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第十二話 三日目



 翌日。

 今日も今日とてBGOにログイン。三日連続でゲームとは、暇つぶし程度に考えていたがどっぷりとハマってしまったようだ。

 時刻は午後。昨日はギリギリセーフだったが、今回はちゃんと学習してログイン前に水分補給とトイレを済ませたから大丈夫のはずだ。


 スタート地点は昨日別れた門近く。視界が自室から外に変わり、周りを見渡す。辺りはこれから探索に出て行こうとする人ばかりだった。目的の人物がいないので、メニューを操作していく。

 昨日、あまりにも何も知らずにゲームを進めていた事をいけないと思いシルバーの言っていた取説やホームページなど、あらゆる所から情報を集めた。いつまでもあいつに頼りっぱなしは悪いし。

 幸い、我が家には家族それぞれにパソコンがあるので気兼ねなく検索できる。杏沙様様である。


 メニューを開いてフレンド登録した相手を探す。フレンド欄には『シルバー』の名前と『ONLINE』という文字が存在していた。どうやら、ログインしているようだ。

 BGOでは、こうやってフレンド登録した相手がログインしているかどうか分かる機能がある。さらに、刻まれているフレンドの名前を長押しすると《ガウス街》という文字が浮かび上がった。これは、今現在が相手がどこにいるのかを地名で示してくれるものだ。細かい情報は分からないが、これで大まかにどこにいるの分かる。

 ふむ、どうやら街にいるらしいがどこにいるのやら。

 そういえば、まだ街の中を詳しく探索したことはなかったな……。


「……この街ってどのくらい広いんだ?」

「直径およそ2㎞。けど、実際はもう少し狭いらしいよ」

「……びっくりした」

「そうは見えないけど?」


 いや、それは表情筋が動かないだけであって本当にびっくりしたんだぞ。というか、いつの間に背後につかれた、全然気付かなかった。


「……広いな」

「ん? あぁ、街の広さね。でも、あくまで設定上の話だから、体感的にはその半分以下だって聞いた。じゃないと、端から端まで行くのに時間がかかるし」

「……なるほど」


 《ガウス街》には円状に聳え立つ壁があり、出口は東西南北に四つ存在している。そこからプレイヤーたちは自由に好きなフィールドに出て行くというのを、昨日ホームページで見た。車どころか、自転車すらないんだから納得の話である。


「……今日はどうする?」

「う~ん、レベル上げもいいけど今日は武器やら防具やら見たいんだよね。ファングもレベル10になったし装備見直してもいい頃だと思うんだよ」

「……ふむ」

「それに、よくよく考えたら俺街の中全然まわっていなかったし」


 そういえば、オレも始めた時は色々あって見て回る余裕がなかったな。シルバーが適正レベルと言っていたことだし、一息入れてもいいかもしれない。


「……分かった」

「よしっ、それじゃレッツゴー!」


 頷くとシルバーは嬉しそうに笑い、気合の入った元気な声を上げた。このテンションの高さだけはついていけないが、黙って彼の後をついていった。



☆☆



 街中は石造りの家々が立ち並び、映画や漫画なんかでよく見るものとなっていた。

 酒場、露店、広場、世界観をそぐなわないオブジェクトがあり観光気分が味わえた。途中、NPCがやっている店で焼き鳥っぽいものを購入して食べたがしっかりと味がついていて大変美味だった。流石はVR、甘辛いタレの味までちゃんと再現できるとは恐るべし。


「う~ん、この辺かな?」


 暫く、街中をぶらつきあちこち歩き回っていた時、唐突にシルバーの足が止まった。立ち止まった先には一軒の建物。(こちらの世界で)どこにでもありそうなものだ。

 いや、よく見れば看板がある。えぇと『武器・防具屋』、へぇこんなところにあったんだ。

 妙に感心しているとシルバーがおもむろに扉を開ける。


 チリンチリン……


 開いた扉からベルの音が鳴る。


「いらっしゃい」


 中はRPGでよくある、ザ・お店という感じの造りだった。右側には武器が、左側には鎧などの防具が並んでいた。カウンターの奥には、店主と思われる男が一人。愛想は正直よろしいとは言えない態度だ。オレが言えた立場じゃないが。


