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第十三話 四日目



 翌日の朝も快晴、日の光がオレに容赦なく目覚めを強制させる。

 だがしかし、オレはその一切を跳ね除けてベッドから抵抗する。

 まだだ、まだオレは寝れる!


「ちょっと、敦獅! いつまで寝てるの! 早く起きなさい!!」

「はい! すぐに!」

 

 下から聞こえる母の声にオレは瞬時にベッドから飛び跳ね、素早く部屋を出た。怒った母さん怖ぇ。抵抗するべき相手はちゃんと判断するべきだと思う。


「……おはよう」

「まったく、春休みだからっていつまでも寝て。早くご飯食べちゃいなさい」


 リビングに出ると母さんが呆れた顔で言う。

 時刻は8時半。リビングには、既に朝食を済ませたであろう杏沙がソファでのんびりとテレビを眺めていた。


「おにぃ、今日もゲームするの?」


 遅れてテーブルに着くオレに杏沙が顔を向けずに訊いてきた。まだ眠気が残る脳のまま、ほぼ反射的に答えた。


「……あぁ、午後からな」

「ふぅ~ん、そう」

「??」


 聞いてきた割には興味なさげな返事に首を傾げる。我が妹ながら何考えているのか分からない。

 まぁ、オレなんかよりも杏沙の方が断然表情豊かなのだが。


「そうそう、敦獅。中学の制服、届いたからちょっと着て見てよ」

「……えぇ」

「嫌そうにしない。サイズ合ってるかどうか見る必要があるんだから」

「……はぁい」


 キッチンから忙しなく動く母さんはそう言うと洗いものの続きを始めた。

 ………中学校か。

 母さんの言葉に、春休みがもう少しで終わるのだと遅れて気づく。ほんの残り数日で晴れて中学に入学する訳だが、正直場所が小学校から中学校に変わるだけであまり実感がない。恐らく顔ぶれも変わらないだろう。他の小学校の人達も中学に入学すると思われるが、ぶっちゃけ自分に関係あるとも思えない。

 クラスで浮いていた自分が上手くやれるとも思えないし。

 

 トーストされたパンをむしゃむしゃと食べながら呆然と思う。自分のような表情が変わらない人間と仲良くしてくれる奴なんて早々いない。

 ふと、シルバーの顔が頭に浮かんだ。あいつは、変わっている。全く何も知らない赤の他人に対してどうして、あそこまで親しく出来るのだろうか。


「……オレにも、出来るのかな」

「おにぃ? 何か言ったぁ?」

「……いや、何も」


 くだらない考えを捨て、再びトーストを齧った。



☆☆



 午後、昼飯も食べてからログイン。

 開始地点の噴水広場には大勢の人達がいて、話をしている姿が見られた。

 早速、メニューを開いてシルバーがログインしているのか確認しようとした時、オレを呼ぶ声が聞えてきた。


「やっほーファング。時間ピッタリだな」

「……よう」


 どうやら近くにいたみたいで、シルバーはオレに近づいて来た。


「さて、今日も行くか」


 歯を見せて笑うシルバーに頷き、オレたちは噴水広場から出て行く。

 


 場所は変わらず《イジイの森》。そこの奥地で、オレたちはモンスターを狩っていた。

 適正レベル以上となったからか、前まではスイスイとレベルが上がっていたが今日は上がらない。シルバー曰く、『レベル10超えると、このフィールドじゃ伸びにくくなる』らしい。

 およそ1時間ほどレベル上げを行い、休憩を取ることにした。


「ふぅ、だいぶ狩ったな」


 木陰に入って座るシルバーがメニューを開いて言った。

 オレもメニューを開いてレベルを確認する。



 アバター名『ファング』 所持金10500E


 レベル:11  HP:1200  MP:420

 STR:60 INT:30 VIT:70 AGI:40 DEX:20 LUK:20 TEC:20 MID:20 CHR:20


 装備:ファイターグローブ ナイフ 冒険者の服


 控え装備:なし


 保持スキル:【体術】Lv2


 控えスキル:【ナイフ】  


 スキルポイント4




 1時間やってレベルが1しか上がっていない。やはり、シルバーの言う通りレベルが上がりにくくなっているようだ。

 

「ファング、武器の調子はどうだ?」

「……いい感じだ」


 シルバーがメニューを開いてまま訊ねる。

 実際、この武器【ファイターグローブ】は案外使いやすい。何度か手を開いては閉じてみて物も掴める。ナイフも使えるので、攻撃の仕方が広がる。

 結構、気に入っている。


「そろそろどこかでボス部屋が見つかってもいいと思うけどなぁ」

「……ボスって、確か前に言っていた?」

「そう、BGOが稼働して4日。他のフィールドじゃボス部屋が出てきて討伐に乗り出そうとしているらしい」


 へぇ、そんなことになっているのか。今知ったわ。

 こいつ、一体どこでそんな情報を手に入れるのだろうか? まぁ、シルバーは顔が広いみたいだしそこら辺からだろう。

 

