名ほど余る計算になるな。シルバーの受け売りだが、パーティ編成でもそれぞれ役割がある。

 大きく分けて三種類。

 一番前で敵と対峙する前衛。

 場の状況によって周りのサポートと攻撃を仕掛ける中衛。

 戦況を詳しく把握して味方を支援する後衛。

 さらにここから個々の戦闘スタイルと相性によってパーティを決める。なので、ひとえにパーティを組むと言っても大きく変化してくるのだ。

 

 オレとシルバーはどちらも前衛向き。少なくても後衛の人間が欲しい所、というのがシルバーの意見だった。うぅ~ん、人見知りのオレが果たして上手くコミュニケーション取れるだろうか。


「それじゃ、それぞれパーティ編成をしてくれ。ボス攻略は色々準備する期間を考えて二日後だな。それまで各自パーティでの動き方やポーション類の調達などを済ませてくれ。明後日のこの時間帯に南門下に集合だ」


 ディブロさんが口早に告げると周りの人達も動き出した。パーティを組むために傍にいる者に話しかけている。

 って、皆動くのはやっ。マズイ、完全に出遅れた。早くしないと余り物にされてしまう。

 あぁ、こういうの苦手なんだよな。「好きな人と班を組め」という先生の恐ろしい言葉を思い出す。そのたび、一人余って組まされた班に気まずい空気が流れる。居心地悪かったなぁ。

 と、物思いに耽る前に動かなければ。あれ? そういえばシルバーが静かだ。


 いつもならば、真っ先に動き出すシルバーに疑問を抱いたオレは隣を見る。


「………」


 隣を見れば、なんだか真剣な表情をしたまま考え込むシルバーの姿が映った。

 その表情に、オレは何故かぞくり、と悪寒を感じた。昔、試合前の父さんと対面したことがあるが今のシルバーの雰囲気はそれに似ていた。


「……おい、どうしたシルバー?」


 声を震わせないように意識しながらシルバーを呼ぶ。

 名前を呼んだシルバーはあっさりとオレの声に反応した。


「えっ、何ファング?」


 先ほどの顔が嘘のように、いつもの能天気でやけに明るい笑顔がそこにはあった。あまりにもシルバーの表情がガラリ、と変わった事に驚きが隠せない。まぁ、顔に出ていないからこいつにバレる事はないだろうが。


「……いや、やけに真面目な顔していたから、何か考え事か?」

「あぁ、うん。あはは、ついボス戦のシュミレーションしていたらぼーっとしちゃってた。あれ? もう皆パーティを組みだしているのか?」

「……あぁ、そうだ」


 驚いた。こいつ、ついさっき話されていたボスの情報を基にイメージを膨らませていたというのか。

 せっかち、というよりも血気盛んと言った方がいいだろうな、この場合。そして、周りの状況にも気づかないこの集中力。並みの人間ではないとは思っていたが、もしかしたらこいつは予想以上かもしれない。


「おー、シルバー。お前たちパーティは決まったかぁ?」


 オレがシルバーの集中力に慄いている所にディブロさんがこちらにやってきた。

 そうだった。まだオレたちパーティ決まっていなかった。

 ディブロさんに言われてシルバーは「あぁ~~」と間延びした声を出し、頭に手を置いてから言った。


「ディブロさん、俺たちは二人でいいです」

「えぇ!?」


 シルバーの言葉にディブロさんは驚き声を上げる。かくいうオレも、まさかの出来事に呆然とするしかなかった。


「おいおい、どうしたんだシルバー?」

「だって、六人一パーティだと20名だと二人余るじゃないですか。俺とファングはいつも二人でパーティ組んできたので連携は取れます。あとは、ディブロさんがバランス見て決めてください」

「つってもお前、ヒーラーどうすんだよ?」

「別にパーティ以外のプレイヤーからでも回復は出来るでしょ。まぁ、効果はちょっと下がりますけど。でも、誰かが余っても可哀想ですし俺たちはポーションとかで何とかしてみます」

「………そうか、わるぃな気を使わせて」

「気にしないでください。あとは、当日の編成や立ち振る舞いなどを突き詰めないとですね」

「おう、そうだな。んじゃ、俺は他の連中見てくるから」


 そう言って他のパーティの様子を見に行くディブロさん。颯爽と動く姿は、まさにリーダーという感じがした。


「……悪いファング」

「……は?」


 ディブロさんが去った後、唐突な謝罪がシルバーの口から発せられた。今まで軽い謝罪なら口にすることはあったが、ここまで深刻そうな声色は初めて聞いた。

 なんで彼が謝っているのか分からないオレは首を傾げる。


「いや、なんか勝手に決めちゃったからさ、ファングのコミュ障改善が……」


 あぁ、そういうことか。ったく、普段そういうの気にするような奴じゃないくせに。


「……気にするな。オレ、ボスとかレイドとかよく分からないし。正直、お前と二人だけと知って安心した」

「そういうのちょっとダメだと思うぞ」

「……歯を食いしばれ」


 人が気を使ってやったというのに、こいつ。

 

「冗談! 冗談だから! だから拳を固めないで!!」

「……ふん。で、これからどうするんだ? 攻略、二日後なんだろ」

「あぁ、そうだな。ポーションとか買ったり装備の点検したりとか。まぁ、意外とやることは多いぞ」

「……そうか。なら、今日は……」

「身の回りを整えるのが先だな」


 身の回りとなると、武器とかかな。そういえば、オレのグローブも耐久値半分ぐらいだったなぁ。


「……そうだ、防具買いたいな」

「防具か、そうだな。そろそろお金も溜まってきたことだし。買うのもいいな」


 グローブ買った事で装備品は買うことなかったけど、クエストやドロップアイテムを売ったりして溜まった事もあり、もうそろそろ新しいものを手にしてもいい頃合いだろう。

 オレの意見に、シルバーも同意するように頷いた。


「んじゃ、会議終わったら早速色々見てみるか」

「……おう」


 ボスについて真剣な話し合いが行われている場で、二人だけの会議は静かに終わった。





 



 

 




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