「こんにちは、武器見たいんですけど」

「そうかい、なら適当に見てな」

「分かりました。ありがとうございます」


 どうやら、武器は陳列されている商品を見て買うか買わないかを決めるようだ。これがVRじゃなかったら、文字がずらーと並んでいるのを見るがちゃんと自分の手で見られるのが凄い所だ。

 店主の言葉にお礼を述べながら武器が置かれている棚まで移動する。

 剣に槍、盾と種類様々な武器があり、果たしてどれを選んでいいものか分からない。

 悩むオレとは対照的に、シルバーは剣を次々と吟味しているように見えた。こいつ、迷ったりしないのだろうか。


「……う~ん」


 かと思えば、難しそうな顔で唸っていた。

 鞘から剣を抜いては唸り、抜いては唸りと何を考えているのか分かりやすかった。

 難しい顔をして悩むシルバーを他所に、オレも武器を眺める。でも、ぶっちゃけ良し悪しなど分からないので、本当にただ眺めるだけだ。


「……まぁ、この辺が妥当かな?」


 多くある武器に圧倒され呆然となっていると、シルバーが選び終わったようだ。一本の剣を持って、店主の元へ向かう。


「これください」

「はいよ、1000Eね」


 手慣れた様子で支払いを済ませると、シルバーはオレに近づく。


「ファングは決まったか?」

「……いや、よく分からなくてな」

「そうか、う~ん、ファングが使うのはナイフだったよな」

「……まぁ、そうだが」

「ん? もしかして、武器あっていない?」

「……あぁ」


 これまで何度かナイフを使って戦闘をしてきたが、なんというか肌に合わない感じがした。そもそも、普通の家に生まれた人間が刃物を扱える訳がないのだ。


「そっかぁ、確かにファングの場合は【体術】使うからな。ナイフあってもいらないか」


 腕を組んで考えるシルバー。

 あっても必要がないなら、別に買わなくてもいいよな。


「ファングの場合はなら、そうだな………これなんかどうだ」


 そう言って差し出してきたのは、手袋のようなものだった。


「……これは?」

「えぇと、【ファイターグローブ】だって。性能的にはファングにあっていると思う。目を凝らして見てみろ」


 言われてジー、とグローブを覗く。



 ファイターグローブ:STR+5 クリティカル率2%上昇



「……これはいい方、なのか?」

「うん、あまり性能がいい武器を最初から使うとプレイヤースキルは育たないし。お金も安いからこのくらいがちょうどいいと思う」


 布製の手袋には特別な飾りなどはない。あるとすれば、四角形の鉄製が施されていた。

 まぁ、正直武器の良し悪しなど分からない以上悩んでも仕方がない。


「……分かった、これにする」

「そう? 勧めておいてなんだけど、いいのか?」

「……武器の良し悪しなんて分からないし素人だからな。だったら、誰かの意見を聞いておいたほうがいいに決まっている」


 シルバーが持つグローブを受け取ると、店主の前まで持っていく。


「……これ、ください」

「はいよ、1000Eだ」


『購入しますか YES/NO』


 目の前に現れた文字を確認してYESボタンを押す。その後、『購入完了』と同時にオレの持つ残高が出てきた。

 グローブを受け取り、シルバーのもとへ戻る。


「終わった?」

「……あぁ」

「そっか、なら次はどこか行きたい所ある?」


 そう聞かれて考えるがこれといって行きたい所などない。

 オレが首を振ると、シルバーは「そっか」と言って考える素振りを見せた。


「なら、また適当にぶらつきながら地理を覚えて行こうか」

「……分かった」


 その後、店を出てシルバーの言う通り適当に街をブラついた。 

 適当な出店で何か食べ、広場を眺めてまるで観光気分で歩くのは一体どのくらいぶりだっただろう。

 結局、街を一周する事になったが、なかなか充実した一日になった。




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