「まぁ、愚痴言っても仕方がない。もうしばらくここら辺で狩りして___」



「きゃぁぁ!」



「「っ!?」」


 森の奥から聞こえる悲鳴。

 オレとシルバーは同時に声の方向を見る。


「……今、声が?」

「行ってみよう」

「……えっ、ちょっ!? シルバー!?」


 オレが声を掛けるよりも前に、シルバーはその場から駆け出していた。迷う素振りもなく、森の奥へと走って行く姿を呆然と眺める。

 一体、何が起きたんだ?

 戸惑う頭の中で、オレはシルバーの後を追いかけた。



☆☆

 


 《イジイの森》の最奥。

 そのちょっと開けた場所には複数のプレイヤーがいた。

 

「くそっ! なんだよアンタら!」

 

 木と少女を背にして前に立つ少年とそれを取り囲むようにする男たち。目算で10人と言ったところか。

 何やら不穏な空気が彼らから漂っている。

 オレとシルバーは近くの茂みから彼らの様子を見ていた。


「はっはっはっ、素人がこんな奥まで来るもんじゃねぇよ坊主!」

「ダメじゃないか、こんな可愛い子を連れてゲームに連れ込んじゃ!」

「嫉妬で思わず殺したくなるじゃないかぁ。あはははは!!」


 ……何やら物騒な事を言っている。今どき漫画でも見ない悪役と言った感じである。

 

「PKか……」

「……PK?」


 サッカーのやつか?

 と、オレが疑問を覚えているのを察したのかシルバーが説明する。


「PKって言うのは、プレイヤーキル、もしくはキラーって意味でプレイヤーがプレイヤーを殺す事だよ」

「……殺す?」

「あぁ、このゲームはモンスターだけじゃなくてプレイヤーにも攻撃する事が出来る。けど、PKすれば自分の名前が赤色になる。そうなると、パーティを組んだりする時に拒否されたりするというデメリットもあるんだ」

「……それって、楽しいのか?」

「どのMMOでも、PKはいるよ。楽しいかどうかは人それぞれとしか言えない」


 むぅ、よく分からないものだ。それとも、オレが希少だったりするのだろうか。

 そんな思考に耽っていると、事態が動きだした。


「ぎゃははは!! こいつビビってるぜ」

「おいおい、いいのか色男! カノジョを守らなくてよ!」

『はーはっはっはっ!!』


 震えながら少女を庇う男に向かってPKたちは下品な声で笑う。

 その姿は、控えめに言って___最低だ。

 目の前の光景に、ある情景が浮かんだ。


 複数で一人を囲み、見苦しく笑う。

 他人の痛みなど鑑みず、痛める事がどんなことか理解してない。


 そんな奴らが。

 覚悟もない者が。



 人を傷つけるな。



 自分でも頭に血が昇っているのが分かる。握りしめられた拳がわなわな、と震えていた。

 

「じゃぁ、そろそろ終わりにしようぜ」


 一人が剣を持って、少年に近づく。その顔はニヤニヤ、と笑っていた。

 少年は涙目になりながらもなおも少女を庇い続けていた。足は震えているのに、全く退こうとしない。

 近づくPKに対し少年は必死に叫ぶ。

 

「く、来るなぁ!」


 少年の声にオレはもはや我慢が出来なかった。

 しかし、その瞬間__


「ファング、あと頼む」

「……えっ?」


 突然、オレの傍からシルバーの声が聞えたかと思えば、微風が吹いた。


「シルバー!?」


 オレの声が届くよりも先にシルバーの姿は既に前へと進んでいた。

 まるで、真っすぐに放たれたパンチのごとく。

 彼の背が徐々に小さく、PKたちに迫っていく。


「……ん?」


 PKの一人が、足音に気づいたのか振り返った。

 しかし、シルバーは駆ける速度を緩める事なく背中の剣を抜いた。

 

「な、なんだお__」


 男の言葉が最後まで言われるより前に、シルバーの剣が男の心臓に突き刺さった。次いで、シルバーは剣を横へ振り払う。

 途端、男は光の粒となって姿を消した。

 仲間が消えた事に気づいたPKたちが一斉にシルバーを見る。


「何だテメェ!」

「どこから湧きやがった!!」


 9名分の怒号が飛ぶ中、シルバーは涼しい顔で淡々とした口調で言った。


「通りすがりのプレイヤーです」




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